鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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十六皿目その2です
今回も多摩歓喜のおさかな祭りです


十六皿目:二匹の龍と熊と猫2

 さて、続いての料理はカサゴのフィッシュアンドチップスだ。イタリアから一気にイギリスに飛ぶが、なんでもありの喫茶店だからいいよね?

 

 三枚におろしたカサゴの身に塩・コショウで下味をつけたら、薄力粉・卵・塩・ビールで作った衣をつけてあげていく。ここでビールを使うのが、衣をサクッと仕上げる秘訣だ。同様にスティック状に切ったじゃがいもにも衣をつけて、二・三本まとめて揚げていく。

 

 油から上げて、飾りとしておろした後のカサゴの尾頭を素揚げにして、中央に配した皿に盛り付けていく。本場ではモルトビネガーなんかをつけて食べるらしいが、今は無いのでシンプルにマヨネーズとケチャップを添えて出す。それぞれ別につけても、一緒につけても美味しい。

 

「はーい、フィッシュアンドチップスですよ。レモンはお好みで……喧嘩しないようにね」

 

 揚げ物はレモンをかけるかけないで喧嘩になることがあるからね。一言言っておこうかな……からかい半分に。

 

「うにゃっ!あっつ!……ふぅ……ふぅ……」

 

「なんだ、多摩は猫舌か?そのまんまだな……って、あっつ!」

 

 あー、揚げたては熱いよね……でもこの料理は熱いうちに食べてこそだからね。その熱さも含めて楽しんでほしい。特に今日のカサゴは脂のってるから、噛んだ瞬間あふれ出てて来て口いっぱいに広がってなんとも言えないんだ。

 

 ちなみにこれを揚げたのは鈴谷さんなんだけど、その前に一回熊野さんがトライしたら大変なことになっていた。

 

 油に入れる時に「とぉぉぉう!」油が跳ねると「ひゃぁぁぁぁ!?」と大騒ぎだ。後ろで見ていた鈴谷さんなんて必死に笑いをこらえてたな。

 

 さて、今日はもう一品。鰺を使ったパスタを作ろう。

 

 先日の鰺パーティーの時に調べて結局作らなかった料理で、ぜいごを取って三枚におろした鯵を、つぶしたニンニク・刻んだ鷹の爪・ローリエ・ローズマリーを入れたオリーブオイルで『煮る』というもの。どうやらこの料理、オイルサーディンをもじって『オイルアージン』なんて言われているらしい。

 

 こうして作ったオイルアージンはもちろんそのままでもうまいし、瓶に詰めておけばしばらく持つ。今回はこの鯵と、煮る時に使った油でパスタを味付けていく。

 

 まず、フライパンにこの油とにんにく、鷹の爪を少し移して加熱しながらさらに香りを引き出す。ここにスライスした玉ねぎを入れて火を通したところで、オイルアージンを入れて大きめにほぐしながら炒める。全体がなじんだら、パスタとゆで汁を入れて和えたら完成だ。

 

「はい、最後は鯵を使ったパスタだよ」

 

 大皿にたっぷり入れて持って行く。さっき裏で二人に味見してもらったけど、高評価だったので、きっとこの子達にも喜んでもらえるだろう。

 

「あらー、鯵もお洒落になるものなのねー」

 

「むむっ?この鯵は一度オイル漬けにしてるクマ?油を吸って柔らかくて、ほろほろ崩れるような食感と風味がたまらんクマ」

 

 龍田さんが今まで鯵をどう見ていたかが感じられるセリフをこぼすと、球磨ちゃんが鋭く分析する。やはり彼女はかなりの味覚を持っているようだ。

 

 多摩ちゃんはどちらかと言うと、美味しければそれでいいって感じなので、見事に対照的ではあるが、俺としてはそれぞれ自分のやり方で料理を楽しんでくれるのが一番だ。その点では二人とも変わらないようなので、見ていて嬉しくなる。

 

 調理は一通り終わったので、カウンターで洗い物を片付けていると、彼女たちの話し声が聞こえてきた。

 

「そういや、多摩は改二計画があるんだったか?」

 

「そうにゃ。まぁ、まだ練度が足りないっぽくて、しばらく先の話しにゃ」

 

「ふーん、なんかみんな先に行っちまうよな……球磨はいいのか?妹たちみんな改二になっちまって」

 

「んー、思うところが全く無いと言ったら嘘になるクマ……でも、球磨は今のままでもそれなりに優秀と言われるクマ。最前線や大規模作戦は難しくても、新人の練度上げを手伝ったり、解放後の定期的な哨戒任務なんかはまだまだやっていけるクマ。適材適所というやつクマ」

 

 なんだか難しそうな話をしているな。愚痴ってほどでもないが、旧型艦ならではの話題って言ってたしな。

 

「それよりも、天龍がそんな風に言ってくる方が驚きクマ。他の所の天龍の中には改装はおろか、遠征ばっかりで出撃できなくて暴れる奴もいるって聞いてるクマ」

 

 今度は逆に球磨ちゃんから天龍さんに質問が行くが、それに答えたのは龍田さんだった。

 

「ふふふ、実はこの天龍ちゃんも前の鎮守府にいたときは、そんな感じだったわよー。さすがにその時の提督に噛みつくほどではなかったけれど……優しい提督さんだったから、甘えてたのねきっと」

 

 そのころのことを思い出すように、軽く上に目をやりながら話す龍田さんの横で「うっせー」とつぶやいている天龍さんを無視して、彼女はさらにつづけた。

 

「でもね、こう見えて天龍ちゃんも真面目だから、なんだかんだ言いながら遠征にでて、せっせと資源を集めるわけよ。それで、ある時の大規模作戦の時に貯めに貯めた高速修復材のおかげで、最深部の攻略に成功して、当時一緒に組んで演習に出ていた駆逐艦の子達との艦隊が戦功第一で表彰されてね。それからかしら?天龍ちゃんが自分から一生懸命遠征に行くようになったのは」

 

 へぇ、兵站をそこまで評価するなんて、なかなかないことなんじゃないの?というか、かなり厳しい戦いだったのかな?ギリギリの状態だったのを天龍さん達が支えていたとしたら、戦功第一でもおかしくないな。

 

「まぁな、あの時は嬉しかったな。提督が言ってくれたのもそうだったけど、ほかの艦娘連中も賛成してくれてよ。『提督が慢心して備蓄が少なかったのを、立て直してくれた』『この修復材が無かったら間に合わなかった』ってさ。だから俺にできることをやろうって思えるようになってよ……」

 

 天龍さんはそう言って、照れくさそうに鼻を掻いた。

 

「なるほどクマ……でも、なんだか天龍は真面目なのが似合わないクマ……」

 

 からかう様にそんなことを言った球磨ちゃんに天龍さんがじゃれついていると、もみくちゃにされながら球磨ちゃんが叫び声を上げた。

 

「あー!多摩、残ってたの全部食べちゃったクマ!?」

 

「美味しかったにゃ。話に夢中になってたからもうごちそうさまかと思ってたにゃ。多摩悪くないもん」

 

 うん、三人が話している間、お皿に残ってた旨味たっぷりのスープまでパンで拭って、きれいに食べてたのがカウンターから良く見えてたよ。龍田さんは気づいてたみたいで、時々目線を送ってニヤニヤしてたけどね。

 

 と、そこで他のお客さんの注文が入ったので、洗い物をお手伝いの二人に任せて厨房に戻る。その後もしばらく笑い声が聞こえて来たりしていたので、楽しい時間を過ごしているようだった

 




鰺のオイル漬けは以前から知っていましたが
「オイル・アージン」という呼び方があるのを今回
レシピを調べていて初めて知りました。
この呼び方を考えた人はすごいと思います。

そして最後までマイペースな多摩ちゃん……
完全に猫である


そして、予定にはありませんでしたが、この後箸休めを急遽投稿することにしました
そちらもお楽しみいただければ幸いです


お読みいただきありがとうございました


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