鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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ありがとうございます!ありがとうございます

読んでいただいている皆様に何かお礼をせねばということで
短いですが箸休めを一本書いたので投下いたします



あっ、これの前にもいつも通りのお話を投稿していますので、ご注意ください


箸休め7:鎮守府食堂のその後

 ここは鎮守府内にある食堂。他の鎮守府で活躍している『間宮』や『伊良湖』のような給糧艦や、自衛軍で雇われている食堂のおばちゃんがいないこの島の鎮守府では、無用の長物……とまではいかなくても、長らく『ただの休憩スペース』でしかなかった。

 

 だが最近ではそれも変わってきている。秀人の喫茶店で手伝いを経験した子や、料理に興味を持った子達が、日替わりで練習も兼ねて食事を作っているのだ。もちろん、まだまだ素人料理の域を出ていないが、艦娘たちにとっては毎日の楽しみになっていた。

 

 そして、その日の調理担当艦は昼食の準備ができた段階で、放送を行うことになっている。

 

「時刻はヒトフタマルマル。昼食の準備ができた。今日はこの長門が担当だ、皆の注文を待っているぞ」

 

 この日昼食を作ったのは長門。管理艦という多忙な立場にありながら、これまでにも何回か厨房に立っていて、料理に関しても評価は高い……ただ一点を除けばだが……

 

「今日は長門さんが作ったのね。美味しいんだけど、量が多いのがちょっとね……」

 

「なのです、前回のカツ丼もその前の牛丼も、戦艦サイズだったのです……」

 

「それでも他の戦艦や、空母の人たちがお替りしていたのはさすがだね」

 

「だめよ、せっかく作ってくれてるのに……確かに全部食べるの大変だったけど……」

 

 放送を聞いた第六駆逐隊の面々が、少し不安になりながら、今日のメニューは何だろうと予想しあいながら食堂に向かって行った。

 

 そのころ……食堂内は異様な緊張感に包まれていた。その原因は、既に到着していた川内のせいだ。いや、むしろ川内は被害者ともいえるかもしれないが……

 

 元々ある程度料理ができたのに加えて、秀人の店で単なる手伝い以上の活躍を見せていた彼女は、この鎮守府内で自他ともに認める最も料理上手な艦娘だった。そのため、厨房に立つ艦娘たちにとってはさながら審査員のような存在になっていて、川内に認められるような料理を作ることを常に意識するようになっていた。

 

 そしてその本人はと言えば、一人席に座りじっと目をつぶって考えこんで……

 

(料理上手と言ってくれるのはうれしいんだけど、そんなに緊張されるのも困るなぁ……普通においしく食べられればそれでいいんだけど、またなんかコメント求められるのかなぁ……助けて、店長)

 

 周囲の想いと裏腹に、川内は困っていた。

 

 そんな川内の背中をじっと見つめた厨房の長門はと言えば……

 

「あのように静かに精神統一をして料理に向き合うとは……さすが川内だな。私も戦艦の端くれとして、全力でぶつからねばなるまい」

 

 などと、おかしな方向に気合を入れなおして、調理を進めていった。

 

 この日長門が作っているのは、鶏肉ときのこのみぞれ煮だ。先日秀人に教わった後、麺つゆを使ったレシピにハマった長門は、店に行ったときにいくつか応用レシピを聞いていて、この『みぞれ煮』もそのうちの一つだった。

 

 適当な大きさに切った鶏モモ肉に、酒と塩を揉みこんで10分程度馴染ませたら小麦粉をまぶし、ごま油で焼き色をつける。焼き色が付いたところで、ほぐしたしめじ・舞茸・薄切りにした玉ねぎを入れて軽く炒めたら、たっぷりの大根おろしと麺つゆ・水・おろし生姜を入れて沸騰させてから一・二分煮込めば出来上がりだ。

 

 秀人からもらったレシピ通りに一つ一つの手順をこなしていく。余計なアレンジを加えることも無いので、その時点で普通に美味しいものが出来上がるのはほぼ確定しているし、そのことは川内もわかっているのだが、長門としてはそれでも安心できないようで、緊張感の漂う現在の食堂の状況を生み出してしまっている。

 

 その結果川内の精神力だけがダメージを受け続けているのだが……

 

 仕上げに、器に盛った後で刻んだ青ネギを散らす。お盆の上にこのみぞれ煮と白飯、お麩とわかめの味噌汁を乗せて、本日の日替わり定食の完成である。

 

 ちなみに味噌汁は業務用の出汁入り味噌を仕入れてもらっているので、お湯に溶かして好きな具材を入れるだけだ。川内以外の艦娘たちはこれを使っているのだが、なかなか出汁取りがうまく行かないのだそうだ。

 

 次は出汁から作ってみようかなどと考えながら、長門は川内の元へとお盆を運んでいく。

 

「お待たせしました。本日の日替わり定食、鶏肉ときのこのみぞれ煮です」

 

「は、はい。ありがとうございます……へぇ」

 

 普段の堂々とした出で立ちからは考えられないようなしおらしさで、目の前にお盆を置いた長門に対して、川内もどことなくぎこちない返事を返してしまったにだが、長門の持ってきた料理を見るなり、思わず感心したようなため息が口をついた。

 

 これまで長門が作ってきたのは丼物か、ザ・肉と言うようなものばかりだったので、こういった定食形式や肉以外の食材がここまで使われているのは初めてだったからだ。

 

 いただきますと手を合わせ箸を手に取る川内と、それを緊張の面持ちで見つめる長門。いつの間にか集まっていた他の艦娘たちも、少し離れたところで固唾をのんでその光景を見守っている……なぜかさくらまで混じっているが、彼女は完全に面白がっているだけだ。

 

 そして川内は肉をひと切れ口に含み、しっかり噛みながら味わうと、ゆっくり飲みこんで口を開いた。

 

「おいしいよ、長門さん。鶏肉を煮込む前にしっかり焼き色を付けているから香ばしさも残っているし、たっぷり入った大根おろしと、生姜の風味が後味をサッパリさせてるのもいいよね。なにより、一緒に入ってるきのこもいい味出してる」

 

「そうか!よかった。ありがとう!さて、それでは皆の分も作らなくてはな!」 

 

 その川内の言葉を聞いて、長門はそれまでの硬い表情を崩し嬉しそうにそう言いながら、厨房へと戻っていく。周りで見ていた艦娘たちもなぜか「おー」と言いながら拍手をしていた。

 

 さっきまでの静けさとは打って変わって、騒がしくなった食堂の中で、川内が誰に聞かせるでもなくつぶやいた。

 

「もうちょっと気楽にお昼ごはん食べさせてよ……」

 




という訳で、予定にはありませんでしたが
箸休めの投稿です

今回のお話は『十三皿目:鎮守府食堂』のその後のお話でした
川内の心境を表す言葉としては
「どうしてこうなった……」でしょうか


お読みいただきありがとうございました
これからも皆さんに楽しんで頂けるよう頑張ります!

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