鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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本日はピクニックに出発です


十七皿目:バーガーバスケット2

 三人には店の前でちょっと待っててもらって車を回してくる。幸い天候にも恵まれ、風もなく日差しもぽかぽかと暖かいので、今回も上を開けてオープンカーで行こう。

 

 待っている三人の前に車を止めると、それぞれが「かわいー」「すごーい」と言ってくれて、ちょっと嬉しい。

 

 さっそく乗り込んでもらい車をスタートさせて、前回同様海沿いの道を走らせるとその光景にみんな歓声を上げる。こないだの響ちゃん達もそうだったけど、いつも見ている海でもこういう形で見るとまた新鮮なようで、喜んでもらえているのを見ると、連れてきてよかったと思える。

 

 しばらく走っていると、暁ちゃんが突然声を上げた。

 

「ねぇ!あれって赤城さんと翔鶴さんじゃない?」

 

 そんな彼女の声に、ほかの二人も「ほんとなのです!」「艦載機の運用訓練かな?」と話す。俺は運転中なのでじっくり見ることはできないのだけれど、かろうじて海の上に誰かいるのがわかる程度だ。よくこの距離で誰だかわかるな……彼女たちの上空を飛んでいる艦載機も海鳥か何かかと思ったよ。まぁ、あんな風にきっちり揃って編隊を組み替えるのは、海鳥じゃありえないけど。

 

 そのまま海を横目に車を走らせることしばし、山裾の方に青々と茂る畑が見えてきた。

 

「ほら、見えてきたよ。あれが麦畑だ」

 

「うわー!すごいのです!大きいのです!」

 

 電ちゃんが驚くのも無理はないな。さすがに北海道や外国みたいに見渡す限り一面の……とまではいかないけれど、かなりの広さの麦畑と田んぼが広がっていた。

 近づいて行くと、何台か車の止まった駐車場らしき開けた所があったので、俺たちもそこに止めさせてもらう。

 

 車を降りて、遠くに見えている四阿へと四人で並んで歩いていく。

 

「ふふっ、なんだか単横陣みたいだね」

 

 歩きながら、時雨ちゃんがそんなことをつぶやいた。何それ?と思っていると、ほかの二人も確かにと笑い合っている。なんのことかと聞いてみれば、潜水艦を相手にするときに使う、横一列に並んだ陣形のことだそうだ。へぇ、そんなのがあるんだ……なんだか俺一人で知らないことばかりなのも寂しいから、今度誰かに色々と教えてもらおうかな。

 

 そんなことを考えながら歩いているうちに、目指していた四阿についたので、さっそくバスケットを開けて準備を始める。三人も一緒に手伝ってくれてすぐに終わって、それぞれのオリジナルバーガーを取り出していた。

 

「みんな手は拭いたかい?それじゃいただきます」

 

 俺の言葉に続いて手を合わせた三人は、ガサゴソと包み紙を開くと、一様に「わぁ」と言いながら目を輝かせた。自分たちで作った奴なのでもちろん中身は分かっているのだけれど、今のこのシチュエーションにそういう声が出てしまうのもわかる気がする。

 

「おいしー!ね、ね、マスター。なんでこのハンバーグ冷めても柔らかいの?」

 

 大きく口を開けて、てりたまバーガーにかぶりついた暁ちゃんが聞いてきたので、彼女の口元についたタレを拭ってあげながら説明してあげる。

 

 電ちゃんは、そんな会話をよそに、小さな口で一生懸命野菜バーガーを食べている。なんだかハムスターみたいでかわいい。

 

「このパンはいいね……ふかふかと柔らかくて。僕好みだ」

 

 時雨ちゃんはバンズが気に入ったようで、出発前に作っている時もこんな感じだった。持った時のふわふわ感が良かったらしく、ここへ来て実際食べてみてさらに気に入ったみたいだ。

 

 そんな感じでしばらくわいわい言いながら食事を続けていると、白衣を着た研究者さんたちがやってきた。うちの店に来たことがある顔見知りもいたので、お互いに手を挙げて軽く挨拶をすると、彼らはタブレットを片手に麦と向き合って何やら作業を始めた。

 

 俺としては「なんかデータ取ってんのかな」くらいに思ってたんだけど、三人娘は何をやっているのか気になったようで、食べながらチラチラと目線を送っている。

 

 その中でも特に気にしていたのが時雨ちゃんだった。自分の分を手早く食べ終えると「ちょっと行ってくるね」と近くにいた研究者さんの所に行ってしまった。

 

 その後しばらく話をしていた様だったが、こっちに残っていた二人も食べ終えて「暁たちもちょっとお話してくる!」と四阿を飛び出していったタイミングで、入れ替わるように戻ってきた。

 

「おかえり、何か面白い話は聞けたかい?」

 

「うん、ここの麦は順調に育ってるってさ。夏前にはたくさん収穫できるだろうって……麦秋って言うんだっけ?良い表現だよね」

 

「そうだね、またそのころになったら見に来てみようか?黄金色に色づいた麦穂がきれいだと思うよ」

 

 それは楽しみだね、と笑みを見せるとミルクティーを一口飲んで、麦畑を見つめる時雨ちゃん。この子は他の駆逐艦の子と比べても大人っぽいというか、どことなく達観したようなところがある。まぁ、雰囲気が違うと言えば不知火もそうなんだけど、彼女ともなんか違うんだよね。

 

 多分軍艦時代の経験っていうのが影響してるんだと思うんだけど、無理に聞き出すことも無いか。もちろん話してくれるなら聞くくらいはできるけど、戦争を知らない俺は大したことは言えないし、できることって言ったら料理位なもんだ。だったら、今とこれからを笑って過ごしてもらうために、美味いもん作るっきゃないよな。

 

 とりあえず今は……

 

「時雨ちゃん、ミルクティーおかわりいるかい?」

 

「うん……もらおうかな」

 

 時雨ちゃんが笑顔で差し出してきたカップに、ミルクティーを注いでいく。そんな風に静かな時間を過ごしていると、二人が戻ってきた。

 

「ねぇ時雨、暁たちもなにか育ててみない?司令官に言って鎮守府のどこかに小さな畑でも作って」

 

「きっと楽しいのです!他のみんなも誘って、お野菜を育てるのです」

 

「僕たちが畑か……できるかな?」

 

 なにやら楽しそうな話をしているな。いいね、自分たちで作った食材の味はまた格別だぞ。

 

「そういう事なら、作ったものをうちに持ってきてくれれば料理してあげるよ、暁ちゃんも美味しく食べられるような野菜料理でどうかな?」

 

「子供扱いしないでよね!暁は立派なレディなんだから、野菜くらい…………食べられるように頑張るわ……」

 

 からかい混じりの俺の言葉に暁ちゃんが反論しようとするが、電ちゃんのジト目に気づいたのか、最後は尻すぼみになってしまっていた。今日のバーガーも野菜避けてたもんね。

 

 いまいち締まらない感じにみんなでひと笑いした後、何を作るかさっそく相談し始めた。まずは土地を確保できるかどうかだと思うんだけど、楽しそうだからいいか。

 

 そんな彼女たちの相談は帰りの車内でも続いていた……この子達が何を作るのか、楽しみだな。

 




今回のピクニックは麦畑を見に行きました
彼女たちは麦が育っているのを見て何か感じたのでしょうか?
ま、やってみたいってだけかもしれませんが……



お読みいただきありがとうございました

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