Menu-2では祭りやクリスマスなどイベント多めでお送りしましたが
Menu-3では特に大きな流れもなく、平凡な日常を淡々と?お送りする予定です
過度な期待は(ry
それではどうぞー
十九皿目:大和撫子と海辺のカフェ
――――カランカラン
「どうぞ、鳳翔さんこちらです」
「ありがとう。赤城さん」
ある日の午後、赤城さんが恭しく店内に案内したのは、和装に身を包んだ女学生のような出で立ちの女性だった。昨日新しい艦娘を紹介したいと言っていたけど、この人のことか。
「初めまして、航空母艦、鳳翔です。よろしくお願いしますね」
「こちらの鳳翔さんは、世界で初めて最初から空母として建造された方で、我々すべての航空母艦の母のような存在なのです!私が一航戦として活躍できたのも、鳳翔さんが育ててくださった艦長の方々や、パイロットの方々のおかげなんですよ」
鳳翔さんか。連れてきた赤城さんがいろいろ補足してくれたけど、この見た目でお母さんというのはちょっと気が咎めるというか……でも、雷ちゃんみたいに言動が完全にお母さんな子も居たしな。
鳳翔さんも確かに佇まいなんかは落ち着きを感じさせるし、すごい人なんだろうと思うが、せめてお姉さんくらいで……
「赤城さん?この鎮守府ではあなたの方が先に着任した先輩ですから、もう少し気軽に接していただきたいと言ったはずですが……それに!艦時代ならともかく、今はこうして人としての体を得たのです。一人の女子として母呼ばわりというのはちょっと……」
あぁ、やっぱり。でも、赤城さんが鳳翔さんのことを尊敬してるのとか、感謝しているのとかは伝わってきたけどね。平謝りしている赤城さんを優しい目で見ているあたり、本気で怒ってないようだし優しい人なんだろうな……というか、その眼差しはやっぱりお母さん?
「とりあえず空いている席にどうぞ。すぐにおしぼりとお冷をお持ちしますね」
そう言ってカウンター席に案内すると、すかさず今日手伝いに入っている球磨ちゃんがおしぼりとお冷を持ってきた。自分でも意外と優秀といっているのはビッグマウスでもなんでもなく、彼女は気配りがうまい。本人曰く、多摩ちゃんの下にもさらに三人の妹がいる五人姉妹の長女で、おまけになかなかにエキセントリックな姉妹らしく、そういう子達をまとめるために視野の広さが生まれながらに染みついているらしい。
まだ今の鎮守府にいるのは多摩ちゃんだけだが、ほかの妹たちが来た時がちょっと不安だとぼやいていた。
さて、お客さんの二人はと言えば、球磨ちゃんが抜かりなく渡していたメニューを見ながら相談をしていた。
「赤城さん、なにがおすすめかしら?」
「はい、全部です」
「そ、そうですか。では何か食べたいものはありますか?」
「いえ、私はなんでも美味しく食べますので、鳳翔さんのお好きなものでよいかと」
「はぁ、こういうお店は初めてなので、意見を聞きたかったのですが……それではこれにしましょうか」
ほとんど相談になっていないようだった……赤城さんって真面目なように見えて食事に関することでは時々抜けてるよな。などと、少し失礼な感想を抱いたところで、鳳翔さんからお呼びがかかった。
「ご注文はお決まりですか?」
「このプレーンオムレツを日替わりスープとパンのセットで。あと食後にカフェオレをお願いします」
「はい、プレーンオムレツのスープとパンのセットですね。で、食後にカフェオレ……と、かしこまりました。少々お待ちください」
ちょっと意外な注文にドキッとしたのが表情に出てしまったのか、そこを鳳翔さんに突っ込まれてしまったので、謝りながら訳を話す。
「すみません。ちょっと意外だったというか、空母の方々はどちらかと言うと……その、ボリュームのあるものを好まれる様でしたので」
と、チラリと赤城さんを見ながら訳を話すと、赤城さんはそっぽを向いて聞こえないふりをしている。そんな俺の言い訳を聞いた鳳翔さんは、笑いながら返してくれた。
「ふふふ、確かに彼女達はそうかもしれませんね。ただ、私は空母と言っても軽空母なので、彼女たちに比べてそこまで食べませんよ。それに、実はこういったオムレツのような洋食に憧れてまして。艦だった頃の烹炊班には優秀な料理人の方も居て、洋食を作ることもあったのですが、乗組員の方々がおいしそうに食べているのが印象的で……せっかく人の体を得たので食べてみたいなと……」
なるほどね、軍艦の頃はさすがにオムレツは食べられないもんな。その後小声で「私が作ると玉子焼きになってしまうので」と言っていたのは聞かなかったことに……
「鳳翔さんの玉子焼き美味しかったです!」
……しようかと思っていたけれど、赤城さんの一言で台無しだよ。
とりあえずその場を離れて厨房に入り、注文の品を作り始める。と言ってもプレーンオムレツと言うことで手早くパパっと作ってしまおう。
熱したフライパンにサラダ油を薄く引いて馴染ませたら、バターを一欠け。バターが溶けて薄く色づいたところで卵を一気に入れるのだけれど、卵は白身と黄身で固まる温度が違うので、良く溶いておかないと焼きムラができたりデコボコした仕上がりになってしまうので注意だ。
ちなみにうちのプレーンオムレツは卵に塩をひとつまみだけで、牛乳や生クリームは入れない。もちろん、そっちのレシピも上手く作れば美味しいのは知ってるけどね。
そして、卵を投入したら縁が固まるまでしばらく待ち、固まったら卵をかき混ぜる。数回かき混ぜた後数秒待って卵を固めたら、フライパンを傾けて手前から奥に巻いていく。奥まで巻いたところで、フライパンの柄の部分を叩きながら煽って、外側を内に内にと巻き込んでいったら、ある程度巻いたところで大きく煽って……ひっくりかえす。
横で見ていた球磨ちゃんも「おー」と拍手してくれて、ちょっと嬉しくなる。
「球磨ちゃん、そろそろできるからお皿とスープとバスケットにロールパンを盛っておいてくれるかい」
「りょうかいクマー」
球磨ちゃんに指示を出す間に、フライパンのカーブを使って卵を木の葉型に整えて、もう一回ひっくりかえす。形が整った所でお皿に盛り付け、いろどりにパセリを乗せて卵の中央部分から垂れるようにケチャップをかければ完成だ。綺麗な木の葉型と鮮やかな黄色で我ながらうまくできたと思う。
すぐにもう一つのオムレツを手早く完成させて、二つ一緒に持って行く。先にスープとパンは持って行ってもらっているけど、そんなに待たせることは無いはずだ。
「おまたせしました、プレーンオムレツです。スープとパンはお替りもありますから、言ってくださいね」
そう言いながら二人の前にお皿を並べる。二人はオムレツが来るまで待っていたようで、そこで初めていただきますとフォークを手に取った。
鳳翔さんはフォークをオムレツに当てるとゆっくりと力を入れていく。焼き固められた表面は初めのうちはしっかりとした弾力を持ってはね返してくるが、ある程度の力を加えたところで、亀裂が入りゆっくりと裂けていく。
カチャンと小さな音を立ててお皿までフォークが下りると、その断面からトロリと半熟の卵がこぼれるのが見えた。牛乳などを加えていると、水分量が多すぎてべちゃっとした感じになってしまいがちだが、うちのは卵だけで作っているのである程度の硬さを保ったまま、プルプルとおいしそうに震えている。
「うわぁ」
思わずと言った感じで鳳翔さんがそう言いながら、切り落とした部分にケチャップを少しつけて口へと運ぶ。隣では赤城さんがじっとその様子を見つめていた。まずは鳳翔さんが一口食べてからという事なのだろうが、赤城さんがそんなに緊張することも無いと思うんだけど……
「あぁ、おいしい。口の中でとろけて、卵の持つ滋味が広がっていきます。このほんのり甘いパンとの相性も良いですね……ほら、赤城さんも冷めないうちにいただきましょう」
ゆっくりと味わった後に飲み込んで、鳳翔さんはおいしそうに言ってくれた。それを聞いた赤城さんも同じようにオムレツを口に含んで「んー!」と声を上げている。
その後もオムレツにパン、スープと口に運ぶ鳳翔さんは、時折頬に手を当てながらおいしそうな表情で頬張っている。かつての大正・昭和の女学生たちも初めて洋食を食べたときはこんな感じだったのだろうか。
スープの最後のひとしずくまできれいにパンで拭ったあと、満足げな表情で「ごちそうさま」と手を合わせた二人。それを見てカフェオレをカウンターに置きながら訊ねてみる
「先ほどのお話だと鳳翔さんも料理をされるようですが、どんな料理を?」
俺がそう訊ねると、鳳翔さんは少し俯いて「それなのですが……」と言った後ぽつぽつと言葉を繋げた。
「実はちゃんとした料理はやったことが無くて……知識はあるのですけどね。昨日ちょっと調理場を借りて作ってみたときも、さきほど言ったようにオムレツが玉子焼きになってしまう次第で……やはりお砂糖とお醤油を入れたのが間違いだったのでしょうか?」
なるほどねー、まぁ砂糖と醤油入れたら確かに玉子焼きだよね。フライパンで作ったらしく、形こそオムレツのような木の葉型だったらしいけど、作り方がいまいちわからなくて巻きながらつくったってことだからなおさらだ。それならばと一つ提案してみる。
「洋食に興味があるなら、お教えしましょうか?すでに聞いているかもしれませんが、うちではいろんな艦娘の子達に手伝ってもらいながら、料理を教えたりしてますので。お話を聞く限りでは基本はできそうなので、すぐに覚えられると思いますよ」
すると鳳翔さんはガタッと椅子を鳴らして立ち上がると、前のめりになって口を開いた。
「いいのですか?ぜひお願いします!帰ったらさっそく申請書を提出しなければ。あぁどうしましょう……」
っと頬に手を当てて身もだえたところで彼女は我に返ったようで、ゆっくりと腰を下ろしてストローをすすった。
「お恥ずかしいところをお見せしてしまいました……それにしても、なんだかこうして噂に聞いていた『カフェー』に来られるなんて夢みたいですね」
さっきのはしゃぎようも、こういう喫茶店への憧れの表れだったのだろうか。気を取り直してそんな風に言った後、鳳翔さんはつぶやくようにつづけた。
「確かに私たちは戦いの中に身を置いていますが、だからこそこういう穏やかな時間は楽しんでいきたい。そして美味しい料理でみんなを喜ばせたい……というのは甘えでしょうか?」
「いいえ鳳翔さん、少なくともこの島にいる艦娘たちは同じ思いですよ。そしてこれから増えるだろう子達もきっとそう思うはずです。こんな時間を楽しむために、守るために戦うと……それに、美味しいごはんを食べてから出撃すると、調子も上がりますしね」
最後におどけるように言った赤城さんと鳳翔さんは、顔を見合わせて笑いあう。そして、その後も食後のカフェオレを楽しみながら、二人の会話は続いていった。
大和撫子鳳翔さんです
イメージは『カフェや洋食屋に憧れる大正の女学生』
鳳翔さんがお店をやっているのは公式設定(千歳の時報)のようですが
彼女をお客さんとして登場させたいというのも
この二次小説を書き始めた動機の一つだったりします
というか赤城さんこんなにポンコツ気味だったっけ?
お読みいただきありがとうございました