勢ぞろいした三姉妹が登場です
「クゥーマー、クマ、クマ」
手伝ってもらっている球磨の謎の鼻歌を聞きながら、朝の仕込みをしている時だった。スマホのメッセージアプリが新着メッセージを知らせた。
まだ割と早い時間だったので、こんな時間に珍しいなと思いながら確認してみれば、差出人は川内だった。よかった、またさくらの無茶振りかと思ったじゃないか。
『今夜妹二人連れてくから、よろしくね。和食でも洋食でもいいけど、最近寒いからアツアツメニューがいいかなー。よろしくね!』
というメッセージが。妹がいるって話は前に聞いていたけど、ここの鎮守府にも着任したのか。なんだかメッセージからも嬉しそうな感じが見て取れる……『よろしくね』って二回言っちゃってるあたりとか。
とりあえず『三名様ご予約承りました、お待ちしております』とわざとらしく返しておいて、三人が来る夜までにメニューを考えようか。
相変わらず良く気の利く球磨と二人で無難に午前中の仕事をこなしてから、休憩の間に街に出てなにかいいネタが無いかうろついてみる。ちなみに球磨はお留守番だ。ちょうど休憩前にお昼を食べに来た多摩ちゃんと一緒にゴロゴロしている。
実は「マスターも一緒にゴロゴロするにゃ」「それが良いクマ、のんびりするクマー」と誘われたのだが、涙をのんで店を出てきた。
厨房から繋がる畳敷きの休憩室兼更衣室があるのだが、ドアが開いたままになっていたので、出がけにチラリと覗いてみると幸せ空間が広がっていた……くっ、後悔なんてしていないぞ。
気を取り直して商店街をぶらぶらしていると、避難前にもやっていた練り物屋が営業を再開していた。近海でとれる様々な魚を使って作る自家製の練り物は、かつては観光客のお土産としても人気の品だった。特に厄介者と嫌われるサメを使ったはんぺんは、あの凶悪な面構えが嘘のような繊細さと滑らかな口当たりで、煮てよし焼いてよしわさび醤油で刺身も良しという絶品だった。
そんな練り物を見ておでんもいいかなと思ったが、店の壁に貼られていた『おでん始めました』の貼り紙と、店頭で湯気をあげるおでん鍋を見て考え直す。この店では前から自前の練り物を使ったおでんも売りの一つになっているので、うちの店で扱うのはやめておこうかね。
となると、どうしたものか……そうだ、洋食にも具とスープを一緒に楽しめる洋風おでんともいえるあれがあるじゃないか。
と、とあるメニューを思いついた俺は、商店街にある肉屋に足を運びいくつかの加工肉を買うことにする。
この店も避難前からあった店なのだけれど、今では例の生産施設と直接契約を結んでおり、そこで生産されている物を安く、新鮮な状態で買うことができるようになったのと、その新鮮な材料を使った自家製加工肉がまた絶品なので、ついいろいろと買い込んでしまった。
いいものが手に入ったと足取り軽く店に帰れば、いつの間にか多摩ちゃんは帰ったようで球磨が午後用のご飯をセットしているところだった。
「マスターお帰りクマ―。またいっぱい買ってきたクマね」
「あぁ、今日は夜になったら川内が妹連れてくるって言ってたからな。リクエストに応えられそうなちょうどいいメニューを思いついて、その材料も込みだ」
「あー、そう言えばそんなこと言ってたクマ。あそこもうちの姉妹に負けず劣らず、エキセントリックだから、マスターも注意するクマ」
なんだその表現?と思いながら、食材をしまっていく。さぁ、しまっちゃおうねー……っとそうだ。
「なぁ球磨。川内達の料理一品作ってみるか?簡単だし」
「おー!やってやるクマ!川内相手なら失敗しても大丈夫クマ!」
いや、流石にお客さんとして来るんだから失敗したらまずいだろ。というか、そうそう失敗しない料理だから大丈夫だよ。
確か彼女たちが来るのは七時くらいだったはずだから、一時間くらい前から仕込んでいけば大丈夫だろう。とりあえず、午後の営業始めるかね。
そして、時刻は六時過ぎ。夕食を食べに来たお客さんたちを相手しながら、球磨に作り方を教えていく。そのメニューは簡単に作れるうえに、この季節ぽかぽかとあったまれる『ポトフ』だ。
野菜はすでに適当なゴロゴロサイズに切ってあるので、まずは鍋に皮を剥いたニンニクを丸のまま何個か入れてオリーブオイルで炒めていく。そこに玉ねぎ・にんじん・ウインナーを入れたら軽く炒めて、水・ブイヨン・束にしたパセリの茎・ローリエ・じゃがいもを入れて煮込んでいく。
「よーし、後はじゃがいもが柔らかくなった位でキャベツを入れてさらに煮込めばオーケーだ。ウインナーの塩気もあるけど、一応味見して塩コショウで味を整えたら出来上がりだな」
「え?これで終わりクマ?」
「あぁ、これで終わりだ。粒マスタードかサワークリームを添えてもいいけど……簡単だろ?」
「クマー。なんだか気合入れて損したクマ」
肩透かしを食らって、気の抜けた返事を返す球磨と話していると、ドアベルの音に続いて「てんちょー、こんばんわー」という川内の声が聞こえてきた。
「いらっしゃい。待ってたよ……そっちの二人が?」
「うん、私の姉妹艦の神通と那珂……さぁ、二人とも店長に挨拶して」
厨房から出てホールに出迎えに行くと、川内が後ろに二人の女の子を連れて待っていた。神通さんと那珂さんと呼ばれた二人が、川内に促されて挨拶をしてくれた。
「あの……軽巡洋艦、神通です。どうか、よろしくお願いします」
「艦隊のアイドル、なっかちゃんだよー!よっろしくぅー!那珂ちゃんってよんでね」
「えっと、神通さんと那珂さんだね、よろしく」
神通さんの方は、ちょっと弱気そうだけど普通の子みたいだ……もう一人の那珂さんの方はアイドルって……まぁ、確かにそれっぽい気もするけど球磨が言うほどかな?と、そんな第一印象を抱いていたら、那珂さんがちょっとムッとした顔で近づきながら言ってきた。
「那珂ちゃん……」
「えっ?」
「りぴーと、あふたー、みー。な・か・ちゃ・ん!……はい!」
「えーっと、那珂ちゃん」
腰に手を当てて一言ごとに接近してくる那珂さ……那珂ちゃんに気圧されながらそう言うと、彼女は「うん、よろしい」なんていいながら、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
『那珂さん』
書いてて違和感しかありませんでした
次回はポトフともう二品作って、三人に食べてもらいます
さて、三人はどんな反応を見せてくれるでしょうか
お読みいただきありがとうございました