「ま、こんな二人だけどかわいい妹たちだからさ、よろしくしてやってよ」
若干苦笑い気味の俺に、川内がそんな言葉をかけてきた。よろしくするのは良いんだけど、お手柔らかにね。
とりあえず三人を空いたテーブル席に案内して、厨房に戻る。その間に球磨がお冷とおしぼりを出してきて、厨房に戻ってきた。
「どうだったクマ?」
「いや、自己紹介にはびっくりしたけど、いい子達みたいじゃないか」
「でも、あの姉妹ああ見えて世界最強と言われた各水雷戦隊の、旗艦経験のある武闘派揃いクマ。気を付けるクマ、特に神通は……いや、なんでもないクマ」
うーん、その水雷戦隊っていうのがよくわからんが、あんまり武闘派って感じもしなかったけどな。神通さんは見た感じおっとり系だし、那珂ちゃんはアイドル云々を置いとくとしても可愛らしい感じだし。でも、こないだの演習の時の川内を見た限りでは、その妹さん達も同じように優秀なんだろうなとは思うけどね。とりあえず、今はお客さんなんだから、球磨もちゃんと手伝ってね。
注文は朝の時点でもう聞いてるから、まずは球磨の作ったポトフと手作りパンで繋いでもらおうかね。で、その二つを持って行ってもらっている間に俺はもう一つ、洋食でアツアツと言えばコレってメニューを作ろうか。
まずは中に入れる具材から。大きめに切ったマッシュルーム・エリンギ・しめじを小鍋に入れて、少量の白ワインを振りかけてふたを閉めて蒸し煮にする。別のフライパンでオリーブオイルを熱したところに、一口大に切った鶏モモ肉を入れて焼き色を付けたら、塩コショウを軽く振って味を整える。
具材にそれぞれ火が通ったところで、前もって小麦粉・牛乳・バター・塩・ナツメグで作っておいたホワイトソースに、きのこを鍋に溜まった旨味たっぷりのエキスごと加えて混ぜたら、バターを塗った耐熱皿に入れてそこに鶏肉を埋め込むように入れていく。
このベースになっているホワイトソースは、基本に忠実にシンプルに仕上げてあるので、グラタンのほかにもクリームコロッケやパスタソースにも使えて活躍の幅も広い。牛乳か生クリームを足してクリーム煮なんてのもいいかもね。
その具材と合わせたソースの上に、パン粉・粉チーズをかけて少量のオリーブオイルを回しかけ、予熱したオーブンで焼き上げれば『鶏ときのこのグラタン』の出来上がりだ。いろどりに刻みパセリも散らそうかな。
そして今日はもう一つグラタンを作っていく。もう一つはバターを塗った耐熱皿にスライスしたじゃがいもとミートソースを交互に重ねて、最後にシュレッドチーズをのせて焼いた『じゃがいものミートグラタン』だ。
取り分けて食べる用に大きめの皿で作ったこの二種類のグラタンを、オーブンに入れて焼いていく。
ちなみにこのミートソースは、パスタにかけてもうまい。というか、パスタ用に作っておいたものを使っているから当たり前なんだけど……
というのも、喫茶店だけあって……というのは俺の勝手なイメージだけど、パスタの注文は少なくないので、朝と昼の仕込みの時に、いくつかの種類は作り置いていて、このミートソースやホワイトソースはそれを使ったのだ。
作り方は何の変哲もない普通のミートソース。みじん切りにした玉ねぎ・ニンジン・セロリを、お手製のブーケガルニと一緒にオリーブオイルで炒めていく。水分が飛んだところでブーケガルニを取り出して、下味に塩を振って軽くほぐした合い挽き肉を入れ、あまりいじらないように注意しながら炒めていく。
ここで強引にほぐそうとしたり、手を入れすぎて潰したりすると美味しくならないので注意。とは言え、手を入れなさすぎるのも固まったままになるのでよろしくないという扱いの難しさ……女心とミートソース。
ひき肉にしっかり焼き色が付いたら、赤ワインを加えて煮詰めて旨味を凝縮させて水分がなくなった後で、つぶしたトマト水煮缶を加えて煮込んでいく。そのままトマトの水気を飛ばして、塩コショウで味を整えれば完成だ。
というわけで、焼きあがったグラタン二種類を川内三姉妹の所に持って行く。
「おまたせしました、鶏ときのこのグラタンとじゃがいものミートグラタンだよ。熱いから気を付けてね」
「わー!すっごーい!このお洒落な感じはアイドル向けだよねっ」
「ありがとうございます……姉さん、那珂ちゃん、取り分けるからお皿かしてください」
「おいしそー!あ、店長ポトフお替りもらってもいいかな?うん、三人分」
それぞれ違った反応を見せる三姉妹。ひとまず川内から注文のあったポトフのお替りをよそって戻ってくる。
「店長ありがとね……うん、やっぱ美味しいわね。冷えた体に沁み込むような、一皿目はもちろん美味しかったんだけど、こうして改めて味わうといろんな旨味が溶け込んでるのがわかって、さらに美味しく感じるなぁ」
「私はこのじゃがいものグラタンが好きですね。ほくほくしたお芋と深い味わいのミートソース、そしてその二つに絡んでまとめているチーズがなんとも言えないですね。それになんだか……体が火照ってきてしまいました」
「あっふっ、あっつ!み、水……ふぅ。えっとー、那珂ちゃんはこのきのこのグラタンかなー。きのこは健康や美容にも良いしね!美味しく食べられるなんてさいこー!那珂ちゃんますます魅力的になっちゃうかも。きゃはっ」
好みは分かれたみたいだけど、みんな笑顔で食べてくれている。良かった……っていうか、神通さんはそのセリフだとちょっとあれなので、体があったまったって言って欲しい。那珂ちゃんの『きゃはっ』はまぁいいか。アイドルだもんね、切り替えも早いし。
そのままホールで他のお客さんの接客をしたり、後片付けをしていると三姉妹の会話が耳に入ってきた。
「ねぇ、川内ちゃん。川内ちゃんはこういうの作れないの?」
「んー、やってやれないことは無いと思うけど、流石に店長みたいにはいかないかな。でも、今度レシピ聞いてみようかな」
「でも、姉さん。このポトフならどうですか?さっき球磨さんが簡単だったって言ってましたし」
「いやいや甘いよ神通。ポトフの作り方自体は簡単なんだけど、この味は私には無理だね。この深い旨味は多分だけど店長特製のブイヨンが使われてるのよ。あれは一朝一夕じゃ真似できないわよ」
さすが川内、良い舌を持ってる。そして、なんだかんだ言ってもいいお姉ちゃんしてるじゃないか。そんなお姉ちゃんに助け舟をだしてあげようかな。
「水筒かなんか持ってきてくれれば、ブイヨンも分けてあげるよ。せっかく再会できた妹さん達になにか作ってあげたらいいよ。川内なら、うちのブイヨンを使った他の料理も何種類か作れるだろう?」
「ほんと?いいの!?今度もらいに来るからね。約束よ?」
さっきも言ったようにせっかく三姉妹揃ったんだし、お姉ちゃんとして何かしてあげたらいいんじゃないかな……そんな感じで提案してみたら、川内も同じような気持ちだったのだろうか、キラキラした笑顔で喜んでくれた。
「まぁ!店長さんありがとうございます。姉さんの料理は鎮守府でも随一だと評判ですが、なかなか時間が合わなくてまだ食べてませんでしたから、楽しみです」
「店長、ありがとー!そう言えば、なんだかんだでまだちゃんとした料理は作ってもらってないもんね。ここに来てからの食事は他のみんなと一緒だったし。というわけで、川内ちゃんよっろしくぅー!」
うん、妹さん二人も楽しみにしてくれてるみたいだし、頑張れ川内お姉ちゃん。
グラタンってなんだか女子力高そう(←思い込み)
ここで艦隊のアイドルさんから一言
「お仕事ならリアクションも取るけど、ガチでリアルな熱さはNGだよ!」
お読みいただきありがとうございました