今回はあの方の登場です
ちょっといつもより長いですが、切っちゃうと短すぎな気がしたのでそのままで
(いつもは大体5000文字超えるくらいから分割を考えてます。今回は4700文字)
さて、ここの所立て続けに新しい艦娘が来店しているが、今日もまた一人来ることになっている。長門さんの連絡によると、長崎生まれと言うことで、長崎にちなんだメニューをお願いしたいという事だ。そして、自分よりもたくさん食べるので、量の方も多めに頼むとお願いされた。長門さんより食べるって、相当な量だと思うんだけど、どうなんだろう。
とりあえず、メニューをどうするかってところなんだけど、ぱっと思いついたのは佐世保バーガーだった。でも確かあれって『この材料を使えば佐世保バーガー』っていうのは無かったはず。『手作り』で『注文を受けてその場で作る』ってのが定義だったはずだから、ちとわかりにくいか。
となると、皿うどんかちゃんぽんなんだけど、どっちにしても麺が無い……よし、作るか。どうせ麺から作るなら、今回は皿うどんにしようかな。
寝かせる時間なんかも考えて、お昼ごはんを食べ終わったところで麺づくりを始める。
ボウルに強力粉・薄力粉・水・塩・卵・重曹を入れてまぜる。手に粉が付かなくなって、丸い塊になるまでしっかり捏ねながら混ぜたら、ビニール袋に入れて新聞紙で挟んできれいな床に置いたところでゴロゴロしていた多摩ちゃんを呼ぶ。というか、最近球磨が手伝いに来るようになってから、多摩ちゃんが良く来るんだけど任務とかないの?大丈夫?
「多摩ちゃーん。ちょっと手伝ってもらえる?」
「何するにゃ?多摩は料理は食べる専門だけどにゃ」
「ちょっとこの上に乗って踏んでくれるかい?」
そうお願いすると、多摩ちゃんは新聞紙の上で「にゃっにゃっ」と言いながら足踏みを始めた。しばらく踏んでもらった後、広がった生地を折りたたんで足踏み再開……というのを球磨と交代しながら四回ほど繰り返してもらったところで、一旦生地作りは終了。丸めてしばらく寝かせておく。三・四時間だろうか、長門さん達が来るまでには間に合いそうだ。
その後寝かせ時間も良い感じになったので、接客の合間を縫って麺を完成させてしまう。と言っても後は簡単。生地をいくつかに分けて伸ばして製麺機にかけるだけだ。
「あっははは、面白いクマー」
楽しそうに製麺機のハンドルを回している球磨は放っておいて、具材だけでも仕込んでおくかと野菜を切っていたところで、長門さん達がやってきた。
「店主殿、今夜はよろしく頼む」
そう言いながら扉を開けて入ってきた長門さんの後ろから、実に特徴的な女性が入ってきた。
銀髪と褐色の肌に、眼鏡をかけているところまでは良いのだが、特に目を引くのがさらしだけしか巻かれていない大きな胸だ。正確にはセーラー服の襟部分が見えるので、それっぽいものを羽織ってはいるようだが、もはやないに等しい。
正直そこに目を向けるなというのは、健全な成人男性には無理な話だと思う。そして、そんな俺の苦悩をお構いなしで、その女性は手を差し出しながら口を開いた。
「大和型戦艦二番艦、武蔵だ。貴殿が店主か、よろしく頼むぞ」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
なんとか返事を返して握手をしたが、さらに接近したことで存在感を増したソレにドギマギしてしまう。思わず長門さんの方を向いて、目線で助けを求める。
「武蔵よ、だから言っただろう。店主殿もお前の格好に戸惑っておられる。ほら、これでも羽織っておけ」
そう言って長門さんが武蔵さんに軍服のようなものを差し出した。それを受け取った武蔵さんは渋々袖を通すが、胸元のボタンがとまらずみぞおちの辺りまでは露わになってしまっている。まぁ、それでも艶めかしい肩から脇にかけてのラインや、お腹周りが隠れただけでもよしとしよう。
と、そこでもう一人来ていることに気づいた。大きな二人に隠れて見えなかったが、島風ちゃんも一緒に来ていた……のだけれど、どこかいつもより元気が無いように見える。んー、元気がないというか、迷子になった子がお母さんを見つけた時みたいな感じ?
ちょっと気になったので、席に案内するときに長門さんだけに聞こえるように訊ねてみた。
「長門さん長門さん、島風ちゃん何かあったんですか?」
「まぁな。武蔵が建造されてからあの調子なのだ。私も心当たりはあるが……後で聞いてみるつもりだ。よかったら、店主殿も一緒に聞いてくれないか?」
「いいんですか?俺なんかが……」
「いや、店主殿だからこそ、だな」
長門さんと内緒話をしていると、先に座った二人から「長門、何をしている」「おっそーい」と声がかかる。あの感じを見ると、落ち込んでるとかって訳でもないみたいだな……
しかし大和型か……大和さんは祭りの時に会ったけど、だいぶタイプが違うというか……いろいろと、こう、なんというか、でかい人だな。あっ、でもある部分の大きさは姉妹で似ているかも……
ともあれ、三人を待たせても申し訳ないので、さっさと調理に取り掛かる。
まずは皿うどんの前に、軽くつまめるものを用意しよう。長崎と聞いて、もう一つ思い浮かんだ名物がある、それが『長崎かんぼこ』だ。
簡単に言ってしまえば、長崎の地の魚を使った練り物なのだが、助宗だらをメインに作る他の地域の練り物と違って、鯵や鰯、エソなど様々な魚を使って作る長崎のそれは、また違った味わいがある。
とは言え、長崎から遠いこの島では本場のものを入手するのは難しい。ただ、商店街にある練り物屋では、長崎同様島の魚を使った物も多いので似たような商品を仕入れておいた。今回用意したのは、鯵かまぼこと鰯の揚げかまぼこ、糸よりのさつま揚げとその店自慢のサメはんぺんだ。
このうち、サメはんぺんと鯵かまぼこは刺身で、鰯の揚げかまと糸よりさつま揚げは軽く炙って持って行く。
「どうぞ、まずはこの島の魚で作った練り物盛り合わせです。はんぺんはわさび醤油で、その他は生姜醤油で食べてみてください」
「ほう、これはかんぼこ……とはちと違うようだが、美味そうだな」
さすがに武蔵さんにはピンと来たようだ。まずは一口なにもつけないで口に運んだ。
「あぁ、美味いな。余計なものは使っていないと見えて、魚の旨味がはっきり味わえるいい品だぜ」
「はんぺんをこうして食べたのは初めてだな。焼くか煮るかしかないと思っていたが……この食感は癖になりそうだ」
うん、掴みはオッケーっぽいな。島風ちゃんも静かだけど、おいしそうに食べてくれてるし。
厨房に戻った俺はさっそく皿うどんの調理に取り掛かる。本場の揚げ麺が手に入ればよかったのだが、今回は手作り中華麺を揚げて作ることにする。
極細の中華麺を蒸したものの水気をよく取って、サラダ油にごま油をちょっと足して中華鍋で揚げていく。こんがりカリカリに揚げて油を切っている間に、次はあんかけを作ろう。
まずは酒・醤油・生姜で下味をつけた豚バラ薄切りと鹿の子に包丁を入れた紋甲イカを炒めていく。火が通ったところで一旦取り出して野菜を炒める。今日使うのはニンジン・ねぎ・白菜・ちんげんさい・きくらげと、忘れちゃいけないのがかまぼこだ。これらを順番に炒めていって、火が通ったら豚肉とイカを戻し入れて水・酒・醤油・ガラスープを入れて煮立てる。二・三分煮たら、水溶き片栗粉でとろみをつけて最後にごま油で香りとつやを出したらあんのできあがり。お皿に盛った揚げ麺にかけて完成だ。
「はーいおまちどうさま。皿うどんと中華卵スープお持ちしました。お好みでお酢やからしもどうぞ。麺はうちで作った奴だから、ちょっと本場のとは違うかもしれないけど、味は保障するよ」
「ほう!麺を手作りとはやるなご主人。皿うどんはずっと食べたかったのだ、感謝するぞ」
武蔵さんがそう言ってくれて、箸を差し入れると「ザクッ」という音と共に麺が崩れる。しっかり中までパリパリになってるみたいだ。
三人そろってパリパリ、サクサクと音を立てながら食べていく。時折「ふむ」「ほぅ」「うむうむ」なんて言いながらただひたすら食べ進めていく。その見事な食べっぷりは、見ているこっちが嬉しくなる。いつ呼ばれてもいいように、カウンターで作業しながら見ていると、ほどなくしておよびがかかった。
「ご主人、懐かしい料理をありがとう。とても美味しかったぞ。それで、一つ聞きたいのだが……これを白飯にかけるというのはアリか?」
そんな武蔵さんの言葉に俺は黙って頷いて手を出す。すると、武蔵さんも黙って頷きながら皿を手渡してくる。だが、そこで黙っていられなかったのが長門さんだった。
「ん?なんだその聞くからに美味そうな料理は!私も頼む!」
そう言うなり残っていた皿うどんをがつがつと掻き込み、もぐもぐしながら皿を手渡してくる。さすがにそれはちょっとはしたないのではないかな?食べたい気持ちはわかるけどね。
島風ちゃんはまだ食べている途中だ。結構な量があったのに、こんなに早く食べ終わるこの二人のお姉さんがおかしいのだと思う。
二人からお皿を受け取り厨房に戻って、さっきと同じようにあんを作っていくが、せっかくだから一味変えようかととろみをつける前に溶き卵を回し入れる。あつあつのスープに卵が流し入れられると、ふわふわの雲が散らばるように固まっていく。そこにとろみをつけて、新しいお皿にこんもりとお椀型に盛られた白飯の上にかけていく。
うん、これはやばいやつだ。レンゲで一気に掻き込んで、はふはふ言いながら食べるのが正義だろう。
「おまたせ、お替り……とはまた違うか。中華丼?になるのかな、お持ちしました」
「ふはは、これはいいな……む、ご主人、卵を溶き入れたのか?さすがだな」
「あぁ、先ほどの皿うどんももちろん美味かったのだが、やはり白飯も食べなくてはな」
なんだか二人の視線がキラキラを通り越して、ギラギラしているように見える。そんな二人を見つめていた島風ちゃんに気付いたので、彼女も食べたいのかと思い聞いてみる。
「んーん、私はさっきのでお腹いっぱい。ちょっと気になるけど」
と答える島風ちゃんに武蔵さんが声を掛ける。
「ならば少し味見してみるか?私のを少し分けよう」
そう言って島風ちゃんの空いた皿に少し分け入れる。お礼を言って、一口食べた島風ちゃんが「あっ、おいしい」と声を上げるのを見ながら武蔵さんはゆっくりと口を開いた。
「なぁ島風、食べながらでいいから聞いてくれ。私がこの鎮守府に来て以来、お前はなにかと私の世話を焼いてくれるが、そこまで付きっ切りになる必要はないぞ。もちろん迷惑だと言っているのではないし、お前がどういう気持ちでこうしているのかも分かっているつもりだ」
そこで「でも!」と言いかける島風ちゃんを手で制して、彼女は言葉を続ける。
「もう大丈夫、私は無事だぞ。確かにあの時お前に摩耶の乗員を任せた後私は沈んだが、こうして新たに生まれ変わったのだ。今度はもう、あんな思いはさせない。大丈夫だ……」
武蔵さんはそこまで話して、島風ちゃんの頭をゆっくりと撫でる。その表情は、今までの武人然とした凛々しいものではなく、姉のような、母のような優しい表情だった。
なんだか大丈夫そうだな。そう思って長門さんを見ると、食べる手を止めて嬉しそうに頷いていた。島風ちゃんはしばらく撫でられるままになっていたがだんだん照れくさくなってきたのか、バッと顔をあげるといつもの調子で言った。
「ほら、二人とも冷めちゃう前に食べなよ!美味しいよこれ!」
そう言われて一瞬顔を見合わせた二人は、揃ってはっはと笑った後レンゲを手に取り食べ始めた。料理を持ってきてからなんだかタイミングを逃して離れがたかったが、俺もカウンターに戻ることにする。
「うむ、美味い、美味いぞ!どうだ、島風ももう少し食うか?」
「うん!」
テーブルを離れる俺の後ろからは、そんな二人の会話が聞こえてきた。
というわけで、武蔵さん登場です
武蔵というと一緒に話題に上るのは
最期を看取った清霜・浜風が多いですが
彼女たちの前に武蔵を護衛し
武蔵に乗っていた負傷者と摩耶の生存者の移乗を受け入れたのが島風でした
今回のお話はそのあたりの史実を参考にさせてもらっています
武蔵の時報では摩耶や島風にも言及してますね
お読みいただきありがとうございました