鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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今回の艦娘達は同じ造船所くくりです
そして自分にとってはなじみ深いご当地メニューが出てきます
分かる人にはわかるかも?



二十三皿目:浪花生まれのソース育ち

「あの、店長殿……ご相談が……」

 

不知火が何やら深刻そう表情にで相談を持ち掛けてきた。なんだ?どうした?さっきまであの日以来お気に入りになっていたトマトの卵炒めを食べて満足そうにしていたじゃないか。

 

「実は先日私の妹たちが着任したので、今度連れて来たいのですが……」

 

 ん?別に深刻になるような内容じゃない気がするけど。うちはただの喫茶店なんだから気にせず連れてきてくれればいいのに。

 

「いえ、私が案内しようかと思ったのですが、明日の朝からしばらくの間、遠征でここを離れるもので彼女たちだけで来るそうなのです。ただ、その子達は少々変わっていると言いますか、特徴的なところがあって少し心配で……せめて陽炎姉さんがいてくれたら良かったのですが」

 

 不知火がそんな風に言うなんて、ちょっと不安になってきたのだけれども……

 

「えっと、とりあえず名前とか、その特徴とやらを簡単に教えてもらってもいいかな」

 

「はい、名前は黒潮、浦風、舞風。特徴は大阪弁、広島弁、ハイテンションです……」

 

 えーっと……どういうことかしら?

 

 その後もう少し詳しく聞いてみると、三人は同じ大阪の造船所で建造された過去があり、姉妹艦でもあるということで、ここの鎮守府でも仲良くしているという事なのだがそれぞれ特徴があって、黒潮ちゃんは大阪で生まれたせいか大阪弁だし、浦風ちゃんは呉にいた経験から広島弁、最後の舞風ちゃんはダンスが好きなハイテンションガールらしい。

 

「しかも、料理の方も注文がありまして、ソースを使ったりつけたりして食べる料理がいいということでして」

 

「ソースで食べる料理ねぇ……」

 

 不知火から聞いたリクエストちょっと考えてみる。とりあえず大阪とソースで思い浮かんだのはお好み焼きだけど、大阪と広島で別れちゃうから却下かな、どっちも好きだけど。たこ焼きは鉄板が無いし――今度買っておこう――となるといっそ関西圏から離れたソース料理にするか。

 

 ちょうど先日……といっても大分経つけど、修業時代の知り合いから開店祝いと言うことで彼の地元にあるメーカーのソースが送られてきたところだ。確かその地元で昔から食べられている料理を聞いたことがあるからそれにしようかな。

 

「うん、大丈夫。任せといて!」

 

 メニューの目処が立った俺は、不知火に向かって胸を叩いた。

 

「ありがとうございます。やはり店長殿にお話ししておいて正解でした。妹たちがなにか失礼なことをしたら後で教えてください。叱っておきますので」

 

 こちらこそ、言っておいてくれてよかった。当日言われても何とかするけど、前もって言ってくれると考える余裕も出るしね。大阪生まれならきっと気に入ってくれる料理のはずだ……イメージだけど。

 

 不知火から深刻そうで深刻じゃない、ちょっと深刻かもしれない相談を受けてから二日後の夜、彼女たちが来店した。

 

「黒潮や、よろしゅうな」

 

「うち浦風じゃ、よろしくね!」

 

「こんにちは!陽炎型駆逐艦舞風です。暗い雰囲気は苦手です!」

 

 聞いていた通りの……いや、舞風ちゃんに関しては想像以上のハイテンションガールだった。とりあえず三人を席に案内して、注文を確認する。

 

「えっと、不知火からソースを使った料理って聞いてたんだけど、それでよかったのかな?」

 

「ええで、不知火から聞いたかもしれんけど、ウチら大阪で生まれてん。せやからソースには目がないんよ。ただ、お好みくらいしか作れるもんが……」

 

「じゃぁ、今日用意しているメニューはちょうどよかったかも。使ってるソースも関東のメーカーのだし、ちょっと変わったメニューも用意してるからさ」

 

 そんな風に今日のメニューをちょっと説明すると、青い髪の浦風ちゃんが乗ってきた。

 

「ほぉ、そりゃ楽しみじゃねぇ。ウチも料理はそこそこできるつもりやし、お好み焼きやったら自信あるんやけど」

 

 っと、この二人のお好み焼きって所謂関西風と広島風だよな。どっちも自分たちの所のものを『お好み焼き』って表現するからな。ただ、出身者に聞いてみると大阪対広島なんてのはテレビが面白おかしく煽ってるだけだっていうけど……ま、実際はそんなもんだ。

 

「舞風もそれでいいです!お任せしまーす」

 

 そう言えば舞風ちゃんは標準語なのね……っと、三人から了解も得たところで、さっそく料理を始めていこう。

 

 まずはちょっとしたおつまみを二品。まずはイモフライから。前もって茹でて皮を剥いたじゃがいもを冷蔵庫で冷やしておいて、八等分したものを串に刺す。この時冷やしていないアツアツのじゃがいもを使うと崩れてしまうので注意だ。それを卵・薄力粉・水をちょっと重めに溶いた衣にくぐらせてパン粉をまぶして揚げれば完成。ソースをたっぷりかけて食べてもらおう。

 

 ソースの送り主曰く、店によってはパン粉をまぶさない『いも天』のような作り方の所もあって、ソースがしみ込んでしっとりした衣とホクホクのじゃがいもがたまらないらしい。今回はパン粉をつけたけど、そっちもおいしそうだな。

 

 続いてもう一品は、シューマイだ……と言っても、そこのご当地シューマイは肉が入っていないのだそうだ。じゃぁなにが包んであるのかと言うと、片栗粉をまぶした玉ねぎだけだ。実際に修行時代に作ってもらって食べたことがあるが、軽く衝撃を受けたことを覚えている。

 

 作り方はいたって簡単。みじん切りにした玉ねぎに片栗粉・塩・コショウをまぜて、シュウマイの皮で包んで二十分ほど蒸し上げるだけ。ここにやはり地元のソースをかけて食べるのだ。どちらかと言うと、ご飯のおかずよりもおやつやつまみとして食べられることが多いらしい。

 

 ひとまずこの二つを食べていてもらおう。

 

「はい、お待たせ。いもフライと玉ねぎシューマイだよ。どっちもこのソースをたっぷりかけて召し上がれ」

 

「串カツ……とも違うみたいやね。どれどれ……うん!うまい!結構たっぷりかけてんけど、ソースがうまいんか知らんけど、全然いけるわ。いや、もっとかけてもいいかもしれん」

 

「ほんまやね、ソースの旨味が強いけぇ、ほくほくのじゃがいもとぶち合うわぁ」

 

「このシューマイも美味しいよ!最初はお肉もないしソースで食べるから、えっ?って思ったけど、ぷりっぷりで甘い玉ねぎの中身とソースの辛味とか旨味とかがすごい合うの!お肉なんか無くても全然オッケーよ」

 

 そうなんだよね、最初はえっ?って思うんだけど、舞風ちゃんの言ったようにプリプリの餡とコクのあるソースが良く合うんだ。これがほんとに衝撃だった。さて、ソースも気に入ってくれたみたいだし、三人が舌鼓を打っている間にメインを作ろう。

 

 まずはいもフライと同じように下ごしらえしたジャガイモを、薄く油をひいたフライパンで炒めていく。この時に塩・コショウとソースで味付けをする。ソースが全体にからんで味が付いたところで、一旦フライパンから取り出しておく。綺麗にしたフライパンに油をひきなおして、まずは豚バラを炒めて、火が通ったところで一口大に切ったキャベツともやしを加えてさらに炒める。しんなりしてきたところで、焼きそば用の蒸し麺を加えて軽くほぐしたら、ソースをかけてさらに炒める。

 

 最後に先ほどのじゃがいもを入れて、全体を合わせたら完成だ。これを作るときのコツは、じゃがいもを別で味付けること。そうすると味ムラや温めムラがなくなる。そして、今日は三人が大阪出身ってことだから、これにわかめとタマゴの中華スープと白飯を添えてやきそば定食にして持って行く。

 

「お待ちどうさま。今日のメインはポテト焼きそば定食だ。もちろんこの焼きそばも同じソースを使ってるよ」

 

「ポテト入りは初めてじゃねぇ」

 

「ウチも焼きそば定食は知っとったし、食べてみたいと思っててんけど……」

 

「はむ……んー!うまうま」

 

 舞風ちゃんがいち早く手を付けておいしそうに食べてるのを見て、ほかの二人も食べ始める。

 

「おおぅ、これはええのう。ごはんにもあうけぇ、箸が進むわ」

 

「ほんまやね!まったこのソースがええ仕事しとるなぁ。大阪のソースは鎮守府にも取り寄せてもろたんやけど、このソースも欲しいわぁ」

 

 黒潮ちゃんはさっきからこのソースをべた褒めだ。よっぽど気に入ったらしい。

 

「小さな会社だからなかなか大変だったみたいだけど、最近ネット販売も再開したみたいだから調べてみたら?」

 

 そう言って黒潮ちゃんに会社名を教えてあげる。彼女は復唱して確認した後「おおきにおおきに」と言って、再びおいしそうに食べ始めた。

 

「なぁ、店長はん。ウチ明後日からこのお店の手伝い担当なんじゃけど、今日のメニューの作り方教えてもらえんじゃろうか?同じ生まれがほかにもいるけぇ、作ってあげたいんじゃ」

 

 そう言えば一昨日不知火が来た時もそんなことを言っていたな。ちなみに今日までの数日間はちょっと訓練の予定が重なってしまったらしく、特定の子が手伝いに来ていたわけではなかった。一番忙しいランチタイム限定で川内や不知火が来てくれたので助かったけど。一昨日不知火と話をしたのも手伝いが終わった後、お昼をごちそうした時だ。

 

 そして、浦風ちゃんの質問ももちろんオーケーだ。元々できる子もできない子も料理の幅を増やして、みんなで美味しいものを食べてもらいたいからね。そう思って返事をすると、浦風ちゃんはなんとも頼もしげに言った。

 

「よし、お手伝いがんばるけぇね、うちに任しとき!」

 

 その後テンションの上がった舞風ちゃんが「お礼に舞風の踊り見せたげる!」と立ち上がったのを他の二人が宥める場面なんかもあったりしたけど、みんな楽しそうに食べてくれてよかった。

 




大阪藤永田造船所生まれの姉妹艦三人と言うことでこの子達の登場です
もちろん他にもたくさんいますが、キャラ的にこの三人で……

そして、浦風の広島弁は大阪弁よりも難しかったです
広島の方々、変なところがあったらすみません
浦風提督の方々、あの可愛さを上手く表現できていなかったらすみません


お読みいただきありがとうございました

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