鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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どこかで見たタイトルですが、あのお二人と一緒に
今回は重巡が一人来店します


二十四皿目:二人の大きなお姉さんと一人の真面目な重巡洋艦

「どうだったかしら?初めての戦闘は。いきなり艦隊戦だったから、大変だったんじゃない?」

 

「はい、損害も少なくて済みましたし、自分の役割もこなせたかなって……」

 

「んもー、相変わらず硬いわねー。確かにここでは私たちの方が先に着任してるけど、同じ重巡同士なんだし、もっと気楽にいきましょうよ」

 

「そうね、むしろ私たちが丁寧にならなきゃいけないかしら?私達重巡のお姉さんみたいなものだし。ねぇ?古鷹ねえさん」

 

「わかった、わかったからその呼び方はやめてよ、高雄。愛宕も合わせないで!」

 

 今、目の前で話をしているのは先日着任したばかりの古鷹さんと、今日一緒に出撃してきたという高雄さんと愛宕さんの姉妹だ。同じ艦種と言うことで初出撃のお祝い的な感じでご飯を食べに来たのだそうだ。

 

「お待たせしました、アンチョビソースのホットサラダです」

 

 三人の前に置いた一品目は、ホットサラダ……と横文字を使っては見たけれど、まぁ温野菜のことだ。今日使ったのは、ブロッコリー・じゃがいも・にんじん・かぶ・アスパラで、これを蒸した後、熱したオリーブオイルでニンニク・鷹の爪・アンチョビを炒めたアンチョビソースを絡めてある。

 

 野菜は食べたいけれど、一日中外にいたのでサラダだとちょっと冷たいな……という注文を受けて作ったものだ。

 

「うわー、おいしそう。店長さん、いただきます」

 

 様々な野菜は蒸したことと、オイルが絡んだことで更に色艶が増して輝いて見える。それに勝るとも劣らないくらいに目を輝かせて、サラダを取り分け始める古鷹さん……ってあれ?マジで左目ピカピカというか、バチバチしてない?

 

「ちょ、ちょっと古鷹、あなた左目バチってるわよ!」

 

「テンション上がるとそうなっちゃうのよねー」

 

 二人に指摘された左目を「やだぁ」と抑える古鷹さん。そうなんだ、テンション上がるとそうなっちゃうんだ……そんな彼女のオッドアイをきれいだなと思いながら見ていたら後ろから声を掛けられてしまった。

 

「店長はん、ちぃと見すぎじゃ。次の品が良い感じじゃけぇ、戻ってきてくれんかのぅ」

 

 昨日から手伝いに来てくれてる浦風ちゃんが呼びに来たようだ。彼女はそのままコックコートの裾をつかんで引っ張っていくので、三人にも笑われてしまった。

 

 浦風ちゃんに引っ張られながら厨房に戻ってくると、美味そうな匂いが漂っていた。

 

「もう十分くらいは蒸らしとるけぇ、ええじゃろ?パセリも刻んどいたで」

 

「さすが浦風、ありがとう」

 

「おう!うちに任しとき!」

 

 蒸し終わったというコンロの上の鍋のふたを開けてみれば、湯気と一緒にぶわっと海の香りが広がる。全体をさっくり混ぜ合わせて、浦風が刻んでおいてくれたパセリを散らして再度蓋をして鍋のまま持って行くことにする。

 

「はい、お次はタコとあさりのシーフードピラフです」

 

 テーブルの真ん中に鍋を置いて、一緒に持ってきた取り皿を配っていく。すると、待ちきれないといった感じで愛宕さんが鍋のふたに手をかけた。

 

「ぱんぱかぱーん!……わぁ、良い匂い!」

 

 謎の掛け声とともに開けられた鍋から立ち昇る香りに、三人が歓声を上げる。

 

 今回のピラフは、旬の真蛸が手に入ったので作ってみた。もちろん刺身や煮物にしてもうまいが、熱が加わり高まったタコとあさりの旨味を米が吸うことで、味わい深いピラフに仕上がっている。

 

 オイルやにんにくとの相性もいいし、今回は洋風のメニューで纏めたのでピラフにしてみたが、もちろん和風にタコ飯にするのも美味しい。

 

 作り方は、オリーブオイルを引いた鍋でみじん切りにしたニンニクを炒め香りを出したところで、同じくみじん切りにした玉ねぎを加える。玉ねぎが透き通るくらいまで炒めたら、一口大にした茹でだことあさりのむき身を加えて炒める。軽く火が通ったら米を加えて炒め、全体に油が回ったらブイヨン・白ワイン・塩・コショウを加えて煮立たせて、煮立ったら蓋をして十二・三分炊く。その後火を止めて十分蒸らして出来上がり。仕上げにパセリを散らしてお好みでレモンを絞って食べてもらう。

 

「はい、どうぞ」

 

「いいから、あなたも食べなさい」

 

 と、ここでも取り分けようと古鷹さんが動いたが、それを手で制して高雄さんが取り分ける。二人とも面倒見のいいお姉さんだ。愛宕さんは食べる専門?

 

 でも、こないだ駆逐艦の子達と来た時はいいお姉さんしてたから、いつもこうって訳じゃないんだろうけどね。

 

「いやー、ここのお店ほんと美味しいですね。店長さんもやさしいし。こないだ来た時は忙しかったみたいであんまりゆっくりできなかったけど」

 

「そうね、前にいた鎮守府は外出できなかったから、私達も初めての時は感動したわ。まぁ私たちがいたところは陸の孤島みたいなところだったから、ここみたいなお店は無かったかもしれないけどね」

 

「でも、あそこの鎮守府、最近は周りに商業施設を誘致しようって動きもあるらしいわよ?ほかの鎮守府でも今度の春辺りに鎮守府祭をやろうかって話も出てるそうよー」

 

 料理を分けながらそんな会話をしているけど、その話は俺が引っ込んでからしてほしいものだ。そんなに褒められたら照れるじゃないか。

 

「あっ!ここのお祭りのビデオ見ましたよ!楽しそうでしたね。あのビデオって公開されてるんでしたっけ」

 

「一般公開はしていないけれど、軍の関係者はみられるようになっているわ。他の鎮守府や基地からは問い合わせが殺到しているようよ?『羨ましい』『うちもやりたい』『川内さんかっこいい』ってね」

 

 古鷹さんの言葉に高雄さんが返したが、最後の川内云々は本当かい?確かにかっこよかったけれども。

 

 とりあえずその場を離れて、最後の料理を作りに戻る。最後の一品は古鷹さんご注文のきのこのクリームソースパスタだ。先日同じものを食べていた叢雲ちゃんに聞いてどうしても食べたかったらしい。

 

 厨房に戻って浦風に手伝ってもらいながらパスタを作る。実はこの浦風、意外にも……と言っては失礼かもしれないが、料理が上手い。昨日どんなものかと思って自信のあるものを作ってもらったら、見事な茶碗蒸しが出てきたときには驚いた。なので、今日も仕込みや調理に大活躍だ。

 

 さらに良くできていることを褒めると、嬉しそうに「任しとき!」って返してくれるもんだから、こっちも思わずにやけてしまう……方言女子、いいかも。

 

 そんな若干オッサン臭いことを考えながら、パスタを完成させて持って行く。

 

「これが、叢雲ちゃんの言ってたクリームパスタかー。おいしそう」

 

「パスタは私達も初めてねー。美味しいって話は聞いていたけど」

 

「あら?私は前に来た時に食べたわよ?愛宕はいつもガッツリ系ばかり頼んでるんじゃない?丼物とか揚げ物とか」

 

 うん、高雄さんその通り。愛宕さんが頼むのはほとんど揚げ物とかお肉系のライスセットか丼ものだからね……いや、口には出さないけど。

 

「おいしー!ほら、二人も食べようよ。コクのあるクリームソースにきのこの旨味が溶けだしてて、そのソースが絡んだもちもちの麺もたまらないよ」

 

 ニヤニヤしていた高雄さんと、ぐぬぬって顔をしていた愛宕さんを尻目にパスタを口に運んだ古鷹さんが、そんな風に二人に呼びかけると二人は顔を見合わせて笑い出した。

 

 テーブルの上の空いたお皿を片付けて、厨房へ戻り浦風ちゃんに声を掛ける。

 

「いい子だよね、古鷹ちゃん」

 

「そうじゃねぇ、ウチ等駆逐艦にも優しくしてくれるええお姉ちゃんじゃ」

 

 特に他のお客さんの注文もたまってなかったので、手早く洗い物を済ませカウンターで待機しながら三人の様子を見れば、笑顔で話に花を咲かせていた。

 

 前に自己紹介をしてもらった時に「私、結構古い艦なんですよ」なんて言ってたけど、空母の人たちの鳳翔さんを尊敬している感じも、ああして年代関係なく楽しそうに話しているのも、どっちいいなぁと思う。

 

 これからもあんな風に笑ってもらえる店を続けていかなきゃな。三人の笑顔を見て、改めて気が引き締まったかも。

 




本文とは関係ありませんが
龍田・村雨の改二実装おめでとうございます!
まぁ、うちはまだまだ先になりそうですが……
どちらも設計図がいらないというのはありがたいですね
戦闘詳報は任務もありますし、改造レベルに達するまでには何とかなるでしょう


そして浦風に広島弁にやられつつある主人公
「ちょいまち、ウチらも方言女子やでー!」
という声もどこからか聞こえてきそうですが……


そんなことより佐渡様の節分絵が可愛すぎて……
早くも節分回のメインは決まりましたね


お読みいただきありがとうございました

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