鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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今日のお話はとある姉妹艦の末っ子が頑張るお話です


二十六皿目:姉に送るおにぎり

「あ、あの!ご相談があるんですけど!」

 

 ある日の午後、一人の艦娘がちょっと遅めのお昼ごはんを食べに来たのかなと思ったら、席に着くなりそんな風に声を掛けられた。

 

「どうしたの?阿武隈ちゃん。そんなに緊張しなくても、俺にできることなら協力するよ」

 

 彼女の名前は阿武隈、お団子の上に輪っかが付いた金髪ツインテールの女の子だ。ちょっとうつむき加減で緊張しながら、意を決したように言ってきたもんだからちょっと苦笑気味に返す。

 

「えっとー、実は先日うちの姉……一番上の長良って名前なんですけど、その長良お姉が着任したんです。それで、その姉がトレーニング大好きで、トレーニングバカと言ってもいいくらいなんですけど、なにか体作りにいいものを作ってあげたくって……でもあたし、塩むすびくらいしか作れないし……」

 

 トレーニングバカって……ずいぶんな言い方だけど、そうか体作りか。

 

「それなら、そのおにぎりのレシピをいくつか考えようか」

 

「ありがとうございます店長さん!よろしくお願いします!」

 

「よし、じゃぁ中に入ってきて、手を洗って」

 

「へ?」

 

 という訳で、今日はトレーニング後にもピッタリ、おにぎりスティックを作っていきます。助手はお姉さん思いの阿武隈ちゃんです。

 

「店長はん、阿武隈はんを引っ張ってきたかと思うたら、今度は何を始めたんじゃ?」

 

「いやね、阿武隈ちゃんが長良さんだっけ?お姉さんに何かトレーニングに良い食べ物を作ってあげたいなんて、健気なことを言うもんだから心打たれちゃってね。お店も暇だし、直接教えようかなって。もちろん、お客さんが来たらちゃんとやるよ」

 

 まだ、流れについてこれていない阿武隈ちゃんを引っ張って厨房に入ると、浦風ちゃんに怪訝な顔で聞かれたので、そう答えた。

 

「なるほど長良姉ぇか、こないだ建造されたんじゃったね。そういう事ならうちも協力しちゃるわ、長良姉ぇにはうちも昔世話んなったことあるけぇの。店のことはうちが見といちゃるけぇ、店長はんはこっちに集中しとってええよ。なんかあったら呼ぶけぇね」

 

 うん、ありがたい。それじゃあさっそく作っていこうかと、阿武隈ちゃんに説明を始める。

 

「じゃぁ、阿武隈ちゃん。今回はおにぎりスティックを作っていくんだけど、トレーニング後に糖質を取るのは体作りに良いらしいんだ。そこに具としていろんなものを使って栄養のバランスを取っていくよ……といっても俺もちゃんと栄養学を学んだわけじゃないから、聞きかじりだし具材の方もイメージとか味重視なので、そのつもりで」

 

「はぁ、わかりました。でも美味しいものを作ってあげられるなら、あたし的にはオッケーです」

 

 よし、それじゃあまず一つ目、梅昆布おにぎりから始めよう。

 

 ボウルにご飯を入れて、種を取って軽く叩いた梅干しと塩昆布を入れて混ぜ合わせる。それをラップでくるんで食べやすいスティック状に握ったら、大葉を巻いて出来上がり。

 

 今回はとりあえずこのままお皿に乗せておくが、出来上がったら改めてラップでくるんで、両端をキャンディ包みでねじったらランチボックスに入れて持って行く。

 

「なんか、簡単かもです」

 

「普通に売ってるふりかけで作っても、見た目が変わるだけでだいぶ違うと思うよ。さ、次のやつを作ろう」

 

 続いてはツナレタスおにぎり。この二つの食材、使いようによってはご飯と良く合って、チャーハンなんかにしてもおいしい。今回はチャーハンにしちゃうと上手く握れないので、混ぜご飯にしよう。

 

 まず太めの千切りにしたレタスと油を切ったツナをボウルでざっくり混ぜ合わせたら、レンジで少し加熱してレタスをしんなりさせる。そこにマヨネーズ・醤油・粗びきコショウとご飯を加えて混ぜたら、先ほど同じようにラップで形を整えて出来上がり。

 

 さて、どんどん行こう。お次は魚肉ソーセージを使った低カロリーオムライス風おにぎりだ。

 

 小さめの角切りにした魚肉ソーセージを炒めたものとご飯をボウルに入れて、ケチャップ・塩・コショウをかけて混ぜ合わせる。魚肉ソーセージはそのままでも食べられるので、炒めなくてもいいかもしれないけれど、軽く炒めてやると表面がカリッとなるしほんのり香ばしさもでるから、おすすめだ。

 

 さて、この魚肉ソーセージケチャップライスをラップの上に広げた薄焼き卵の上に乗せて、卵とラップでくるみながらスティック状に成型して完成だ。

 

「うわぁ、かわいい。おべんとじゃなく普通のランチにもいいですね」

 

「そうだね、その時は普通のチキンライスとかでもいいかもね」

 

 基本的に混ぜて包むのがほとんどで、難しい調理工程も無いせいか阿武隈ちゃんは楽しそうに調理をしている。うんうん、やっぱり楽しくやらなきゃ美味しいものは作れないと思うんだよね。

 

 そして最後の一品は、疲労回復に良いとされている豚肉を使った、ボリューム満点肉巻きおにぎりを作ろう。ビタミンBなんちゃらが含まれてるんだったかな?

 

 焼くという工程があるものの、これも作り方自体は簡単だ。白ごまを混ぜたご飯をスティック状に成型したら、豚の薄切り肉をご飯が隠れるように巻く。今回はロースを使ったけどバラ肉でももちろん美味しくできる……脂がちょっと気になるかもしれないけど。

 

 その肉を巻いたご飯を、油を引いたフライパンで焼いていき、しっかり火が通ったところで醤油・酒・みりんをかけて絡めながら焼き色と照りを出して出来上がりだ。ラップにくるむときは粗熱を取ってからくるもう。

 

「これは良い匂いですね。なんだか涎がでてきました」

 

 じゅうじゅうと美味しそうな音と香りを漂わせながら、阿武隈ちゃんが肉巻きを焼きながら、そんなことを言った時だった。

 

――くぅー

 

と、どこからか可愛らしい音が聞こえた。

 

「ふぇ!?やだ、あたし?……恥ずかしい……」

 

 どうやら、阿武隈ちゃんのお腹がなっちゃったらしい。そう言えば、お昼ごはん食べてなかったもんね。これで作業も終わるし、この後作ったものを実食と行きましょうか。

 

「肉巻きの方はそれでオッケーだね。じゃあ、作った奴を食べてみようか。片付けはやるから、お店の方で待っててくれるかな?お皿に乗せて持って行くよ」

 

「あ、はい、ありがとうございます。じゃぁ向こうに行ってますね」

 

 阿武隈ちゃんに向こうで待っててもらい、見栄えのするお皿におにぎりスティックを盛り付けると、ランチセット用に作っておいたスープ、お新香と一緒に持って行く。

 

 カウンター席で作り方をメモに纏めていた阿武隈ちゃんは、こちらに気が付くとキラキラした表情で顔を上げた。

 

「はい、お待たせ。本来は巻いてあるラップをはがしながら手で持って食べるけど、今回はそのままだからね。お箸でどうぞ」

 

「わぁ、こういうお皿に盛るとまた印象が違いますね。いただきます!」

 

 そう言って阿武隈ちゃんがまず箸をつけたのは、さっきお腹を鳴らしてしまった肉巻きおにぎりだった。

 

「んー、おいしい!濃い目の味付けが良いですね。ごはんに混ぜたごまも香ばしくって良く合います」

 

 そのまま半分ほど食べ進めて、ほかのおにぎりにも少しずつ手を付けていく。

 

「この梅の酸味も疲れた体に良さそうだし、オムライスはなんだか懐かしい感じ。レタスも意外とご飯に合うんですね」

 

 まぁ、魚肉ソーセージとか若干チープな感じもしなくもないけれど、家庭で簡単に作れるっていうのを考えるとこういうのが良いのかな。

 

 そして、阿武隈ちゃんはお腹がすいていたということもあってか、さほど時間を掛けずに食べ終えると、一息ついてお礼を言ってきた。

 

「店長さん、ありがとうございました。あたしでも作れる簡単なものなのに、こんなに美味しいなんてびっくりです。きっと長良お姉も喜んでくれると思います……そしたら、今度は長良お姉と一緒にご飯食べに来ますね」

 

「まぁ、阿武隈ちゃんがそうやって作ってくれるってだけでお姉さんは嬉しいと思うけどね。俺も感想とか聞きたいから、ぜひ連れてきて欲しいな」

 

 そんな風に言って笑い合うと、阿武隈ちゃんは再びレシピをまとめる作業を始め、俺も時折彼女の質問に答えながら、午後の営業に戻っていった。

 




阿武隈のおにぎりネタはキスカ撤退作戦の時に
陸軍兵士たちにおにぎりを振舞ったという逸話を元ネタにしました

そして、話題に出るだけで姿は出てこない長良ちゃん……
ごめんよ。きっとそのうち二人で来店する場面を描くつもり、予定、多分


お読みいただきありがとうございました

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