鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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食べたい(切実)


箸休め10:鳳翔の手作りコロッケ

「えーっと、まずはじゃがいもを茹でてる間に、玉ねぎとひき肉を炒めてしまいましょうか」

 

 手元にあるメモを見ながら手順を確認していく鳳翔。そのメモは先日秀人に作り方を教わった時のものだ。

 

 お昼前、鎮守府の食堂ではその日のお昼当番である鳳翔が厨房に立っていた。今までにも何度かお昼を担当したことはあったが、その時は和食を作っていたので今回初めて洋食にチャレンジすることにした……そのメニューがコロッケ定食だ。

 

 普通のプレーンなポテトコロッケと、チーズを中に入れたチーズコロッケ。そしてカレー粉で味付けをしたカレー風味コロッケの三種類にごはんとお味噌汁を付けた定食となる。

 

 秀人に教わったいくつかの洋食レシピの中で、このコロッケを最初に選んだというのはやはり鳳翔他艦娘たちともなじみ深いからだろう。旧日本海軍作成の料理本『海軍割烹術参考書』や『海軍四等主計兵厨業教科書』などにも載っていた洋食の代表『コロッケ』。

 

 鳳翔は調理を進めながら、そのことを思い浮かべていた。

 

「あの時の烹炊さんもこんな風に作っていたような気がします。艦娘になるときにどういう訳か和食の記憶ばかりが残ってたけど、先日店長さんに教わった時になんとなく思い出してきたわ……あの方は洋食も得意だったはずなのだけれど、なぜかしら」

 

 そんな独り言を言いながらも調理の手は止めない。みじん切りにした玉ねぎを、バターを溶かしたフライパンで丁寧に炒めると、続いて牛ひき肉を入れてしっかり火を通していく。途中余分な脂をキッチンペーパーに吸わせながら炒め、塩・コショウ・赤ワインを加えて水分を飛ばしていく。

 

「さて、そろそろいいでしょうか」

 

 炒めたひき肉を一度ボウルに移したあと、茹でていたじゃがいもに竹串を差して茹で具合を確認する鳳翔。ちょうどよく茹で上がったじゃがいもをざるにあけて、皮を剥こうとした時だった。

 

「鳳翔さん、調子はどう?手伝うよ」

 

 と、ある艦娘が鳳翔の元へやってきた。

 

「あら、川内さん。訓練はもう終わったのですか?」

 

「うん、午前中の訓練は終了。もう少ししたら十一駆の子達も来るからさ。一人じゃ大変でしょ?MI作戦で山本大将の連合艦隊に一緒に組み込まれた誼ってことでさ」

 

「ふふふ、そうですね。それじゃお願いしちゃいましょうか、ではじゃがいもの皮を剥いて潰しておいていただけますか?私はもう一回ひき肉を炒めますので」

 

「了解!まかせて!」

 

 やってきたのは川内だった。簡単な料理や慣れている和食ならともかく、今回はコロッケに挑戦するという話を事前に相談されていた川内は、訓練を早めに切り上げて手伝いに来たのだった。そして、指導をしていた吹雪たち第十一駆逐隊の面々にも声をかけたのだが、彼女たちは訓練の疲れで食堂までたどり着いていなかった。

 

 その後、二人で話をしながら追加のひき肉と、つぶしたジャガイモを混ぜてタネを作ったところで、今度はこの種を三つに分けて三種類の味を作る。

 

「まずは普通のプレーンタイプと、小さなサイコロ状に切ったチーズとマヨネーズを混ぜ込んだもの、そしてカレー粉でちょっとスパイシーにしたものを作る予定なのですが……」

 

「うんうん、良いんじゃないかな。いろんな味が楽しめるし」

 

 鎮守府一の料理上手からそんな言葉をもらった鳳翔は、ちょっと安心した様子で次の作業に移った。とその時だ。

 

「鳳翔さん、川内さん、お待たせしました」

 

「すみません。遅くなってしまいました」

 

「訓練しんどい。こっちの方がいい」

 

「全く初雪ったら情けないんだから。さぁ鳳翔さん、なんでも言って」

 

 吹雪を先頭に第十一駆逐隊が到着した。

 

「お、やっと来た。じゃあ鳳翔さんがほかの準備をしている間に、君たちはこのタネを成型しておくこと……こんな風に。で、小麦粉・卵・パン粉の順番につけて、ここに並べてね」

 

 と川内が一つお手本を見せながら作り方を説明していく。鳳翔はそれを横目で見ながら他の準備を進めていった。自身が得意とする味噌汁や、小鉢として何種類かの漬物を切ったりしているうちに、駆逐艦たちが成型していた大量のコロッケのタネも見る見る間に小判型に姿を変えていった。

 

 それでもまだ艦娘たちの胃袋を満足させられるだけの量には達していないので、他の準備を終えた鳳翔も成型に加わり、六人で和気あいあいとタネを丸めていく。

 

「おわったー!鳳翔さん鳳翔さん、見てください。じゃーん!」

 

 そう言いながら吹雪が見せてきたのは、船の形をしたコロッケだった。船体を模した台形に正方形の艦橋が乗っているだけのシンプルなものだったが、なかなかの遊び心だった。

 

「あら、ずいぶんかわいくできましたね……じゃぁ、せっかくなので皆さん一つずつ選んでください。お礼と言っては何ですが、一足お先にお味見してみませんか?」

 

 鳳翔が指を立ててウインクしながらそう言うと、四人はそれぞれ気になっていたものを取ってくる。それを油の中に入れれば、ジュワァという音を立てる。

 

「なんだか揚げ物を揚げる音って、それだけで美味しそうですよね」

 

 という白雪の言葉に他の面々も頷いている。そんな楽しみにしているような彼女たちの様子を、見えないながらも背中で感じながら鳳翔はフライヤーを見つめる。その鳳翔の目線の先では衣が少しずつ色づいていく。

 

「川内さん、そろそろですか?」

 

「うん、コロッケは中身がすでに火が通ってるから、衣がきつね色になったらオッケーよ」

 

 初めてのコロッケに少し不安だったのか、川内に確認してから網じゃくしでコロッケをそっと掬うと、油の中から綺麗に揚がったコロッケが現れる。

 

「おいしそー!」

 

 後ろから掛けられたその声に、鳳翔も笑みを深めた。

 

「さぁ、お味見どうぞ……ってまだ熱いですから気を付けてくださいね」

 

 そんな鳳翔の忠告もろくに聞かずに、待ちきれないとばかりに四人は揃って手を伸ばす。そして、揃って口に運ぶとこれまた揃って上を向いてはふはふと熱を逃がす。その後ろで川内が「さすが姉妹艦」と苦笑いをしているのを見て、鳳翔も思わず「ふふ」と笑い声を上げた。

 

「さて、そろそろいい時間じゃないかな?この後の配膳も手伝うから、鳳翔さん、いつもの放送してきたら?」

 

「あら?もうそんな時間ですか?じゃぁちょっと行ってきますね」

 

 吹雪たちの「おいふぃー」「鳳翔さんさすがだわ」という声を聴きながら川内に言われて時計を確認すると、間もなく時刻は正午になろうとしている。鳳翔は小走りで放送機器の前に向かうと時計の針が重なるのを待ってスイッチを入れた。

 

「ヒトフタマルマル。正午です。烹炊係は鳳翔が務めさせていただきました。本日の献立はコロッケの三種盛り定食となってます。数に限りもございますので、皆さまお早めにいらしてくださいね」

 




これを書きながら某アニメのOPが頭の中エンドレスでした
はい、奇天烈なあれです


今回川内と十一駆が登場したのはMI作戦時鳳翔さんと一緒に
主力連合艦隊に編成されていたという記事を見つけたので……
決して、料理上手の川内がいると話がうまく回るという訳では……



お読みいただきありがとうございました
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