金剛さんから相談を受けたのは一昨日のモーニングの時だった……
「ヒデトサン!聞いて下サーイ!今まで居なかった妹二人が昨日出撃した先で発見されたデース!」
最近お気に入りの『朝のパンケーキセット』を食べ終えて、ミルクティーを飲みながら嬉しそうにそう報告してきた。
今日この後も鎮守府の先輩として、また運営のトップの一人として色々と教えたりしなければならないそうなのだが、そんな事務的なことでさえも楽しみなのだそうだ。なんだか妹さんが羨ましくなるような思われっぷりだね。
「そこで相談なのデスガ、明後日その二人に島の案内をするときに、こちらのお店でアフタヌーンティーをしたいのデス。大丈夫ですカ?」
「えぇ、構いませんが、金剛さんの言うアフタヌーンティーは英国式のしっかりしたやつですよね?」
俺も詳しくは知らないけれど、本場のアフタヌーンティーはただお茶を飲むっていう事だけじゃなく、サンドイッチ等の軽食と共にお茶を楽しむ。なので、そのあたりの準備も合わせて大丈夫かってことなんだろうけど……
「ただ、うちにはティースタンドが無いのでそこは目を瞑ってもらいたいのですが、サンドイッチ・スコーン・ケーキくらいなら用意できますよ」
「Nice! それで十分デース!姉妹揃ってのティータイム楽しみネー」
とまぁ、そんなことがあり、今は彼女たちに出す予定のケーキを作っているところだ。
そもそもうちは喫茶店と言うこともあって、普段から何種類かのケーキを置くようにはしている。とはいえ人手も少ないことから混ぜて焼くだけで作れるシフォンケーキが主だが……
そんなシフォンケーキもうまく作れるようになるまでは大変だった。メレンゲを泡立て過ぎたり、逆に足りなかったり。目詰まりを起こして硬くなったり……ただ、慣れると簡単に上手く作れるようになってきたので、ココアパウダーをまぜてみたり紅茶の葉を混ぜてみたりとアレンジを加え、今のうちの店ではそういった何種類かのシフォンケーキに、ホイップクリームや様々なジャム、アイスクリームなんかを添えて出すのが定番になっている。
そして今は新作の『抹茶小豆シフォン』を作っているところだ。昨日試作をしてみてうまくできたので、今後のメニュー入りも検討している一品だ。製菓用の抹茶を本土から取り寄せなければいけないので、毎日作るという訳にもいかないけれど限定メニューにするのもいいかな。
「あっ!昨日作った抹茶のケーキですね!美味しかったなぁ。暁ちゃんと熊野さんも気に入ってくれてましたしね!」
吹雪が横からそんなことを言ってきたが、実は昨日試作した時に吹雪とちょうど来ていた暁ちゃんと熊野にも味見をしてもらって、太鼓判をもらっている。
ところでこの暁ちゃんと熊野のコンビだけれど、どうやら『レディ』同士と言うことで仲がいいらしい……意外なような、納得のような……。
気を取り直して作業を続ける。小麦粉と一緒にふるいにかけた抹茶と卵黄を混ぜて、そこに小豆缶を入れて混ぜ合わせたら、別のボウルで作っておいたメレンゲを入れて良く混ぜる。出来上がった生地を型に流し込み、作業台にコンコンとやりながら空気を抜いたら後は焼くだけだ。
さて、お次はスコーンを作ろう。これもプレーンとチョコチップは普段から置いてあるのだが、今日はそれにプラスでもう一つ。甘くないタイプのものを作ろうと思う。生地を作るところまではいつもと一緒だが、そこに細かく刻んだプロセスチーズとベーコンを練り込んで焼いたもので、甘いものが苦手な人や、朝食なんかにもおすすめの一品だ。
焼きあがったシフォンケーキを冷ましつつ、スコーンの焼き上がりを待つ間に胡瓜やハム、卵などのシンプルなサンドイッチを作っていると金剛さん達がやってきた。
「ハーイ!ヒデトサーン!妹たちを連れて来たデスヨー!」
そんな金剛さんの笑顔に連れられてやってきたのは、霧島さんのほかに二人。皆それぞれスカートの色は違う物の、巫女服のような衣装を着た女性だ。
まず挨拶してくれたのは、金剛さんと同じ濃いめの茶髪が軽く外に跳ねたような髪型の、活動的な印象の女性だった。
「金剛お姉さまの妹分、比叡です!まだこの島に来たばかりですが、少しでもお姉さまに近づけるように、気合!入れて!行きます!」
お、おう。見た目通りの元気な娘さんのようだ。続いて自己紹介してくれたのは黒髪ロングの女性だ。
「高速戦艦、榛名です。あなたがマスターさんですね、金剛お姉さまからお話は伺っております。よろしくお願いいたしますね」
「こちらこそよろしく」
明るくみんなを引っ張る長女の金剛さんに、元気っこの次女の比叡さん。しっかり者の榛名さんが三女で、頼りがいのありそうな末っ子の霧島さんか。なかなかいい関係の姉妹みたいだね。
四人をテーブル席に案内して、吹雪におしぼりとお冷を出してもらったら、既に準備が済んでいる何種類かの一口サンドイッチと焼きたてのスコーン、いくつかのジャムと紅茶を入れて持って行く。
「お待たせしました。本日の紅茶はアッサムです。こちらのミルクを入れてミルクティーでどうぞ。紅茶のお替りもお気軽に言ってくださいね」
そう言いながらテーブルに並べたティーカップの中に紅茶を注いでいく。最後の一滴まで注いで彼女たちの前に置くと、ミルクポットを置いてその場を離れる。そのままカウンターに入り、紅茶のお替りの準備だけしておくことにする。
作業を始めると金剛さん達の会話がきこえてきた。
「それでは皆サン、いただきましょう」
「金剛お姉さま、このサンドイッチ美味しいです。見た目普通のサンドイッチなのに何が違うのでしょうか……」
「比叡お姉さま、こちらのお店では食パンも手作りだそうで、その違いではないでしょうか?」
「このスコーンもなんだか素朴な味で良いですね。榛名こういうの好きです」
金剛さんの音頭でそれぞれ気になる物に手を伸ばす。比叡さんが口にしたサンドイッチは霧島さんが言うように自家製パンを使った、他所とは違った自慢の一品だ。榛名さんはスコーンを気に入ってくれたようで、ジャムを塗ったりしながらおいしそうに食べてくれている。
と、そのうちに金剛さんがこちらを向いて、軽くティーカップを掲げてニコッと笑いかけて来た。俺の方も笑顔で頷いて、紅茶のお替りを持って行く。「どうぞ」と金剛さんの所にティーポットを持って行くと、金剛さんが周りに聞こえないようにささやいてきた。
「あの仕草で気が付くなんて、流石ヒデトサンデース」
金剛さんのような美人さんにそうやってささやかれるなんて経験今まで無かったものだから、思わず顔が熱くなってしまう。それをごまかすように四人に尋ねる。
「えーっと、シフォンケーキをいくつか作ったんだけど、皆さんどれにしますか?ちなみに今日は新作の抹茶小豆もありますよ」
そんな風に少し早口で聞いてみると、比叡さんと榛名さんはそれぞれ普通に返してきたが、金剛さんの隣に座っていた霧島さんは、さっきのやり取りが聞こえていたようでクスクスと笑っていた。恥ずかしいからそっとしておいてほしい。
みんなで分けながら食べるらしく、四種類をひとつずつ注文されたので、お皿に乗せて吹雪に持って行ってもらう。恥ずかしいので吹雪さんお願いします。
「Wow!鮮やかなGreenが美しいですネー。うぅー、小豆の甘さとおマッチャのほのかな苦みが紅茶に良く合うデース」
他のシフォンケーキは食べたことがあるので、真っ先に抹茶小豆にフォークを伸ばした金剛さんがそんな風に言ってくれた。霧島さんはプレーンのやつに色々なジャムを乗せて食べるのが好きなようだ……そして新しい二人はというと……
「ココアの香りがたまりません!クリームと合わせるとさらに美味しいです!」
「素敵な紅茶と、香りのいいケーキ……榛名感激です!」
うん。こっちも気に入ってくれたみたいだ。すると榛名さんが、金剛さんに軽く身を乗り出して質問を始めた。
「金剛お姉さま!昨日の説明会ではこちらのお店でお手伝いができる任務があると聞きましたが本当ですか?お料理も教えていただけるとか……」
「Yes! 申請を出して抽選で当たる必要はありますガ、そういう任務はありますヨー。榛名やりたいのデスカ?」
え?いま抽選式になってるの?ちょっと前に聞いた時は新任艦が順番にって事だったけど……
「はい、榛名も美味しいケーキ作れるようになりたいです!それに他の子にも聞いたのですが、お料理の方も気になります……マスターさんも優しそうですし」
そう言ってもらえるのはうれしいな。カウンターで聞きながら思わずにやけてしまう。と、金剛さんの横から霧島さんが眼鏡をクイっとやりながら口を挟んだ。
「榛名姉さま、あくまでお店のお手伝いですので。そこはご理解くださいね」
「えぇ、榛名は大丈夫です!」
噛み合ってるのか噛み合ってないのか微妙な会話を繰り広げつつ、お茶会が進んでいく。心なしか空気が変わったような気がしなくもないけど、比叡さんは相変わらずニコニコとケーキを楽しんでいるから大丈夫なのだろう。
……うん、そう言うことにしておこう。
次回金剛VS榛名、秀人をめぐる女の戦い
……ありません。この物語はのんびりほのぼの日常系なので。
という訳で、久しぶりに喫茶店ぽい感じで書きました。
ふわふわシフォンケーキ……たべたい
お読みいただきありがとうございました