鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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そう言えば鍋ネタやってないなと思いまして……



三十一皿目:体も心もぽかぽか鍋パ1

「店長さーんお出汁はこんな感じで良いですか?」

 

「マスター、味見お願いしてもいいかしら」

 

「店長、こんな感じでどうかな?」

 

「浦風こんなものかしら?ええ、そうね、ではそのように」

 

「不知火姉ぇそれでええと思う……って舞風!それはこうじゃ。ウチの良く見ときんさい」

 

 久しぶりに鎮守府御一行様のパーティーが予定されている本日は、午後から貸し切り営業だ。と言ってもまだパーティーは始まっておらず、今店内ではある程度料理ができる駆逐艦の子達が下ごしらえに精を出していた。

 

 というのも今回のパーティーは彼女たち駆逐艦の子達が発案だったりする。先日から演習のために島に滞在していた潜水艦隊が明日で自分たちの鎮守府に帰るということで、対潜演習で一番お世話になっていた駆逐艦の子達が、ぜひお別れパーティーをやりたいということで計画した。

 

 そこで、会場は例によってうちの店を使うとして、メニューをどうするかということになったのだが、感謝の気持ちとして「できれば自分たちで何か作って食べてもらいたい」という相談を受けたので、それならば今の時期にピッタリのもので、かつみんなでワイワイ食べられて、さらに簡単にできる物と言うことで鍋を作ることになった。

 

 そして今、その駆逐艦の子達がうちの厨房で仕込み作業を色々とやっているという訳だ。

 

 さっき吹雪ちゃんが出汁の取り方を確認してきたのはみぞれ鍋だ。『雪』が名前につくことから妹さん達と考えてこれにしたらしい。その妹さんたちは大量の大根おろしをおろしたり、材料を切るのに余念がない。

 

 今回のみぞれ鍋は鶏肉ときのこを中心にしたものだ。具材をどうするか相談されて教えたレシピなのだけれど、別に雪国と名の付くきのこ商品を思い浮かべてこのレシピを教えたわけではない…………ごめん吹雪、ちょっと思い浮かべた。

 

 続いて雷ちゃんが小皿に入れて味見をお願いしてきたのは、トマト鍋に使う予定の魚介出汁だ。

 

「うん、良い感じだね。後はこし器にかけてやればオッケーかな」

 

「よかったぁ。マスターありがとう!」

 

 雷ちゃんはそう言って鍋の所へ戻っていった。彼女が作っている魚介出汁は、鍋の具としておろした鯛や鱈のアラに玉ねぎ・セロリ・マッシュルームを加え、水と白ワインで煮たフュメ・ド・ポワソンに、さらに海老の殻や頭を軽く砕いて煮出したものだ。海老の頭から出た濃厚な味噌が加わり、風味とコクがアップしていてそれだけでもスープとして十分な一品になっている。

 

 さらに具として後であさりも入るので、もう何が何やらわからなくなりそうだが、美味いのは間違いないだろう。『味の宝石箱や』的なコメント誰か言ってくれるかな?ノリ的に龍驤ちゃん?

 

 とまぁ、くだらないことは置いといて……雷ちゃん達が作っているこのトマト鍋はとあるレディーの「トマトってなんかお洒落よね」と言う一言で決まったとか……そのレディーはと言えば、現在あさりの砂出し監視任務に就いている。姉妹艦的にそれで良いの?

 

 次に時雨ちゃんが見せてくれたのは、ぎゅうぎゅうに鍋に詰まった白菜と豚バラのミルフィーユ鍋だ。白菜の白と緑、豚肉のピンクがきれいな渦を巻いている。なんとも真面目な時雨ちゃんらしい仕上がりだ。これは後で刻んだ生姜を散らして、吹雪が取った出汁を入れて火にかけるだけだ。

 

 ちなみにこのミル鍋、二つ目だったりする。艦娘達の食べっぷりを考えると、一つでは足りないということですでに一つ仕込んで冷蔵庫にストックしてるのだ。そして時雨ちゃんがこの作業をしている間妹艦の夕立ちゃんはと言えば……

 

「とうちゃーく!どう?島風が一番速いんだから!」

 

「むー、やっぱり島風ちゃんには勝てないっぽい」

 

「マスター、カセットコンロ借りてきたよ」

 

 ちょうど着いたみたいだ。夕立ちゃん・島風ちゃん・響ちゃんの三人で、鎮守府にあるというカセットコンロを借りてきてもらっていた。

 

「おぅっ!良いにおーい!早く食べたーい」

 

 厨房に入るなり、そんなことを言ってきた島風ちゃんに頼んで、ホールのセッティングをしておいてもらう。「島風!了解しました!」とやたら気合が入っているように見えるのは、早く食べたいからかな?ホールの準備が終わっても、みんなが揃うまではお預けだからね?

 

 最後に不知火と浦風が仕込んでいるのは味噌仕立ての野菜たっぷり寄せ鍋だ。この二人の作業はなんだか安心してみていられるな。他の姉妹二人にも簡単な下ごしらえを教えつつ順調に進んでいる。

 

 こうして四種類の鍋の準備が進んでいるわけだが、実は俺も一品隠し玉を用意しているのだけれど……まぁ、準備らしい準備はいらないからいいか。とりあえず俺の方は漬けダレをいくつか作っておこうかな。

 

 まずは定番のポン酢から。と言ってもこれはすでに仕込んである。

 

 今回使う柑橘は『橙』だ。昔からこの島で栽培されてきた柑橘の一つで、一般家庭の庭にも植えられていたくらいポピュラーなものだ。今回の鎮守府建設に伴う開発でそういった物は抜かれたそうだが、生産施設の果樹園の一部に移植されたらしく、そこで貰ってきた。

 

 この橙の果汁と醤油、みりんを合わせたところに、昆布と鰹節をたっぷり入れて保存瓶に入れて寝かせてある。こうすることで酸味の角が取れて、まろやかに仕上がるからね。

 

 んで、お次は胡麻だれ。これに使うすり胡麻をさっきからすってもらってたんだけど、どんな感じかな?

 

「初雪ちゃん、どう?」

 

「うん……良い感じ……いい匂い」

 

 誰か手の空いている子に頼もうと思っていたすり胡麻作りに手を挙げたのが初雪ちゃんだった。どうやらこういう地味な仕事が好きらしい……さっきから黙々とすり続けていてくれたおかげで大量の胡麻も良い感じにすり終わっていた。

 

 そのまま初雪ちゃんにお願いして、胡麻だれを作ってもらう。すり胡麻に味噌・醤油・橙果汁を加えて出汁でのばしていけば完成だ。初雪ちゃんにスプーンを渡して味見してもらおう。

 

「ん!……これは……いい!」

 

 よしよし、うまくできたみたいだね。とりあえず今回はこの二種類にしよう。四つのうち二つは使わないし。その分薬味を色々用意しようかね。

 

 刻みねぎや紅葉おろし、柚子胡椒、おろし生姜なんかの定番のものはもちろん、おろしにんにくや生卵のスタミナ系、粉チーズやドライバジル、オリーブオイルにブラックペッパーなんかはトマト鍋にも合うね。後は胡麻油、ラー油、みじん切りにしたザーサイで中華っぽくするのもアリかな。

 

 いろんな薬味を試しつつ、好みの味を見つけてもらうのも鍋の楽しみ方の一つだと思う。

 

「それにしてもいっぱい用意したのです……」

 

 一通りの仕込みが終わり後は鍋に入れるだけとなったところで、作業台に所狭しと並んだ材料を見ながら電ちゃんがつぶやいた。

 

 確かに結構な量があるな。これにプラスして締めのことも考えると……足りるかな?ま、その時は何か作るか。と、あたりを見回せば、どことなくやり切った顔で駆逐艦の子達が休んでいた。いや、これからが本番だからね?まぁ、鍋は準備さえしっかりしておけば後はそんなに大変じゃないけどさ。

 

 といった所で、ホールの方からドアが開く音が聞こえてきた。

 

「てんちょー!おまたせ!みんなを連れてきたぜぇ!」

 

 楽しそうな佐渡ちゃんの声に続いて、他のみんなの話声も聞こえてきた。なんともいいタイミングで佐渡ちゃんが来たね。皆の先導艦という今回のもう一つの重要任務も無事達成って訳だ。

 

 そして厨房では佐渡ちゃんの声を聴いた皆がお互い顔を見合わせて頷くと、夕立ちゃんが声を上げた。

 

「さぁ、ステキなパーティーしましょ!」

 




なんだか最後に夕立が一言で色々かっさらって行きましたが
次回は鍋パーティ実食編です


他にも色々鍋は考えたのですが、今回はこの四種類で。
すきやき・しゃぶしゃぶ・チゲ・水炊き……
魚しゃぶ系も出したかった



お読みいただきありがとうございました

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