鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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皆でお鍋を食べます……美味しそう……



なんと、日間3位にランクインすることができました!
思わずブラウザを閉じて開き直すくらい驚いてしまいました……

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三十一皿目:体も心もぽかぽか鍋パ2

 入ってくるなり思い思いの席に着く鎮守府御一行様、この辺りはもう慣れた感じである。今回の主賓の潜水艦の皆も、佐渡ちゃんに案内されながら席に着いた。

 

「いらっしゃーい」

 

 そんな風にホールに迎えに出ると、後ろから駆逐艦の子達も「いらっしゃーい」と声をそろえてお出迎えだ……それにしても結構な人数になったもんだ。この人数になるといつもの席では足りないので、予備の椅子も引っ張り出してきてやっとといった感じだ。次回からは鎮守府の食堂でやろうかね?出張調理って感じで。

 

 事前の打ち合わせ通り、駆逐艦の子達がテーブルにセッティングしてあったコンロに出汁の入った鍋を置いて火をつけていく。トマト鍋とミル鍋はすでにある程度具材が入っているのでそうでもないが、みぞれ鍋と寄せ鍋のテーブルはあっという間にお皿で埋め尽くされていく。

 

 テーブルの上に色々と並べながら、吹雪と不知火がそれぞれの担当の鍋に具材を投入していくと、それだけで艦娘たちのテンションが上がってきているようだ。とは言え煮えるまではまだ時間がかかるので、その前に司令官殿のありがたいご挨拶だ。

 

 さくらがみんなから見える位置に立って、手を叩き注目を集めた。

 

「はーい、ちゅうもーく!まずは潜水艦の皆、今日までありがとうね。明日には帰っちゃうって事だけど、今日のパーティーは皆のお別れ会と、お礼も兼ねてるからいっぱい食べてって頂戴。ま、長ったらしい挨拶は明日の見送りの時に回すとして、次は今回のパーティーを企画した吹雪、よろしくね」

 

「はい、私達駆逐艦からは一言。皆さんのおかげで潜水艦はもう怖くありません!ありがとうございました!」

 

 さくらからのフリに応えた吹雪ちゃんに続いて、他の駆逐艦たちも「ありがとうございました」と声をそろえて頭を下げる。すると潜水艦のみんなから「なかなか言う様になったでち」「本気出したらあんなもんじゃないのねー」といった声が聞こえてくる。確かに吹雪のセリフはなかなか挑発的だった。

 

 対する鎮守府側からも「那珂ちゃんだってやるときはやるんだからぁ」「佐渡様もいるぜぇ!」なんて声も聞こえてきた。せっかくのパーティーが一触即発か?……なんてことはなく、すぐに笑いに包まれた。短い間だったけどいい関係が作れたみたいだ。

 

 そして潜水艦隊の方からはしおんちゃんが代表して話すようで、その場で立ち上がって口を開いた。

 

「今日はこんな会を開いてくださってありがとうございます。初めはちょっと頼りない皆さんでしたが、訓練後半はむしろ私たちの方が勉強になるくらい頼もしくなってくれました。正直最後の一戦は見つからないようにするのと、爆雷にあたらないようにするのに必死でした……いつか皆さんがうちの鎮守府に来た時には、ここのような美味しいお店を案内できるように周辺住民の皆さんと良い関係を築いていきたいと思います」

 

 そう挨拶をしたしおんちゃんは真面目な性格からか、途中感極まったように目頭を押さえた。そんな感動的な場面を尻目に、同じ艦隊の子達は「しおん硬いでち」「早くたべたいのねー」という声も……ていうかさっきからガヤやってるのってゴーヤちゃんとイクちゃんだけじゃない?イムヤちゃんが呆れた表情してるのって、その二人にだよね。

 

「そろそろいい感じではないデスカー?良い匂いがしてマース!」

 

 いいタイミングで金剛さんが声を出す。確かにさっきからくつくつという鍋が沸く音と共にそれぞれの鍋から良い匂いが漏れ出してきていた。金剛さんの言葉を聞いて、駆逐艦の子達が鍋のふたに手をかけて金剛さんに目配せをする。

 

「OKデスカ?それでは皆サンOpen!」

 

 金剛さんの音頭に合わせて各テーブルで鍋のふたが取られると、大量の湯気と一緒に美味しそうな匂いが爆発した。と同時に、艦娘たちのテンションも一気に上がり、ひときわ大きな歓声が上がる。どの鍋も良い感じに火が通って食べごろになってるみたいだ。

 

 まずは主賓の皆さんにと言うことで、吹雪がみぞれ鍋を取り分けて渡していく。それを受け取った潜水艦の皆は「いただきます」とそれぞれ口に運んだ。

 

「ふわぁ、おいしい……ユー、お鍋は知ってましたけど、こんなの初めて……」

 

「ほんと、美味しいわー。大根おろしが絡んだぷるぷるの鶏肉がたまらないです」

 

 と、さっきまで静かだったユーちゃんとはっちゃんがのんびりした口調で美味しさを伝えて来る。その隣ではイムヤちゃんが出汁をすすって「あー……」と声を出していた。

 

「この出汁最高!鶏ときのこの旨味も溶け込んで、いくらでも飲めちゃいそう!」

 

 すると、潜水艦の子達が口をつけたのを見て、他のテーブルでも「いただきます!」と声が上がった。後はもう、なるようになれだ。

 

「このトマト鍋美味しいですわ。暁さんやりますわね」

 

 と暁ちゃんがレディー仲間の熊野にトマト鍋を勧めているのが見えた。そこで「妹たちが頑張ってくれたわ!」と妹を立てるところはさすがお姉ちゃんだね。

 

 その隣では同じくトマト鍋を食べながら、目を見開いている龍驤ちゃんがいた。

「なんやこれ、めっちゃいろんな旨味が詰まっとる。ほんまにうまいわぁ」

 

 残念『味の宝石箱』は出なかったか……

 

 と、隣のテーブルでは軽巡洋艦の子達が薬味を駆使しながらミル鍋を楽しんでいた。ポン酢に生卵、七味唐辛子というなかなか通な食べ方をしているのは川内で、その隣では夕張ちゃんがねぎや生姜、紅葉おろし盛り盛りで食べている。球磨は胡麻だれにラー油をたっぷり入れて担々風かな?

 

 そして寄せ鍋の方を見ると……そこはまさに戦場だった……戦艦と空母が集まったそのテーブルは、次々と具材が消費されていくところに、島風の手によって追加投入が行われているが、そろそろ煮えるスピードが追い付かなくなりそうだ。

 

 鍋の上空では空母たちの目線による目に見えない制空権争いが繰り広げられ、その隙をぬって戦艦たちの箸がどこからともなく伸びて来る。肉は煮えたそばから掬い取られ、もはやしゃぶしゃぶ状態だ。

 

 さすがにこの状況はいただけないな……と言うことで、ちょっと動くことにするか。

 

 カウンターにちょっと小さめの鍋をセッティングして、昆布と水を入れたところに豆腐を入れて火をつける。最近ようやく島でも豆腐が簡単に手に入るようになったからね。やっぱり冬場の豆腐の食べ方と言えばコレは外せないでしょ。

 

 これで何人か釣られるかなーと、しばらくコトコトやっていると、ほんのり漂う昆布の香りに誘われてやってきたのは加賀さんだった。ちなみにカウンターの隅ではすでにさくらがこの湯豆腐で一杯やってるが、放っておこう。

 

「あら、湯豆腐ですか?それに提督がお飲みになっているのは……」

 

「いらっしゃい、加賀さん。さすがに各テーブルに配るわけにはいかないけど、ここで少しならお酒も出せますよ。いかがですか?」

 

「えぇ、いただきます。湯豆腐で一杯だなんて、素敵ですね」

 

 そんな言葉を聞きながら、お皿に豆腐を盛って何種類かの薬味と一緒に加賀さんの前に置く。すると、加賀さんの後から何人かの艦娘もやってきた。

 

「加賀ー、一人だけずるいデース」

 

「なかなか粋なことをしているではないか」

 

「店長、こっちにも欲しいな」

 

「なんだ、美味そうだな。俺も混ぜろよ」

 

 やってきたのは金剛さん、長門さん、川内、天龍さんのうちの店でもおなじみの鎮守府の重鎮たちだ。お互いにお酒を注ぎ合い、思い思いの食べ方で湯豆腐を楽しんでいく。みんな大体ポン酢に好きな薬味を入れてるけど、個人的にはシンプルにねぎと生姜を乗せて醤油で食べるのが好きかな。

 

 お酒も入ってきたことでなんだかカウンター周辺が一気にアダルティな感じになった……と言うか、会話も鎮守府運営の話が始まってしまい、プチ幹部会の様相を呈してきてしまったが、とりあえずここで聞いた話は俺の心のうちにしまっておこう。

 

 というかさくらよ、止めなくていいのか?いや、むしろさくらが率先して機密を話すから今更か……とりあえず、一つ気になったのが暁ちゃんや時雨ちゃん達が育てているという野菜のことかな。収穫したら持ってきてくれるってことだから、楽しみにしておこう。

 

 と、彼女たちが動いたことで、他のテーブルでも席替えが行われてそれぞれ気になっていた鍋をつつきに行ったみたいだ。

 

 ドイツ艦の子達は洋風ってことでトマト鍋にチャレンジしている。オリーブオイルを入れてみたり、粉チーズを振ったりして楽しんでくれているみたいだ。そうそう、タバスコをちょっと入れても美味しいんだよね。

 

 高雄さんに愛宕さん、那珂ちゃんはみぞれ汁を食べながら「きのこの食物繊維が……」とか「鶏肉のコラーゲンが……」なんて話をしている。艦娘とは言え女の子、美容や健康には注意してるんだね。

 

 ってところで、どの鍋も具がなくなってきてだいぶ落ち着いてきた感じかな?それじゃ、いよいよお待ちかねの締めに参りますか……

 

 まずはご飯を使って二種類。味噌寄せ鍋で雑炊と、トマト鍋でリゾットだ。

 

 鍋にちょっと出汁を足して火を強めて、洗ったご飯を入れる。軽く混ぜてふつふつと沸いてきたところで溶き卵を流し入れたら火を止めて、蓋をしてしばらく蒸らす。蒸らし終わったら軽く混ぜて、刻んだ青ネギを散らして出来上がりだ。

 

 続いてトマト鍋で作るリゾット。こちらも出汁が少なくなってたので、ちょっと足して洗ったご飯を入れる。煮立ったところで粉チーズをたっぷりと入れてざっくり混ぜたらドライパセリを振って完成。

 

 そして、完成したそばから待ち構えていた戦艦たちのお腹に消えていく。

 

「やはり鍋の締めは雑炊に限る!」

 

「あらぁ、このリゾットもなかなかよ?魚介の旨味をご飯が吸って、トマトの酸味とチーズの風味がおいしいわ」

 

 ま、美味しそうに食べてくれてるし、ほかの二つもあるから作っちゃおう。

 

 ミル鍋の締めに作るのはうどんだ。元々の出汁に加えて、豚から出た旨味と白菜の甘味が加わっているので、うどんを入れて煮込んだら軽く塩を振って味を整えるだけで十分美味い。ここにいろどりに青ネギを散らしてやればオッケーだ。

 

 これを待っていたのが駆逐艦や潜水艦の子達だ。戦艦や空母に比べてあまり食べない彼女たちだが、これを楽しみにして少し抑えていたらしい……なんとも可愛らしいじゃないか。

 

 そして最後はみぞれ鍋。これはちょっと変わり種になるかもしれないが、温めなおした出汁に焼いて焦げ目をつけた餅を入れて少し煮る。雑煮みたいな感じになるが、大根おろしが餅に絡んで美味しいんだよね。

 

 一通りの締めを作り終えて、軽く片付けていると多摩が「うにゃー」と言いながら餅と格闘していて、それを見ながら他の子達も笑っている。

 

 そしてカウンター組は昆布の旨味がたっぷり出て、ちょっととろみのついた湯豆腐の出汁を使って澄まし汁を作る。鍋に残った昆布だしに薄口しょうゆと塩を少し入れて刻みねぎを散らしただけの簡単なもので、お吸い物ともいえないようなものかもしれないが、これが結構ほっとする味で好きだったりする。

 

「あー、やっぱり鍋っていいわね。最後の最後まで美味しいし……みんなも楽しそうだしねー」

 

 軽く出来上がった感じでさくらがそう言いながら、お吸い物をすすっている。カウンターに座った他の面々も、ワイワイと鍋の締めを楽しむ他の艦娘たちを見て笑顔を浮かべていた。

 

 うん、やっぱ大人数で鍋っていいよね。そんな感じで俺もみんなを眺めていると、視線に気づいたのか吹雪がこちらを見てきたので「やってよかったね」という意味も込めて親指を上げる。すると、それを見た吹雪も親指を立てて満面の笑顔を見せてくれた。今回も大成功だね。

 




ここの所寒いので、お鍋ネタをやってみましたが……たべたい。


そして今回のお話には関係ありませんが
鬼っ子如月が可愛い




お読みいただきありがとうございました!

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