鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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今日は鳳翔さんがあのスイーツをつくります


三十三皿目:ふわふわすいーつ

 昨日一日で、というか午後だけですっかりクラムチャウダーとボンゴレの作り方をモノにした鳳翔は、今日は新しい事に挑戦していた。

 

 その様子をカウンターに座って眺めているのは、珍しく一人で来店した霧島さんだ。どことなくアンニュイな表情で頬杖をついているので、ちょっと気になって声をかけてみる。

 

「霧島さん何かありましたか?なんだか疲れてるみたいですけど」

 

「あらやだ、ごめんなさい。ちょっとここのところ仕事が立て込んでおりまして」

 

 なんでも、鎮守府立ち上げメンバーの一人として、姉である金剛さんや加賀さんの補佐をすることが多い霧島さんなのだが、ここのところ新規着任艦も多くその仕事量が増えているらしい。さらに、まだまだ着任は増えるそうでしばらくはこの状態なのだそうだ。

 

「まぁ、それでもお姉様や加賀さんに比べれば少ないほうなのですが……」

 

 なるほどね……組織運営っていうのも大変だ。あれ?長門さんは?

 

「長門さんは体を動かす専門ですからね……あ、もちろん書類仕事ができない訳ではないですよ?それに作戦立案や艦隊運用は長門さんが中心ですから。それに天龍・龍田・川内と優秀なサポートが揃ってますしね。最近は高雄も事務処理ができるようになってきたので、多少は何とかなりそうです」

 

 長門さんをまるで脳筋みたいな言い方をしてしまって、慌ててフォローする言い方になってしまった霧島さんだったが、なんとなく分かるかも。でもそういうトップの形もありっちゃありなのか。長門さん背中で語るタイプっぽいしね、「私についてこい!」みたいな。

 

 そんな会話をしていた俺達の横から、鳳翔がお皿を出しながら声をかけてきた。

 

「疲れた時は、甘い物を食べてリフレッシュですよ、霧島さん」

 

 そう言いながら鳳翔が霧島さんの前に置いたのは、自家製のバゲットを使って作ったフレンチトーストだ。

 

 卵と牛乳、砂糖をしっかり混ぜ合わせて、バニラエッセンスを数滴垂らした卵液にスライスしたバゲットを漬け込み、バターを溶かしたフライパンでこんがり焼く。お皿に乗せて粉砂糖を振って出来上がり。疲れている霧島さんのために、バニラアイスをちょっぴりおまけで付けちゃおう。

 

「あぁ、美味しそうな匂いです。この甘い匂いはなんだかダメになりそうな匂いですね」

 

 確かに女の子が好きそうな匂いだよね。そして、俺も嫌いじゃない。

そしてこれに合わせるのはフルシティにローストして、酸味を抑え苦みをちょっと強めに出したコーヒーがいいだろう。

 

 コーヒー豆に関しては国内生産も大分盛んになっている。深海棲艦のせいで中南米からの輸入がなくなった分を補填するには量が少ないが、その代わりに東南アジアからの輸入を増やし何とか賄っている。

 

 という訳で霧島さんに提案してみたら、是非と言う事なのでコーヒーを淹れる準備をしていく。

 

 ちなみに、今日の豆は最近流通の始まった鹿児島奄美諸島の豆だ。霧島さんの名前の元になった『霧島連峰』も鹿児島にあるので、何か惹かれるものがあったのだろうか。鹿児島って言った時に反応してたしね。

 

 まずはガラス製のサーバーにセットしたドリッパーのコーヒー粉全体に、お湯を馴染ませて蒸らす。数十秒蒸らしてから、今度は粉の真ん中でゆっくり『の』の字を書くように、一定のスピードで真上からお湯を注いで抽出していく。

 

 なんとなくみんなの視線がドリッパーに集中して、静かな時間が流れていく。しばらくぽたぽたとコーヒーが落ちる様子を見ながら、その時を楽しむ。霧島さんもフレンチトーストを食べようとフォークとナイフを構えた格好のまま注目していた。

 

 コーヒーを落とし終わって、サーバーから温めておいたコーヒーカップに注ぎ、霧島さんの前に「どうぞ」と置いた。そこで、霧島さんは固まっていたことに気が付いたらしい。

 

「あらやだ、私ったら。いただきますね」

 

 そう言って霧島さんはフレンチトーストをそっとフォークで押さえて、ナイフを入れた。ナイフに押されたフレンチトーストの表面が、羽毛布団の様に沈んでいくと彼女は思わずと言った感じで声を上げた。

 

「なにこれ、ふわっふわじゃないですか!あ、でも周りの皮の所はパリっとしてるんですね…………あぁ、食感も素晴らしい……噛む度に甘味とバターとバニラの香りが口の中に広がって……」

 

 続いてはアイスとトーストを一緒に口の中に入れて、驚きの表情を浮かべた。

 

「うわ、あったかいのと冷たいのが口の中で……って、私何言ってるんでしょう」

 

 初めての感覚に笑顔を深める霧島さん。そこで思い出したようにコーヒーカップを手に取って口元に運び、目を瞑って大きく鼻で息をして香りを楽しむ。そしてゆっくりカップを傾けて一口飲んで、上がったテンションを落ち着けるように「ふぅー」と息を吐く。

 

「あぁ、さっきまでの甘さがスッキリしますね。それにこの苦みがまた甘さを引き立てるというか、恋しくなるというか……お姉様が入れてくださる紅茶もいいですが、コーヒーもたまにはいいものですね」

 

 よし、これでコーヒー党が一人増えたかな?こういうバニラ風味にコーヒーの苦みはベストマッチだと思う……それにしても霧島さんコーヒーが似合うな。やり手秘書って感じだ。

 

 そうして交互にフレンチトーストとコーヒーを楽しむ霧島さん。鳳翔もフレンチトーストの作り方はばっちりだね。次はコーヒーの淹れ方かな。

 

「ところで、鳳翔さん。例のお話は店長さんにはもう?」

 

 食べ終わったところで霧島さんがそんなことを鳳翔さんに聞いた。例の話?なんのことだろう。

 

「あ、いえ。明日金剛さんが誰かお連れになるということはお話しましたが、それ以上は私も聞いてませんので」

 

 あぁ、なんか会わせたい人がいるから、明日金剛さんが連れて来るってのは聞いたけど、それのことか。それがどうかしたのだろうか。

 

「それでしたら、大丈夫です。まぁ、秘密にする必要もないのですが、特別それ以上の情報があるわけでもないですし……そう言う訳で、明日お姉さまが二人の艦娘を連れてまいりますので、よろしくお願いしますね」

 

「えぇ、それは構わないですけど。何か特別な方なんですか?」

 

 そう霧島さんに質問すると、少し考えた後答えてくれた。

 

「そうですね、特別と言えば特別なのですが……いつも通りでよろしいかと。ただ、もしかしたら写真を撮られたりするかと思いますが、大丈夫ですか?」

 

 え?写真?まぁ、構わないけど……うちの写真なんて取ってどうするの?

 

「他のお客様に迷惑がかからなければ構いませんが……」

 

「そうですか、それはよかった。お店にも、他の方にもご迷惑が掛からないように、くれぐれも言っておきますので……では、私はそろそろ鎮守府の方に戻りますね」

 

 そう言って、霧島さんはお会計を済ませて店を出ていった。もうちょっと詳しい話聞きたかったけど、鳳翔知ってる?

 

「いえ、私も昨日の夜電話で聞いて、先ほどの話以上のことは聞いてませんでしたので。昨日今日はこちらのお店でしたから……すみません」

 

 そうだよね、ずっとうちに居たもんね……とりあえず重要なことであればきちんと話してくれるだろうし、金剛さんのサプライズ的なやつだろうな。なら、そんなに心配することも無いだろう。

 

 この件はこれ以上考えてもしょうがないし、店も暇なうちに鳳翔にコーヒーと紅茶の入れ方でも指南しておこう。まずはコーヒーからね。

 

「はい、よろしくお願いします。店長さん!」

 




霧島さんはコーヒーが似合うと思います


そして彼女が去り際に言った言葉……
皆さんは誰のことかもうお気づきかと思いますが
秀人にはサッパリわかりません……ダレノコトデショウカ……



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