鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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昨日の投稿でほんのり匂わせたように
今回はあの子達が登場です。


三十四皿目:初めての取材1

「ハーイ、ヒデトサーン!おっじゃましマース!さぁ二人も入ってくださいネー」

 

 午前中の営業が終わって少したったころ、昨日霧島さんが帰り際に言い残していった二人の艦娘が金剛さんに連れられてやってきた。この時間なら他のお客さんにも迷惑にならないだろうということで提案があったのでそれを了承した形だ。

 

 どんな話があるかはわからないけど、多少延びたところで夜まではそれほど忙しいわけじゃないし、何とかなる。

 

 元気に挨拶をしながらドアを開けた金剛さんの後ろから入ってきたのは胸元にノートを抱えた菫色の髪をしたセーラー服の女の子とカメラを首から下げた同じような格好をした女の子の二人だ。似たような服装を見るに姉妹艦だろうか。

 

「いらっしゃい、『喫茶鎮守府』へようこそ。俺が店長の田所です、店長でもマスターでも好きに呼んでくれて良いですよ」

 

「き、恐縮です、青葉です。よろしくお願いします」

 

「私は衣笠、青葉共々よろしくね」

 

 自己紹介をしたその流れで開いているテーブル席に案内すると、俺にもちょっと話があるということで鳳翔にお茶の準備を頼んで、俺も彼女たちと一緒に腰を下ろす。そこで隣に座った金剛さんに、さっそく話を聞くことにする。

 

「それで、お話と言うのは何でしょうか金剛さん」

 

「ハイ、実はこのお店を取材させていただきたいのデス。実は彼女たちは海自本部所属の艦娘で、先日新しく……と、ここは本人たちの方が詳しいデスネ。青葉、お願いしマース」

 

 そう言って、金剛さんは青葉さんを促すが、青葉さんはこういうのに慣れていないのかちょっと緊張気味だ。とりあえず、本人たちの口から聞きたいな。という訳で、頑張れ青葉さん。

 

「えっと、青葉たちは今度一般向けに発売される新しい海自広報誌の編集スタッフとしてこの島に来ました……本来広報部には自衛官の方しかいらっしゃらなかったんですけど、この雑誌を作るにあたって艦娘にもスタッフの募集がありまして、妹のガッサ……じゃなかった、衣笠と一緒に参加することにしたんです。以前から文章を書くことにも興味ありましたし、青葉にも何かできないかなって……あっ、私が執筆担当で、衣笠がカメラマンって分担で。」

 

 へぇ、これも『人と艦娘との……』って奴か。そういや、いっちゃん最初のさくらの説明で、いずれ何かの形で情報発信をしていくって言ってたような……それにしても、その広報誌ってどんな作りにするのかね?ちょっと気になる。

 

「はい、その雑誌のページ数はそれほど多くなくて、フリーペーパーという形で配布予定です。艦娘たちの日常を中心に紹介していく予定です。もちろん深海棲艦との戦闘に関しても多少は取り扱う予定ですが、私達が知ってもらいたいのは『艦娘』がどういう事が好きで、どういう風に暮らしているかですから……それで、その雑誌の創刊号特別編としてこの島を取り扱うことになったんです。で、その中の特集記事の一つとしてこのお店を取り上げたいな……と。どうでしょうか?」

 

 ちょっと自信なさげに、上目遣いでそう聞いてくる青葉さん。記者としての初仕事らしいし、緊張してるんだろうな。とは言え、任せても大丈夫だからこうして二人で来てるんだろうし、そうでなければちゃんとした広報の人が付いてくるよね?

 

 それに、ちょっと尻すぼみにはなってしまったが、説明してる途中はじっとこっちに熱のこもった視線を向けて、たどたどしくも熱の入った説明をしてくれていた。よほどこの雑誌作りに気合が入ってるのだろう、そんな熱い気持ちをぶつけられたらこちらも答えないわけにはいかないよね。

 

「もちろん、俺で協力できることはするつもりだ。できる限りのことはさせてもらおう……ところで、その雑誌の名前とかって決まってるの?艦娘通信とか?」

 

「ありがとうございます!……名前は、その……決まってはいるのですが……」

 

 彼女の言葉に右手を差し出し快諾すると、彼女は両手でしっかりとこちらの手を握って嬉しそうにぶんぶんと振ってお礼を言ってくれた。ところが、そこで俺が雑誌の名前を聞いてみると急に口ごもって、もじもじしてしまう。どうしたのかと首をかしげると、それまで説明を青葉さんに任せていた衣笠さんが教えてくれた。

 

「ごめんなさいね、店長さん。実は雑誌の名前が青葉の出したやつに決まったもんだから、この子恥ずかしいんですよ……ずっとこういう記者に憧れていたのに変なところで恥ずかしがり屋なんだから」

 

 そして、恥ずかしがってる青葉さんに向かって「私が言うけどいいよね。うん」と了解を取り付けると、言葉をつづけた。

 

「雑誌の名前は『Bridge』と言います」

 

「ほう、その心は?」

 

「二つ理由があるんですけど、艦娘と人とを繋ぐ『懸け橋』にしたいというのが一つ。それともう一つは『艦橋』とかけて、私たちが作るこの艦橋から見える航路が、両者の関係を正しく進んでいけるようにってことらしいですよ。青葉曰くね」

 

 なるほど、いい言葉じゃないか。そんなに恥じることは無いと思うんだけど……似たようなことをいろんな人に言われて、余計に恥ずかしくなっちゃったのかな。

 

「ワタシもいい言葉だと思いマース。『Bridge』……ステキデス……」

 

 金剛さんがその響きをかみしめるように繰り返していたところで、青葉さんが「わー!わーっ!」と手を振ってその雰囲気をかき消した。

 

「そ、そろそろ、お話を聞きたいのですが、よろしいですか!?」

 

「あー、ちょっと待った。君らは昼飯食べてきたのかな?もしまだなら、せっかく喫茶店に来たんだし、何か食べてからにしないかい?」

 

「それがいいデース!二人とも、ヒデトサンの料理を食べずして、このお店は語れません!さぁ、何かRequestはありませんか?」

 

 そんな金剛さんの言葉に二人は一瞬顔を見合わせると、クスりと笑って注文をしてきた。

 

「それでは、伊太利亜コロッケ……はご存知ないですよね……そうだ!金剛さんが『初めて食べたメニュー』を二人分お願いします。後でその時のお話も聞かせていただけると嬉しいです!」

 

「かしこまりました。金剛さんはどうする?」

 

「ンー、そうですネ……私はタンポポでお願いしマース!」

 

 青葉さんの言っていた『イタリアコロッケ』というのは残念ながらわからないな。後で聞いてみて、作れそうだったら今度作ってみようかな。

 

 で、二人の注文は金剛さんが食べた料理を二人分って事だったけど、あの時は霧島さんとシェアしてたから両方とも作っていけばいいかな。そして金剛さんのタンポポオムライスは彼女のお気に入りの一つで、初めてオムライスを食べてしばらくした時に、こういうのもあるよと作ってあげてから、その可愛さとふわふわ食感で大好きになったらしい。

 

 さて、さっそく鳳翔と手分けしながら調理を進めていく。鳳翔が切ってくれた具材を手早く炒め、ご飯を入れたらケチャップをかけてチキンライスを作っていく。と、これは一旦ボウルに入れておいて……お次はナポリタンだ。これももはや手慣れたものなので、軽く作っていく。

 

 続いて一つ目のオムライスを卵で巻いていく。こっちは普通のオムライスだ。そして、次が金剛さんご注文のタンポポオムライス。これは金剛さんの希望で、目の前でナイフを入れて卵を広げるということになっている。

 

 そのためのオムレツを焼いていると、さっきまで隣でじーっとフライパンの中を凝視していた鳳翔がため息をついた。

 

「はぁ、どうやったら店長さんみたいにきれいにできるのでしょうか……」

 

「気持ちはわかるよ、俺も修行始めたばかりの頃はそこの店長とか先輩のやってるのを見ながら同じように思ったもんさ」

 

 そう言いながらお皿に盛ったチキンライスの上にオムレツをそっと乗せる。鳳翔は一緒に出すスープをよそいながら、言葉を返してきた。

 

「では、どうやってそこまでの腕に?やはり練習あるのみでしょうか」

 

「そうだねー、毎日ひたすら焼いてたかな……後は丸めたタオルとか、塩を入れたビニール袋で練習したかな……さぁ、三人が待ってるから持って行こう」

 

 二人でホールへと完成した料理を運んでいく。すると三人は軽く手を叩いて待ってましたと迎えてくれた。

 




感想で予想してくださった方もいらっしゃいましたが
青葉とその相棒衣笠の登場です

いろんな作品で大活躍の青葉ですが
ここではまだまだペーペーです。
これから彼女はどんな記者になっていくのでしょうか

とりあえず次回は取材前の腹ごしらえです

お読みいただきありがとうございました

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