「お待たせ、こっちがオムライスとナポリタン。こっちが金剛さんのタンポポオムライスだ」
お皿を置きながら料理の説明をした後はいよいよ金剛さんのお待ちかね、卵に入刀だ。
切っ先を卵に刺したナイフを、スッと滑らせればほとんど抵抗を感じることも無く切れ目が入る。その切れ目から左右に軽く開いてやるだけで、トロりと流れ出した半熟の卵がチキンライスを覆っていく……
「いつ見てもExcellentデース」
「ガッサ!今の撮った?」
「ごめん青葉、見とれちゃって……」
これくらいのよくあるパフォーマンスでそんな風に悔しがることは無いと思うけど……いや、そう言ってくれるのは嬉しいけどさ。
シャッターチャンスを逃してちょっとうなだれていた二人だったが、すぐに立ち直って食事を開始する。
まずは青葉さんがスプーンでオムライスを半分に分ける。その割れ目をちょっと広げてやると、そこから美味しそうなオレンジ色に色づいたチキンライスがほろりと崩れてきた。その瞬間をカメラに収めようとシャッターを切る衣笠さんだったが、その二人を横目に金剛さんはタンポポオムライスを嬉しそうに頬張る。
「二人とも、お仕事も大切デスガ、早くしないと冷めてしまいますよ?それはお料理にもヒデトサンにも失礼デース」
「あっ!すみません!いただきます!」
金剛さんの言う通りあったかいうちに食べて欲しいってのいうは確かなんだけど、それも彼女たちの仕事だってこともわかってるからそんなに気にしちゃいないよ。それに何十分も放っておいて写真にかまけるって訳でもないだろうし……
「ヒデトサンがそう言うなら良いですケド……それにしても、このフワフワ感は癖になるデース。トロトロの所もチキンライスと絡まって、一味も二味も美味しくなりマース!」
その言葉を聞いて、衣笠さんもカメラからフォークに持ち替えてナポリタンを取り分ける。二人で半分ずつ分け合った後、まずオムライスに手を付けたのは青葉さんだった。
「あぁー、幸せですー。お米の一粒一粒、具の一かけらまでしっかりと味が付いていて……それを卵がしっとり優しく包み込んでいるんです。これはどうやって表現するのがいいでしょうか」
ちょっと行儀は良くないかもしれないが、スプーンを咥えたまま「んー」と幸せそうな声を上げる青葉さん。そして、その隣では衣笠さんがパスタをフォークに巻き付けて口に運んでいた。
「うわ、これは金剛さんの言う通り写真なんて撮ってる場合じゃないわ。あったかいうちに食べないともったいない……いえ、申し訳ないわね」
そうそう、料理はあったかいうちにね。お互いの感想を聞いた二人は似たようなタイミングで「どれどれ」なんて言いながら、もう一つの料理に手を伸ばす。
「あー、これも素晴らしいですね。野菜はシャキシャキした食感が残っていながら、しっかり火が通っていて甘味が出ていますし、その甘味とケチャップの酸味、旨味が一緒になってパスタに絡んで……炒めたことでついたちょっとした焦げ目の香ばしさもたまりません!」
さすが記者志望というかなんというか、味の表現が細かいな。ちょっとストレートすぎる気もするけど、わかりやすくていいと思う。対する衣笠さんは……
「美味しい!それに傷や焦げ目なくきれいに焼かれた卵の黄色に、バターとケチャップでキラキラ輝くライスのオレンジ。色味もいいわね」
彼女はカメラマンらしく見た目も楽しんでいるようだ。そして、そこから二人は黙々と食べ進める。時折何かを考えているようなのは、記事の内容でも思い浮かべているのだろうか?そんな二人と一緒に、金剛さんも美味しそうに残りのオムライスを口に運ぶ……この人もいつも美味しそうに食べてくれるから、作り甲斐があるよね。
さて、そんなこんなで食事を終えて、食休みに金剛さんの『いつもの』お茶を楽んだところで青葉さんと衣笠さんが表情を変える。
「それでは、そろそろお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?午後の営業もありますし、まずはご主人から。その後鳳翔さんと金剛さんにもゆっくりとお話を伺いたいです!」
「えっ?私もですか?」
横で聞いていた鳳翔が驚きの声を上げる。初耳だったのね。
「はい、噂のお店で働く艦娘の声もお届けしたいですから。後で川内さんにもお話を聞く予定です。昨日こちらについた時にお話ししたら『私が一番弟子なんだからね!』とおっしゃっていたので」
「まぁ、どうしましょう……」と頬に手を当てている鳳翔は置いておくとして、川内……そんなこと言ってるのか。しかも一番って、ほかにもいるのか?弟子をとった覚えはないんだが、まあ実際一番いろいろ教えたのはあの子だし、そう言うことにしておこうか。
「うぅー、ヒデトサンの料理をこの島で一番初めに食べたのはワタシデース!」
その張り合い方はどうなの?金剛さん……と、ひと笑いあって場が和んだところで、初めての取材が始まった。
「じゃぁ、はじめさせていただきます。ガッサ、写真よろしくね」
「はーい、衣笠さんにお任せっ!」
俺も、青葉さん達も初めての取材だったけど、割とスムーズに進んでいった。やはり、先に料理を食べたことで、お互いの距離が縮まったのだろうか。
それに彼女の熱意に感化されて、こっちもついつい熱く語ってしまった所もあった。料理人を目指したきっかけやこの島に来た経緯。艦娘に対する想いや、関わり合いで感じたことなど質問は多岐にわたり気づけば午後の開店の時間を迎えてしまっていた。
「あーっと、すまないんだがそろそろ開店の時間なんだ」
「すみません。つい夢中になってしまって……もっとお話を聞きたいところですが残念です」
「まぁ、この後はゆっくりお茶でも飲みながら金剛さん達の話を聞いてもらえれば。あ、もしこの島の人に話を聞きたいってんなら、顔見知りのお客さんが来たら紹介するよ」
この島の人たちなら喜んで協力してくれるだろう。特にうちに来る客っていったら艦娘目当てに来る連中も多いしな。正直それはそれでどうなんだと思わなくもないが……今まで手伝いに来てた子達も嫌がらずに応対してたし、悪いことではないんだろうけどね。
「ほんとですか!?恐縮です」
青葉さんと衣笠さんが手を合わせて喜んでくれたところで、俺は席を立ってカウンターへと入る。午後の開店前に紅茶のお替りを入れておこう。
お湯を沸かしながらティーセットを準備していると、衣笠さんがやってきた。
「お茶を入れるところを撮らせてもらって良いですか?」
首から下げたカメラを軽く持ち上げながらそう言ってきたので「もちろん」と頷くと、彼女はさっそくファインダーをのぞき始めた。すると、ファインダーを覗いたままぽつぽつと話し始める。
「青葉がちょっと熱くなってたみたいで、なんだかごめんなさい」
「いや、こっちこそいろいろ語っちゃって……なんか恥ずかしいな」
「そんなことないわ。艦娘とのこととか聞いてて嬉しくなったし……まぁ、だからこそ青葉もテンション上がっちゃったのかな。でもいい記事になりそう」
そこでふと青葉さんの方を見れば、さっそくメモをまとめ始めているようで、真剣な表情で何やら呟きながら書き込んでいる。
「それは良かった、雑誌ができるの楽しみにしてるよ。それより、しばらくこの島で取材を続けるんだろ?今度は別の時間に来ると良い。ここでしか見られない艦娘の顔っていうのもあるだろうしね」
「ええ、そのつもりよ。その時はまた美味しい料理よろしくお願いしますね!」
軽くカメラを外して笑顔でそう言った後、またファインダーを覗く衣笠さん。
その後お茶が入るまでしばらくの間、シャッターを切る音とメモを書き込む音が響いていた。
青葉や衣笠にとっても、秀人にとっても、新しい雑誌にとっても
初めての取材というお話でした
さて、明日は節分ですね。ネタにする料理は決まっていますが……
おや?何人かの艦娘がアップを始めたようですね
お読みいただきありがとうございました