「ここはやはり鶏にするべきか……いや、それとも豚か……」
「ねぇ、日向まだなのー?もう同じのでいいでしょー?」
目の前のカウンター席に座って、喧々諤々とやっているこの二人。先日航空戦艦に改装されたという伊勢さんと、日向さんのお二人だ。
彼女たちは最近鎮守府に着任したのだけれど、かなり早い段階で改装が可能と言うことで集中的に出撃任務を行い練度向上に努めたそうだ。とりあえず、改装可能と判断された後うちで集中出撃打ち上げ会をやって、思わずはっちゃける程に疲れたらしい。
その打ち上げの時に、ハイテンションの日向さんから瑞雲がどうとか、航空火力艦の時代だとか色々教えてもらったのだけれど、ごめん……ちょっとよくわかんなかったかも。嬉しいってのはよーくわかったけどね。
そして二人が、というか日向さんが悩んでいるのが今日のランチをAランチにするかBランチにするかだった。彼女たちがこの店に来たのはまだ何回かしかないけれど、そう言えばいつも日向さんは悩んでる気がする。話しぶりを聞いていると、優柔不断って訳でもないと思うんだけどね。
すると伊勢さんがポンと手を打った。何かを思いついたようだ。
「そうだ、両方頼みましょうよ。だいたい私もあなたも普通の一人前じゃ足りないんだから、AとBを二人前ずつ。これでどう?」
「なるほど、それは名案だ。ではご主人、そのように頼む」
「はい、かしこまりました。では少々お待ちください」
無事二人の注文が決まってよかった。それにしても、これからはA+Bランチというのも作ろうかな。とりあえずまずはAランチから作ろう。今日のAランチはチキンソテーのオニオンソースだ。
まずは塩・コショウを振った鶏モモの正肉をフライパンで皮目から焼いていく。皮に焦げ目をつけつつパリッと仕上げたら、ひっくりかえして焼いていく。焼きあがったらお皿に移して、フライパンに残った鶏の旨味たっぷりの脂を使ってソースを作ろう。
フライパンに、すりおろした玉ねぎ・醤油・酒・みりんを加えて軽く煮詰めたら、お皿の上の鶏肉にかけて、付け合わせにソテーしたほうれん草と櫛切りのフライドポテトを添えて出来上がり。
お次はBランチ、ポークチャップだ。こちらはまず筋切りをした厚切りの豚ロースに、塩・コショウを振って小麦粉をまぶしておく。それをフライパンで焼き、両面に焼き色を付けるのだがこの時はまだ中までしっかり火を通す必要はないので、焼き色が付いたら一旦取り出しておく。
フライパンに残っている脂をふき取り、バターを溶かしたらスライスした玉ねぎとマッシュルームを炒めていく。ある程度火が通ったところで、塩・コショウ・ケチャップを入れてさらに炒めていく。
さて、次は……ケチャップの色が濃くなってきたら、出しておいた豚肉を戻してソースと絡め、赤ワインを少し入れる。そうしてフライパンの底からこそげるように混ぜたら、蓋をして弱火で数分煮たらオッケーだ。この時濃くなりすぎていたら、ちょっと水を足してやってもいい。
付け合わせとしてキャベツの千切りと、茹でてオイルをまぶしただけのパスタを用意した皿に肉を乗せる。フライパンに残ったソースにバターを一欠け落として、混ぜてから皿の上の豚肉にかければ完成。
「はい、お待たせ。AランチのチキンソテーとBランチのポークチャップです。それぞれ二人前ずつまとめて盛ってあるけど、食べやすい大きさに切ってあるんでお箸でどうぞ」
「おいしそー!どうよ、ひゅうがー、やっぱり両方にして良かったっしょー?」
「……まぁ、そうなるな」
伊勢さんはどや顔で、日向さんは無表情なんだけどちょっと悔しそうな顔で、二人そろって手を合わせる。
「わ!おいしっ!じゅんわり肉汁とさっぱり玉ねぎソースが合うねー」
「ふむ、これは良いな。このケチャップのついたキャベツがまたなんとも……」
そうそう、豚肉も良いけどこの付け合わせのキャベツとパスタにケチャップソースを絡めて食べるのがまた美味しいんだよね。
その後しばらく話をしながら食べていた二人だったが、だんだん口数が少なくなり食べるペースも上がってくる。そして途中でご飯のお替りも挟みつつ、二人で競う様に食べていった。そしてあっという間に食事を終えて……
「んくっ……んっ……っぷぁー!美味しかった!」
「うむ……満足満足。ごちそうさまだ、ご主人」
「ありがとうございます。お皿、下げちゃいますね」
まるで風呂上がりのビールの様にお冷を飲み干す伊勢さんと、満足そうな表情で静かにお礼を言ってくる日向さん。この姉妹もなかなか対照的だよね。
すると食休みのまったりとした空気の中で、伊勢さんが話を振った。
「そういや日向最近天龍に剣術習ってるんだって?」
「あぁ、例の祭りの時の動画があっただろう?あれを見て私もできないかと思ってな」
「ふーん、確かにあれは凄かったけど……」
「伊勢もどうだ?お前も刀持っているだろう?精神鍛錬にもいいぞ」
へー、この二人も刀持ってるんだ。確かにあの時の天龍さんかっこよかったもんな、飛んでくる砲弾をこう、居合でスパッと。
「あたしはいいわ、どっちかって言うと霧島に砲撃を教わりたいし」
日向さんはその返事に「そうか」と一言返すと、お茶を一口飲んでからぽつりと言った。
「時に伊勢よ、瑞雲の調子はどうだ?」
「え?」
全く予想していなかったセリフなのだろう、伊勢さんがポカンとした顔で日向さんを見つめる。
「昨日出撃しただろう?出撃した後はきちんとメンテナンスしなければいけないぞ、それに日頃から良く磨いておいてやらんとな。そうだ、帰ったら伊勢の瑞雲も磨いてやろうか?」
「い、いや、大丈夫。ちゃんと妖精さんと相談しながらやるから」
あー最近彼女たちの話を聞いていてわかったんだけど、日向さんって彼女たちが使ってる瑞雲って飛行機のことになると、どうやらスイッチが入るっぽいんだよね……クールそうに見えて、実は天然とか?いや、真面目をこじらせた感じかな?
こないだ来た時には『瑞雲部』を鎮守府で作りたいとか言ってたっけ。活動内容が効率的な運用方法の研究と集中的な訓練を行う事って言ってたから、なんだかまともな感じがしたけど……伊勢さんに即却下されてたな。
なんだかいつも明るい伊勢さんが無表情になっているように見える。あー、今度は運用方法について語っているようだ。今日も長くなりそうだ、お茶のお替り置いておこうかね……
今回は四航戦のお二人でした。
日向は他の作品でも同じような扱いかもしれないですが
「特別な瑞雲をプレゼント」とか言い出したあたりで
自分の中の日向像が固定されました。
「瑞雲はいいぞ」
お読みいただきありがとうございました