昨日までで鳳翔のお手伝い期間が終わって、明日から新しい子が来るって話だったんだけど、今日俺が休みで一日暇してるって話をしたら遊びに来たいというのでオッケーした。どうせだから一緒にお昼ごはんで手の込んだものでも作ろうかな。
何か参考になるものは無いかと、カウンター席に座って愛用のレシピノートを眺めていたら、カランカランとドアベルが鳴った。
「こんにちはマスター!今日はお休みなのにありがとう!」
「マスターさん、こんにちはなのです」
元気な声と一緒に、雷ちゃんと電ちゃんがやってきた。明日から働くことになってるのは雷ちゃんだけだったけど、電ちゃんも一緒に遊びに来たみたいだ。
基本的にお手伝いは、新着艦の中から希望者を募って抽選でって話だったんだけど、今回は『大型艦強化週間』とやらを始めるらしく、空き時間が増える駆逐艦の中で、着任時期を問わず希望者を募ったそうだ。そして見事抽選に当たったのが雷ちゃんという事らしい。
昨日の晩にそんな電話が雷ちゃん本人からかかってきた。かなりのハイテンションで……まぁ、それだけ嬉しかったって事なんだろうね、明日まで待てないくらいに……そう思ってくれてたらいいな。
「いらっしゃい、よく来たね。とりあえずお茶でも飲んでゆっくりしてよ」
「あ、じゃぁマスターお手伝いは明日からだけど、せっかくだからお茶の淹れ方教えてもらえないかしら?それと、わたしのことは雷って呼び捨てにしてほしいわ。明日からはマスターの弟子になるんだもの!」
だから弟子って訳じゃないんだけど……まぁ彼女たちがそう言う認識ならそれでもいいか。
それに、昨日からすでにやる気いっぱいみたいだしね。今日ならゆっくり教えられるからこちらとしても願ったりだ。「こっちにおいで」とカウンターの中に雷を招くと、それを見て電ちゃんがおずおずと手を挙げた。
「あの、マスターさん、電も……その……呼び捨てでお願いしたいのです……」
「了解、じゃぁ電も改めてよろしくね」
「はい!なのです!」
さて、電から素敵な笑顔をもらったところで、雷に紅茶の淹れ方を教えていこう。
いつものようにお湯を沸かして、ティーカップとポットを温めて茶葉を用意する。何回か俺が淹れるところを見てるだろうから、作業そのものは雷に任せて俺は後ろから手順を説明していく。まぁ、やり方自体は簡単だし落ち着いてやれば問題ないだろう。後は回数をこなしていけば慣れて動きもスムーズになる。
「後はこのまま砂が落ちるまで蒸らして、ストレーナーを通してカップに注げばオッケー」
「わかったわ!それにしても、このお茶っ葉が跳ねるのはいつ見ても楽しいわね」
こうして大きくジャンピングさせるのも美味しいお茶を入れるコツだからね。お湯を注ぐときは勢いよく注ごう。そのまましばらく待って茶葉もだんだん落ち着いてきて、砂時計の砂も落ち切った。
「じゃあ、注いでいこうか。ストレーナーをカップにセットして、濃さが一定になるようにバランスよくね……そう。それで最後の一滴までしっかりと。この最後の一滴を『ベスト・ドロップ』とか『ゴールデン・ドロップ』って言うんだけど、これが一番重要で、この一滴は一番目上の人とかメインゲストに入れてあげてね」
「へぇ、そうなんだ……じゃあこれはマスターに!」
「ふふっ、ありがとう」
雷からカップを受け取って口に運ぶ。後ろで見ててきちんとできていたから美味しいのは分かってるんだけど、実際口にすると……うん、美味しい。きちんと香りも出てるし、これなら合格かな。
「雷ちゃん、おいしいです。おうちでも淹れて欲しいのです!」
「うん、ばっちり。何回か俺が見ながら入れてみて、大丈夫そうだったら紅茶は任せようかな」
「ほんと?良かった……わたし、がんばるわ!」
それから、お茶を飲みながら世間話に興じる。そして、実はお茶請けにと思って作っておいたお菓子がある。
「はい、お茶と一緒にどうぞ」
「わー、すごーい!これってもしかしてエクレア?」
「ちっちゃくてかわいいのですー」
そう、一口サイズのエクレアだ。かなり久しぶりに作ったので、レシピを一から確認しながらの作業だった。正直うまく生地が焼けるか心配だったけれど、なんとかなって良かった。もうちょっとこっち系のお菓子も練習しなきゃダメかな……
「んー!あまーい!おいしい!」
「はわぁ、おいしいのです」
ま、二人も喜んでくれてるみたいで作った甲斐があったよ。二人が美味しそうに頬張っているところで、ちょっと豆知識を披露してみる。
「二人とも、実はこのエクレアって『かみなり』とか『稲妻』って意味があるんだ。理由は諸説あるけど、二人と同じだね」
「そうね……なんだか変な感じだわ、でも私たちもこのお菓子みたいに、みんなから好かれるようになりたいわね」
「さすが雷ちゃん。電も頑張るのです。」
二人ともすでに十分みんなから愛されてると思うんだけどな……でも、なんだか燃えてるみたいだし、頑張れ。っと、そうだ、こないだのあの話聞いてみようか。
「そういえば、こないだの鍋の時にちらっと聞いたんだけど、みんなで野菜育ててるんだって?」
「えっ?ええ、私達駆逐艦全員で交代しながら育ててるんだけど、主に暁と時雨が指揮を執ってやってるわ。今育ててるのは小松菜、冬でも育てられて初心者にもおすすめだって農家のおじいさまに教えてもらったの」
「そうなのです、そろそろ収穫できるみたいなので、暁ちゃんが『マスターさんに色々作ってもらうわ、』って張り切ってたのです」
なるほど小松菜か。ほうれん草ほどクセもないし、いろんな料理に使えるな。というか暁ちゃんって野菜苦手だと思ってたんだけど、やっぱり自分で作ると違うのかねぇ。なんにせよ良いことだ。
「そう言えば、そろそろじゃがいもを植える予定なの。気候的に九州と同じ春作?ができるからって」
あー、確か長崎とか鹿児島の辺りじゃ今くらいに作付けして六月前後に収穫するところもあるんだっけか。ちょっと小さめの新じゃがを蒸かして丸ごとパクっといったらうまいだろうな……バター醤油も捨てがたいけど、塩だけでも十分美味しいよね。
「じゃがいもかー、いろんな料理に使えるから楽しみだね」
「そうね、いっぱい収穫できたらじゃがいもパーティーしたいわ」
「あっ、電はこの前浦風ちゃんに聞いた、いもフライが食べてみたいのです!あとポテト入り焼きそばも美味しそうだったのです!」
「ほんとよね、あの子達おいしそうに話すんだもの。聞いてるだけで食べたくなっちゃったわ」
あの時のやつか。大した手間でもないので、お昼ごはんに作ろうかと提案してみたけれど断られた。せっかくだからその時を楽しみにしておくそうだ。すると雷が「そうだ!」と思い出したように話し出す。
「さっきの名前のことなんだけど……」
呼び捨てとかちゃん呼びとかのことかな?
「……この間駆逐艦の皆で話してた時に、他の皆もマスターに呼び捨てで呼んで欲しいって言ってたわ」
「そりゃまぁ、構わないんだけど……またどうして?」
手伝いに来てくれた子達は別としても、いきなり呼び捨てっていうのもどうかと思ったんだけど……
「あの……ね。このお店に手伝いに入った子達は呼び捨てにしてるでしょ?わたしもそうだったんだけど、それが……ちょっと……羨ましくって……」
最後の方は照れて俯きながらの発言だったけれど、そっか、そんな風に思ってたのね。じゃぁ今度から駆逐艦の子達は呼び捨てで呼ぶ事にしようか。いきなりそう呼ばれても怒らないでねって言っておいてもらおう。
「大丈夫なのです!みんな大喜びなのです!」
それなら良かった。と、そんな会話をしていると時間の方も大分経って、そろそろお昼ごはんにちょうどいい頃合いだ。
「そろそろいい時間だから、お昼ごはんにしよう。せっかくだから雷も一緒に作ろうか」
とは言え、電を一人でカウンターに残すのも忍びないので三人で一緒に厨房へと入っていく。さーて、何を作ろうか……二人は何が食べたいのかな?
三越コラボで二人の書下ろし来ましたね。かわいい……
そして鳳翔さんの牛刀カッコイイ……
次回は二人でお料理回です。さて、何を作るのでしょうか
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