「さてと、それじゃあ何を作ろうか……って何か気になるものでもあったかい?」
厨房内に入り、きょろきょろ周りを見回す二人に声をかける。この間の鍋の時も入ったと思うけど、結構な人数で作業していたからゆっくり見てる余裕も無かったからね。するとさっそく雷が一つの機械を指さして聞いてきた。
「マスター、これはこの前使わなかったけど何かしら?」
「ああ、それは業務用のミキサーだよ。それを使ってパンやケーキの生地を混ぜるんだ」
「はわわ、これであのおいしいパンができるのですか!すごいのです」
えと、お二人さんそろそろお昼にしないと、遅くなっちゃうけど……なんて感じで二人に言うと、二人が何やら相談し始めた。小声で話してはいるが時々「あったかいの」「お肉?」「洋風で……」「暁ちゃんが」とか聞こえてくる。暁が……って野菜か、野菜なのか?
「マスター、決まったわ!ドリアはどうかしら?できればハンバーグの乗ったやつ!」
「マスターさんに教えてもらって、おうちでも作りたいのです」
「オッケーわかった。じゃあ電にも少し手伝ってもらおうかな」
そう言って二人に指示を出していく。雷には野菜の下ごしらえをお願いしておいて、電にはハンバーグのタネを作ってもらおうかな。炒め玉ねぎのストックがあったので、それをさらに炒めて甘さをより引き出したものをバットに広げて冷ました後で、合い挽き肉・卵・牛乳を含ませたパン粉・ナツメグと混ぜていく。
「粘り気が出るまでしっかり混ぜてね」
「わかったのです!」
「マスター、切れたわよ。次はどうするの?」
「よし、じゃあまずは上にかけるホワイトソースを作ろうか。材料はここに出してあるから、コンロの前に立って」
と、雷を鍋の前に立たせて、いつも作っている基本のホワイトソースの作り方を説明していく。ちょっと電の様子を見たけれど、あっちはもうちょっとかな。
「そうそう、上手い上手い。ダマにならないように手早くしっかりとね。基本的にはこの作り方で、レシピによって調整する感じかな。ドリアやグラタンはこのままで、シチューやソースに使う時は牛乳の量を増やしてちょうどいいとろみにってね」
「へー、なるほど。思ったよりも簡単で良かったわ。これならおうちでも作れそうね」
雷は普段からも料理してるって言ってたからね、これくらいならお手のものだろう。どうやら電の方もいい具合なようなので、パパっと三つ成型して焼くことにする。ここからは二人には横で見ていてもらうことにしよう。
フライパンで両面に焼き色を付けた後、蓋をして蒸し焼きにしていく。ハンバーグが焼きあがったら一旦取り出しておいて、フライパンの余分な脂をふき取ったら、スライスしたマッシュルームとアスパラを軽く炒め、ホワイトソースを加えてひと煮立ちさせて塩コショウで味を整える。
次はこれらをご飯の上に乗せてオーブンで焼くんだけど、今日はハンバーグドリアということでご飯はシンプルにバターライスにしよう。本当はコンソメで炊いたご飯にバターを混ぜるんだけど、今日はすでに炊いてあるご飯にコンソメ顆粒を振ってバターとドライパセリを入れて混ぜていく。
このバターライスを内側にバターを塗った耐熱容器に入れて、その上からホワイトソースとハンバーグを乗せ、さらにもう一度ハンバーグにホワイトソースをかけたら予熱しておいたオーブンで焼いていく。
「なんだか焼く前だけど、もうおいしそうだわ」
雷がそんな感想を漏らしてくるけど、確かにこの段階でも美味しいと思うよ。でも、これを焼くことで全体がまとまってさらに美味しくなるんだよね。
で、ドリアを焼いている間にサラダを作ってしまおう。こっちは簡単にレタス・トマト・キュウリの簡単なやつにしよう。そして、これにかけるドレッシングは簡単手作りドレッシング。オリーブオイルに塩・コショウ・醤油とこないだも使った橙の果汁を絞って混ぜる。橙の力強い酸味とほのかな甘みが美味しい、この島の家庭ではおなじみのドレッシングだ。
そうこうしているうちに、ドリアの方も焼きあがりそうだ。さて、ホールに行ってテーブルのセッティングをしようか。
「はーい、あ!そうだ!ちょっとまって……」
雷はそう言って、何か電に耳打ちしている。ん?なんだろう。
「うん……うん……わかったのです!」
話が終わったと思ったら、電が出て行ってしまった……あぁ!なるほどそういうことか。
「マスター、今から電がお客さん役で来るから、ちょっと接客の練習をさせて欲しいの。マスターは後ろで見てて、おかしなところがあったら教えてちょうだい」
やっぱりね。雷なら問題ないとは思うんだけど、練習しておくに越したことは無いから、ちょっとやってもらおうか。席に案内した時に出すおしぼりとお冷をいつもの位置にセッティングしたところで、店のドアが開いて電が入ってきた。
「いらっしゃいませー!おひとりさまですか?……こちらへどうぞ」
雷は接客のお手本のような笑顔で電を迎えると、テーブル席へと案内した。いつもはお一人様だとカウンターだけど、これから三人でご飯だからね。
電が席に着いたところで素早くおしぼりとお冷を取りに来て、待たせないうちに電の前に置きに行く。すでに注文が決まっている設定のようで、そのまま続きが始まる。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「はい、ハンバーグドリアをお願いします」
「かしこまりました、それでは少々お待ちください」
と、ここでとりあえず終わりのようで、二人が戻ってきた。
「こんな感じでどうかしら?」
「雷ちゃんばっちりなのです!」
「うん、今の調子なら大丈夫そうだね。明日も安心できそうだ」
といった所で、既に焼きあがっていたドリアとサラダをみんなで運んで、ちょっと遅めのお昼ごはんにすることにした。
「熱いから気を付けてね。それじゃあ、いただきます」
俺の後に続いて二人も「いただきます」と手を合わせる。
「あふ、あっふぃ……あっつー!でも、おいしいわ。ハンバーグから肉汁があふれて、ホワイトソースと混ざり合って……一味も二味も美味しくなるわ」
「ふわぁ、バターのお味のご飯とホワイトソースがすごくおいしいのです」
うん、美味い。俺はちょっとタバスコをかけて食べてるけど、流石に二人はかけないか。ピリッとした辛味が美味しいんだけどな。
「このドレッシングも美味しいわね。マスターのおうちでも昔からこれを作ってたの?」
「ああ、うちの母親はここにすりおろした玉ねぎを入れてたかな。後はたまにマヨネーズを入れたりね」
「あら、そっちもおいしそうだわ。今度作ってみようかしら」
うん、簡単だから作ってみてほしいな。特にマヨネーズを混ぜると酸味も和らぐし食べやすくなるからおすすめだ。
「そうだ、これってチーズを乗せたらどうなのかしらね?」
「卵もおいしそうなのです」
「そうだねー、どっちも間違いなくおいしいと思うよ」
……ただ、カロリーが半端ないことになりそうだけど、彼女たち艦娘はそう言うのには無縁みたいだからね。この間さくらも愚痴ってたし……「あんなに食べてるのにどういうことなの!?」って。
そんな感じで色々料理の事や、明日からの働き方の事なんかを話しながら食事を続けていった。
「明日から、このおいしい料理を楽しく食べてもらうために私も頑張らなきゃね」
「雷ちゃん、ファイトなのです!」
「まぁ、あんまり心配はしてないけど、よろしく頼むね」
すると、そんな電や俺の言葉に雷は、満面の笑みで答えてくれた。
「この雷様に任せて!だから、いーっぱい頼っていいんだからね!」
ハンバーグドリア、小さい子は好きそうですよね
いえ、彼女たちが小さいとかそう言う訳ではなくてですね……
お読みいただきありがとうございました