今日から手伝いに入った雷だけど、やる気もさることながら、普段から台所に立っているというだけあって、初日から下ごしらえなどでかなり助かっていた。
そんな彼女と一緒に今日の分の仕込みをしていると、市場から注文していた魚介類が届いた。今日は、ちょっと気になる魚が入荷するって昨日の情報に乗っていたから注文してたんだよね……っと、これこれ。
「マスター、それはなあに?」
「ふっふっふ、これはね……じゃーん!」
「じゃーん!って……なにこれ?」
「お、丸を見るのは初めてかい?これは真鱈だよ」
「へー、これが真鱈なんだー!」
そう、昨日の夜契約している仲卸から活〆の真鱈が入荷するって情報があったので、仕入れてみた。普段から鱈はフライや煮付けに使う用にフィーレを仕入れているんだけど、今日のこれは釣りあげてすぐに活〆にしてある丸のものだ。ただ、鮮度はいいけれどさすがにアニサキスが怖いので生では出せないな。昆布締めとかにしたいけど……やっぱ水揚げしてすぐにワタを抜かないと危ないよね。
という訳で、三枚におろしながら何を作ろうか考える。おぉ、鮮度がいいだけあって身がぶりぶりだ。これは何にしても美味しいだろうな。
「なぁ雷、鱈の料理と言えば何が思い浮かぶ?」
「そうね、お鍋かフライ……ムニエルとかかしら?」
うん、そんな感じだよね。どうすっかな……本数も限られてるし、数量限定のコースっぽくしてみようかな。夜の特別メニュー、活〆真鱈づくしみたいな感じで。
よし、そうしよう。とりあえず三枚におろすところまでやっておいて、アラと一緒に冷蔵庫にしまっておく。さて、これはこれでいいとして、じゃぁ雷のお手伝い初日の営業を開始しましょうか。
開店後の雷の様子はと言えば、昨日の練習の成果?なのか、笑顔で接客を行ってお客さんからの評判もなかなかのものだった。特におばさま方には一生懸命頑張っている姿が可愛いと大人気だった……と言うか、この店に来るおばさま方は誰が手伝っていてもそんなことを言ってる気がする。
お昼休憩の時はさすがに慣れないことをして疲れたのか、ぐでーっとなっていたけれど、午後の営業が始まるとそんなことはおくびにも出さず、笑顔で接客してくれていた。
そんな感じで夜になり、ちょっとのんびりした時間が流れていた時だった。天龍さんが一人の艦娘を連れてやってきた。
「おう、大将晩飯食いに来たぜー。雷はちゃんとやってっか?」
「ああ、彼女には色々と助けられてるよ」
「そうか、そりゃよかった。っとそうだ、こいつ木曾って言うんだけど、まぁ弟子みたいなもんかな」
「球磨型の木曾だ、よろしくな。今は持ってないけど、そのうち刀がもらえるって聞いてるんで、今のうちにと思って、扱い方を天龍の姐御に教わってるんだ……あ、眼帯は元からだからな!パクったわけじゃないからな」
思わず眼帯を見つめてしまっていると、木曾ちゃんはそう説明してくれた。そう言えばこの間の日向さんも天龍さんに刀の扱いを教わってるって言ってたし。さすが天龍さんだね。
「天龍さんに木曾さん、いらっしゃいませ。おしぼりとお冷をどうぞ」
「お、やってるな雷。大将に迷惑かけてないか?」
「失礼ね!ちゃんとやってるわよ」
なるほど、言い方はアレだけど、気になって様子を見に来たってところか。素直じゃないというかなんというか……。
「さて、さっそく注文したいんだが、木曾はなんか気になるものはあるか?」
「そうだな、店長、あの黒板に書いてある『数量限定真鱈づくし』ってまだあるのか?」
「まだ残ってるよ。それにするかい?」
木曾ちゃんの問いかけにそう答えると、二人ともそれにするという事なので、厨房に戻り作業を始める。新鮮な鱈を和洋中の食べ方で楽しんでもらうこの真鱈づくし。まず一品目は先付けとして真鱈子の花煮から出していく。
これは、生のたらこを適当な大きさに切り、卵が外側に来るように裏返したものを一度下茹でする。この時にたらこが花が咲いたように固まるので花煮というのだが、これを生姜・出汁・醤油・酒・みりん・砂糖でサッと煮たら出来上がりだ。これをつまみながら次の料理を待っていてもらおう。
これは雷に持って行ってもらって、そのまま二品目の調理に入る。二品目は中華、真鱈の蒸し物だ。
軽く塩をしておいた鱈を皿に乗せて、その上に薄切りにした生姜とにんにくを散らして蒸す。蒸しあがったら醤油・オイスターソース・黒酢を混ぜたタレをかけて、白髪ねぎ・針生姜・香菜を乗せて持って行く。
「お、次は何だい?大将」
さっきの花煮で食欲が刺激されたのか、今か今かと料理を待っている二人の前に蒸し鱈の皿を置くが、これで完成ではない。さっそく手を付けようとする二人を制止して最後の仕上げをするとしよう。
「ちょっと跳ねるかもしれないから気を付けてね」
そう言って、熱したゴマ油を上からかけるとジュウッと大きな音を立てながら、あたりに香ばしいゴマ油の香りが漂う。
「うおっ!この香りたまんねぇな!」
「ああ、美味そうだ」
これでようやく完成。お預けを食らった二人が揃って箸を伸ばす。
「あっ……つい!けど、うめぇ!」
「名前はわからんが、この葉っぱがいいアクセントになってるな。うまい」
木曾ちゃんが言ってるのは香菜……パクチーと言った方がわかりやすいかな?さて、二人にエンジンがかかったところで、次の料理を作ろうか。
次は洋風鱈料理の定番、鱈のムニエルだ。今日はレモンバジルソースをかけようと思う。
骨を取って塩・コショウを振って小麦粉をまぶした鱈の切り身を、バターを溶かしたフライパンで焼いていく。身が崩れないように気をつけながら焼き、火が通って両面が色づいたら付け合わせのほうれん草のバター炒めと一緒に皿に盛る。
フライパンに更にバターを溶かして刻んだバジルを入れたら、レモン汁を加えてフライパンの底からこそげるようにサッと混ぜて、鱈にかけて出来上がり。鱈の淡白な味に、バターのコクとレモンの酸味、バジルの香りがいい感じに混ざりあう。
これを持って行ってもらっている間に、最後の料理に取り掛かる。最後は和食、鱈の唐揚げ和風あんかけだ。
まず、鱈は骨を取って一口大に切り、塩と酒を振ってしばらく置いておく。その間に餡を作ってしまおう。餡は、斜に切った長ねぎとえのき、しめじを軽く炒め、そこに出汁・酒・みりん・塩・薄口しょうゆを加えて煮立たせたら、水溶き片栗粉でとろみをつける。
続いて、先ほどの鱈に片栗粉をまぶして揚げ、お皿に盛ったら餡をかけて三つ葉を乗せて出来上がり。これを昆布と鱈のアラで取った出汁で作った味噌汁と、ご飯と一緒に持って行く。
「はい、お待たせ。鱈の唐揚げきのこあんかけだ」
二人の所へ持って行くと、軽くギラついた目で見られてしまった。そんなに飢えていたのだろうか?二人にそんな目で見られるとちょっと怖いんだけど……。
「あー、さっきのも美味かったけど、やっぱ魚は米と一緒に食ってこそだな」
「俺は蒸したやつが好きだな。あの葉っぱがなかなか刺激的だった。でも、この優しい味はなんだかホッとするな……」
「二人とも、味噌汁も美味しいわよ!なんたってこの雷様が作ったんだから!」
「やるじゃねぇか雷。美味いぜ」
すると、天龍さんと雷の会話を聞きながら、木曾ちゃんがふふふと笑った。
「なんだ木曾。なんかおかしかったか?」
「いやな、鱈は北のほうの魚だろ?AL作戦のことを思い出してな。あの時は艦だったのに今はこうして美味いもんを食ってるっていうのがなんだか不思議でよ」
まぁね、普通に考えたらおかしな話だよな。軍艦が人と同じ姿で生まれ変わるなんて。でもせっかくだし、美味いもんをいっぱい食べて楽しんで欲しいもんだね。
「あんまり細かいこと気にすんなよ。美味い料理って物を知ることができてラッキー!くらいに思っておけばいいんじゃねぇの?…………大将!おかわり!」
「それもそうか。よし、俺もおかわりお願いするぜ!」
そう、まだまだ美味い物は他にもたくさんあるんだ。楽しんだもん勝ちってやつだよ。
軽巡→木曾ちゃん
雷巡→木曾さん
って感じです。なんとなくのイメージですが
眼帯&刀でキャラ被りのライバルっぽい関係が多い
この島では師弟関係のようです。
何度か書かれているように、天龍がかなりの実力者なので……
お読みいただきありがとうございました