まずは豚のこま切れに塩を振って下味をつけて、片栗粉をまぶしておく。こうすることで旨味が閉じ込められると同時に、小松菜から出た水分を適度に吸ってべちゃべちゃになるのを防ぎつつ、食感もプルプルになる。
これを、油を引いたフライパンで炒めてある程度火が通ったところで、小松菜の芯を炒めていく。芯に火が通ったら葉の部分を入れサッと混ぜて、醤油・酒・みりん・おろし生姜を混ぜておいた合わせ調味料を回しかけて炒める。全体に味が付いたらゴマ油を少し絡めて出来上がり。
生姜の香りとゴマ油の香ばしさが、食欲をそそり思わずご飯に手を伸ばさずにはいられない一品だ。
「いい匂いね、おいしそう!ご飯とお味噌汁もよそっておいたわ」
「おっ!さすが雷、助かるよ。ありがとう」
「そんなことないわよ。マスターを助けるのが仕事なんだから!」
いやー、頼もしいね。そんな雷がよそっておいてくれたご飯にも、今日は小松菜が入っている。炊きあがったご飯に、刻んだ小松菜とちりめんじゃこをフライパンで炒めたものを入れた混ぜご飯だ。
これはおにぎりにしても美味しいけど、その時は炒める時に軽く塩か醤油を振る。今日は炒め物があるので特に味はつけていないけれど、じゃこの塩気もあるのでそのままでも美味しい。そしてお味噌汁は小松菜と油揚げ。
そして、この混ぜご飯とお味噌汁は、俺が炒め物を作ってる間に雷が仕上げてくれた……という感じで、結局すべての料理に小松菜が入ることになった。
それぞれお盆に載せて、みんなの所に持って行きましょう。
「お待たせー。小松菜と豚肉の炒め物に、小松菜とじゃこの混ぜご飯。小松菜と油揚げのお味噌汁で小松菜づくしだ」
大皿にどっかりと盛り付けた炒め物をテーブルの中央に置くと「おー」と歓声があがった。まぁ、それだけじゃなくて、料理全部に小松菜が使われていることに対してというのもあるのだろうけど……
「すごいね……僕はおひたしと味噌汁くらいかと思ってたんだけど……こんなにいろいろあるなんて」
「この匂い絶対美味しいっぽい!」
「早く食べたい!島風が取り分けちゃうね!」
島風が気を利かせて小皿に取り分けていく。これは自分で言ってたみたいに早く食べたいってのもあるんだろうな。でも、自分の分だけじゃなくてみんなの分も取り分けるっていうところがいい子だよね。
「んー、小松菜シャキシャキ、お肉プルプル!ご飯が進むわ」
さっきのおひたしの時は恐る恐るといった感じで食べていた暁も、これは積極的に箸を動かしていた。そんな姉に向かって雷が言葉をかける。
「作り方は教わったから、こんどおうちでも作ってみるわね。それにこのご飯はおにぎりにしてもいいって聞いたから、お弁当のレパートリーがまた増えたわ」
「やった!雷ちゃんのお弁当は美味しいから、うれしいのです!」
へぇ、雷はお弁当も作ってるんだ。大変だね……そんな感じで見つめていたら、何を考えているのか顔に出ていたのか、雷は「たまーにね」と苦笑いを向けてきた。でも、たまにだとしても電のあの笑顔を見れば、ちゃんと作ってるんだろうなって感じるよ。
「ごちそうさま。マスター、おいしかった」
すっかり食べ終わって、時雨が発したその言葉に他の皆も「ごちそうさまでした」と続けた。みんな満足そうな顔をしているけど、実はもう一品あるんだな……。
「はい、頑張ったみんなにサービスのデザートだ」
そう言いながらカウンターに隠しておいた、自家製レモンシャーベットを配っていく。もしかしたらお腹いっぱいかな?なんてことも考えたけれど、みんなの目の輝きを見ればそんなことは心配なさそうだね。
あ、ちなみにアイスには小松菜は入れてない……レモネードに使っているレモンシロップを使って作ったシャーベットだ。と言ってもアイスクリームメーカーに材料を突っ込んでスイッチを押しただけなんだけどね。
そんな彼女たちのうち、近くにいた時雨にちょっと話を振ってみた。
「そういえば、結構な量が収穫できたみたいだけど、そんなに広い畑を作ったの?」
「うん……広いかな。といっても始めは今の半分くらいのつもりだったんだけどね……教えてくれたおじいさんと……なんというか、長門管理艦が張り切ってしまってね」
なんてことを頭をかきながら話してくれた。それにしても長門さんがねぇ……
「おじいさんに教えてもらいながら、僕たち駆逐艦だけで一番初めの土起こしをやっていた時に、長門さんが様子を見に来てくれたんだけど……いつの間にかおじいさんと意気投合していてね。僕たちがやっていたのと同じ面積の畑を一人で作っていたんだよ……『御老台と話をしていたら、盛り上がってな。つい体が動いてしまった』なんて言ってたかな」
「あの時の長門さん、すっごい速かった……でもでも、次は島風も負けないんだから!」
「いやいや島風、あのスピードはビッグセブン級の馬力が無いと出せないと思うよ……残念だけど」
「っていうか、長門さんツナギで来てたわよ。あれは最初からそのつもりだったと思うわ」
時雨の話に島風と響も加わってきた。そして暁はなかなか鋭い指摘をしている。ツナギの長門さん……ちょっと見て見たいかも。
とまぁそんなわけで、せっかくだからということで当初の倍の面積で作ることになったらしい。ただ、研究施設から貰ってきた種が小松菜のものだけだったので、大量の小松菜を育てることになってしまったとのことだ。
「いやぁ、あの時は余らせる前提でたくさん種をもらっていたんだけど、まさか全部使い切る羽目になるとはね……さすがにちょっと僕も焦ったよ」
そのせいでというか、おかげでというか、これだけたくさん作れたのか。にしても畑を耕す長門さんか……いまひとつ想像できないな。
と、そこで雷が思い出したように暁に話しかけた。
「あ、そうだ。山の農場は行ってきたの?あっちの部長さんにもお世話になったんだからちゃんとお礼言ってこないと」
「わかってるわ。そっちは明日吹雪たちが行く予定よ。あっちで主に動いてたのあの子たちだから」
そんな役割分担もしていたんだね。まぁ、なんでもかんでもリーダーがやるって訳じゃないよね。というか今の雷のセリフは……
「なんだか雷ちゃん、お母さんみたいなのです……」
「ひどーい!そんなことないわよね?ねぇ、マスター……あれ?聞いてるー?」
電がみんなの気持ちを代弁して、俺が雷から目をそらしたところで、店内は大きな笑いに包まれた。
今回の子達には和食でいったので
残りの子達は洋食で行こうかと思います
というか、長門は何をやっているのでしょうか……
お読みいただきありがとうございました