まさか小松菜だけでここまで引っ張るとは……なんかすみません
さてと、今日は吹雪達が来るんだったな。確か午前中は任務から帰ってきたばかりだから、夜来るんだっけ?
にしても、今日は何作ろうかな……昨日は和食だったから、今日は洋食にするつもりだけど……基本的にはほうれん草と同じように使えるから、それで考えてみるか。と、思いついたメニューをメモに書き出していく。
「それが今日のメニューかしら?」
「うん、こんな感じで行こうと思うけど、どう思う?」
「へぇ、こんなのも作れるのね、おいしそうだわ。何か手伝えることがあったらどんどん言ってちょうだい」
「ありがとう」と接客を雷に任せて、あまり忙しくない夕方の今のうちに、下ごしらえを済ませてしまうことにする。
ちなみにうちの店で一番忙しいのは、当然ながら十一時から十三時までのランチタイムで、この時間は料理の注文が多いうえに、回転も早いのでかなり忙しい。その次は八時から十一時までのモーニング。料理はそこそこ出るものの、朝定以外はトーストなどの簡単なものが多いので、そうでもない。
そして、午後の営業はというと、十五時に休憩を終えてからは、お茶と作り置きできるデザートをゆっくり楽しむお客さんが多くて回転もゆっくりなのと、料理はたまに遅いお昼を食べにくる人がいるくらいで、あまり出ることは無い。
そして、実は夜の時間帯が一番暇だったりする。というのも、通常営業ではお酒を出さないということもあってそういうお客さんは来ないし、晩ごはんも家で家族と食べる人が多いからね。うちの店に食べに来るのは、独り身の研究者さんか自衛官さん、後は艦娘の子達がほとんどだ。
という訳で、今も遅いお昼を食べ終えた研究者さんが何人かと、のんびりお茶を楽しんでいる商店街の奥様方くらいしかいない。あの奥様方も、そろそろ帰って晩ごはんの支度を始める頃合いだろう。
「マスター、今は何を作ってるの?」
とりとめもないことを考えながら鍋をかき混ぜていたら、お客さんがいなくなって暇になったらしく、雷が作業を覗きに来た。そんな雷に、ほぼほぼ完成していた鍋の中身をスプーンですくって渡してみる。
「なあに?あ、さっきのメモに書いてあったスープ?……うわぁ、なめらかでクリーミーで……おいしい!」
そう、今作ってたのは小松菜のポタージュだ。
刻んだ小松菜と、じゃがいもをバターで炒めてからブイヨンを加えてくたくたになるまで煮たらミキサーにかける。それを裏ごししながら鍋に移し、牛乳を入れて塩・コショウで味を整えたら出来上がり。あとは出すときに器に入れて生クリームを少し垂らす。
俺も一口味見をしてみるが、うん、いい出来だ。美味しくできているのを二人で確認して顔を見合わせてニヤニヤしていると、ホールの方から声が聞こえてきた。
「こんばんわー!マスターさんいらっしゃいますか?」
お、吹雪達が来たみたいだ。とりあえず雷にお冷なんかは任せて、最初の一品目をすぐに持っていける状態にしてから顔を出すことにする。
「やあ、いらっしゃいみんな。待ってたよ」
「店長さん、私達が作ったお野菜、すごくおいしくしてくれるって暁ちゃん達に聞きました!」
「店長殿、今日はよろしくお願いします」
「今日も期待してるからね!」
俺が顔を出すと、白雪や不知火、叢雲が声をかけてきた。ほかの子達も早く食べたいというようなまなざしでこちらを見ていた。まぁ、期待して待っててよ。
「今日は昨日とはまた違った料理を用意してるんだけど、まずはやっぱりシンプルにおひたしで食べてもらおうかと思う」
そう言って雷に目配せをして持ってきてもらう。小鉢に入ったそれを一人一人の前に配膳し、どうぞと声をかけるとそれぞれ手を合わせて箸を伸ばしていく。
「これうまぁ、お出汁がええ味出しとるわぁ」
黒潮のそんな感想の横で、一人箸を伸ばすのをためらっている子がいた。あれ?舞風って野菜食べられなかったっけ?
「なんや、舞風。苦手なんか?」
「うん……菜っ葉系がちょっと……でも暁も食べたって言うし……はむっ!」
お、食べた。どうだ?
「うっ、にが……くは無いけど、やっぱりこのクセはちょっと気になるかも……」
ま、しょうがないか。でも、次の品は大丈夫だと思う……だといいな。それじゃぁ、雷に手伝ってもらって持ってこよう。
「お次は小松菜とじゃがいものポタージュスープだ。これはそこまでクセは気にならないと思うよ?」
「うん……いただきます。あ、おいしい……おいしいよマスター!」
ふふふよかった、他の皆もほっとしたみたいだ。さっき味見した雷もうんうんと頷いている。
「なめらかで、濃厚で……青臭さはほとんど感じないけど、小松菜が入ってるのは分かる……おいしい」
無表情でどう思ってるかわからなかった初雪もそんな風に感想を言ってくれた。そしてもう一人、無表情な子がいるんだけど……不知火の場合は前に手伝ってくれてた時になんとなく読み取れるようになってたからね。今の顔は美味しくて顔が緩みそうになるのを我慢してる顔だ。
それじゃ次の料理を作ろう。次はある意味定番ともいえるんじゃないだろうか?小松菜とベーコンのバター炒めだ。
バターを溶かしたフライパンでベーコンと小松菜の茎の部分を炒めていく。それぞれ火が通ったところで葉っぱの部分を加えてしんなりするまで炒めたら味を見て塩・コショウを振って、お皿に盛って粉チーズを振りかけて出来上がり。バターとベーコンの塩気があるから、コショウだけでもいいかもしれないね。
「はいどうぞ、バター炒めにしてみたよ」
「うわぁ、ええ匂いじゃね!この組み合わせは外れようがないわぁ」
確かに、ベーコンにバターが合わさったら大体どんな野菜でも美味しくなる気がする。案の定、みんなのフォークの動きも早くなった気がするよ。
では、そのバター炒めがなくならないうちに、次の料理だ。次は今日のメイン、小松菜のパスタだ。
この小松菜のパスタ、ぶっちゃけどんな味付けでも美味しいと思う。醤油で和風にしてみたり、トマトベースで作ってみたり、もちろんほうれん草みたいにクリームソースにしても美味しい。そんな中で今日はオイルベースで作ることにした。
まずはオリーブオイルでニンニクと鷹の爪、刻んだアンチョビを熱していく。香りが移ったところで小松菜の茎とほぐしたしめじを加えて炒める。火が通り、パスタが茹で上がる直前で小松菜の葉とパスタのゆで汁を加えてソースを乳化させたら、パスタを入れて良く絡めて出来上がり。
「おいしそう。持ってっちゃうわね!」
雷が持って行ってくれている間に、自家製のロールパンをバスケットに入れて持って行く。これは普通のパンだけど、ペーストにしてパンに練り込んでも良かったかも。ほうれん草を練り込んだパンとかたまに見るし。
バスケットを持ってみんなの所へ向かうと、何やら不知火に視線が集中していた。こちらからは不知火の背中しか見えないのでどうしたものかと思って席まで行くと、俺に気づいて声をかけてきた。
「あぁ、店長殿。やはり店長殿の料理はおいしいですね。雷さんが羨ましい……」
微笑みながらそう言ってくれた不知火に、こちらも「ありがとう」と笑顔で返す。すると周囲の驚きが更に深まったように感じられた……え?今の何かおかしかった?
「不知火さんのあんな自然な笑顔初めて見ました。お料理を口に入れた瞬間、ふわっと優しく……」
「ええ、それにマスターに話しかける時も優しく微笑んだままで……あなた、普段からその方が良いわよ」
俺の疑問に答えてくれたのは吹雪と叢雲のつぶやきだった。確かに不知火の笑顔はかなりレアだからね……でも妹さんたちは見たことないってことは無いでしょ?
「そうじゃねぇ、普段から一緒にいるとたまに笑ってくれるんじゃけど……」
「まさか、他の人の前でそんな表情するとは思わんかったわ。なんやちょっと『じぇらしい』感じるわぁ」
黒潮はおどけるように言ったが、結構真面目に驚いているみたいだ。そんなみんなの反応に、不知火は「不知火に何か落ち度でも?」と澄ました顔でパスタを巻いていた。いや、落ち度はないんだけど……ね。というか、個人的には初雪までもが驚いた表情をしてたことに驚いたんだけど……
と、そんな一幕もありつつ、一通り食べ終わったところで、彼女たちにももちろん用意してあります。
「はい、食後のデザート。サービスのレモンシャーベットだよ」
「……待ってました」
「やったぁ!なんかテンション上がって踊りたく……」
「……舞風、店長殿にご迷惑がかかります。やめなさい」
いやぁ、昨日の子達もそうだけど、やっぱりみんな女の子なんだね。甘いものでこんなにテンション上がるとは……あ、でも店内で踊るのは勘弁ね。
駆逐艦たちの初収穫のお話でした。
これを書くのに色々レシピを調べていたのですが
いやぁ、どれもこれもおいしそうで……
お読みいただきありがとうございました