ちょっぴり物語を動かしたいと思います
「ふぁ、あーぁ……いい天気だねぇ。散歩日和ってやつだね」
店休日の今日、特にやることも無かったのでその辺を散歩しながら新しい料理のネタでも考えてみる。
今の時期魚だと何だろう……金目か、カレイ。ヒラメも美味いな。煮付けに焼き物、金目のしゃぶしゃぶとかどうだろうか?肉だとやっぱり煮込み系かなー、シチューも美味いし……あータンシチュー食べたいかも。うん、今度作ろう……
そんな感じでくだらないことを次々と、脈絡もなく考えながら商店街を歩いていく。この後帰ったら何か作ろうかなと思いながら、ちょこちょこ店を覗いては気になったものを買っていると、いつの間にか買い物バッグがいっぱいになっていたので、商店街を抜けて海岸通りを通って店へと戻ることにした。いや、いつの間にかとか言ってるけれど、ちょっと買い過ぎたかも……
ちょっと反省しつつ、海岸通りから見える大海原を眺めて現実逃避だ。
あぁ、日の光を受けてキラキラ光る水面がきれいだ……そして穏やかな波に揺られて砂浜に打ち上げられる黒いビーチボールが……。
「ん?ビーチボール?こんな時期に?」
夏場ならともかく、こんな時期に波打ち際でボール遊びなんてそうそうしないと思うんだけど……なんとなく気になるので、ちょっと見に行くか。どっかから流れ着いてきたのかもしれないし、ゴミなら捨てないとね。
そう思って砂浜に降りて、よくよく見てみるとどうもテカリ具合がビニールの感じとは違う気がする。なんというかこう……生々しい感じだ。
「えぇー……なにこれ……なんか水棲生物的な感じ?」
さすがに素手で触る勇気は無かったので、近くに落ちていた木の枝でつついてみる。
――ビクッ
「うぇっ?動いた?」
枝の刺激に反応したと思ったら、急に飛び上がって口らしきものを開いてこちらを襲って来る……かと思ったが、そのまま力が抜けたように落ちてしまった。
「もしかしてお前、弱ってるのか?」
初めて見るその謎生物が何なのかはわからないが、大体の予想はつく。ただ、艦娘や妖精さんである程度耐性ができていたのか、それともあまり現実味がなかったせいか、驚きはしたものの弱っていることへの心配の方が先に来ていた。
砂浜に力なく転がるソレを拾おうとして手を伸ばすと、ソレはふらふらと浮かび上がり俺の背後へ回って、ぐいぐいと背中を押し始めた。
「どっかに連れて行こうってのか?……わかったよ。案内してくれ」
そしてソレに連れていかれた岩場の陰には、モノトーンの少女が横たわっていた。
「見た目は女の子だけど……人とも艦娘とも違う……となると、まさかなぁ」
その女の子に近づいて様子をうかがうと、外傷も特に見当たらず気を失っているだけのようだ。その事にほっとしたところで、ここまで案内してきたビーチボールもどきを見ると……。
――オネガイ
そんな声が聞こえた気がして、ソレは光の粒子になって消えていった。
「お願いって、まぁこの子のことだよなぁ。話ができるかどうかもわからんけど、とりあえず連れて帰るか」
そう思って彼女を背負い、店へと戻ることにした。
ひとまず彼女を休憩室に寝かせておいて、自分の昼飯の準備を始めることにした。料理をして一旦落ち着こう……というわけで、休みの日の簡単お昼と言えばやっぱりコレ。チャーハンでしょう。
レタスが中途半端に残っていたので、これとハムでレタスチャーハンにしよう。
まずはカンカンに熱した中華鍋に油を馴染ませ、溶き卵を投入。サッとかき混ぜてすぐにご飯も投入。お玉の底でガッガッと押し付けるようにして卵と混ぜたら、刻んだねぎとハムを入れて大きく煽りながら混ぜ、ガラスープの素・塩・コショウ・醤油で味をつける。最後に短冊に切ったレタスを入れて混ぜたら出来上がり。レタスは予熱で火を通してシャキシャキ感を保った仕上がりだ。これを『二つ』の皿に盛り付けていたところで、休憩室の方から「クゥー」とかわいらしい音が聞こえた。
どうやら、味付けをし始めたあたりで気が付いたらしく、こっちを覗いてる気配がしてたんだよね。おいしそうな匂いに釣られたんだろう。そして、休憩所の入り口の方を見ると、案の定頭だけを出してのぞき込んでる姿が見えた。
「お腹すいてるだろう?一緒に食べよう」
そう言いながら手招きをすると、頷いてはくれたものの、おっかなびっくりといった感じでこちらへとやってくる。
ちょっと高めの椅子を作業台の前に置いて座らせ、レンゲ……は食べにくそうだから、スプーンを渡してあげる。
スプーンに慣れていないのか、上手持ちで握ると首をかしげてこちらを見てきたので、彼女の後ろに回って手を添えながらチャーハンをすくう。
「はい、あーん」
と言いながら、つられて開けた口にスプーンを運ぶと、何回かもぐもぐした後で驚いた顔で上を向いて、俺の顔を見てきた。ふふっ、おいしいと思ってくれたみたいだね。
「お替りが欲しかったらまた作るから、ゆっくり食べるんだよ」
と言うが早いか、彼女は「ガツガツ」という表現がぴったりなスピードでチャーハンを食べ始めた。それじゃ、俺も食べますかね。
よほどお腹がすいていたのかすぐに一人前を食べ終えて、こちらにお皿を差し出してきた。はいはい、お替りね。今作るから待っててね。
結局その後もう一回お替りをした彼女はお腹いっぱいになったせいか、お皿にまだ少し残っていたがスプーンを握ったままうとうとし始めてしまったので、子育てってこんな感じなのかなぁなんて思いながら、彼女を抱えて自宅部分へと連れていき、ベッドに寝かせた。
それから俺は道具の手入れをしたり、明日の仕込みをしたり、夕ご飯も彼女の分を作ったりしたのだけれど、俺が寝る時まで起きることは無かった。
ベッドは一つしかないので同じベッドに入ることになったが、俺が布団に入ると彼女は、誰かが近づいてきたのを感じ取ったのか手を動かして、ひっしと抱き着いてきた。そんな彼女のきれいな白い髪を撫でながら、俺も寝ようかと目を閉じたところであることに気が付く。
「そう言えば、名前聞いてなかった……っていうか、これさくらに報告しないとまずいんじゃないの!?」
今さらながらに事の重大さを思い出した。初めて見るけど、この子は十中八九例のアレのお仲間だよね……可愛らしいけど。
思わず体を起こして頭を抱えると、彼女は身じろぎをしてこちらに手を伸ばしてきた。
「まぁ、いいか。どうせさくらは明日の朝も食べに来るだろう。その時に話をすればいいか。雷にも話をしておかなきゃな……」
とりあえず今日はもういいや。明日のことはその時考えよう……間違いなく怒られるだろうけど……なんであそこに倒れていたかとか色々気になることも多いけど、こうなったらなるようになれだ。幸い危害は加えてこないみたいだし、大丈夫だろう。
そんな何の根拠もない半ば諦めのような気持ちを、彼女の頭を撫でることでごまかして、眠りにつくことにした。
そして夜が明けて……。
「ねぇ、マスター。その子どうしたの?」
「……拾った……」
「ひろっ!そんな犬や猫じゃないんだから!それにあなたもマスターから離れなさい!」
「……イヤ……」
「むー……マスター!今日は臨時休業!それと緊急招集かけるから、大人しくしててよね!良い!?」
「はい……」
「ワカッタ……」
頭を抱えた雷がスマホを取り出し連絡を取り始める……こりゃぁ、思った以上にやばいかも?ちょっと色々気合入れた方が良いかもな。
名前は出てませんが、皆さまご想像の通り?のあの子です
という訳で、次回からは新展開に入るので
長かった『Menu-3:鎮守府喫茶の日常』は終了
次回からは『Menu-4』でお願いします
お読みいただきありがとうございました
それと……
なんと二人の方に推薦文を書いていただきました
『F35B』様『ゼルガー』様ありがとうございます!