鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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お久しぶりです!




四十四皿目:謎の少女の正体は?2

 さて、状況を整理しよう。

 

 朝食を食べているところで、三人が店に入ってきた。それもかなりの勢いで。それに驚いたほっぽちゃんが椅子から立ち上がり、三人から距離を取ったのを見て、俺と雷もほっぽちゃんのそばに駆け付ける。まだ何の説明もしていない状況で彼女を見たら、そりゃ危ないから離れろってことになるよね。

 

 とりあえず、ほっぽちゃんをかばう様に前に立って、金剛さんと加賀さんに向かって「落ち着いて」と両手を前に出すジェスチャーを行う。

 

 俺のその様子を見て、とりあえずすぐに向かってくる様子はないけれど、金剛さんと加賀さんはいまだ険しい表情で俺たちの目の前に立っている。

 

「艤装はありませんガ、刺し違えてでもお守りシマス!」

 

「ええ、私に金剛、雷も居ますし。いくら姫級とは言えお互い艤装なしですから……いけます」

 

 様子見と言った感じで、飛び掛かるという訳ではないけれど、じりじりと近づいてきている……あー、雷が安心させるようにほっぽちゃんの頭を撫でているのを見れば大丈夫だと思ってもらえるんだろうが、死角なのか目に入ってないのかはわからないけど、見えてないみたいだ。

 

 と、流石にその様子を見かねてか、さくらが口を挟んだ。

 

「落ち着きなさい二人とも。多分この子は大丈夫よ……ね、雷」

 

「そうね、司令官。さっきこの子と少しお話したけれど、敵とは思えないわ……」

 

 さくらも店に入ってきたとき驚きはしたものの、金剛さんや加賀さんほどの警戒心は抱いていなかったように見えた。雷から電話で話を聞いていたのかもしれないが、それだけじゃなく何か知ってることがあるのかもね。とりあえずここは一旦落ち着いて話を進めようじゃないか、お二人さん。

 

 さくらの言葉と雷の様子を見た二人が話を聞く雰囲気になったところで話しかける。

 

「とりあえずみんな座らないか?朝ご飯も途中だし良かったら一緒に食べよう。それにこの子とは一晩一緒にいたけど、何にも危ないことなんてなかったから大丈夫だよ」

 

 そう言って、三人をテーブルへ促す。すると、金剛さんと加賀さんは顔を見合わせると一つ頷いて、素早く席へ座ってこちらを見つめて来る。

 

「さぁ、ヒデトサン。席に着くデース」

 

「お話を聞かせていただけますね?店長さん」

 

 ん?なんかさっきとは違った感じで視線が鋭くなっているけど……ま、話ができる体制になったということで、良しとしよう。ただ……もう少し穏やかになってもらうために、お茶を入れようと思うので、皆には先に話を進めておいてもらおう。

 

今も不安そうにこちらを見上げているほっぽちゃんをひと撫でして、雷に預けてカウンターへと入る。その間際にさくらに目を向けると、理解してくれたように頷いて皆を促してくれた。よし、あっちは任せて大丈夫そうだね。

 

というわけで、これから淹れるのは紅茶の中でもリラックス効果が高いとされているフレーバーティー、アールグレイだ。

 

 あちらはさっそく話を始めたみたいで「深海棲艦」とか「軍上層部」とか物騒な言葉が聞こえてくるけれど、なるべく聞かないようにしながら紅茶を淹れることに集中する。さっき先に座った二人は俺が席につかずにお茶を淹れはじめたことで、チラチラこちらを気にしているけれど一応さくらの話は聞いてるみたいだ。

 

 と、ここでお湯も沸いたので、ぼこぼこと沸騰するお湯をティーポットに勢いよく注ぎ、茶葉を大きくジャンピングさせる。するとアールグレイ特有の爽やかなベルガモットの香りが広がった。

 

 テーブル席の方にも香りが届いたらしく、紅茶好きの金剛さんが「良い香りデース」と反応しているのが聞こえてきた。

 

「はい、どうぞ。これでも飲んで落ち着こう」

 

「ンー、おいしそうなアールグレイデース。ヒデトサンありがとうございマス。でも、もう彼女が安全なのはテートクから説明を聞いたので大丈夫デスヨ。安心してくださいネ」

 

「ええ、どうやら我々も知らされていない事実があったようで……でも、店長さんのお心遣いはありがたく思います」

 

 そっかそっか、それなら良かった。

 

「じゃあとりあえずこれからどうするのかを聞かせてもらおうかな。彼女が深海棲艦の仲間らしいのは分かってるけど、ぶっちゃけ俺たちからしてみれば危害を加えてこないというのなら、艦娘と変わらないんだよね……っていうのが昨日からこの子と接していて感じたことかな」

 

 ほっぽちゃんの頭をポンポンやりながらそう言うと、さくら達は困ったような嬉しいような複雑な表情で笑った。

 

 そう思う理由としては、彼女以外の深海棲艦を見た事ないのと直接被害を受けたことがないっていう事がある。もちろん深海棲艦と直接対峙している鎮守府の人間たちや、深海棲艦の被害を受けた経験がある人たちからしてみたら甘い考えと言われるかもしれないが、少なくともこの子に関しては『ちょっと変わった女の子』ってだけだ。

 

 と、そんなようなことをみんなに話すと、さくらが「その考えは良いと思うけど……」と前置きしたうえで真面目な顔で話し始めた。

 

「今回の件は一歩間違えたら危険な目に遭っていたっていうのは理解しておいてね。どちらかと言うとこの店に入ってきたときのこの子達の反応が正常なんだから……私が雷から前もって危険は無いって話を聞いてなかったら、攻撃命令を出していたとしてもおかしくなかったのよ」

 

 そう言いながら金剛さんと加賀さんの方を見て、話を続ける。

 

「深海棲艦は一般人には直接危害を加えないというのが今のところの通説だけれど、それだってどこまで信じられるかわからないわ。それにその子は深海棲艦の中でも確固とした自我を持ち、知性もある上位個体……何をしてくるかわからないわ。知らなかったとは言え、発見した時点で通報してほしかったわね」

 

「あぁ、そのことについては反省しているよ。我ながら軽率だった」

 

「わかってるならいいわ。これ以上秀人をいじめても仕方ないから、この話はここで終わり!これからの話をしましょう」

 

 さくらはひとつ大きく手を叩くと、表情を切り替えて明るく言った。うん、ほんとにすまなかった。

 

「という訳で、今回は彼女……軍では北方棲姫と呼称されているのだけれど、どうやら彼女たちも同じ名前で認識しているらしいわね。それがどこからもたらされた知識なのかはわからないけれど、艦娘たちが生まれながらにある程度の知識を持って生まれてくるのと同じ事なんでしょう」

 

 なるほど、今朝の雷の話だと自分のことを『ほっぽ』と言っていたらしいからほっぽちゃんと呼んでいたけど『北方棲姫』が正しい名前だったのか。

 

「で、彼女……ほっぽちゃんが安全だと判断した理由は……秀人にはいいか。とりあえず信頼に足る根拠があって判断しているって事だけ知っておいてもらえればいいわ。それで、今後なんだけど……ほっぽちゃんあなたはどうしたい?」

 

 と、ここで今まで静かに話を聞いていたほっぽちゃんにさくらが話を振った。そのほっぽちゃんはしばらく考えた後、ぽつりとつぶやくように言った。

 

「ワタ……シハ……ホッポハ……ココニイタイ。ヒデトノトコロガイイ……デモ、ヒデトガメイワクッテイウナラ……」

 

 そう言って不安げな表情でこちらを見上げて来るほっぽちゃん。迷惑なんてことはないけど……良いのかな?軍の方で問題が無ければ俺は構わないけど。と思いながらさくらを見ると「いいの?」というような顔でこちらを見ていたので、その目をしっかり見据えて頷いてみせた。

 

「わかったわ。じゃぁ秀人のところで預かってもらいましょう。とは言え、軍の方に何も報告しないのもまずいから、形の上では私の管理下にあるということにして、私が執務中はこのお店に手伝いに来ている子が監視を代行って感じでどう?加賀いける?」

 

「まぁ、後程詳細は詰めるとして、大丈夫だと思います。ただ、あの方と大和さんには話しておいた方がよろしいかと」

 

「それはもちろん!大将殿には全てを報告するわ。そもそもこの島でのことは一般市民に危険が及ばない限りかなり自由にさせてもらってるから、今回のことも協力してくれるはずよ。まぁ、誰かさんが昨日の時点で知らせてくれてたらもっと余裕をもって対応できたんだけどねー」

 

 そう言ってジト目でこちらを見てくるさくらさん……だから、悪かったって。

 

「ま、いいわ。それじゃ報告云々はこっちの仕事として、ほっぽちゃんが快適に暮らせるように相談しましょうか」

 

 さくらにジト目で見られて軽く笑いが起こったところで、次の話へと移っていく。幼いとはいえ女の子との生活だから、いろいろと助けてもらわなきゃならないこともあるだろう。そのあたりちょっと相談しておきたいな……というところで、店の扉が勢いよく開けられて、一人の艦娘が入ってきた。

 

「遅くなってごめんなさい!すぐにここに来るように言われて来た……んだけど……あなた!そこから離れなさい!」

 

 あ……そうだ。暁も呼んでたんだっけ……

 

「暁!この子は大丈夫だから、落ち着いて!それにそのやり取りはさっきやったからもういいわ!」

 

 うわぁ、雷……なかなか辛辣だねぇ。暁もなんだか涙目になってしょぼんとしちゃって……

 

「むぅ……わかったわよ!それで?暁は何のために呼ばれたのかしら?」

 

……と思ったら立ち直りも早かった。

 

「とりあえず、雷たちが話をしている間このほっぽちゃんの面倒を見てもらおうかと思ったのよ。暁なら大丈夫だと思って」

 

「任せて!!一人前のレディーにとってはおちゃのこさいさいよ!」

 

 なるほど、確かに暁なら任せられるかも。ちょっとおっちょこちょいなところはあるけど、面倒見が良いからね、これは適任だろう。というか、雷に大丈夫と言われてすぐに信じて先に進む辺りはさすが姉妹艦同士の信頼感と言うやつか。そのあたりもあって暁を呼んだのかもしれないな。

 

「えーっと、ほっぽちゃん?暁よ!よろしくね」

 

「アカツキ……ヨロシク」

 

 小さな手と手で握手を交わす二人。なんとも言えないほのぼのとした雰囲気があたりに広がり、思わず皆笑顔になる。

 

「じゃあほっぽちゃん、何して遊ぶ?」

 

「レップウゴッコ!ゼロデモイイヨ!」

 

「烈風も零もちょっと持ってないわ……」

 

 暁がなんだか困ってしまったようだけど、俺としてもレップウやゼロが何のことかピンと来ておらず、思わず「何?」と首を傾げたところで加賀さんが教えてくれた。

 

「烈風も零戦も艦載機の事です店長さん。龍驤さんなどでしたら紙があれば出せるのかもしれませんが、私はちょっと無理ですね……せめて矢だけでもあれば……」

 

 そっか、艦載機のことだったのか。いくら俺でも零戦は聞いたことがある。そう言えば龍驤ちゃんは紙でできた式札を艦載機に変えて巻物を甲板にして飛ばしていたけれど、戦闘機動でなければ、式札さえあれば飛ばすことはできるって言ってたな。

 

 ……っと、そうだ!零戦の代わりになるかはわからないけど……と、あることを思いついた俺は、自宅部分にある自室の机から何枚かのコピー用紙とペン、それとタブレットであるページを検索して持ってきた。

 

「ほっぽちゃんの言う烈風や零戦は無いけれど、代わりにこれはどうかな?」

 

 そう言って、コピー用紙を折って紙飛行機を作り、翼部分に日の丸を書いて軽く飛ばして見せた。

 

「オー!ゼロ!マッテ!」

 

 俺が飛ばした紙飛行機を、手を伸ばして追いかけるほっぽちゃん。と言っても、紙飛行機なのですぐに床へと落ちてしまったが、それでも嬉しそうに拾い上げてこちらへ持ってきた。

 

「モット!モット!」

 

 ほっぽちゃんがそう言ってねだってきたので、部屋から持ってきたタブレットを暁に見せながら説明する。

 

「このページに紙飛行機の作り方が色々載ってるから、一緒に作って遊んであげて」

 

「さすがマスター!ありがとう!」

 

 俺が差し出したタブレットを嬉しそうに受け取った暁はさっそくほっぽちゃんと一緒に隣のテーブルで紙飛行機を折り始めた。その様子を見届けてみんなのいるテーブルへと戻る。

 

「ヒデトサンやりますネー、Good Jobデース!」

 

「いやぁ、ちょっと子供だましかとは思ったんですけどね。喜んでもらえて良かった」

 

 金剛さんが褒めてくれて照れくさくなりながらも席に着く。さて、それじゃあ話を進めようか。

 




お待ちいただいていた皆さま、お待たせいたしました。
ひとまず中途半端になっていた四十四皿目の後半をお届けすることができました

諸々の事情により、以前の様に毎日更新と言うのは難しくなってしまったのですが
今後少しづつでも更新ペースを上げていけたらと思っております。

お読みいただきありがとうございました

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