鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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本日は三月三日ひな祭り
……ですが、ひな祭りネタは当分先になりそうです
その前に、こちらのお話をどうぞ……


四十五皿目:腹が減っては……

 ほっぽちゃんが暮らしていくことにあたっての一通りの問題点を話し合い、とりあえずは何とかなりそうだ。女の子に必要な日用品なんかはこの後暁と雷が一緒に買いに行ってくれるということだし、一般常識も少しずつ店に来てる子なんかに教えてもらうことになった。

 

 そして細かいところだとお風呂にも一緒に入ってくれることになったんだけど……その話題が出たときに、さくらから「艦娘やほっぽちゃんから誘われても一緒に入っちゃだめよ……水着着用だったとしても」なんて言われたのだが、いくら水着を着ていたとしてもそういう相手でもない俺と、一緒に風呂に入るなんて思わないだろう?

 

 という感じで返したら、さくらが「そうとも限らないのが困るのよ……」と頭を抱えた。いやいや、そんな……ねぇ?

 

 結局その時は「秀人にそのつもりが無いならいいわ」と話を切られた。なんだか奥歯にものが挟まったみたいな言い方でやだな……まぁ、この手の話は蒸し返してもろくなことが無いからやらないけど。

 

 とまあそんなこんなで話が進んで、時間の方もぼちぼちお昼ごはんといった頃合いだ。

 

「そろそろいい時間だから、みんなでお昼にしないか?元々今日のランチ用に仕込んでおいたものがあるから悪くならないうちに何とかしたいんだ。それに、腹が減ってはなんとやらと言うしね、ほかにも話しておかなきゃいけないことはあるだろうけど、まずは腹ごしらえといこう」

 

「そうね、それじゃお願いしようかしら。私は一旦鎮守府に戻って様子を見て来るわ、本部の大将にも報告しておきたいし……さすがにこれは備え付けのホットライン案件だわ」

 

 去り際「金剛と加賀はゆっくりしていて良いわよ」と言い残してさくらは店を出ていった。その金剛さんと加賀さんは暁と一緒にほっぽちゃんを見ていてくれるということで、俺と雷で厨房へと向かう。

 

「それで、マスター。何を作るつもりだったの?私が来る前に仕込んでいたのよね?」

 

 雷の質問を受けて、俺は冷蔵庫から仕込んであったバットを取り出して彼女に見せる。

 

「これだよ、肉詰め。ピーマンとシイタケ、それとナスの三種類でミックス肉詰めフライ定食にしようかと思っててね。後は揚げるだけってとこまで作っておいたんだ……ま、冷凍しておいて別の日に使ってもいいんだけどね」

 

 というわけで、今日の日替わりランチに使う予定だった野菜の肉詰めを雷に揚げてもらうことにした。

 

 作り方も手間はかかるかもしれないけれど、さほど難しいものではない。玉ねぎのみじん切りと合い挽き肉、卵をしっかり粘りが出るまで混ぜ合わせたタネを野菜に詰めていく。ピーマンはヘタを取って半分にして、種を抜いたところに。ナスは切り離さないようにヘタの下の所から四つ割りにして、その間に挟む。そしてシイタケは軸を落として、傘の裏の所にこんもり塗り付けてマカロンみたいな形に成型しておく。

 

 そうそう、シイタケの軸は傘の部分に引けを取らないくらい旨味も栄養も詰まっているので、うちの店では毎回冷凍保存しておいて、ある程度量が溜まったところで出汁を取ったり、佃煮などに使ったりしている。まぁ、個人的には何個か串に刺して塩焼きにするのが一番うまいと思っている。

 

「マスター、とりあえずこれくらいでいいかしら?」

 

 と、雷から声がかかり、作業台の上に揚げたてのフライが入ったバットが置かれる。結構な量が揚がったけど、今日は加賀さんもいるしこれくらいはすぐになくなってしまうだろう。

 

 大量の肉詰めフライを千切りキャベツを盛った皿に種類ごとに乗せていく。ひとまずこの三つの大皿と、ポテトサラダを入れたサラダボウルを先に持って行ってもらい、後からご飯とお味噌汁を持って追いかける。

 

「お待たせー、さぁお昼にしよう。今日は肉詰めフライ三種類だよ。醤油・ソース・ケチャップ、お好きな調味料でどうぞ……ってさくら戻ってたのか。早かったな」

 

 って言っても、これだけの量を揚げるのにそれなりに時間もかかってるか。

 

「んー、今さっき戻ってきたばっかりよ。でも揚げたてに間に合って良かったわー……あ、そうそう、大将は今回の件私に一任してくれるってさ、ただし報連相は欠かさずにってね。秀人にもよろしく言ってたわ。じゃ、いっただっきまーす!」

 

 そう言ってさくらがフライに手を伸ばすと、他の子達も一斉にいただきますと、好みのフライに箸をつけ始めた。……って、え?それで終わり?そりゃ俺に話せない内容もあるのかもしれないけど……どうも、俺の幼馴染さんはかなりその大将さんに気に入られてるみたいだね。というか、よろしくと言われても俺その人知らないから「はぁ、どうも」くらいしか言えないんだけど……

 

「ンマイ!」

 

 そんな俺の戸惑いを打ち消したのは、ほっぽちゃんのその一言だった。お子様握りのフォークに刺さった食べかけのピーマンの肉詰めフライを掲げながら、キラキラした表情でそれを見つめている。

 

「こら、そんな言葉遣いはレディーとして恥ずかしいわ。ちゃんと『おいしい』って言わなきゃ」

 

「でも、ほっぽちゃんは暁と違ってピーマンも食べられるみたいね。そこはレディーなんじゃない?」

 

 ほっぽちゃんの言葉遣いを窘める暁に対して、ニヤニヤした表情でツッコむ雷。この料理なら苦くないから食べてみて欲しいな。

 

 そして年長組の反応はと言うと、加賀さんはまずナスの肉詰めから手を付けたようで、箸を使って器用に小さく切りながら、醤油をかけて食べている。

 

「サクッとした衣とナスのトロっとした食感が良いですね。そこに肉の旨味と醤油の塩気が……これはご飯が止まりません」

 

 といった感じで金剛さんに話しかけると、その金剛さんはソースのかかったシイタケの肉詰めをフォークとナイフで切り分けて口に運びゆっくりと味わうと、加賀さんに答えた。

 

「確かにそれも美味しいと思いマス。デスガ、このシータケの肉詰めもJuicyで美味しいデスヨ。噛むとお肉とシータケから美味しさがあふれて、そこにこのソースが絡んで……これもごはんに合いマス……でもヒデトサン、なんだかこのソース普通のよりも赤い気がしマース。手作りデスカー?」

 

「いや、これは知り合いの料理人が教えてくれたもので、そいつの地元で百年以上続くソースメーカーの物なんだ。前に開店祝いで送ってくれたんだけど、気に入ったんでそれ以降も何種類か取り寄せて使ってるんだよ。これはトマトとリンゴ、パイナップルがたっぷり使われてて、その甘味と後からくるスパイスの香りがフライにピッタリなんだよね」

 

 そんな俺の説明に触発されたのか、今まで醤油で食べていた加賀さんや、ケチャップで食べていたお子様たちもソースに手を伸ばしてきた。

 

「ンマイ!」

 

「だから、ほっぽちゃんてば……」

 

 と、そのソースをかけて食べてみたほっぽちゃんが声を上げて、それを暁が窘めるという光景が再び繰り広げられると、店内は笑いに包まれた。

 

 そうして楽しいお昼ごはんも終わり、のんびり食休みをしているとぽつりとさくらがつぶやいた。

 

「とりあえず大将から好きにやっていいとは言われたけど、うちの皆にどうやって説明しようかしらねぇ」

 

「それもあるけど、島の人たちはいいのか?」

 

「そこはあまり心配してないわね。ありがたいことに、あんたと同じかそれ以上の感覚の持ち主ばかりよ?危なくないと分かればすぐに受け入れてくれるわ。もちろん、町長には後できちんと話をしておくけど。後は、軍の隊長さんだけど……あの方はある程度こっちの上も知ってる方だし、大丈夫そうね……とまぁ、そう言う訳だから暁と雷はこのあとほっぽちゃんと一緒に買い物してきて。もちろんお金はこっちで出すわ」

 

 あー、この島の連中……特に今戻ってきている人たちは確かに大丈夫そうだね。それで文句言うような人はそもそも戻ってこないだろう。

 

 それと、隊長さんって言うとあの釣り好きのおっちゃんか。あの人は大丈夫だな、うん。

 

「あのね、それなんだけど……」

 

 そんな俺たちの会話に暁が手を挙げて入ってきた。ん?なんだろう?

 

「そろそろひな祭りじゃない?だからパーティーとかどうかな?って……ほっぽちゃんの紹介も兼ねて、隊長さんと町長さんも呼んだりして……」

 

「パーティーねぇ……」

 

 俺はいいと思うけどね、パーティー。暁の提案に腕を組んで考え込むさくら。そしてそんなさくらを暁以外の皆も真剣な表情で見つめていた。

 

「うん、いいんじゃない?ウチらしくて。やるなら明日の午後ね、ちょうど昼過ぎに町長さんと来年度のことで話をする予定だから、その流れで参加してもらいましょう。金剛、後で役場に行ってちょっと話してきてもらえるかしら?隊長さんには私の方から話しておくから。」

 

「え?明日やるの?ちょっと急すぎない?」

 

 思わず俺が声を上げると、すぐさまさくらが返してきた。

 

「何言ってんの!こういうことは早くやった方が良いのよ。というか、年度末で忙しくて町長さんの予定が多分合わないわ。明日も本当は休みなのに来てくれることになってるのよ、せっかくだから楽しんでもらいましょう」

 

 なるほど、町長さんも大変なんだな。まぁ、特殊な島だし忙しいのも当然か……

 

「ってことで、秀人は料理の方よろしくね。お店は明日もお休みさせちゃうことになるけど、その分はうちの方から補填させてもらうつもりよ」

 

「まぁそれは構わないんだけど……そうだ、それなら何人か手伝いに来てもらえないかな?できれば……」

 

 とまぁ、そんな感じでやると決まったら、とんとん拍子でいろんなことが決まっていった。昨日彼女を発見してからやたらと慌ただしいけれど、それがなんだか楽しくなってきている自分がいた。

 

 そして気のせいかもしれないけれど、他のみんなもなんとなくこの状況を楽しんでいるようにも感じる……まぁ、国を守る鎮守府、特にトップであるさくらがこんな感じでいいのかと思わなくもないけれど、こういうフットワークの軽さを買われたのも今のポジションにいる理由の一つなのかもしれないな……と好意的に解釈しておこう。

 

 次々決まる事柄に追い付いて行けてないのか、キョトンとした顔でこちらを見上げるほっぽちゃんの頭を軽くなでながら、そんなことを考えていた。

 

 

 

 その日の夕方、買い物を終えた暁、雷、ほっぽちゃんが帰ってきた。

 

「お帰り、みんな……って、どうしたのそれ?」

 

「オバチャン、オカシクレタ!」

 

 ほっぽちゃんが自慢気に広げて見せてくれた袋いっぱいのお菓子を見ると、どうやら何の心配もいらなかったみたいだね。

 

 

 

 




あれ?今回もほっぽちゃん回のはずなのに
あんまり喋ってない気が……



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