鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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遅くなり申し訳ございません
ようやく書けたというか、書く時間が取れたというか……
言い訳はさておき、周回遅れも甚だしいですがひな祭りネタです
お読みいただければ幸いです


四十六皿目:艦娘たちのひな祭り1

「さて、こうして集まってもらったわけなんだけど、これから手分けしてひな祭りメニューを作ろうと思う」

 

 ほっぽちゃんの処遇についてさくら達と話をした翌日、俺は鎮守府の食堂で何人かの艦娘を前にそんなことを言っていた。俺の前に並んでいるのは、今までうちの店に手伝いに来てくれたことがある子達で、時間があった子達だ。

 

「店長、それはいいんだけど、何を誰が作るの?」

 

 と、自他ともに認める(?)俺の一番弟子らしい川内がそんなことを聞いてきたので、メニューと割り振りを説明していく。

 

「よし、じゃぁまず川内は蛤関係を任せようかな。潮汁はもちろんだけど、それ以外にも一つ二つくらい蛤料理をお願いしたい。わからないことがあったら聞いてくれていいけど、川内なら大丈夫だろう」

 

「了解!まっかせて!」

 

「次に鳳翔と翔鶴にはちらし寿司をお願いしようかな。これはちょっと量が多くて大変かもしれないけれど、俺も手伝うからがんばろう」

 

「わかりました店長さん。お任せください」

 

「はい、鳳翔さんの足を引っ張らないようにがんばりますね」

 

頼もしい鳳翔の言葉とは対照的に翔鶴はいささか自信がなさげな返事だったけれど、鳳翔との空母同士ならコンビネーションもバッチリだと思う。翔鶴の実力だって、十分だと思うんだけど……

 

 っと、次は不知火と浦風だな。この二人には……

 

「二人には簡単なものでいいから、いくつかつまめるものを作ってもらいたいんだ。唐揚げやポテトフライとか、サラダとかがいいかな」

 

「了解しました。全力で任務にあたります」

 

「よっしゃウチに任しとき!」

 

 不知火と浦風は俺の言葉を聞いて、グッと手を握り込み気合を入れた。すると、横から川内がしなだれかかってきた。

 

「店長は何するの?鳳翔さん手伝うとは言ってたけど、私のとこもてつだってほしーなぁ」

 

 そんな川内を引き離しながら、俺は説明を続ける。

 

「わかったわかった、川内も手伝うよ。もちろん、二人もね。とりあえず俺は、皆のことをちょこちょこ手伝いながら、お菓子を作ろうかなって」

 

 そんな事を言いながらコックコートのポケットからとあるお菓子のレシピを取り出して見せると「まぁ、お菓子!」「いいねぇ」と言うような声がみんなから上がった。そうだよね、皆好きだもんね、お菓子。

 

 役割分担を発表したところで厨房内に散らばって、さっそく調理を始めることにする。材料は昨日店を休んで使ってない分と、今朝市場に行って仕入れてきた分を既に運び込んであり、後は調理するだけだ。

 

 まずは鳳翔、翔鶴の空母組の様子から見ていこう。と言っても、この二人なら調理そのものは心配してないし、手が足りなそうだったら手伝うか。

 

「それでは翔鶴さん、ご飯が炊けるまでの間に具材を用意してしまいましょう。そこまでやっておけば、後は混ぜるだけですからね」

 

「はい、鳳翔さん。指示をお願いできますでしょうか?」

 

「まずはシイタケとかんぴょうを煮ましょう。量は多いですが、昨日店長さんから言われていて二つともすでに戻しておいてあるので、煮るだけですよ」

 

 二人のそばに行くとそんな会話が聞こえてきた。そうそう、今日この会をやるって決まってから、鳳翔に連絡して用意しておいてもらったんだよね。さすがにこれは今日集まってから戻して作るって訳にはいかなかったからね。普段は鳳翔から料理の相談を受けることが多いのだけれど、連絡先を交換しておいて良かった……って言ってもうちで働いた事がある子とはみんな交換してるんだけれどね。

 

 そして、そんな会話をしていた二人はさっそく煮物を作り始めたみたいだ。昨日から戻しておいたシイタケの戻し汁に醤油・みりん・砂糖を加えて煮汁を作り、戻したシイタケとかんぴょうを入れて中火で煮ていく。沸いたらアクを取って落し蓋をして数十分煮れば出来上がりだ。

 

 うん、やっぱり和食は鳳翔に任せておいて問題ないね。それに二人とも割烹着が良く似合ってるわ。

 

 そのほかの具材として彼女たちが用意しているものとして、こちらは市販品になるが酢ばすと、翔鶴が焼いている錦糸卵、鳳翔が作っている桜でんぶがある。

 

 錦糸卵はフライパンで卵を薄く焼いて粗熱を取った後、切りやすいように丸めたり重ねたりして細く切っていく。

 

 桜でんぶは、今回は近海で取れた鯛で作っているようだ。一つまみの塩を入れて茹でた鯛の身から、丁寧に皮・骨・血合いを取り除き細かくほぐしていく。できるだけ手で細かくしたらフライパンに移して、酒・塩・水を加えてさらに細かくしながら炒り煮にしていく。この時ほぐれやすくするのに、鳳翔は六本の菜箸をまとめたもので混ぜている。さすが、わかってるね。

 

 最後に食紅を垂らして色を付けたら、鮮やかな桜色のでんぶが完成だ。正直どちらの具材も昨日のうちに作り置きしておくこともできたのだけれど、シイタケなんかに比べてそこまで時間がかかる物でもないからね。出来立てを用意できるのであれば、それに越したことはない。

 

 ここまで後ろから眺めていたけれど、どうやらこのコンビは今のところ手伝いはいらなそうだね。手伝いが必要になるのはご飯が炊けてからかな?と、思ってその場を離れようとした時だった。

 

「店長、これ何?とりあえず洗ってはみたたんだけど、蛤と一緒にこれも置いてあったんだよね」

 

 少し離れた流しで貝を洗っていた川内がとある物を掲げながら声をかけてきた。それを見て説明しようと口を開きかけたところで、鳳翔が代わりに説明してくれた。

 

「川内さん、それはホンビノス貝という貝ですよ。蛤には劣りますが、それも美味しい貝です。蛤と同じように使えますよ」

 

「へぇー、ありがとう鳳翔さん。さすが、良く知ってるわね」

 

 と、先日入手したばかりの情報を披露する鳳翔。川内が再び仕込みに戻ったところで、鳳翔はこちらを向いてペロリと舌を出しながらウインクをした。うん、かわいいから許そう。

 

 とりあえず、ここは二人に任せて川内の様子を見に行こうかな。大量の貝も洗い終わったみたいだしね。

 

「あっ、店長いいところに来てくれた。とりあえず蛤の潮汁は決まってるとしても、他の料理をどうしようかなって思ってたの、相談に乗ってよ」

 

「あぁ、もちろん。でも、川内のことだから何となく考えてるのはあるんだろう?」

 

「まぁねー。潮汁に使う分以外の蛤は煮ハマにしようかなって思ってるんだけど、このホンビノスとやらをどうしようかなって」

 

 なるほど、煮蛤ね。ナイスチョイスなんじゃないかな?そのまま摘まんでもいいし、ちらしずしに混ぜても美味しいよね。で、ホンビノスをどうしようか……って事か。

 

 そもそもこのホンビノスは昨日急に決まったこの会に使うのに、元々店で注文していた蛤だけでは足りなそうなので蛤を追加注文しようとしたところ、一年で一番蛤が消費される日なうえに離島であるここでそんなに量が揃えられるわけもなく、代わりにと安く仕入れさせてもらったものだ。

 

 あの貝屋の兄ちゃんにはちょっと無茶言っちゃって申し訳なかったけど、その分いろいろ買ったから許してくれるだろう。

 

「どうせなら洋風で攻めてみるってのはどうかな?」

 

 ホンビノスを仕入れた経緯を思い出しながら、川内にそんな提案をしてみると「ようふう?」なんて感じで首を傾げてきた。

 

「そ、洋風。茹でて剥き身にしたものにエスカルゴバターを和えてみたり、春野菜と一緒にワイン蒸しなんて美味しそうじゃない?」

 

 まぁ、そんな感じで作り方を簡単に説明すると川内も味を想像したのか、目を輝かせながら何度も首を縦に振った。

 

「うわぁー美味しそう!それにするわ、ありがとう!……あ、でも『エスカルゴバター』って?」

 

 エスカルゴの入ったバター……ではなく、エスカルゴを焼くときに殻の口の部分に塗って使うガーリックバターの事だ。ニンニク・パセリをバターと混ぜて作ったもので、貝類やキノコ、ステーキなんかにも良く合う調味料だ。

 

 そんな話をしながらも手際よく貝を茹でて、口が開いたものを二人で剥き身にしていく。貝剥きがあれば楽なんだろうけど、今回は無いので適当な大きさの貝殻の片方を外してそれを使って剥いていく。

 

 慣れないうちはスプーンでやってもいいけど、慣れると貝殻の方が早くきれいに剥けるんだよね。殻の内側と縁のカーブが、なんか、こう……いい感じのフィット感?的な。

 

 川内と二人で貝剥きマシーンになって黙々と作業を続け、そろそろ終わるかなといった所で浦風からお呼びがかかった。

 

「店長はん、ちょっと手伝ってもらえんかのう」

 

「こっちはもう私一人でも大丈夫だから、行ってあげて」

 

 と、川内も大丈夫とのことなので、浦風の所へ向かうと大量の鶏肉と格闘しているところだった。

 

「つまめるもので皆が好きなものっちゅーことで唐揚げを作ろう思ったんじゃけど、この量を切るだけでも時間かかってしまうけぇ、手伝ってほしいんじゃ。終わり次第ウチは不知火姉ぇのミニハンバーグ作り手伝うわ」

 

「そういう事ならこの下ごしらえは俺に任せてくれていいよ。浦風は不知火の方に行ってあげて」

 

「ほんとぉ?いやー、ぶち助かるわぁ。ありがとうね」

 

「いいっていいって、それで?味付けは何にする予定だったの?」

 

「んー、普通に生姜醤油でって思っとったんじゃけど……店長はんにお任せするんよ」

 

 浦風はそう言って不知火を手伝いに行った。俺たちの会話が聞こえていたのか、不知火がこちらに向き直りお辞儀をしてきた。これもチームワークってことでそんなに畏まらなくていいんだけど……よし、いっちょやりますか。

 

 とりあえず大量の鶏モモ正肉を一口大の唐揚げ用に切っていく。そして、切りながら味付けをどうしようかと考えたんだけれど……どうせなら何種類か作りたいよね。

 

 まずは基本の生姜醤油と、ニンニクとゴマ油を効かせた塩唐揚げ、あとは衣にカレー粉を混ぜてカレー風味も作ろうかな。それと、思いっきり俺の好みなんだけど、梅しそ唐揚げも作ろう。これは醤油・酒・叩いた梅肉で下味を付けた鶏肉を大葉で巻いて揚げたやつで、さっぱりしてて美味いんだよね。どっちかと言うと大人の味だし、加賀さんや長門さんなんかは絶対気に入ってくれるだろう。

 

 そんな感じで皆で手分けして仕込みをやっていったので、量こそ多かったもののその割には早く終わった。後は出来立てを食べてもらいたいので、ご飯が炊けてちらし寿司ができたくらいから調理を始めればちょうどいいだろう。よし、じゃぁ俺の方のお菓子もみんなに手伝ってもらいながら作ってしまおうかな。

 

 まずはひな祭りに欠かせない『ひなあられ』。昨日のうちに五ミリ角くらいに細かく切っておいた餅を油でカリカリになるまでくっつかないように注意しながら揚げる。揚がった餅の油が切れて冷めた物を、三つに分けてビニール袋に入れ、一つは粉糖、一つは粉糖と抹茶、もう一つは粉糖と食紅を入れて良く振ってまぶしたら白・緑・紅のひなあられの完成だ。

 

 こんな感じで簡単に作れるので作ってもらってる間にもう一つ、ひな祭りに欠かせない菱餅……はちょっと大変なので、今回は『菱餅風ミルクプリン』を作る。

 

 まぁ、こっちも材料を混ぜて固めるだけなので簡単と言えば簡単なんだけど、一番下の抹茶ミルクプリンがある程度固まったら、その上に白いミルクプリンの元を流し入れる。それが固まったら、イチゴジャムを混ぜたピンクの苺ミルクプリンの元を流し込んで固めていく……っていう工程はちょっと面倒くさいかな。

 

「さて、これで後は一時間くらい冷やせば出来上がりかな」

 

 最後の型を冷蔵庫にしまいながらそう言ったところで、ちょうどご飯が炊きあがったみたいだ。以前恵方巻パーティーの時にも使った桶にご飯を移して、手早くちらし寿司を完成させてしまう。

 

「店長さん、お味見お願いします」

 

「あっ、これも」

 

 出来上がったちらし寿司を小皿にとって鳳翔が味見をと渡してきたところに、川内が横から煮ハマを乗せてくる。

 

 江戸前寿司のネタで出る煮ハマは正確に言うと、下ごしらえをして茹でた蛤を調味液に一晩くらい漬け込んで作る『漬け』なんだけど、川内に作ってもらったこれは酒・醤油・砂糖・生姜を使って弱火で煮込んだ浅炊きの佃煮と言った感じだ。火が通りすぎて硬くならないように丁寧に煮られているようで、見た目もプリッとしている。

 

 いやー、なんというかどっちも美味そうな匂いだし、これで不味かったら詐欺だろう。まずはちらし寿司、続いて煮ハマと順番に味わう……あー、いいね。この味。

 

「大丈夫、ばっちりだよ」

 

 そう言って二人に笑いかけると「いぇーい」と言いながらハイタッチを交わす。鳳翔がハイタッチとかちょっと珍しい光景なんじゃない?ともあれ……

 

「予定の時間も近づいてるし、この調子で他の料理も完成させちゃおう」

 

 という俺の言葉にみんなは「おー!」と拳を上げて返してくれた。よし、最後まで気を抜かずに頑張ろう!

 




という訳でネタが周回遅れなうえに後半へ続きます……


潮汁……潮……汁
ごめんなさい、なんでもありません。


お読みいただきありがとうございました

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