鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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昨日に引き続きひな祭り後半です


四十六皿目:艦娘たちのひな祭り2

「おー!美味そうだぜ、なぁほっぽ。ひひっ」

 

「ウマソーダゼー、サドー」

 

 あらかた料理も終わり、テーブルに並べているところで食堂のドアが開いて艦娘達がやってきた。その先頭に立って真っ先に入ってきて声を上げたのが手を繋いだ佐渡ちゃんとほっぽちゃんだった。

 

 へぇ、もう仲良くなったんだ。先に顔見せだけは済ませておくとは言ってたけど、この様子だと何の心配もいらなかったみたいだね……ちょっと二人の言葉遣いは気になるところだけれど……。

 

「こら!そんな言葉遣いはレディーじゃないわ!」

 

 その後ろから注意しながら入ってきた暁に続いて、他の艦娘たちもやって来た。それぞれの表情は一様に穏やかで、特に問題が発生している様子は無かった。

 

 食堂に入ってきた皆に適当に座ってもらっているうちに、テーブルセッティングを済ませてしまうことにする。すると最後に入ってきた金剛さんが近づいてきて、話しかけてきた。

 

「こんなにたくさんのお料理thank youネ、ヒデトサン。ワタシも何か手伝うネー」

 

「ん、どういたしましてだ。でも、今日はどっちかつーと俺はサポートで、皆がメインで頑張ってくれたからね。後で皆のことも褒めておいてくれるかな?」

 

「Sure!もちろんデース!」

 

 そんな会話を交わして笑い合い、金剛さんにも手伝ってもらいながらセッティングを終えた。すると、食堂のドアが開かれてさくらが一人の男性を伴って入ってきた。

 

「はーい、ちゅーもーく。おいしそうな料理がいっぱい並んでて早く食べたいのはわかるけど、その前に町長さんからありがたーいお話よ。」

 

 みんなから見やすい位置に立って、手を打ちながらそんなことを言い、町長を一歩前へと促す。俺たち調理組も作業の手を止めて、壁際で並んで待機の姿勢を取った。

 

「えー、ただいまご紹介にあずかりました町長です。初めて会う人もいると思いますので、自己紹介を……と思ったのですが、まぁ『町長さん』とでも呼んでもらえれば結構です」

 

 町長が自己紹介を始めようとしたところで、隣に立っていたさくらが彼に見えるように指を回し始める。あれは俗にいう「巻きで」ってやつだ……いくらしょっちゅう顔を合わせて公私共に気心知れた仲だからって、そりゃぁちょっと町長がかわいそうじゃないかなぁ?ほら、俺に向かって悲しそうな目を向けてきてる……のを見なかったことにする。

 

「……ごほん。それでは手短に……今日は楽しそうな会に呼んでいただきありがとうございます。そして、先ほど皆さんの新しいお友達ともお話をさせていただきました……最初に聞いた時にはびっくりしましたが、いざ会ってお話をしてみるととてもいい子で、ありがたいことに私もお友達にしていただくことができました」

 

 と、そこまで話して町長はほっぽちゃんに手を振ると、ほっぽちゃんも笑顔で手を振り返した。

 

「こうして、彼女のような存在とも笑顔で向き合えるということが分かった今、島民に危険が無いということが大前提ではありますが、今後彼女と同じような存在が現れた時には我々の仲間として迎え入れていくことをお約束して、ご挨拶と代えさせていただきたいと思います。ありがとうございました」

 

 そう言ってお辞儀をして一歩下がると、食堂内に集まっていた艦娘達から大きな拍手と歓声が送られた。どことなくいつも島民の前で行う挨拶よりも鼻の下が伸びていたように感じるのは気のせいだろう。

 

「さて、町長さんの挨拶も終わったところで、いよいよお待ちかねのパーティーよ!みんなグラスは持ったかしら?……よろしい。それでは総員、起立!右向けー右!」

 

 さくらの号令と共に、それまで座って話を聞いていた艦娘たちが一斉に立ち上がり、正面向かって右側……つまり俺たちが待機している方を向いた。いきなりの状況について行けない俺たちが顔を見合わせているとさくらが言葉を続ける。

 

「今日の料理もそこにいる秀人たちが作ってくれたわ。いつものことかもしれないけれど、いい機会だからいつものお礼に代えて乾杯ということで……それじゃ、かんぱーい!」

 

 さくらの号令に続いて、食堂内から「乾杯!」「ありがとう!」といった声が一斉に上がる。改めて言われると恥ずかしいけど、嬉しいもんだな。

 

 みんなの声に応えるように俺たちもグラスを掲げ、一口飲むと拍手が起こった。そんな暖かいサプライズに先ほどとは違う表情で、再び顔を見合わせた。とは言えまだ仕事は残っているので、調理組の皆に呼びかける。

 

「さて、ちょっとびっくりしたけど、仕事に戻ろう!大皿料理はそれぞれのテーブルで取り分けてもらうとして、川内潮汁は?」

 

「もちろん、バッチリよ!」

 

「それじゃ、皆で手分けして配膳していこう。もうほかの子達は手を付け始めてるから手早くね」

 

 そう言いながら厨房へと戻って、川内がよそってくれた蛤の潮汁をみんなで配っていく。

 

 今日の潮汁はシンプルに具材は蛤と飾り付けの三つ葉のみ。作り方も、蛤と昆布を鍋に入れて水から火にかけ、アクを取りながら加熱して沸騰したら昆布を取り出す。そのままグラグラやってしまうと蛤の身が固くなってしまうので、火を弱めて貝の口が開いたところで風味付け酒を加えて味を見ながら塩を足すといった単純なものだ。

 

 ただ、単純なものではあるけれど丁寧にアクを取ったり、硬くならないように火加減を調整したり、わずかな量で味が変わってしまう塩加減など、美味しく作るのは難しいと思う。そんな難しい料理だけれど、川内は見事にこなしてくれた……さすがは一番弟子ってところか……いや、弟子を取った覚えも、そんな腕も俺にはないんだけど……。

 

 潮汁が乗ったお盆を運びながらそんなことを考える。そして、運ぶ先はさくらと町長さんのいるテーブルだ。

 

「どうぞ町長さん、蛤の潮汁です。熱いのでお気をつけて……はい、さくらも」

 

「うむ、ありがとう」

 

「さんきゅー」

 

 二人の前に蓋つきのお椀を並べると、さっそく蓋を外し始める。その間にテーブルについていた他の面々にもお椀を渡していく。

 

「おぉ、これは美味しそうだね……うん、この香りこの味。やはりひな祭りにはこれが無くてはね」

 

「あー、おいしいわねぇ……これは誰が?……そう、川内が作ったの。今度はしじみで作ってもらおうかしら」

 

 さくらの最後の一言はともかく、二人とも気に入ってくれたみたいだ。ま、実際美味しいのは間違いないしね。

 

 さて、普段は店にお客さんで来るくらいしか会う機会が無い町長さんや、さくらとさっきのことについてゆっくり話をしてみたいところなんだけれど、料理を作った側としては皆の反応も気になるところだし、ちょっとほかのテーブルも回ってこよう。と、軽くあたりを見回したところで、ちょっと気になる子達を発見したので、近づいて声をかけてみる。

 

「やぁ、青葉さんに衣笠さん、ひさしぶり。二人は食べないのかい?」

 

「あっ!喫茶店のご主人!ご無沙汰しておりますー」

 

「店長さん、お久しぶりー。まずは写真をと思ってね」

 

「なるほど……えーっと……聞いていいかわかんないんだけど、二人はここの所属じゃないのに、今回の事って……」

 

 普段は軍事機密なんてとか言いながら聞かないようにしているのに、我ながらダブスタ甚だしいなと思いながらも気になって聞いてしまった。まぁ、現状を見れば悪いようにはなってないのは明らかなんだけどね……。

 

 すると、そんな心情を少なからず察してくれたのか、苦笑いを浮かべながら青葉さんが答えてくれた。

 

「御心配には及びません。私たちはこちらのさくら提督も賛同しておられる深対本部の大将の派閥……という言い方が正しいかはわかりませんが、同じ考え方ですので。それにうちの編集長……あっ、これは正式な肩書や階級が堅苦しいとのことで本人からそう呼ぶように言われているのですが……その編集長と大将、さくら提督の間でも話がついていますので、我々のこの写真も取材というより参考資料として大将に提出される予定です」

 

「そっか、それはよかった。でも、せっかくのパーティーなんだし、君たちも適当に切り上げて楽しまないと……今日は君たち女の子のお祭りなんだから……っていうか、うかうかしてると料理がなくなるよ?」

 

「はーい、そうしますね。さっきから青葉のお腹も鳴りっぱなしですし」

 

 そんな風にからかう衣笠さんと「ガッサはすぐそう言うことを言う!」と拳で鋭いツッコミを入れている青葉さんに別れを告げて別のテーブルへと向かう。

 

「ヒデトーコッチコッチ!コレウマイ、イッショニクオウ!」

 

「てんちょー。このハンバーグ美味いな!今度店でも作ってくれよー」

 

 そんな声に呼ばれてやって来たのはほっぽちゃんと佐渡ちゃんの所だ。

 

「二人とも仲良くなったみたいで良かったね」

 

 入ってきたときも二人で手を繋いでいたし、こうして二人並んでいるところを見ると、幼稚園か小学校低学年の友達の様にも見える。そしてそれぞれの隣で甲斐甲斐しく世話を焼いている暁たちがお姉さんってところか。幼い食べ方にもかかわらず、この二人の周りが汚れていないのは彼女たちお姉さんの力だろう。

 

「おう!仲良くなったんだー、こう見えてほっぽってつえーんだぜ!」

 

「ウン、ホッポツヨイ!」

 

 えーっと……仲良くなる基準ってそこ?……だけって訳じゃなくて、単純に気が合うってこともあるんだろうけど、というかほっぽちゃんが強いってどういう事?と思い、誰かに説明してもらおうかとあたりを見回すと、ここのテーブルのまとめ役だろうか?龍驤ちゃんがいることに気が付いた。

 

「なんや、ちょーっと不本意なことを考えとる顔な気ぃもするけど、まぁええわ。そもそも艦娘や深海棲艦がどういう理屈で攻撃しとるかっちゅーのが、守りたいとか恨みとかの想いの力が云々かんぬんでー……えー……まとめるとやね、ほっぽは実際の戦闘はできひんけど、演習はめっちゃ強いっちゅうことや。それがさっき試しにやってみたらわかってな、それを見た佐渡が目ぇキラキラさせてほっぽに突撃して、意気投合。今に至るって感じやな」

 

 途中でめんどくさくなって細かい理屈は省いたみたいだけど、周りの皆も頷いているところを見ると、話しの後半にあった仲良くなった流れっていうのは合ってるんだろう。ともあれ、仲良くなって良かったねってことで、ミニハンバーグをおいしそうに頬張る二人の頭を撫でながら、少し話してその場を離れた。

 

 躊躇いつつ向かったのは、空母・戦艦組が集まるテーブル。特に艦種で分けたわけではないはずなのに、自然とそのメンバーが集まっているのにはそれなりに理由もあって……

 

「あら、店長さん。こんにちは……こちらの唐揚げは店長さんの味付けだそうですね。とてもおいしいです。ねぇ加賀さん」

 

「えぇ、こっちの梅風味も美味しいですよ赤城さん。ともすれば脂っこく感じてしまう鶏モモの唐揚げですが、梅の酸味と大葉の風味でさっぱりといくつでも食べられそうです」

 

 最初ににこやかに声をかけてくれたのは赤城さんだった。基本の生姜醤油の唐揚げをつまみにお猪口を傾けている。続いて梅も美味しいと言ってくれた加賀さんだったが、彼女も同じようにお猪口を手に持っていた。

 

 二人の前にはほんのり泡が残ったグラスが置かれているので、これは既に第二段階へ移行しているということなのだろう。となれば、やることはひとつ……深入りせずに撤退だな。

 

 そんな感じで各テーブルを回りながら料理の感想を聞いたり世間話をしたりしていると、それぞれの料理もいい感じに減ってきたようなので、ここらでデザートを出そうかね。と、そう思って邪魔にならないように厨房へと向かうと後ろから声をかけられた。

 

「店長手伝うクマー」

 

「そうですわ、わたくしたちもお世話になった経験がありながら今日は都合がつかずお手伝いできなかったので、なにかなさるのでしたらぜひお手伝いさせてくださいな」

 

「そうそう店長さん、期間は短かったけど私たちだってお店の一員なんですから」

 

 そう声をかけてきてくれたのは、以前手伝いに来てくれた子達で、今日の調理に時間が合わなくて来られなかった球磨、熊野、吹雪だ。彼女たちの後ろでは鈴谷も手を振っている。

 

「ありがとうみんな。それじゃコレをテーブルに配って行ってくれるかな」

 

 と、俺が見せたのは漆塗りの大きめの菓子皿に乗せたひなあられだ。

 

「お、おいしそーじゃん?いっただきー……んー、サクサクで甘さ控えめで美味しー」

 

 鈴谷が一つ手に取って口に放り込むと、嬉しそうな顔でそう言ってくれた。熊野も口では「こら、はしたないですわよ」なんて注意しているけど、自分も気になってしょうがないっていうのが表情に出まくってるので、一つずつ味見と言うことで皆に勧める。

 

 それぞれが思い思いの表情で美味しさを表現している間に、もう一つ用意していた菱餅風牛乳プリンが入った型を冷蔵庫から取り出していく。まぁ、型と言っても一人分づつ作っていては数が足りないので、ある程度深さがあるバットに作ってそこから切り出すようにした。それでもかなりの数のバットが必要ではあったのだけれど……

 

 ともあれ、二・三回フォークを入れて食べきれるくらいの大きさで菱形に切りだして、崩れないように丁寧にお皿に盛り付けていく。センスに不安はあるが、できるだけ可愛らしくね。

 

 すると、これも予想どおりではあるのだけれど皆がこちらをじっと見つめてきていたので、切り出すときにできた菱形になってない部分を渡す。

 

「ふわぁ、優しい甘さでおいしいですー」

 

「クマはこの抹茶の所が気に入ったクマ。ここだけ食べたいクマ」

 

 吹雪は口に入れた瞬間その甘さにやられたようで、頬に手を当てて目を瞑ってうっとりとしている。方や球磨は一層ずつ剥がして食べたみたいで、抹茶が気に入ったみたいだ。今度店でもそれぞれ単品でデザートとして用意してみようかな……それにしても、こういう層構造のものって一枚ずつ食べる子必ずいるよね。ミルクレープとか、バウムクーヘンとか……

 

「さ、味見したら持って行ってくれるかな?向こうの皆も待ってるだろうしね」

 

 俺がそう言うと皆「はーい」と素直な返事をして、お盆を手に取り運んで行ってくれた。すると、ほどなくして食堂の方から今日一番の歓声が上がる。やっぱり女の子は甘い物が好きだねぇ……。

 

 厨房のカウンター越しに、はしゃぐ皆の笑顔を見ながら俺は自分用に分けておいた揚げ餅を口に運ぶ。

 

「やっぱり俺はこっちの醤油が染みた方が好きかな……」

 




長らくお待たせしてしまいましたが、これでひな祭りは終了
次回からまたいつもの日常に戻ります


ちょっと秀人やさくらの町長さんに対する態度がアレな感じもしますが
秀人は店に来た時に、さくらは普段の仕事の流れで、また島の出身と言うこともあり
共通の話題も多く年齢や立場を超えて仲良くなっています。
特に今回は身内のパーティーと言うこともあってこんな感じですね
もちろんTPOはわきまえてます

お読みいただきありがとうございました
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