鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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今回はタイトルからもわかる(?)ようにあの国の艦娘のお話です……



四十七皿目:Nostalgia1

 ある日の夕方、霧島さんが神妙な顔つきで来店してきた。何やら相談事があるらしいのだけれど、とりあえず立ち話もなんなのでカウンター席に座ってもらうことにする。

 

「ハイキリシマ。オミズトオシボリ」

 

「ありがとうほっぽちゃん」

 

 すっかりうちのおしぼり・お冷係が板についてきたほっぽちゃんから受け取ったお冷を、霧島さんはグイっと煽って「ふぅー」と息を吐き、うつむいたまま話を切り出してきた。

 

「あの、マスターさん。相談なんですけど……マスターさんはイタリア料理もレパートリーが多いじゃないですか?家庭料理みたいなものも作れたりしますか?」

 

「イタリアの家庭料理か……まぁいくつかうちのメニューに載せてない物も思いつくのはあるけど……どうしたの?」

 

「本当ですか?実は――」

 

 俺の返事を聞いて、勢いよく顔を上げて反応した霧島さんは、反射的にしてしまったその行動に顔を赤く染めながら、ゆっくりと説明をしてくれた。

 

 霧島さんの話によると、最近着任した艦娘でイタリア生まれのリットリオさんという戦艦娘がいるらしく、霧島さんが案内役というか、慣れるまでのお世話係になったらしい。そしてそのリットリオさんがどうやらホームシックなのだそうだ。

 

「なるほどね、それでイタリアの家庭料理を食べさせてあげたいってことか」

 

「ええ、今日まで何かと忙しくて時間が作れなかったのですが、明日私と一緒にお休みがもらえたので、こちらのお店に連れてこようかと……昨日こちらのパスタが美味しいという話をした時も興味津々だったので、どうせならパスタ以外のイタリア料理も食べさせてあげたいなと思いまして」

 

 日本人が海外で味噌汁が恋しくなるような感じで、帰りたいというよりも故郷の味が恋しいってことなんだろうな。ま、そういうことならぜひ腕を振るわせてもらおう。そう返事をしようとしたところで、いつの間にかカウンターに入ってきて俺の隣で話を聞いていた雷が声を上げた。

 

「それは協力してあげたいわ!ねぇマスター?」

 

 さすがは第六駆逐隊のお母さん。元気のないリットリオさんが心配なようで、そう言ってこちらを見上げて来た。そんな雷の頭を撫でながら、俺も霧島さんに返事をする。

 

「そうだね雷。霧島さん、俺でよかったら協力するよ。本場の味には敵わないかもしれないけれど、精いっぱい料理を作らせてもらうつもりだ。」

 

「あ、ありがとうございます!それでは、明日の今くらいの時間に連れて来ますね」

 

 霧島さんはそう言うと、まだ仕事があるということでそそくさと鎮守府へ戻っていった。リットリオさんの訓練中にちょっとだけ抜け出してきたらしい。

 

 ちなみに、霧島さんがお世話係になった理由と言うのも、そのリットリオさんの妹艦……ローマさんというらしいのだけれど、彼女も姉思いで真面目なメガネっ娘だそうで霧島さんと似たタイプと言うのが理由だということだった。すこしでも寂しさが紛れるようにというさくらの配慮らしい。ふーん、なかなか部下想いなさくら提督さんだね。

 

 そして、翌日の昼休み。俺たちは夕方来るという霧島さんとリットリオさんに出す、とあるメニューの仕込みをやっていた。

 

 まずはボウルに分量の熱湯に同じ重さの薄力粉を良く混ぜてラップをかけて十分弱くらい置いておく。その間に残りの薄力粉・砂糖・塩・ベーキングパウダーを混ぜ合わせておく。

 

 熱湯と混ぜた生地に、合わせた粉と水を少しずつ入れながら混ぜていき、最後にオリーブオイルを入れて、実は結構力強いと判明したほっぽちゃんにしっかりと捏ねてもらう。

 

「ンショ、ンショ。ヒデト、コンナカンジ?」

 

「うん、上出来!じゃあ次はこんな感じで一つ分ずつに分けていって麺棒で伸ばしたら、こうやって串で穴をあけてくれるかな」

 

 一つ見本にやって見せながら説明していく。そしてここからは雷にも手伝ってもらって、形を作っていくことにした。

 

「ところでマスターこれって何?ピザじゃないみたいだけど……パン?」

 

「イタリアのフォカッチャっていう物だよ。まぁ、パンと言えばパンなのかな?」

 

 そうしている間にもどんどん成型は進んでいって、程なくしてすべての生地の成形が終わった。そうやって作ったものを今度は三つに分けてそれぞれ違う特徴を持たせていく。

 

 まず一つは上に岩塩を散らしたシンプルなもの。もう一つは岩塩のほかに乾燥バジルとローズマリーを散らしたハーブ風味。最後が岩塩の代わりにシュレッドチーズを乗せたチーズ風味の三種類だ。さぁ、焼いていこう。

 

 予熱しておいたオーブンに入れて生地を焼いていく。その間に片づけを済ませてしまうと、しばらくしてオーブンが「チン」という音が聞こえてきた。

 

「さて、出来上がりはどうかな……っと、うぁっち!」

 

 仕上がり具合を確かめようとシンプルバージョンのフォカッチャを一つ取り出すと、その熱さに思わずお手玉状態になってしまった。焼きたてだから熱いのは当たり前なんだけど、少し冷めて何とか持てるようになったところで左右に割ると、指先からもちもちとした感触が伝わってきた。うん、この時点ですでにうまそうだ。

 

「はい、二人とも味見してみて。熱いから気を付けてね」

 

 そう言って二人に小さくちぎったフォカッチャを渡す。

 

 三人でふぅふぅと息を吹きかけて冷ましてからかぶりつくと、指先で感じた以上のもちもち感が噛む度に、歯に、顎にと襲い掛かってくる。

 

「オイシイ!モチモチシテル!」

 

「ほんとだわ。このもちもち感はクセになりそうね」

 

 うん、上手くできてる。もちろん夕方二人が来る頃には冷めてしまうのだけれど、その都度オーブンで温めなおせばまたモチモチ感は復活する……というかあらかじめある程度の量を作り置いておかないと、戦艦二人の食べるペースには間に合わないしね。

 

 そしてもうひとつ、今のうちに作っておきたい料理がある。それがリボリータという煮込み料理で、今までフランスのポトフ、ドイツのアイントプフと作ってきたけれど、それと同じようなイタリアの家庭の味。

 

 作り方はみじん切りにした生姜・ニンニクをオリーブオイルで炒めて香りを出したら、粗みじんか角切りにした玉ねぎを入れて、色が変わるくらいまで炒めてコクと甘味を引き出す。その後角切りにしたパンチェッタを入れて肉の脂とコクを引き出し、角切りにしたジャガイモ・にんじん・白いんげんとひよこ豆の水煮を加えてサッと合わせたら、ブイヨンを入れて煮込んでいく。

 

 今回はパンチェッタを入れたので、塩味はそれで十分。具材に火が通ったところで黒コショウを少しと、オリーブオイルを回しかけて完成だ。

 

 実はこの料理、家庭の味と言うだけあってこれといって決まった材料はない。じゃがいもと白いんげんは欠かさないらしいけど、それ以外は実際の所冷蔵庫にあるものを使って作るみたいだ。そもそもイタリアでは固くなった前の日のパンを入れて、おいしく食べるために作っているらしいし、パンチェッタなんてなくったって普通に売ってるスライスハムを入れても十分おいしい。

 

 というわけで、これも二人が来たら温めなおして出すことにしよう。そして、例によってほっぽちゃんと雷の二人にも味見をしてもらう。

 

「フカイアジワイ……」

 

「これはなんだかホッとする味だわ。初めて食べたのに不思議……」

 

 そう、この手の料理ってどの国のものでも、なんだかホッとする感じなんだよね。だからこそ長く、多くの人に愛されてるのかもしれない。……っていうかほっぽちゃん、そんな言い回しどこで覚えてきたのさ。

 

 ともかく、これでリットリオさんも喜んでくれるといいんだけどね。まぁ、このほかにも考えてる料理はあるし、後は二人が来てから気合入れて作るだけだ。

 




サイゼでフォカッチャ食べながら書きました
もちもちフォカッチャおいしい。




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