プロローグ
貴方は誰が好き?って聞かれたらきっと私は迷わずにこう言うだろう
おにーちゃんと……
だっておにーちゃんは優しい、本当の妹じゃないのに優しくしてくれる……
だから私はそんなおにーちゃんが好き。
この好きがどの好きなのかは判らない。でも好きである事に違いは無いと思う……
「やっと退院だね。龍花ちゃん」
「はい。お世話になりました。石田先生」
幼い頃から私の主治医の石田先生にお礼を言う
「長い事入退院の繰り返しだったけど、もう大丈夫学校にだって行けるよ。そしたらはやて君の後輩になるのかな?」
「やだなー石田先生。シグ兄とヴィータ兄を忘れてますよ」
「おっと。それは不味い、彼らも君にとっては大事なお兄ちゃん達だもんな」
「はい!大事なお兄ちゃん達です。それじゃあお世話になりました」
「あれ?お迎えは?リイン君とかシャマル君は?」
「退院するの秘密にしてたんです。驚かせたくて」
「大丈夫なのかい?」
2ヶ月前から入院し、漸く長い事付き合っていた病気とも開放された……入院生活で体力が落ちているのは実感しているが
「大丈夫です。それに元気になったんだし家まで歩いて帰りたいんです」
「ふー君は言い出したら聞かないか。でも気分が悪くなったらタクシーを呼ぶんだよ?」
ここから家までは20分程度。きっと大丈夫
「はい。それじゃお世話になりました」
私はもう1度頭を下げて。アインスに貰った日傘を差してゆっくりと歩き出した
「歩いて帰るの久しぶりだなー」
最近はアインスが車を買ったのでそれで送り迎えして貰っていたが。やはり自分の足で歩くのは良い物だ
「あれ?龍花ちゃん!?やっぱり龍花ちゃんじゃないか!!」
「こんにちは、おじさん」
家に帰る途中の八百屋のおじさんに話しかけられる
「もしかして今日退院だったのかい?でもシャマル達の姿が無いけど?」
「はい。驚かせようと思って連絡しなかったんです」
「あははは、なんだい悪戯好きなのは変わってないのかい?」
「あはは。おニーちゃん達の驚く顔が見たかったんですよ」
「そうかい。きっと驚いて喜んでくれるよ。今度ははやて達とおいで。退院祝いを上げるからね」
「ありがとうございます!」
昔馴染みの八百屋のおじさんと別れ。私は再度歩き出した、その歩幅は小さくゆっくりと街を歩いて行く姿はすれ違う者の視線を奪う。長い銀髪と透き通るような青い目。
そして彼女が纏う儚げな雰囲気は通り過ぎるすべての目を奪う。彼女はそんな自分を見る視線を気にも留めずゆっくりと自分の家へと帰った
「ただいまー誰も居ないよねー?」
靴を脱ぎながら声を掛ける、誰か1人でもいれば直ぐにでも顔を出してくるが……誰の反応も無い。それを確認してから私はリビングに向かった
「あ。けっこう綺麗。シャマルじゃないよね……うーんはやておにーちゃんかな?部屋掃除してたの」
アインスとシャマルは散らかす専門だし。ヴィータ兄やシグ兄は部活で忙しいからその2人でもない。となると消去法で部屋を片付けていたのははやておにーちゃんになる
「でも今日からは大丈夫だよね。私が片付けするから」
ふっふーん♪
鼻歌を歌いながら冷蔵庫を開ける
「あ、思ったより材料はある」
私を除くと料理が出来るのはヴィータ兄とはやておにーちゃんのみ。きっと冷蔵庫は空だと思っていたが予想より大分中身が入っていた
「よーし!さっそく夕食の準備をしよう!!」
おにーちゃん達が帰ってくるまであと4時間ほど、時間は充分にあるいーぱいッ!ご馳走を作って驚いてもらおう♪私はそんな事を考えながら料理を作り始めた
「あれ?シグナムにはやて?珍しいな帰る時間が同じになるなんて」
帰ろうと思い上履きから靴に履き替え。昇降口を出たところで珍しい2人組みを見つけた。長い紅い髪を首元で縛った長身の男子と同じく長身の男子を見つける……と言うか従兄弟のシグナムとはやてなんだが……靴を履きかけ近寄ると
「お前こそ珍しいな。部活は?」
「あーなんか早く帰らないといけない気がしてな。サボった、お前は?」
「私も同意見だ。今日は何故か早く帰ると良い事があるような気がした」
何時もの無表情でそう言うシグナム。本当こいつ表情変わらないな
「龍花が居ないから気落ちしてんのか?」
「…………違う」
「そんだけ黙り込んでたらバレバレだ」
それに声に力がない、落ち込んでるのが一目で判る。と言っても俺も
(寂しいんだけどな)
2ヶ月前から入院してる妹が居ないだけで家の明かりは消えてしまったかのように暗い
(ほーんと。龍花が居ないだけで全然雰囲気が違うんだよなぁ)
小柄でよく笑う可愛い妹、それが龍花。生まれつき身体が弱いそうで入退院を繰り返す彼女は1年の半分を病院で過ごす。だから家にいる間は楽しい思いをさせてやろうと皆が龍花に甘い。そんな龍花が居ないだけで皆雰囲気が変わる
「帰ろう。今日はなにか料理をする気分じゃない。どこかで出前でも取ろう」
「そうだなー偶にはそう言うのも良いか」
「……私は気落ちなんかしてない」
「判った判った。葛藤してろシグナム」
図星を付かれ自問自答状態のシグナムを無視して俺とはやては家へと向かって歩き出した
「何時退院して来るんだ?龍花は?」
「石田先生によると、今月の終わりくらいになるそうだ」
「げー後1週間もあんじゃねぇかよ」
あと1週間。されど1週間……その間ずっと我が家は暗いままか
「今度の休みにお見舞いに行こう」
「お、良いなそれ。きっと龍花も喜ぶ」
「本を買っててやろう」
「おっ?復帰したかシグナム」
何時の間にか再起動を果たしたシグナムが合流してくる。こいつは気落ちも早いが復活も早い。
「ん?アインスとシャマルも今帰りか?」
大学生のシャマルとホストをしているアインスと家の近くで合う。2人は
「何か今日は早く帰らないといけない気がして」
「私もだ。今日はきっと良い事がある、そんな気がした」
2人とも俺達と同じ事を言っている。しかし5人が5人とも同じ予感を感じるとは珍しい事だ
「今日は何か出前でも頼むつもりだが。2人は何が良い?」
「何でもいい。腹が膨れれば」
「私が作ろうか?」
「「「「黙れ!バイオ兵器製造人」」」」
全員が口を揃える。シャマルの料理?はっ喰えば死ぬようなもの誰が好き好んで喰うものか
「まぁまずは風呂入ってから考えようぜ」
俺達はそんな話をしながら家へと帰った
「誰が風呂淹れる?」
「今日は私がやろう。ヴィータは洗濯物を」
「あいよ」
龍花が居ないので当番制で家事を受け持っているが学校の後の掃除とかは正直しんどい。がそんな事を言ってられないので我慢する
「ただいまー」
「誰もおかえりと言ってくれんのはつまらんな」
「半分習慣になってるからなあ」
家に帰ってただいまと言うと龍花が飛び出してくる。その時の龍花の笑みを見るのが好きで皆ただいまを言うのが癖になっていたが。今はお帰りと言ってくれる者は居ない。
(なんかアホらしいよな……ただいま言わなくても良いんじゃないか?)
がやがやと話をしながらリビングの扉を開く、案の定電気などついておらず出迎えてくれる者も居ない
「シグナム。電気を」
「今……」
パチン!!
シグナムガ電気をつけようとした瞬間独りでに電気がつく、外が暗かったので一瞬視界が潰される。俺達が反射的に目を閉じた瞬間、実に楽しそうな声で
「はやておにーちゃん!シグ兄!ヴィータ兄!アインス!シャマル!皆おかえり!!」
ここには居ない筈の龍花の声がした。ゆっくりと目を開くとそこには華の咲くような笑みで微笑む龍花の姿があった
「龍花?どうして?」
「へっへーなんと私は今日が退院日でした!!どう!どう!驚いた?」
悪戯成功!と言いたげな顔で笑う龍花。白いワンピースでくるくると踊るその様子は変かもしれないが。妖精の様に美しく可愛らしい、見るもの全てを虜にする神聖なまでの美しさ。それが龍花の魅力だった
「どうして連絡しなかった?」
「驚かせたかったんだ♪」
にこにこと微笑む龍花はそのままトトトッと近付いてきてはやてから順番に抱きつき嬉しそうに笑う
「へへ、ヴィータ兄♪」
うっ……思わずくらっと来るほどに愛らしい笑みを浮かべた龍花は
「お風呂もねご飯も用意してあるの!早く皆で食べよう?私待ってるから」
にこにこと微笑みソファーに腰掛ける。龍花……話したい事聞きたいこと色々あったが。今はいい
(だってそんな事どうでもよくなったしな)
にこにこと笑う龍花がここに居る。それだけでなんと家が明るく感じる事か……
(ったく単純なもんだよな俺達も、龍花が居るだけで皆笑ってやがる)
俺含めて全員が既に龍花に魅了されている。その事を改めて実感した俺は苦笑しながら頭をかいた。どうやら明日からは毎日ただいまを言う必要があるなと思いながら……
第1話に続く
第1話に続く
えーとどうでしたか?面白かったでしょうか?もしそうなら良いのですが。ほのぼのをメインにした学園物?パロディの「海鳴のお姫様!!」は初挑戦のカテゴリーなので感想等もらえると嬉しいですそれでは次回の更新もどうか宜しくお願いします