第44話
コン、コン
「お客様のようですね」
昼食の準備をしているときに聞こえたノック音に首をかしげながら包丁を置き
「ガウェイン「はい!調理の続きを」しなくていいので。お湯を沸かしておいてください。お嬢様に紅茶を淹れるので」
そんなっと叫ぶガウェインを無視して玄関に向かう
(ん?これは?)
コン、ココン、コンコン
リズミカルなこの叩き方には聞き覚えがあった。夜遅くまで遊んでいてウーサー様に家を閉め出されたときのネロ様のノックの仕方だ
(まさか……な)
きっとただの偶然だと思いながら扉を開くとそこには
「うむ!余が帰ったぞ!ランス!」
「あの?ネロ……僕なんでここにいるの?」
「気にするな!白野!」
赤と黒のコントラストが美しいドレスタイプの上下に身を包んだネロ様と
「ど、どうも、これその買ってきたので皆さんでどうぞ」
菓子折りを抱えた少年の姿が……私は数秒フリーズしたが自分でも驚きの速度で再起動し
「ね、ネロ様アアアアアアアッ!?!?」
4年ぶりの再会は突然で私は驚きの余りそう叫んだのだった……そしてその叫びの数秒後
「ね、姉さん!?今までどこにいたんだ!?」
「ネロ!?いままでどこにいたのですか!?」
階段を駆け下りてくるお嬢様とモードレッドを見ながらネロ様は
「白野。あの2人がが余の妹と弟だ。仲良くしてやって欲しい」
「僕は人見知りとかしないから平気だよ?」
ネロ様は後ろの少年の手を握りお邪魔するぞ!と言って私を片手で押しのけ家の中に入ってきた。相変わらず嵐のような人だと私は思いながらネロ様の連れてきた少年を横目で見ると
ペコリ
軽く頭を下げてくる少年を見て私は礼儀正しい子だと思った。菓子折りも持ってきているし良い子だと思った。それが私の「岸波白野」に対する第一印象だった
リビングのソファーに腰掛け。懐かしいと笑うネロとその隣でどうしたものかと言う顔をしていたが
「えーと。岸波白野と言います。これ良かったらどうぞ」
そういって差し出されたのは有名な和菓子屋のドラ焼きセットだった
「ご丁寧にどうも。ネロの妹の「アルトリア・セイバー」と言います。こっちは弟の「モードレッド・セイバー」
自己紹介しモードレッドに挨拶しなさいというと
「モードレッドです。ハクノでいいか?」
「どうぞ。僕もモードレッドと呼ばせてもらいますね」
にこにこと笑うハクノの隣でネロが
「うむうむ。自己紹介は済んだようだな。よし!では白野帰るぞ!」
そう笑って立ち上がるネロにモードレッドが
「姉さん!?何をしに来たんだ!?4年ぶりに来たと思ったらすぐ帰るってどういうことだよ!?」
私もそう思っていたいきなり尋ねてきていきなり帰る。ネロらしいと言えばらしいのだが、余りに速すぎるのでは?と思っていると
「ネロ?4年ぶりなんでしょ?少し話をしたらどうかな?」
「む……うむ。それもそうだな。白野、お前の言うとおりだな」
妹弟よりも……?何故ハクノが連れてこられたのだろう?ここで初めてその事に疑問を感じ
「ネロ?その……ハクノは一体何故連れてきたのですか?」
モードレッドもそれが気になっていたようでネロとハクノを繰り返し見ていた。ネロはにやりと笑うだけ何もいわない、ここは1度お茶でも飲んで気を落ち着けようと紅茶のカップを手にして中身を口にしたところで
「余の伴侶だ!2年前にこの街で会ってな!もう世界巡りなどどうでも良いと思うほどに世は恋をしたぞ!」
「「「ばふっ!?げほごほっ!!!」」」
私・モードレッド・ハクノが同時に気管に紅茶が入りむせこむ中ネロはくすりと笑い
「修行が足らんな。この程度で動揺してどうする?そんなことでは「シロウ」だったか?それをものにすることなど叶わんぞ?」
「な、なあああ!?何故知ってるのですか!?」
何故シロウのことを知っているのかと尋ねるとネロはにやにやと笑いながら
「それだけではないぞ?モードレッドは「リューカ」とかが気になっているそうだな?」
「ぬああああ!?なんで知ってるんだよ!?」
モードレッド。リューカを狙うのは高嶺の花過ぎるから諦めなさいと言ったのにまだ諦めてなかったのですか
「ふっふふ……堅物のアルトリアが恋をしていると聞いたときは余も驚いたぞ?」
驚いたといいつつ笑っているネロ。明らかに楽しんでいるその表情を見て
(そうでした。ネロはこういう人でした)
気も利いて優しい人だがそれ以上に人をからかったり冗談を言うのが好きなのがネロだった
「あの?ネロ?僕まだ結婚できないよ?17歳だし」
「世の中には婚約と言うものがある!覚えておけ白野!」
相変わらずゴーイングマイウェイ具合だ。モードレッドはハクノを見て
「あーなんかごめん。こんな姉で」
「ううん。全然気にしてないよ?ネロは結構長い付き合いだしずっと振り回されてるから慣れてるよ」
やっぱり人を振り回すところは変わってないのか……と呆れ半分、懐かしさ半分でネロの隣のハクノを見る
「ネロはお砂糖2つだっけ?」
「ミルクも忘れては困るぞ!」
「うん。判った」
ちょこんと腰掛け紅茶に砂糖とミルクを入れている。なんと言うか気が利く性格なのかもしれない
「ふふん。良いだろう?アルトリアよ、余の伴侶の白野は家庭的なスキルが充実している。そして何よりこの小動物系が良いのだ!」
ネロが嬉しそうに笑いながらハクノを頭を撫でる。砂糖を入れすぎちゃうよ?と呟いているハクノ……確かに小動物っぽい
「姉さん……美少女好きとか言ってなかった?」
「勘違いするな、モードレッド。余は美しい者が好きなのだ!美少年も美少女も両方好きだ!だけど今は白野の方がより好きなだけだ!」
相変わらずストレートな感情表現だ。嘘偽りがなく常に真っ直ぐそれがネロだ。無論その性格は嫌われる要因にもなるのだが、それでもネロはずっとこうだ。私はあんまり自分の感情を出すというのが得意ではないので正直羨ましいとも思う。そしてハクノを見ると
「えとえーと」
やはり日本人なのでこういうストレートな感情表現には慣れてないのかあわあわしてる。
「やはり愛い。白野はこうでなくては」
ハクノの頭を満足げに撫でるネロを見ながらモードレッドが
(なんか姉さん性格変わった?)
(私もそう思います。基本的な部分は変わってないのですが、少し変わってますね)
多分ハクノとの出会いで価値観が180度変わったのは間違いないだろう
「さてとでは余と白野は行く。映画の時間が来てしまうのでな」
「え?あ、そうだね。映画の時間が来ちゃうね」
ハクノはそう言うと鞄を背負いなおしてから私とモードレッドを見て
「お茶ご馳走様でした。今度は僕の家に来てくださいね。ネロ携帯のアドレスは交換したの?」
「おお!忘れていた!」
ぽんっと手を叩いたネロはポケットから携帯を取り出し
「アドレスと電話番号を交換するぞ。これでいつでも連絡が取れる、そして今度は余と白野の家に遊びに来い」
携帯の赤外線通信でアドレスを交換しながら言うネロに一瞬思考が停止した。余とハクノの家!?私とモードレッドの目が点になる中ネロは
「アパートを借りていたのだがな!白野の家から遠いからどうしたものかと考えて、空き部屋があるらしいのでそこで世話になろうと思っているのだ!」
どーだといわんばかりに胸を張るネロの隣でハクノが
「いっつもピッキングで家の鍵を開けてくつろいでるから、もうここに居てもいーよって根負けしちゃったんだ」
「姉さんが迷惑をかけて本当に悪い」
モードレッドがハクノに何度も頭を下げている。でもハクノはにこにこと笑い
「僕ずっと前に両親が死んじゃって幼馴染は居てくれたけど、1人だったから自分の世界に閉じこもって居ればいい……僕もそれでいいと思っていたけど」
ハクノは私とモードレッドを横目に見ながらネロを見てくすりと笑い
「ネロは僕の世界を変えてくれた人だから、彼女に困らせれるのは全然苦じゃないんだよ」
本当に嬉しそうに笑ったハクノは鞄を背負って
「じゃあ行こうか?遅れると不味いから」
「うむ!行くぞ!白野!!」
「うわっととと!!!そんなに引っ張らないでも大丈夫だよ」
ハクノの手を引いてリビングを出て行くネロ
「もう行かれるのですか?」
「そうだ!今度はお前達が来い!それと父上と母上には連絡するなよ!鬱陶しいからな!」
ランスロットの声とバタンッと勢い良く扉の開く音。それから窓の外を見るとハクノの手を引き駆けて行くネロの背中
【さぁ行くぞ!アルトリア!モードレッド!】
何度も私とモードレッドの手を引いてくれたネロの手は今はもう別の人間のためにある。それが少し悲しいような気もするがそれ以上に嬉しくもあった
「さて……モードレッド。偶には一緒に出かけますか?」
「荷物持ち?」
「勿論です。そう嫌そうな顔をしなくてもいいでしょう?」
心底嫌そうな顔をするモードレッド。私もネロもモードレッドも顔の作りが殆ど同じなので少々複雑なものを感じるが、まぁどうでも良い
「嫌ならいやでも結構ですよ?リューカが来るのですが「喜んで荷物持ちをさせていただきます」
モードレッドにリューカの名前を出せば二つ返事でOKだ。我が弟ながら扱いやすい
「まぁリンとかもエルキドゥも居ますけどね」
「その面子なに?」
「……私とエルキドゥの服のコーディネイとだそうです」
リンから言わせると私にしてもリューカは服のセンスがあまりに無いと。そして宝の持ち腐れは止めろと昨日電話でこっぴどく怒られなし崩し的に買い物の約束をさせられたのだ
「では行きますよ。モードレッド」
「はいはいっと」
支度を整えキッチンのランスロットに
「今日は昼は外で食べるから用意は良い。その代わり夕食を頼むぞ」
「お任せください。お嬢様」
にこりと笑い私とモードレッドを送り出すランスロット。2人でゆっくり集合場所に向かうと
「龍花?なんでそんな服着てきたの?」
「可愛いですよ?」
「……リン。僕少し頭痛が」
「奇遇ね。あたしもよ」
頭を抱えるリンとエルキドウの前に居たリューカは狐耳が出ているフードを被っていた。
「……流石の私でもアレがずれているのは判ります」
「だろうな……俺も驚きだ」
リューカの感性は少しずれているのは知っていたが、まさかここまでずれているとは流石の私も驚いたのだった
なおこの後モードレッドは
「無理。俺もう無理です」
「情けないわよ。モードレッド。次これもつ」
「うっ重い……」
リンとエルキドゥが買い込む服の袋に押し潰されそうになるたびに
「モードレッドさん。頑張って」
「頑張る。頑張るけど……マジきつい」
リューカの応援で明らかに限界を越えているのにもかかわらず頑張るといっているのを見て
(我が弟ながら本当に扱いやすい……)
その余りの扱いやすさに私はモードレッドが悪い女に騙されるのではないかと若干不安を覚えるのだった
「面白くなさそうですね。タマモ」
「面白いと思えるわけが無いでしょう?ラニ」
ラニをジト目で睨みながらいうと
「ええ。私は大変面白くないと感じています。白野を馬鹿皇帝に奪われ、そしてその挙句病み女と一緒なら気も滅入ると言う者です」
「喧嘩売ってるんですか!?そうなら買いますよ!」
無表情の癖に人を平気な顔をして怒らせるラニにそう言うと
「別に喧嘩を売っているわけではありません。勘違いなされないように」
この冷静な口調と無表情さ、本当に感情が読めない。
「さてでは私はこれにて失礼します」
「ああ?どこに行くんですか?」
ラニは無表情を保ったまま私を見て
「明日のお弁当の買い物にです。料理が上手ければ白野の気も惹けるでしょうから」
無表情なのに頬を赤らめるという器用な事をして歩きさっていくラニの背中を見ながら
(はぁー白野が明るくなったのは嬉しいのですがなんか素直に喜べませんね)
おじさんとおばさんを事故で失った後の白野は見ていていた痛いしいほどに塞ぎこんでしまった。私もそれを何とかしようと色々とやってみた物のどれも駄目だった
(結局白野を元に戻したのはネロなんですよね)
本音を言うと私が助けたかったし、理解してあげたかったなのにそれをしたのはネロだった。私は近くに居すぎたせいで白野を理解できなかったのかもしれない
(それでも白野は諦めませんからね!白野は私のものなんですから!)
白野がネロに惹かれているのは知っている。それを知っても諦めることなど出来はしない、そう仮に勝ち目が無いと判っていても諦めることなどで気はしない
(諦めるものですか!)
誰に聞かせるまでも無く自分が決めたことだ、覆すことなど出来はしない。私はそんな事を考えながら喫茶店を後にしようとし
「じゃあ。ロビン。支払いヨロシク♪」
「あんたらさ……俺のことなんだと思ってるわけ!?」
「体の良いパシリ」
「死ね!そんで振られちまえ!!!」
失礼なことをいうロビンのボデイに拳を叩き込み悶絶させてから
「じゃあ支払いの2800円よろしくお願いしますね」
「お前ら……絶対碌な死にかたしねえ」
恨みがましい目で見てくるロビンを無視して、私は喫茶店を後にし
「さてとじゃあ私も買い物に行きますか!」
そろそろ白野の誕生日も近いですし。色々と準備をしたい、そうネロに負けないくらい素晴らしいプレゼントを用意しなければ、私が見たいのは白野の笑顔。最悪その笑顔は私に向けられたものでも構わない。だけど何もせずに諦める事などで気はしない
「そうですとも、白野にふさわしいのは良妻である私なのですから!」
私は自分自身に言い聞かせるようにそう呟き、白野好きなもの、喜びそうな物を考えながら買い物を始めたのだった
第45話に続く
次回はそうですね。「士郎」や「一夏」「白野」にスポットライトを当てて見ようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします