第86話
じいさんの提案で遠坂と龍花を助けてくれた龍也さん達を招待して夕食会をする事にしたのだが……俺は冷や汗を流しながら
「モードレッド空間が歪んでいるぞ」
「シロウもそう思うか?俺にもそう見えるんだ。疲れているのかな?」
目を何度も擦るが幻覚ではない、現実に空間が歪んでいるのだ。
「ねえ?もしかして私とかがお兄ちゃんの事とかで喧嘩しているとこんな感じなの?」
「いや、もっと優しい感じだな。あの2人はとんでもないという事か」
「でもさ?あれ王花に似てない?僕凄く似てると思うんだけど?」
焼きあがった肉を頬張りながら言うライカ。確かにハヤテさんとオウカはとても良く似ているような気がする
「ストーカー」
「狸女」
「地雷女」
「猫かぶり」
「「やんのか!コラぁ!!!」」
互いの襟首を掴んで喧嘩腰になっている、何と言うか恐ろしくて近寄れない雰囲気だ。その証拠に
「止めるんじゃなかったのか?アーチャー」
「無理を言うな。私はまだ命は惜しい」
止めようとしていたアーチャーとリインフォースもその場で硬直状態になっている。
「リューカがいなくて良かったね」
ライカの呟きに全員が頷く。今料理が出来る組みは家の中でバーベキューの下拵えをしている。俺とシロウ達はバーベキューセットの準備に来てこの光景を見て硬直してしまったのだ。しかし止めようにも雰囲気が恐ろしくてそれと頃ではない
「遅れて……」
「何が起きているんだ……」
「ふむ」
ヴィータとシグナム。それと銀髪の青年がはいってきたと思った瞬間
スパパーン!!!
軽快な音が響く、それと同時にハヤテさんとセッテさんが頭を押さえて蹲っている。
「喧嘩するなって私言わなかったかな?」
ハリセンを肩に背負っている銀髪の青年の背中を見ながら
「お兄ちゃん?あれ誰?」
「龍也さんって言うんだ、龍花と遠坂を助けてくれた人だ」
あの人が……しかし随分とでかいな。190は越えてる……
「まぁなんにせよだ。お仕置きだ」
むんずとタツヤさんがハヤテさんの頭を掴む。まさか
「あいたたたたた!!!ごめんなさい!兄ちゃん!頭!頭割れるううう!!!」
アイアンクローで持ち上げた。信じられないいくら女性とは言え、それを片手で持ち上げるなんて
「もうしないと約束できるか?」
「わかりま……いたたたた!!!ごめんなさい!本当ごめんなさい!!頭割れるううう!!!」
じたばたと暴れている。想像しか出来ないがおそらく信じられない破壊力なのだろう。涙目なのが悲壮さを誘う。そしてその間に逃げようとしていたセッテさんもすぐに頭を掴まれ
「セッテ、私は残念だ。お前は言うことを聞いてくれると思っていたのに」
「痛い!龍也様!すいません!もうしませんからああああ!!!」
ハヤテさんと同じようにアイアンクローで吊り上げられて、手を必死に叩いてタップしているのだがタツヤさんはそれを完全に無視していた。俺達はその処刑の光景を見て心にこう誓った
(((あの人を怒らせてはいけない)))
タツヤさんを怒らせるとあの二の舞になると理解した俺達は心の中で深くそう誓うのだった。なおハヤテさんとセッテさんは暫くそのままで蹲っていたが、暫くすると何事もないように料理まだ?と言い始めた。俺よりも耐久力が高いようだ……
龍也君は何と言うか凄い子だね。歳を聞いたら24と言っていたが落ち着いてるし、周りに対する気配りも出来るし
「はい。そこ、肉ばかり食わない。野菜と魚も食べる」
「う。僕魚の身取るの苦手」
「私も」
「そうか、じゃあ仕方ないな。おいで」
龍也君は隻腕で器用に魚の身をほぐし、雷花ちゃんとイリヤのお皿の上に乗せる。実に手馴れた感じだ
(もしかすると保父さんだったのかもしれないね)
旅をしていると言っていたがもしかすると職業は保父さんなのかもしれない。その証拠に
「なんだ?お前もか?」
「お願いできますか?」
クロエちゃんにも魚の身を解いて欲しいと言われている。あの子は結構警戒心があるのに……
「キリツグ。遅れました」
「キリツグさん。こんばんわ」
「やあいらっしゃい。ウーサー、リリィ」
縁側に座り焼きあがった肉を齧りながら片手を上げる。遅れてくると言っていた2人の手には追加の食材と酒の瓶が見える。気にしなくていいといったのに
「リリィさん。お魚美味しいですよ?」
「そうですか、じゃあ私も貰いましょうか?」
龍花ちゃんに呼ばれてその輪に入っていくリリィを見ていると
「お隣失礼しますよ」
「おや?さすがに疲れたかな?」
縁側に座る龍也君にそう尋ねると、龍也君は手にしていたオレンジジュースを飲みながら
「またはやて達が暴走するといけないので」
その視線の先を見ると面白くないという顔をしながら、雷花ちゃん達を見つめているはやてさん達の姿があった。
「あはは……なかなか苦労している様だね」
「別に苦労しているとは思ってはないですけどね。もう慣れましたから」
あれに慣れるのはどうかと思うのは僕だけかな?とそんな事を考えていると
「こんな席で言うのはどうかと思いますが、貴方は……何者ですか?その血の匂い、1人や2人じゃないはずですが?」
ウーサーが顔を顰めながら言う。僕が驚いているとウーサーは
「キリツグは引退して長いから仕方ないでしょう。すこし気を静めてから彼を見てみてください」
そう言われて手にしていた酒のグラスを脇に置き意識を集中すると。確かに感じる濃厚なまでの血の匂いと死の気配を……龍也君は平然とした顔で
「ただの大馬鹿者ですよ。まぁそうきにしなくても良いじゃないですか?ねぇ?」
ギラリとその目が輝く。とても24歳の青年が出せる雰囲気じゃない……これは触れてはいけない話題だったか……
「大体ですね?自分達も血の匂いを染みつけておいて何を言っているって話なんですよ?判りますかね?」
呆れた口調の龍也君。確かに僕もウーサーも人様に言えない過去を幾つも持っている。そんな人間が誰かの過去を知ろうとするとは
「気を悪くさせたみたいだね。ごめんよ」
「僕も失言でした、すいません」
怒ってはないですけどねと笑う龍也君だが、これ以上話をする気はないという感じで歩いていってしまう
「不味かったですね、もっと話を聞きたかったのですが」
「警戒するのは無理ないけど、日本ではこういう諺があるんだよ「疑わしきは罰せず」ってね」
彼は確かに人の言えないような過去を持っているかもしれないが、基本的には善人だ。不安に思うことは何一つない筈だ
「それよりも今は良い具合に焼きあがっている肉を食べないか?」
運んできてくれたアーチャーに礼を言いながら言うとウーサーは
「そうですね。後で彼に謝らないといけないですね」
悪いことをしましたと呟くウーサーを見ながら、僕は焼きたての牛肉を頬張り。龍花ちゃん達の所に合流する龍也君の背中を見るのだった……
切嗣さんとウーサーさんの方から歩いて来た龍也さんは片手で器用にバーベキューを食べている
「なにか気になる事でもあるのかね?」
私を見てにこりと笑う龍也さんに
「えーと……食べにくくはないんですか?」
訪ねていいものか考えてしまったが、どうしても気になりそう尋ねると龍也さんは
「昨日今日片腕になったわけじゃないし、昔は右目も見えなかった。この程度でどうこうなるほど若くはないよ」
充分若いと思うんだけどね、と呟く凜さんに龍也さんは
「経験の密度と言う奴だよ。濃い人生を送っていればその分歳を取るということだ」
「じゃあ龍也さんは若いけどおじさ「「ド馬鹿!!」もがッ!?」
雷花ちゃんの口に肉を突っ込む王花ちゃんと星花ちゃん。若い人におじさんなんて言ったらと龍也さんのほうを見ると
「あはは、確かにおじさんかもしれないな。いやはや歳かねえ?」
「「「いや、若いでしょう」」」
おにーちゃん達が声を揃えて言うと、ますます楽しそうに笑い出す龍也さんは
「それよりもだ。当面の問題は……兄離れしてくれない妹にある」
一転くらい顔になる龍也さん。何があったんだろうと思い身を乗り出すと
「にーちゃーん!ワイン美味しいー♪」
「龍也様もどうですか~♪」
完全に酔っているセッテさんとはやてさんが背中から顔を出していた
「酔うほど飲むな」
「にーちゃーんも呑んだら?」
「呑まん。と言うか寝てろ」
チョップを叩き込まれたはやてさんはぐったりと倒れるのを見たイリヤちゃんが
「あー!妹さんになんて酷い事するのよ!」
「そうですよ!暴力反対!」
「俺には暴力。がふっ!?」
余計な事を言おうとしたシロ君にイリヤちゃんとクロちゃんの投げたお皿が命中する。凄いコントロールです
「……いいことを教えてやろうか?酔った女性というのはとても危険なんだよ?判るか?私はな、何回も手錠を掛けられてドアも何もない部屋に監禁された事があるんだぞ?」
一瞬この場の空気が一気に冷たくなるのを感じました。おにーちゃんが引き攣った顔で
「じょ、冗談が上手いですね?」
「いやー1週間のうち5回は知らない天井を見て起きるんだよ。これが心臓に悪くてなー。前は強化なんチャラとか言う金属の部屋でな、ぶち破るのに苦労した」
あっはははっと笑う龍也さん。だけどぉにーちゃん達は小声で
(おい。あの人どんな生活してるんだ!?)
(私が知るわけないだろうが!?)
(いやもしかするとあの人じゃなくて周りの人が悪いのかも?)
小声で龍也さんのことを話している、確かに私も龍也さんがどんな生活をしているのかが凄く気になった
「タツヤさんはどんな生活をしてるんですか?」
アルトリアさんの問い掛けに龍也さんはグラスにオレンジジュースを注ぎながら
「んー一応会社勤めだ。名誉顧問とかのまぁ飾りの役職だな」
名誉顧問!?何してる人なんだろう?もしかしたら凄く偉い人なのかも知れない。若手社長とか
「何の会社の顧問をしてるんですか?」
「警備会社とか、教育機関とかだな。誰か名誉顧問がいるとかで無理やりな。面倒事は嫌いだが、給料がいいから引き受けてる。普段はうん。家で預かってる子供の面倒を見てるかな?15人くらい?」
(((保父さんか!?)))
私の耳にはおにーちゃん達のそんな声にならない突込みが聞こえた気がした
「15人も面倒を見ていて疲れないのか?」
「んー基本は孤児とかだしなぁ?懐いてくれるのは悪い気はしないぞ?ただセッテみたいになると大変だ」
大変。その一言にどれだけの苦労が込められているのだろうか?
「まぁそんな話はどうでもいいだろう?私自体はどこにでもいる普通の男だよ」
龍也さんみたいな人がそこらへんにいたら大変な事になると思う。少し話しただけど、この人は何と言うか周りをひきつけることの出来る不思議な人だ
「それよりもだ。食べなくていいのかな?」
龍也さんに言葉にはっとなる。机の上の肉が殆どなくて代わりに
「もっくもっく……ふぁに?」
「もっきゅもっきゅ。なにか?」
雷花ちゃんの口がまるでハムスターのようになっていて、アルトリアさんがしれっとした顔をで焼き肉を食べていましたま。全部食べてしまったんですね……あ。だけど私の文だけは残ってるや……
「どれ、じゃあ私も少し手伝ってこよう。つまみ程度のサラミでも食べて待ってて来ればいいよ」
そう笑って歩いていく龍也さんを見ながら
「隻腕でどうやって料理するんだろう?」
私の呟きにおにーちゃんも不思議そうに首を傾げるのでした。そのあと龍也さんが持って来てくれたカルパッチョはとても美味しかったです。いろんな意味で凄い人だと私は思いました
「んーにいちゃんの~」
龍也さんの料理が増えてくるとまるでお化けのように現れたはやてさんにどきっとした物の
「なんやあ?」
酔ってるせいで呂律が回ってない上に目が座っているはやてさんに私達は何も言うことが出来ないのでした……
(今度このソースの作り方を聞いてみよう。このオムライスも美味しいし)
今度龍也さんに料理のコツを聞くことを決めるのでした……その時は箒さんとかも一緒に来てもらおう。料理の上手な人に話を聞ける機会だ。きっと良い勉強になるとおもう……
第87話に続く
夏休み編はもう少し続けましょうかね?いつまで続けるのか正直考えてなかったわけです。まぁ思いつく限りは夏休み変を続けていこうと思います。多分後5話くらいは大丈夫なはずですので、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします