第94話
クロノさんと出会った次の日。学校で私はクロノさんの話をイリヤちゃんにしていたのですが、2人は話を聞くにつれて眉を顰めながら、少しだけ怒ったような顔をして
「リューカさー、何でもかんでも直ぐ良い人って考えるのやめよう?」
良い人は良い人だと思うんだけど……クロノさんは凄く優しかったと思う。クレープにジュースも買ってくれたし
「そうだぞ、龍花は無警戒過ぎる」
王花ちゃんにも怒られる。なんで私が怒られるの……きっと王花ちゃん達も会えば判ってくれると思う
「でも龍花ちゃんが迷子になるのは多いよ?」
陽花ちゃんがそう言う、いや確かに私は迷子になりやすいけど……
「陽花ちゃんもでしょ?」
私と同じくらい迷子になる陽花ちゃんに言われるととても切ない気分になる
「うん!」
元気良く返事をされても困るんだけどなあ……と苦笑する。だけどいい加減迷子になるのも恥ずかしいので何とかしようと思うんだけど、どうすれば良いんだろうと思いながら。クロノさんの事を説明することに戻る
「あ、でも悪い人じゃないですよ?この学校の生徒のお姉さんですって」
私がそう言うと王花ちゃんがふむっと頷いて
「我達の知り合いか?」
「はい。王花ちゃん達も知ってますよ。フェイトさんのお姉さんです」
私が笑いながら言うと王花ちゃん達はひそひそと内緒話を始める
「まあそれなら大丈夫か?」
「びみょーな所だけどね」
また私の判らない事を話し始める。王花ちゃんとイリヤちゃん、邪魔するのは良くないので陽花ちゃんとお話しする事にする
「駅前のパティスリーに新しいケーキが出来たんだよ?」
「本当ですか?今度食べに行きたいですね。あそこの店は美味しいですから」
値段はちょっと高いけど、その値段に負けない味がある。そこの新作ケーキと言われると興味が沸く
「そうだ。裏通りのメロンパン専門店は知ってますか?」
私が良く買いに行くあのメロンパン専門店「狐屋」の事を尋ねると
「知らないよ?どこにあるの?」
「じゃあ今度案内しますね。物凄く美味しいパン屋なんですよ」
おにーちゃんも美味しいといって気に入ってくれているお店だ。それに
「普通のパンも凄く美味しいんですけど、飾りパンが凄いんですよ?」
ロボットとか猫とかの形を作ったパンを作ってくれるんですよ?と言うと陽花ちゃんはその目を輝かせて
「私子犬のパンが良い♪今度案内してくれる」
「勿論です!今度一緒に行きましょうね」
あのお店の店長さんも優しいから今度一緒に行く約束をしていると
「授業を始める。そろそろ全員席に着きなさい」
必ず5分前に来る佐々木先生が来た所で話を止めて、鞄から国語の教科書を取り出して授業を受ける準備をする事にした
「それでは授業を始める」
チャイムと同時に授業を始める佐々木先生。本当に時間に正確なんだなと苦笑しながら、教科書を開くのだった……
昼休憩の時間になったので龍花を迎えに行こうと思ったのだが……
「……」
普段は昼休憩は騒がれるのが嫌いなので屋上か、中庭に行く音楽をフェイトが机の上に伏せている。これはとても珍しい
「どうかしたのか?」
私は鞄から弁当箱を取り出してからフェイトにそう尋ねる。めんどくさそうには顔を上げたフェイト、そしてその顔を見て
「ぬお!?ゾンビか!?どうしたんだ!?」
私と同じようにフェイトを心配して声をかけようとしていた直哉がそう絶叫する。私もさすがに少し怖かった……なんか頬がこけているし、目に光がない……それに顔色が悪い。ゾンビと言われても無理のない顔色をしている
「なに心配な事があるだけだ。そして今日は悪夢を見ただけだ、何の問題もない」
そう笑いながら言うフェイトだが、顔色も悪いし、目に力がない上に声も小さい。これはどう見ても駄目だと判断し
「「それはない」」
フェイトの言葉に即座に私と直哉の突込みが突き刺さる。どう見ても大丈夫な顔色じゃないし、冷や汗を流しているのを見ると一応友人としては心配になるので
「相談に乗ろうじゃないか?どうしたんだ?」
「話せば何か楽になるかもしれないぞ?」
フェイトの隣と前の空いている席に座りそう尋ねると、フェイトは少しだけ顔をあげていつもの伊達眼鏡を掛けてから
「なら話を聞いてくれないか?」
困っているときには相談に乗ってやる。それが友人という物だろう、フェイトは私と直哉を見て小さな声で悩みを呟き始めた……その内容は、母の友人の娘、殆ど姉弟のように育った人が尋ねてくるらしく、その人がとても厳しいので出来れば会いたくないとのことだ
「むう……なんか共感するな……俺は」
直哉が腕組しながら言う、兄と姉の居る直哉はかなり共感していた……しかし私は妹だし、兄といえるアインスとシャマルはどこか抜けているのでそこまで恐れる理由が判らない
「そんなに怖がることはないんじゃないか?鬼じゃないんだし」
私がそう呟くと直哉とフェイトは私を見て
「「姉はな!悪魔なんだ!モードレッドを見てみろ!」」
その言葉には自分でも判らないほどの説得力があった。龍花が気に入っているということでは気に食わないが、それを除けば素直だし、要領も良い。だがそんなモードレッドを酷使するセイバー
「確かに……判る気がする」
私に姉はいないが、暴君と呼ばれるセイバーの恐怖はかなり近くで見ている。私達には何の被害もないが……見ていて可哀想だと思ったことは何回もある
「なまじ弟だから手加減がないんだ。最初から全力でくる」
「ああ。出会いがしらに竹刀で何度頭を強打された事か」
「私は平手打ちだったぞ」
「俺もそっちの方が良い。防具無しで竹刀は死ねる」
うんうんと互いの姉について話をしている直哉とフェイト。いつの間にか愚痴になっているが
「対策を考えるんじゃないのか?」
私の言葉にはっとした顔になる直哉とフェイトに若干の頭痛を覚える。本来の目的を忘れるまでに不満が溜まっているのか
(今度何か奢ってやるか……)
私は姉がいる苦しみと言うのは判らないが、かなり悩んでいるのは判ったので今度遊びに行くことがあれば何か奢ってやろうと心に誓うのだった……
「おにーちゃーん。お弁当ー食べよー♪」
お弁当箱を片手に3年の教室に来た龍花を見た直哉とフェイトが小声で
「「裏切り者が」」
と呟いていたが、別に私が悪いわけでもなんでもないのに、妙に居心地の悪いものを感じながらどうしたの?と首を傾げている龍花になんでもないと返事を返し教室を後にしたのだった……
無事に今日の授業を終えて、帰り支度を急いで済ませる。何か嫌予感がするので早く家に帰って掃除をして、姉さんが来るのに備えようと思っていると
「なぁ?フェイトあれお前の姉さんじゃないのか?」
昼休憩に姉さんの特徴を話した直哉が若干引き攣った顔でそう尋ねて来る。まさかと思いながら窓の外を見て
「ど、どうした!?急に崩れ落ちて!?まさかマジなのか!?」
慌てている直哉に小さく頷く。黒のサマースーツに短く切り添えられた髪。そして威圧感満点の腕組み姿
「姉さんだ……」
離れていても見間違えるわけがない。それにさっきから携帯がブルブル震えている。勿論私の身体も震えている
「出なくていいのか?足をとんとんし始めているぞ?」
直哉の言葉を聞いて携帯の通話ボタンを押す
『出るのが随分遅いですね。フェイト』
怒ってる、口調が丁寧すぎて逆にそれが怖い
「荷物を纏めてたから」
本当は逃げ出したくなる自分の心を鼓舞していたとうのが正しいと思う。それほどまでに姉さんの圧力は恐ろしい
『そうですか。それなら待っているので早く降りてくるように、時間は有限。無限ではないので』
姉さんが良く言う時間は有限と言う言葉。小さい時から何回も聞かされているので、妙に懐かしい気分になる
「判ったすぐ行くよ」
とりあえず怒らせると不味いのでそう言うと姉さんは
『判れば良いですよ。たまに会えたのだからゆっくり話でもしましょう』
その言葉の裏に見え隠れする悪意があるような機がするのは気のせいだろうか?むしろ気のせいだと思いたい
『待っているので急ぎなさい。では』
言うだけ言って電話を切った姉さん。私は大きく溜息を吐きながら立ち上がる
「が、頑張れ!フェイト」
私を応援してくれる直哉に頷き、何度も溜息を吐きながら階段を降りて正門に向かうと
「クロノさん昨日はどうもありがとうございました」
「いえいえ。気にしなくても良いですよ
姉さんと話している龍花に驚く、昨日っと言うことは昨日には既に海鳴にいたのか……となると
(バイト先に顔を出しているかもしれない)
私の生活を調べるとかで来ていそうだ……今日はアルバイトが休みだからいいが、明後日はそれとなく聞いてみよう
「龍花、姉さんと知り合いなのか?}
とりあえず今は目の前にいる龍花だ。もし上手く行けばこれ以上頼りになる味方はいないだろう。何故なら普段吊り目の姉さんの目元が僅かに緩んでいる!懐かれたので情が移っている可能性がある
「昨日迷子になっているときに助けてくれたんです」
ありがとう!迷子になる龍花!そして偶然にも姉さんの下に龍花を導いてくれた神にも感謝する
「姉さん。龍花も帰る所の様だし、迷子になると大変だ。一緒に連れて行くのはどうだろう?」
過保護軍団が居ない所を見ると恐らく部活やクラスの用事なのだろう。携帯で地図を写している所を見ると間違いない筈だ
「私は別に構いませんが龍花はどうですか?」
姉さんが龍花に目線を合わせる。これは確実に絆されている!頼む龍花うんっと頷いてくれ!主に私の精神衛生上のために!
「暇ですよーふらふらとお散歩しながら帰ろうかなって」
にぱっと笑う龍花。龍花1人の散歩=迷子の図式が私の頭に浮かぶ、姉さんも同じだったようで心配そうな顔をする。出来たらその顔を私にも向けて欲しいと僅かに思う。
「それでしたらご一緒しますか?」
姉さんも迷子になると判断したのか龍花にそう話しかける。知り合いが迷子になるかもしれないのに、ほっておくと言うのは中々出来ないことだと思う
「はい!1人だと暇だし、宜しければお願いします」
私と姉さんの真意に気付く事無く、にっこりと笑いながら言う龍花。その反応に安堵の溜息を吐く、これでとりあえずは安全だ
「ではフェイト。龍花の荷物を持ってあげてください」
その言葉に頷き龍花に手を伸ばすと龍花は申し訳なさそうな顔をしながら
「お願いします」
「任せてくれ」
女子の鞄なんて軽い物だ。男子の鞄は色々と入っているからかなり重いが、このくらいの重さならあと3つくらいあっても平気だ
「龍花はなにか良い店を知っていますか?」
「美味しいパン屋の店なら知っていますよ?ご案内します?」
姉さんが優しい目線をしている、これなら最悪の展開にはならないだろうと安堵し
「じゃあその店にしようか?姉さん」
姉さんはその街特有の食べ物などを好む傾向がある。だからきっとうんと言うだろうと思いながら尋ねる。姉さんは少し考える素振りを見せたが
「それじゃあお願いできますか?」
「はい!こっちですよ」
私と姉さんを先導しながら歩き出す龍花。その足取りはしっかりしているので迷子になるということはなさそうだ。そしてなによりもこれで姉さんにきついことを言われることもないだろうと安心した私の足取りはさっきまでとうって変わって非常に軽い物だった。問題が先送りになっただけだが、それでも少しの間でも安心できるということに心底安心するのだった……
第95話に続く
真面目にネタ切れが多くなってきました。しかしここまで来たのなら、何とか100話まで話を書いてみようと思います。
続けるかどうかはそこから考えて見ます。次回はパン屋の話になります、どんな話になるのか楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします