意識を取り戻した、その場所は…?
次の日の朝。
ド田舎な村とだけあり、夜は真っ暗で何も見えなかったが。
クリアな視界で辺りを見渡せば、いつの間にか、私の滞在地の隣にテントが増えていた。
どうやら、自分が来たすぐ後に、昨日名前が挙がった『空希』という人物がやってきたらしい。
僅差で村長の座を手に入れたのだと、ほくそ笑んでいると。
「空蝉村長!
村を繁栄させるための、今後のことを話し合いましょう。」
しずえさんが、少し離れたところから、こちらに手を振っていた。
村の繁栄が生きがいなの?と言いたいほどに、良い笑顔をしている。
面倒くさいことこの上ないし、さっきまで村長の座を喜んでいたのに、もう空希辺りに押しつけてしまいたくなる。
だが、人として話だけでも聞こう。
「具体的にどういうことをすれば…?」
「そうですねえ。
住人の要望としては、まずは橋の増設とか…。」
川に掛かる橋はすでに、ひとつだけではあるが、存在している。
なのに、それをさらに増やしてほしいなんて、この貪欲め。
「野生の底力で泳げと伝えておいてよ。」
しずえさんは露骨なまでに困った様子だが、それでも営業スマイルは剥がさない。
手元の資料をめくり、次の案を出した。
「で、では…顔出し看板とか。」
あの観光地とかにある、顔だけはめて写真を撮ったりするやつか。
有名どころなら分からないでもないのだが、こんな辺鄙な場所に必要なのだろうか。
「顔を穴にはめたところで、何を得るの?」
しずえさんはもはや、呆れ果てている。
何も言ってくれなくなり、スカートのポケットから、ゴソゴソと花の種を取り出した。
「…まずは、村の美化から始めましょうか。
この薔薇の種を二つ、植えてきてください。」
花を植えるくらいなら…と気だるげな返事をして、それを受け取った。
その瞬間。
身体がズシッと、鉛を呑んだように重くなる。
「…っ!?」
視界がだんだん暗くなっていき、しずえさんの声も遠くに聞こえる。
闇に沈んでいくような、気持ち悪い感覚と共に、私は意識を失った。
身体が急降下するように、フッと軽くなる。
飛び上がるように、身体を起こした場所はテントの中だった。
私のテント…?
いや、少しだけ違う。
今、私の身体があるのは、私が持っていない青いベッドの上だ。
周りには、男性ものの服が、きちんと整理されて置いてある。
「此処は…空希のテント…?」
その予想が正しいものだと知ったのは、枕元に置かれていた一枚のメモだった。
カサコソと開いてみると、丁寧な字でこう書かれている。
『薔薇の種は植えておきました。
あと、テーブルの上のフルーツ、よろしければ召し上がってください。
空希より』
パッと顔を上げれば、小さなテーブルの上に、林檎とオレンジが乗っていた。
空希がめちゃくちゃ良い奴だということは、少し置いておいて。
「私、どうやって此処に来たの?」
確かしずえさんと話していた時に、突然意識を失って。
気づいたら空希のテントに居た。
その間の、空白の時間のことが、一切分からない。
「貧血か何かで倒れて、空希に運ばれて…きた?」
身体はまた、村の中を駆け回ったみたいに、疲労感を感じていた。
おそらくこの推理が、一番辻褄が合うはずだ。
林檎を齧りながら、空希のテントを出ると。
彼のメモの通り、赤い薔薇と白い薔薇が、綺麗に植えられていた。
空希はまだ、外出中らしく、帰ってくる気配が無い。
今度、直接会えた時にでも、お礼を言わねば。
私はポリポリと頭を掻きながら、自分のテントに帰っていった。