週に一度、妖狐の屋敷へ   作:御堂 明久

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最近、受験勉強やら何やらがキツいので現実逃避のために書きました御堂です。反省も後悔もしていません。
探せば他にも似たようなテーマの作品がありそうな気もしますが⋯⋯。
まぁ、最悪テーマが丸被りでも、僕なりの文を楽しんで頂けたら幸いです。⋯⋯では、どうぞ!



第一話

 ―――けたたましいベルの音が寝室に鳴り響き、俺こと睦月(むつき)(れん)の鼓膜を叩いた。

 

 

「⋯⋯⋯⋯るせー」

 

 

 いつもより遅めに鳴った目覚まし時計を止め、まだ靄がかかったような感覚の脳を覚醒させるためにベッドから身を起こし、カーテンを開く。

 

 

「うおっ眩しっ。⋯⋯っあー、休日の朝って何かこう、いつもより輝いて見えるな」

 

 

 カーテンの隙間から差し込んでくる、今日も今日とて燦然(さんぜん)と輝いて街を照らす太陽の光を全身に浴びつつそう独りごちる。その勢いのままぐっと伸びをすると、幾ばくか眠気が飛んだ気がした。普段は朝には弱く、昼頃から活発になり出す典型的な低血圧少年の俺だが、こと土曜日ともなると話は別である。

 

 

「はは、週に一度の癒しタイム⋯⋯行くか」

 

 

 そう独り言を重ねつつ、俺は寝室の扉を開いた。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 妖狐(ようこ)

 狐仙(こせん)だの孤裡精(こりせい)だの呼ばれたりもするが、それらは総じて普通の狐よりも長く生きることで不思議な力を得て、時に人を誑かしたり人に化けたりするような存在のことを指す。

 ―――まぁ勿論、そんなモンはあくまで伝承とか小説の産物に過ぎず、実際に存在するはずは無い⋯⋯それが一般人の認識だろう。事実、俺もガキの頃まではそうだった。

 

 そう、ガキの頃までは。

 

 だが今は―――。

 

 

「(ガラッ)⋯⋯っしゃあ着いた! 邪魔するぜぃ」

 

「⋯⋯そろそろウチにも、いんたーふぉんというものを付けてみようかのう。毎度毎度こうも突然来れられては、心臓に悪いわ⋯⋯」

 

 

 我が家を出て1時間と少し。プチ登山とプチ遭難を堪能し終えた俺はとある古い屋敷の元に辿り着いていた。そのまま遠慮無く古屋敷の引き戸を開くと、奥から不満気な声で紡がれる文句と共に、若草色の着物を纏った一人の少女が出てくる。

 

 

「妖狐にインターフォンって、イメージに会わないな。俺的にはオススメしないぜ」

「事の元凶が何を言うか。にしても、お主も飽きんのう。またこんな老人と戯れに来たのか」

 

 

 その少女は呆れた様に息を吐き、頭に生えた狐の耳と、文字通り狐色の尻尾をゆらゆらと揺らした。付け耳の一言で済ませられる質感ではない。事実、触ってみると生物の温かみがあったし「ふゃ、ん⋯⋯お、主は。また勝手に儂の耳を⋯⋯」、付け根はしっかり頭と密着していた。

 

 

「いや、やっぱり狐耳好きの俺としては弄らずにはいられないというか。くすぐったいモンなの?」

 

「⋯⋯妙な感じじゃ。とにかく、お主がそう好き勝手に弄って良いものではないわ。しっしっ」

 

「おっと。⋯⋯へへ、弱点見つけた」

 

「このまま追い出しても良いのじゃぞ?」

 

「それは勘弁。ごめん、ごめんって」

 

「まったく⋯⋯ほれ、とっとと入れ。近頃は冷えてきたからの、風邪でも引かれたら敵わん」

 

「へーい」

 

 

 ⋯⋯そう、この少女―――厳密には少女というよりは老女なのだが―――こそが、世間では架空の存在として認識されている妖狐その人(狐)なのである。

 

 

 

 

 

 

 俺はそのまま少女に古屋敷の中へ招かれ、畳が敷き詰められた広めの部屋へと案内された。部屋の隅には将棋盤と碁版が丸裸のままで置いてあり、最近俺が少女に勧めるために持ってきた数冊の小説(彼女には合わなかったようだが)が入った小さめの紙袋も、その隣にちょこんと置いてあった。

 

 

「んー⋯⋯やっぱりここは落ち着くな。何かこう、第二の故郷というか、そんな感じの雰囲気がある」

 

「勝手に人の家の故郷にするのはどうかと思うがのう。それに、第一の故郷も山を下りたらすぐじゃろうに」

 

「その下山がすぐって訳にもいかないんだけどな!近所にある小規模な山のクセに道が複雑過ぎるんだよ」

 

 

 毎週毎週、近所の山の奥地に隠れるように建っているここに来る度に遭難しかける。そもそも、ここに初めて来た時だってガキの頃で頭の足りていなかった俺が探検のために一人で山に入り、遭難した末にここに辿り着いたのだ。今でこそ慣れてきたとはいえ、気を抜くとすぐ道に迷ってしまう。

 

 

「別に毎週来なくても良いんじゃがのう」

 

「断る。山の中に建つ屋敷とか俺のオカルト好きの血が微妙に騒ぐし、玉藻(たまも)の耳と尻尾とロリボディは単純に癒されるし」

 

「屋敷も儂も小馬鹿にされとる気がするのう」

 

 

 オカルトとかロリボディとかの言葉に彼女が疎いのは僥倖だった。俺にとっては褒め言葉でも、普通の少女に同じことを言ったら一発くらい頬を張られていたかもしれない。⋯⋯いやまぁ、普通の少女はこんな所には住まないと思うけど。

 ちなみに、玉藻というのは名を持たないこの妖狐に対する便宜上の呼び名だ。彼女も割と気に入ってくれている様子だし、俺にしてはネーミングセンスが光った方だと自負している。決してパクリではない。

 

 

「で、今日は何をする気なのかの? また将棋や碁を打つのか⋯⋯少しは上達していれば良いのじゃが」

 

「アレは俺が弱いんじゃなくてお前が強過ぎるんだよ。練習に練習を重ねて、町内じゃ負け知らずなレベルにまで達したんだぞ、これでも」

 

「儂を除いて、の」

 

「⋯⋯」

 

 

 おのれ、口の減らない狐っ子め⋯⋯!

 

 

「何年経っても減らず口ばかりの子供に言われたくはないの」

 

「⋯⋯心の声聞くなよ。妖術か?」

 

「お主の顔を見れば容易に察せるわ」

 

 

 口の端を皮肉っぽく釣り上げながらこちらを見上げてくる玉藻に、俺は小さく唸るのみで言葉を返せない。コイツに勝てないのは将棋や囲碁ばかりではないということか⋯⋯。

 

 

「ま、まぁそれはそれとして。今日はそのどちらもやらねぇ。⋯⋯俺が持ってきたコレをやるぜ」

 

「何じゃそれは。⋯⋯とりあえず座るかの。座布団を持ってくるから、少し待っとれ」

 

 

 玉藻がちょこちょこと幼い少女そのものの足取りで押し入れの方へ向かう中、俺はショルダーバッグから取り出した二つのモノを手の中で弄ぶ。しばらくすると、玉藻が二枚の座布団を抱えながら戻ってきた。それが畳の上に敷かれ、彼女に促されるままにその上に腰を下ろす。

 

 

「それで、それは何なのじゃ?」

 

「具体的な商品名は言えないが、まぁ、携帯ゲーム機っつーモンだよ。今日はこれで遊ぼうと思う」

 

「なんと。それは遊具なのか⋯⋯」

 

 

 初めて見る携帯ゲーム機に目を丸くして小さな身を乗り出してくる玉藻に⋯⋯何かこう、妙な胸の高鳴りを感じつつ。

 

 

「この中には格闘ゲームのカセットが入ってる。クク⋯⋯アナログなら歯が立たないが、デジタルゲームなら俺にも勝機があるって算段よ」

 

「かせっと?だとか何とか、いまいち何を言っとるのか分からんのう。要はまた勝負事かの?」

 

「おうよ。思えば今までお前の土俵で真っ向勝負を挑んでたことが間違いだったんだ、今度は俺の土俵でやらせてもらうぜ」

 

「相変わらずやることが小狡いのう」

 

 

 呆れるように溜め息を吐く玉藻だが、勝負事を挑む度に辛酸を舐めさせられている俺の精一杯の抵抗くらい許して欲しい。

 しかしまぁ、一応俺は将棋などのルールは前以て知っていたのに対して、操作方法すら知らない玉藻に格ゲー対決を挑むのは流石にアンフェアに過ぎるので、まずは俺が彼女に操作方法諸々をレクチャーすることにした。彼女は終始眉を(しか)めつつ「何故お主と戯れるためだけに、儂はこんな苦労をしなければならんのかのう」と文句を言っていたが、結局最後まで付き合ってくれた。携帯ゲーム機の存在すら知らなかった割に、飲み込みは異様に早かった。

 

 

「さて、そろそろ勝負といこうか。⋯⋯と、その前に。久し振りにあのルールの封印を解かないか」

 

「何のことじゃ」

 

「ほら、お前の将棋対決を始めてから4週目くらいに封印したあの制度だよ。負けた方が勝った方の言う事を聞くってやつ」

 

「あぁ⋯⋯お主が4連敗して儂にこき使われ続けた挙句、強引に廃止したアレか。⋯⋯それをここで復活させようとは、やはり小狡いのう」

 

「何のことだか分からんね。で、どうするよ」

 

「⋯⋯まぁ、構わんがの」

 

 

 ⋯⋯フハハ!かかったなアホめ!

 いくら飲み込みが早いからといって、この格ゲーのプレイ歴が一年を越える俺に勝てるハズがないだろう!4週に渡って屋敷中の掃除をさせられたあの頃のことは忘れない。今度こそは俺が勝利を収め、3分間玉藻の狐耳&尻尾モフモフし放題権を勝ち取ってやるのだ⋯⋯!

 俺は思い切り哄笑したい気持ちを抑えつつ、ニヤリと底意地の悪そうな笑みを浮かべるだけに留め、ゲーム機を握った。

 

 

 

 ~30分後〜

 

 

 

「ば、馬鹿な⋯⋯」

 

「これで儂の5戦5勝じゃ。どれ、そろそろ終わりにせんか?このげーむというのは、年寄りにはどうも疲れる」

 

「嘘だろチクショウ!? 俺が今日お前を負かすためにどれだけ練習したと思ってるんだよ!?」

 

「小狡いのう⋯⋯」

 

 

 惨敗。

 あれから玉藻と5回に渡って対戦したものの、俺は物の見事にそれら全てで彼女に敗北を喫していた。馬鹿な、大会以外では最早禁じ手として扱われているハメ技まで解放したというのに、負けるだと⋯⋯?

 

 

「おのれ、狐らしく俺を化かしていたか⋯⋯!まさかお前が格ゲー名人だったとは露知らず⋯⋯」

 

「そんな訳なかろう。単純に、頭の出来が儂とお主でとは違うということじゃろ」

 

 

 しれっと侮られた気がするが、こっぴどくやられた後なので何も言えない。ちぃ、まぁどうせまたこの無駄に広い屋敷の掃除をさせられることになるのだろう。ここに通うようになってからはや十年。十五歳にして一つの極地へと到達しつつある俺の掃除スキルを披露してやろう⋯⋯そう考えていると。

 

 

「では、全部で五つ⋯⋯儂の願いを聞いてもらおうかの」

 

「⋯⋯五つ!?」

 

「うん?何を驚いておるのじゃ。5戦したのじゃから、権利も五つに決まっておろう」

 

「ぐ。いや、5戦やって勝利数の多い方に一つの命令権が与えられるっつー⋯⋯」

 

「詳細を話さなかったお主の落ち度じゃな。では手始めに屋敷の掃除をお願いするかの」

 

「結局掃除じゃねーか!」

 

 

 全力で文句を言いつつも箒や雑巾を携え動き始めるこの身が恨めしい。我が家の方でも掃除要員としてこき使われる俺は、最早命じられればオートで清掃活動に取り組むようにプログラミングされているのだ。ちくせう。

 

 

「この部屋を掃除し終わったら縁側の雑巾掛け、次は玄関付近⋯⋯」

 

「皆まで言うな。もう間取りは頭に入ってるよ⋯⋯」

 

「ふむ、我が家の清掃担当として成熟してきたの」

 

「誰が清掃担当だ⋯⋯!」

 

 

 いつの間に淹れたのか、ゆらゆらと湯気を立てる湯呑みに口を当てつつそう言う玉藻に愚痴を溢す。

 

 

「終わったらお主にも淹れてやるからの。頑張るのじゃぞ」

 

「へいへい」

 

 

 ⋯⋯目を細めて微笑む玉藻に俺はそう返し、しばしの間屋敷の掃除に精を出した。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「思いの外、浮かばないものじゃの」

 

「えっ、マジで?」

 

 

 腕組みをしながら言う玉藻に俺は湯呑みの中を一息で空にしながらそう返す。舌を軽く火傷したが美味い。

 

 

「⋯⋯そう一気に飲み干されると、いまいち淹れ甲斐がないのう。もっと味わって飲んだらどうじゃ」

 

「喉乾いてたんだから仕方ない。で、マジで浮かばねーのかよ」

 

「うむ。存外、お主に命令したいことというのが浮かばん。⋯⋯お主に出来ることなどたかが知れとるからのう⋯⋯」

 

「おっ、随分な言い草だなコラ。何なら残りの命令権を俺に譲ってくれたって良いんだぜ」

 

「⋯⋯⋯⋯(スッ)」

 

「おい、何で今、無言で自分の肩を抱いた」

 

 

 俺から軽く距離を取り、思春期を過ぎた男子を窘めるような視線を向けてくる玉藻。こ、コイツ⋯⋯。

 

 

「残りの分は次回以降に持ち越させてもらうかの」

 

「汚いな流石妖狐汚い。俺は命令4回分の自由を拘束されたまま、この先の日々を生きていくことになるのか」

 

「来週から儂の家に来なくなれば、必然的にお主は儂の命令を聞かなくても良くなる訳じゃが?」

 

「⋯⋯じ、自分から持ち出した約束を破る程、俺は悪辣じゃねーぞ。少なくとも、残りの命令を受けるまでは来るさ」

 

「⋯⋯⋯⋯ふふっ」

 

 

 俺が彼女から視線を逸らしつつそう言うと、彼女がつい漏れてしまったといった風に小さく吹き出した。何となく心の中を見透かされたようで気恥ずかしくなり、自らの表情を隠すように湯呑みに口を付ける。空だった。またも玉藻が吹き出す。頬が熱くなるのを感じつつ、湯呑みを置いた。

 ⋯⋯俺は誤魔化すように部屋の隅にあった将棋盤を指差し。

 

 

「⋯⋯ぐ。こ、今度は命令権とか抜きにして将棋打とうぜ。もしかしたら今回は勝てるかもしれねぇ」

 

「無理じゃぞ。今のお主は雑念まみれじゃ。そんな状態で儂に勝てるとでも思っとるのか」

 

「るっせ。こういうのは経験の積み重ねが大事なんだ、ここでの経験がこの先の対局で生きるかもしれねーだろ」

 

「よく口が回るのう。⋯⋯まぁ、付き合ってやるかの」

 

「ハッ! 余裕かましていられるのも今の内だぜ。すぐにその余裕ヅラ、泣きっ面に変えてやんよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「詰みじゃ」

 

「ぬあああああ! 嘘だろおおおお!?」

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「⋯⋯お前、強すぎだろ⋯⋯」

 

「昔は仲間と沢山打っておったからのう。経験が力だと言うのならば、お主はまだまだ、儂には到底及ばんよ」

 

「⋯⋯仲間」

 

 

 思わず漏れてしまった俺の言葉に、玉藻は「今は皆いなくなってしまったがの」と笑った。勿論それは楽しげな笑みなどではなく、眉が下がった寂しげな笑みだ。

 そんな表情を見せられたからだろうか。

 

 

「⋯⋯無理して笑うんじゃねーよ」

 

「⋯⋯」

 

 

 俺の声には少しばかり険が混じっていた。

 

 

「お前のそういう表情を見てると⋯⋯こう、嫌な気持ちになるんだよ。だから、悲しいならそういう表情してろ」

 

「⋯⋯こういう時は、優しげな言葉で儂を慰めたりするものじゃないかのう」

 

「生憎、俺は人生経験が豊富にも程がある婆さんに偉そうな口を利ける男じゃないんでね」

 

「どの口が言うか。まったく⋯⋯」

 

 

 そう言って再び玉藻が笑う。その表情にもう(かげ)は無く⋯⋯それを見た俺の口は、ここぞとばかりに回り出す。

 

 

「フッハハ、寂しそうな表情しちまってオイ。そんなに寂しいなら仕方ねー。これから先も俺がお前の話し相手になってやるから、感謝しろよな!」

 

「む、そろそろ暗くなってきそうじゃの。夜の山は危険じゃ、とっとと帰れ」

 

「このタイミングでそれ言うか!?」

 

「お主が儂のことが大好きなのは充分理解したからの。今日のところはお別れじゃ。学校をサボって毎日来たりするでないぞ」

 

「だっ⋯⋯れが大好きだって!? か、勘違いしないでよね!ただの暇潰しとアニマルセラピー目的なだけなんだからね!?」

 

「お主が持ってきた本に出てきた奴のような口調をしおって。⋯⋯つんでれ、じゃったか?」

 

「誰がツンデレだコラァーーーーー!」

 

 

 的外れにも程があることを言いながら俺の背を押す玉藻に抗議の声を上げる。⋯⋯いや、マジで的外れだぞ。的外れだっつってんだろ!

 ⋯⋯誰にキレてんだ、俺⋯⋯。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 ―――週に一度の騒がしい客人が帰って行った後。

 妖狐の少女は静かに湯呑みに口を付け、そのまま先々週に彼が持ってきたきり何故か置きっ放しになっている紙袋の方へと手を伸ばした。

 

 

「―――何度見てもよく分からんのう。どうせならあやつの好みではなく、儂の好みに合うような本を持ってきて欲しかったものじゃ」

 

 

 中に入っていた小説のページをペラペラと捲りながら、少女がぼやく。時代小説はともかくとして、SFやライトノベルに分類される本は彼女にはいまいち理解し難いもので、上手く彼に感想を伝えることが出来なかったのは、少し申し訳ないと思っている。

 

 

「それでもめげずにまた新しく本を見繕っているというのじゃから、ご苦労なことじゃ」

 

 

 あの少年⋯⋯いや、もう青年と言うべきなのだろうか。彼はいつもそうだ。それこそ、この年寄りの屋敷に偶然転がり込んできたのを皮切りに毎週通うようになってきて以来、ずっとそんな感じで―――。

 

 

「⋯⋯いつからじゃったかのう。昔はまだあやつも子供で、今より可愛げがあったものじゃが」

 

 

 

 

 ―――何故お主のような子供がこんな所に⋯⋯ほれ、人目につく訳にはいかんが、途中まで送ってやるから早く家に⋯⋯。

 

 ―――おねえさん、ここで一人で住んでるの?

 

 ―――ん、そうじゃな。儂は一人でここに住んでおる。それより、家に⋯⋯

 

 ―――さみしくないの?

 

 ―――寂しく、など。

 

 ―――むりはしちゃダメ、だよ。

 

 ―――さ、寂しくなどない⋯⋯訳が、ない。皆、いなくなってしまったのじゃ。儂を置いて⋯⋯いなくなってしまったのじゃ!妖力を持たぬ者、得た者⋯⋯皆、皆!

 

 ―――おねえさん。

 

 ―――寂しい⋯⋯寂しいよ⋯⋯。

 

 ―――だいじょうぶ。だいじょうぶだよ、おねえさん。ぼくがついててあげるから。いなくなったり、しないから。

 

 

 

 

「⋯⋯おふぅ」

 

 

 ふとした瞬間に自らの黒歴史とも言える記憶を思い出してしまい、その場で少女が身をよじらせる。

 

 

「あの時はみっともなく泣きじゃくってしまったものじゃが⋯⋯まさかあれから毎週来るようになるとは思わんかったわ」

 

 

 一週間前の醜態をまだ覚えており身悶えしていた頃に、突然泥だらけ傷だらけの少年が訪ねて来た時は流石に肝が冷えた。また迷ったのかと聞けば自分に会いに来たというのだから、もう何が何やらといった様子で混乱してしまったのを覚えている。

 でも―――。

 

 

「救われた、のう」

 

 

 彼のおかげで自分は今、笑えている。

 今となってはあんな捻くれ坊主に育ってしまったように見えるが、根っこは昔のままだ。

 

 

「⋯⋯人は、儂と違って短命じゃ。いつまでも生きて、儂と一緒にいてくれるなんてことは、出来ぬ」

 

 

 ⋯⋯それでも。彼がこうして自分と一緒にいてくれる間くらいは⋯⋯。

 

 

「お主が来てくれることを楽しみにしても、良いかのう」

 

 

 夜空の下、再び妖狐は待ち始める。

 

 自分が助けたようで助けられた、かつての少年を。

 

 一緒にいると不思議と胸が高鳴る―――そんな彼を。

 

 




いかがでしたか?
最後の辺り勢いで書いちゃったから、もう色々ガバガバでさぁ!
しかしそれは裏を返せば変に飾られていない僕の気持ちということになるので書き直しません(屁理屈)。
次回からはもう少し考えて書きます⋯⋯更新遅くなるかもだけど見捨てないで⋯⋯。
では、今回はこの辺で。感想とか頂けたら嬉しいです。

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