週に一度、妖狐の屋敷へ   作:御堂 明久
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お久しぶりです、御堂です!
現実逃避したい時にはこの作品をまったり書くことにしています⋯⋯。
受験勉強期間なのでスマホの使用を控えさせられている私、PCをこんな風に使ってるんじゃ意味無いですね、ハハッ(無反省)

自分語りはほどほどにして、狐っ娘と少年の物語第二話、どうぞー!


第二話

 ここは小さな山の中にひっそりと建つ古屋敷。

 今日も今日とて俺こと睦月(むつき)(れん)は、ここに住む妖狐の少女(年齢不詳)を訪ね、扉を叩く。

 

 

「おーい来たぞー。玉藻のおばあちゃーん?(バンバンバン)」

 

「(ガラッ)うっさいわ。確かに扉をいきなり開いてくるのはやめよとは言ったが、そんなに叩くと扉が外れるじゃろうが⋯⋯って、お主」

 

 

 以前彼女に言われたことへの対応として、今回は情熱的に古屋敷の扉をノックすることにしてみたのだが、彼女―――玉藻(たまも)的にはお気に召さなかったご様子。最近のお気に入りなのか結構な頻度で目にしている若草色の着物を今日も身に着け、呆れたような表情で開いた扉に手を掛けている。

 それはそうと、彼女が俺の姿を見て何故か目を丸くし始めたんだが⋯⋯どうしたのだろうか。俺の顔に何か付いてる?

 

 

「⋯⋯どうしたんじゃ。そんな傷だらけになって」

 

「あん? あー、これか。ここに来る途中、久し振りに山道を転げ落ちちまってな。この山、あんな所にも傾斜があったんだな⋯⋯馴染み深いハズなのに、未だにその全容が把握出来ねー」

 

「うむ⋯⋯、この山は儂の体から漏れ出す妖力の影響で、不定期に構造が変わるからのう。慣れないのも仕方ないことじゃ」

 

「初耳なんだが?」

 

 

 玉藻だって腐っても妖狐、超自然的な力を得た狐の(あやかし)なのだ。普段は容姿以外で全くそれを感じさせないにしろ、それなりに色々出来ることがあるんだろうな⋯⋯とは思っていたが、まさか山の形を変える程だったとは。道理でいつまで経っても道を覚え切れなかった訳だよ。

 

 

「いやでも、俺は毎週最終的にはちゃんとこの屋敷に到着してるぞ。構造が変わってるっつーのに、これはどういうことだ」

 

「儂にも分からん。一歩間違えば遭難した挙句に死んでしまっていてもおかしくなかったはずなんじゃがのう」

 

「言えよ! そういうことは早く言えよ!」

 

「そ、それこそお主が毎週ここに何事も無く到着するのが悪いのじゃ。最初は不思議に思っていたが、次第に『あれ?もしかして山の構造云々は儂の勘違いで、別に変わってなどいなかったのでは?』と⋯⋯」

 

「真偽が不確定な疑問を自己完結させてんじゃねー! ホウレンソウを守れよこのロリ狐!」

 

「たかだか野菜の名が何だと言うんじゃ! 言わせておけばこの小童、痛い目に遭わす必要がありそうじゃの!」

 

 

 ぎゃあぎゃあと年甲斐も無く玄関前で喚き始める高校生とロリ狐。傍目から見れば年端もいかない少女相手に大人気なく火花を散らす青年がいるように見えるだろうが、実際はその少女の方が遥かに大人気が無いということを知って頂きたい。

 数分ほどその場で言い争った後。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ⋯⋯。クソ、自分の非を素直に認めない人間は嫌われるぞ⋯⋯」

 

「ふぅ、ふぅ⋯⋯。儂は人間でなく妖狐じゃから構わんわ。⋯⋯ほれ、とっとと入れ」

 

「へいへい。⋯⋯中は暖かいな」

 

「外が寒すぎるだけじゃ」

 

 

 何やかんや屋敷に招き入れてくれる玉藻に、そろそろ寒さに堪えるのも厳しくなってきていた俺は密かに感謝する。

 それから彼女に先導されていつもの畳の部屋に辿り着き、既に敷かれていた座布団に遠慮無く胡座をかいて座った。すこぶるマナーが悪いようにも思えるが、何年も続いたこの一連の流れに今更遠慮などする気は無いし、玉藻も意に介していない。

 そして玉藻は、これまたいつものように煎茶の入った二人分の湯呑みを盆に乗せて持って来た―――と思っていたら、彼女の小さな手には別の物が乗せられていた。

 

 

「⋯⋯救急箱?」

 

「二ヶ月程前にお主が持ってきたじゃろ。屋敷に引き篭もっているだけの儂には必要無いと言ったんじゃがのう」

 

「いや、年寄りって大したことない段差でも転んだりして怪我することがあるって聞いて⋯⋯で、何で救急箱?」

 

「何で、ではないわ。今回転んだのはお主じゃろ⋯⋯。使い方もお主に教わったから問題は無い。儂が手当てしてやる、近くに寄れ」

 

「え゛っ。べ、別にいらねーよ、この程度の怪我⋯⋯」

 

「儂の前で意地を張るでないわ。それに、放っておくと畳に血が付くかもしれんじゃろ」

 

「あ、そう⋯⋯」

 

 

 湯呑みが乗った盆ではなく救急箱を持ってきた玉藻がそう言って身を寄せてくるが、どうにも気恥ずかしくなり距離を取ろうと試みる。しかしその瞬間、彼女の小さな手が俺の脇腹の辺りを抑えて動きを封じてきた。⋯⋯コイツ力強ぇな!? こんな細腕一本で俺の動きが完封されてんだけど!

 

 

「ここも、ここも、どこもかしこも傷だらけ⋯⋯随分と派手に転がったようじゃのう。うちに来るなら来るで、もう少し足元に注意を払って欲しいものじゃ」

 

「⋯⋯次からは気ィつけるよ。というか、消毒液が染みるんですけど⋯⋯」

 

「我慢せい」

 

 

 ちろっと何故か拗ねたような視線を向けられ口を噤む。しばしの間チクチクと染みるようなくすぐったいような感覚に堪えていると、軽く太ももの辺りを叩かれた。

 

 

「終わりじゃ。これで一つ貸しじゃぞ」

 

「き、汚ねぇ⋯⋯。ほとんど無理矢理治療したクセして貸し扱いかよ⋯⋯感謝はしてるけど」

 

「冗談じゃ」

 

 

 俺に身を寄せたまま、からかうような笑みを浮かべつつ上目遣いでそう言ってくる玉藻。⋯⋯コイツにはそろそろ、俺が男であるという事を思い出して欲しいものだ。

 

 

「で、何しに来たんじゃ」

 

「いつも通り狐耳と尻尾をモフらせてもらおうかなって」

 

「忘れ物はないか? まだ外は明るいが今日のようなこともある。気を付けるのじゃぞ」

 

「ごめんなさい、謝るんで遠回しに帰宅を勧めるのはやめてください」

 

 

 以前玉藻は耳や尻尾を触られると妙な感じがすると言っていたが、そんなに嫌なモンなのか。表情だけ見たら割と気持ち良さそうに見えたのだが、それを指摘すると無言の腹パンをお見舞いされたので、依然真偽は不明のままである。

 

 

「⋯⋯でもまぁ、特にやることが無いのも確かなんだけどな。最近将棋や碁もアホ程指してきたおかげで少し飽きが来てたし」

 

「げーむとやらでもお主は全く儂に勝てぬしのう」

 

「うるせーっての。いつか絶対お前を何かの勝負で負かしてやるからな」

 

「曖昧じゃのう」

 

「何なら今からしりとりで勝負でも⋯⋯って、そろそろ俺から離れてくれませんかね」

 

 

 気が付くと、何故か玉藻は胡座を作った俺の両足の間の空間にすっぽりと収まるように座っていた。何となく落ち着かないので半眼を作りながら玉藻にそう言ってみるが、彼女は実に楽しげに笑いながら。

 

 

「存外ここは落ち着くのう。そうじゃ、以前儂が得た4つの命令権の内、一つをここで使うとするかの。今日からここを儂の特等席とする⋯⋯異論は無いの?」

 

「えぇ⋯⋯」

 

 

 まさかこんな所で命令権を行使してくるとは思わなかった。遂行自体は楽な命令だが、もしかしてこの命令の効力って永久に続くのん? 俺の下半身はずっとこのロリ狐に支配されたままなの? やだ、 なんだか言い方が卑猥!

 

 

「さっきから尻の辺りに何か硬いモノが当たっとるんじゃが⋯⋯。女体に触れられて嬉しいのは分かるが、これはどうにか納められんのかのう」

 

「滅多なこと言うんじゃねぇぞこのロリババア!ベルトに決まってんだろ、我慢しろ馬鹿!」

 

「ま、お主も若いからのう」

 

「話聞いてる!?」

 

 

 誤解を与えるような相手がそもそも周りにいないのだが、見た目相応の少女のように足をパタパタさせながらとんでもないことを言い出し始めた玉藻に焦燥も露に叫んでしまう。

 

 

「冗談じゃ」

 

「お前の冗談はいちいち心臓に悪いんだよ!」

 

 

 やっとのことで俺の下から離れつつ玉藻がそう言うが、お前のからかいは下手をすると精神攻撃に分類されるレベルのものだ!

 

 

「すまぬの。年甲斐も無くはしゃいでしまったわ」

 

「どこにはしゃぐ要素があったんだよ。怪しい薬とかキメてんじゃねーだろーな」

 

「お主は知らなくとも良い。⋯⋯それにしても、その気になれば暇など簡単に潰せるものじゃのう」

 

「そりゃあれだけ俺をオモチャにしてりゃあ暇も潰れるだろうさ⋯⋯」

 

 

 オモチャにされた側である俺としては堪ったものではないが、こっちとしてもそこそこ暇が潰れた。何ならもう、今日のところはひたすら駄弁るだけってのもたまには良いかもしれないな⋯⋯。

 という訳で、しばし雑談タイム。

 

 

「⋯⋯」

 

「⋯⋯」

 

「なぁ、玉藻」

 

「何じゃ」

 

「⋯⋯今まで有耶無耶にしてたけどさ」

 

「うむ」

 

「玉藻って結局何歳なの「ふんっ」ごっふぁ!?」

 

 

 凄まじい速度で鳩尾に貫手を打ち込まれた。一連の流れがまるで見えなかったんだが、コイツまさか武術でも修めてんのか!? このロリ狐の底が知れないのはいつものことだが、今回は不意打ちに過ぎる!

 突然の激痛に俺が畳に倒れ込みながら悶えていると、玉藻が今まで見たことがないほどの冷めきった目で俺を見下しつつ言った。

 

 

「年齢の話題はえぬじー、じゃ」

 

「そういうのは前もって言えっつってんだろ!ロリババア扱いされるのはスルーしてきたクセにストレートに年齢聞くとキレるのかよ、地雷の位置が繊細過ぎて分かりにくいよ!」

 

「おい、確かに儂は長く生きておるが、流石に千年も生きてはおらん。そこだけは誤解するでないぞ」

 

「『千歳』じゃねぇ『繊細』だ! 前後の文脈とかイントネーションで察せよ、どんだけ年齢について触れられたくないんだよ!」

 

 

 真顔でボケをかます玉藻にそう叫ぶ。⋯⋯今後は年齢の話題は出来るだけ控えよう。さっきの攻防(俺が一方的に攻撃されていたともいう)で俺が本気を出した玉藻に物理的にも精神的にも敵わないことは理解した。触らぬ狐に祟りなしである。

 やっと痛みが引いてきたので眉を顰めつつ俺は横倒しになっていた身を起こす。

 

 

「⋯⋯ぐふ。お前、軽々しく人に手ぇ上げるの止めろよ⋯⋯。そのうち俺の体に消えない傷痕が刻まれることになったらどうすんだ」

 

「安心せい。儂がこんなことをするのはお主だけじゃ」

 

「俺が一番安心出来ないだろ」

 

 

 先ほど覗かせた修羅の顔を微塵も感じさせない飄々とした表情でそう言ってのける玉藻に頬を引きつらせる。神経が図太いなんてモンじゃねぇ。

 

 

「もう雑談タイムは止めだ止め。またうっかり別の地雷を踏んで折檻されんのは勘弁だぜ」

 

「しかし、そうなるといよいよやることが無くなるのう。いっそのこと、昼寝でもするかの」

 

「せっかくの休日を昼寝で消費するってのもなあ⋯⋯。この屋敷でも出来ること⋯⋯特別な道具を必要とせず、屋敷の中で⋯⋯あっ」

 

 

 ピンときた。

 

 

「思いついたかの」

 

「一応。玉藻、かくれんぼって知ってるよな?」

 

「⋯⋯う、うむ」

 

 

 俺の発言を聞いた玉藻が死ぬほど微妙な表情をしてきた。例えるならばこう、惣菜店で海老の天ぷらを購入していざ食べてみると、衣の割合が異様に多くて海老の食感が僅かしか感じられなかった際のやるせない気分の時に浮かぶ表情みたいな。例えも微妙だ。

 しかし何故今その表情を俺はされたのだろうか。

 

 

「何だよ、かくれんぼ嫌い?」

 

「いや、前から思っていたのじゃが⋯⋯、お主は感性が本当に子供寄りじゃなぁ、と⋯⋯」

 

「おい、それは俺だけでなく、かくれんぼへの侮辱にもなるぞ。かくれんぼに謝罪しろ」

 

「お主のその、隠れん坊に対する敬意はどこから来ておるんじゃ」

 

「ばっかお前、お前だってかくれんぼ先生には鬼ごっこ先生と並んで子供の頃は何度もお世話になっただろ? それをいざ歳食ったら急に子供っぽいと嘲るとか、恥ずかしくないのかよ?」

 

「何故今儂は説教されておるのかのう⋯⋯」

 

 

 この屋敷は中々に古いが、同時にかなり広い。パッと隠れ場所が思いつく訳でもないが、まぁ、探せばいくつか見つかるんじゃないだろうか。

 

 

「そんな訳でやろうぜかくれんぼ。どうしても嫌ってんならHIDE&SEEKでも良いけど」

 

「何じゃそれは」

 

「外国版かくれんぼ」

 

「結局隠れん坊じゃろうが⋯⋯」

 

 

 呆れからか、半眼になりながら溜息を吐く玉藻の言葉はスルーして俺は彼女に背を向け、その場に腰を下ろした。

 

 

「んじゃ、最初は俺が鬼な。範囲はこの屋敷内のみで100数えたら捜索開始。次は交代して、より早く相手を見つけた方の勝ちってことで。タイムは俺のスマホで測っとくよ」

 

「また勝負事かの」

 

「そっちの方が気合いが入るからな」

 

「普通に遊ぶだけではいかんのかのう⋯⋯」

 

 

 そんなことを言いつつ玉藻が部屋を出ていく気配を感じた。相変わらず付き合いの良い狐っ子だ。俺はそのまま目を閉じて1から数を数え始める。

 

 

「いーち、にーぃ、さーん、しーぃ、ごーぉ」

 

 

 ⋯⋯割と、一人大声を出して数を数える作業には辛いものがある。

 よくよく思うと、範囲が屋敷内だけなのに100も数える必要ある? 玉藻なら屋敷の構造は頭に入ってるだろうし、1分くらいで良くない?

 そんな訳で小細工を弄することにした。

 

 

「ろーく、なーな、はーち⋯⋯ごじゅーきゅう」

 

「偽装が雑過ぎじゃ⋯⋯。数くらい普通に数えんか」

 

「うおっ、まだお前隠れてなかったのかよ。とっとと隠れろよお前、すぐ見つけちゃうぞ」

 

「お、お主⋯⋯不正した身分でよくもまぁ抜け抜けと⋯⋯」

 

 

 急に襖を開けて出てきた玉藻にそう言う。相手によるが、小規模の不正ならば下手に言い訳するよりも全力ですっとぼけた方が何とかなる可能性が高い。これ豆知識ね。

 頬を引き攣らせながら俺のことを見据えていた玉藻だが、しばらくすると再び襖を閉めてどこかへ去っていった。

 ぶっちゃけ怒られると思ったので安心しました。

 仕方ないのでまた最初から、今度はちゃんと一つずつ数を数えていく。

 そして。

 

 

「きゅうじゅきゅー、ひゃーくっ。よし、探すぞ!」

 

 

 瞑っていた目を開いて立ち上がる。

 わざわざ「もういいかい?」などとは聞かない。声が届く範囲に玉藻がいるとは限らないし、「まーだだよ」とか「もういいよー」とか応えられたら、その声から大体の位置が分かってしまう。昔から思ってたんだけど、あのやり取りいる?

 

 

「まぁ、子供もやる遊びなんだし、そこまでシビアにしなくてもいいんだろうけど」

 

 

 独り言を呟きつつ、まずは居間を出て廊下を歩きながら捜索場所の検討を始める。

 ⋯⋯この屋敷は先ほども言ったようにかなり広いのだが、じっくり思い返してみると、居間の押し入れや縁側の下、トイレの中などの他数箇所しか隠れ場所になりうる所が思い浮かばないことに気づいた。家の中って案外かくれんぼに向いてないのね。

 

 玉藻には悪いが、これは楽勝ですね!

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 俺が本腰を入れて玉藻の捜索に乗り出してから10分が経過した。

 居間に戻って来ていた俺は畳に膝を着き、一言。

 

 

「まるで見つかんねぇ」

 

 

 俺が最初に挙げた潜伏場所の確認をしても玉藻を発見出来なかった時から、既に嫌な予感はしていた。

 一応勝負なので早めに見つけるのに越したことはない。次はちゃんと一部屋一部屋、隅々までチェックをした。しかし、この目が玉藻の姿を捉えることはついぞ無かった。

 俺が部屋を移る度に隠れ場所を変えていた? いや、その戦法を取られることも考慮して何度かフェイントを入れていた。この時には俺も既にガチになっていた。

 

 

「なのに見つからない! あの野郎、一体どこに隠れてやがんだ」

 

 

 途方に暮れる。

 ちくしょう、まさかこの俺が、ガキの頃かくれんぼで誰でもすぐに見つけてしまうから、「お前は一生鬼をやるんじゃねぇ」とまで言われたことのあるこの睦月蓮が⋯⋯!

 

 

「ギブ、アップだ⋯⋯。どこにいるんだよ玉藻ぉ。出てきてくれよぉ」

 

「(ポンッ)見つかるまでのタイムを測ると言っておったのに降参が成立するのかの? まぁ、構わんが」

 

「えっ、お前どっから湧いてきたの?」

 

 

 葛藤の末ギブアップを宣言した瞬間、どこからともなく頭頂部に葉っぱを乗せた玉藻が煙と共に現れた。超ビビった。

 

 ⋯⋯頭に葉っぱ?

 

 

「お、お前、まさか」

 

「うむ。種を明かすと、“さっきまでそこにあった湯呑みに変化の術で化けていた”ということになるの」

 

「きたねぇ!」

 

 

 何なのそれー。分かるわけないじゃんよー。

 というか今日の玉藻さんどうしたのん? なんだか妙に妖狐アピールしてきてません?

 

 

「術を使ってはならんとは言われてないからのー」

 

「お前も大概やり方が(こす)いよな⋯⋯」

 

 

 薄い胸を張って、してやったりとばかりに笑う玉藻に思わず半眼になってしまう。

 そんな俺の表情を見て少々ばつが悪くなったのか、玉藻は頬を赤らめつつ、こほんと咳払いを一つし。

 

 

「ま、まぁ、儂も年長者として些か大人気(おとなげ)が無かったかもしれん。悪かった」

 

「本当だよ。まったく、誰に似たんだか」

 

「⋯⋯お主だと思うのじゃが」

 

 

 否定は出来ない。

 

 

「とりあえず、これで交代じゃの」

 

「今度は俺が隠れる側な。これでお前にギブアップさせたらドローだ」

 

「まだ諦めておらんのか⋯⋯」

 

 

 無論だ。

 俺は気合いを入れ直すために頬を両手で思い切り叩き、玉藻に別れを告げ居間から出て行くのであった。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 さて、どうしたものか。

 ぶっちゃけ玉藻はそこまで熱を入れて俺を捜索する気はないだろうし、ちょっと手間取らせればすぐにギブアップ、引き分けに持ち込むことは出来るだろう。

 しかし、奴との勝負事において手を抜くことは俺のポリシーに反する。妥協はしない。

 

 

「どーこに隠れよっかなー、っと」

 

 

 あまり時間をかけていると速攻で見つかってしまう。

 やはりここは縁側の下辺りが固いだろうか。あいつは着物の裾が汚れるのを嫌うだろうし、そうそう縁側の下を覗き込むような真似はしないだろう。汚いなんて言わせない、これは立派な頭脳プレイだ!

 そんな訳で速やかに縁側方面へと歩を進める。

 

 そういえばこの屋敷は昔、元々この山奥で無人で放置されていたところに玉藻が勝手に住み着いたものらしい。

 最初は(ほこり)が溜まりに溜まり、蜘蛛の巣もそこら中に張っていたものの、骨組みの方はしっかりしていたため、少々大掛かりな掃除をしただけで住めるようになったのだとか。

 ⋯⋯水は湧き水を使用しているとのことだが、茶葉やたまに出てくる茶菓子はどこから調達したものなのだろうか。小さい頃は気にならなかったが、機会があったら聞いてみるのも良いかもしれない。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、縁側へと到着した。当然身体は冷え切った外気に晒されることになるのだが、まぁ、風邪を引く程でもない。我慢出来なくなったら中に戻ろう。

 そんな訳で予め持ってきていた靴を履いて縁側の下に潜り込もうとした、その時。

 

 

「ひぃ、ひぃ⋯⋯。寒いです、疲れました、迷いました⋯⋯! でもでも、今さら引き返すことも出来ませんしぃ〜⋯⋯!」

 

 

 荒い呼吸と共に吐き出された、そんな高い声が聞こえてきた。

 突然のことに俺がしばらく立ちすくんでいると、がさり、がさりと木の葉で覆われた獣道を踏み締める音も共に聞こえてくるようになってきた。そして、それはどんどんこちらへ近付いて来ている。

 

 

「妖気の発生源には近付いてると思うんですけど⋯⋯あれ? あなたは⋯⋯?」

 

「⋯⋯マジかよ」

 

 

 ⋯⋯俺はこの日、始めて俺以外の古屋敷への訪問者と出会うこととなったのである。





いかがでしたか?
私はちょっと書いては一月空き、ちょっと書いては一月空きを繰り返すスタイルなので、その都度執筆内容を忘却していたりします。一冊の本を一定ペースで書き上げちゃう本業作家さんの集中力しゅごい。

さて、今回はこの辺で。
ありがとうございましたー!


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