ウィズのストーカー事件も終わったあと、俺たちはウィズをなぐさめるため、そして事件が解決したことを祝うために、ギルドでみんなで宴会をすることにした。
「プハー! いやー仕事が終わった後のお酒はやっぱり美味しいわね!」
「っ……っ……! プハー! 確かにうまいな。 けど今回の俺たちってなんにもしてないような……結局、すべてあいつの手のひらで踊らされてたような感じがするんだが」
おっさんみたいなことを言うアクアに、しゅわしゅわを飲みながら話しかける。
ウィズがストーカーに悩まされているとの相談を受けた俺たちは、相手がいったいどんな男なのかを確かめようとしていた。
男はウィズに一目惚れをし、結婚をしてくれと頼んだのだが……
実際は俺たちの勘違いだったようで、相手は魔王軍幹部の座をかけて勝負を仕掛けてきただけだった。
しかも相手は性別のない堕天使だったわけで……
結局最後の最後はあいつの美味しい展開になってしまった。
「まあまあ、今回の件が解決したことで、みんなすっきりした気持ちでまたお酒を飲めるのだからいいじゃありませんか。若干名を除いて……」
「うっ、うっ、あんまりですよ……! あんだけ夜通し悩んだのなんか始めてなんですよ!」
「な、なあ、私はやっぱり女としての魅力が無いのだろうか……? やっぱりいつもムスっとしてる女よりも、アクアのようにいつも笑顔な女のほうがいいのだろうか?」
めぐみんが視線を向けた先では、今回の一番の被害者とアクアにナンパ勝負で負けたやつが、泣きながらお酒を飲んでいた。
別にあいつらも女としての魅力は十分にあると思うんだがな……。
まあ何しろ、今回の騒動はこの二人にとってはなかなか大変な経験になったようだ。
そうするとアクアが二人を慰めようと、片手にお酒を持ちながら二人の近くに移動する。
「大丈夫よ、二人とも! ほら、この誰しもに愛される私が女について教えてあげるから!」
「うっ、うっ、本当ですか、アクア様……ぜひこの私にその方法を教えてください。そうしないとこのまま永遠に色恋ざたに関わらないで生きていきそうなので……」
「いやっ、アクア、私は別に、いやしかしあの堕天使をすぐに口説いたアクアの話術は確かに気になるなぁ……」
一番色恋ざたに関係のないやつが恋について教えようとしている。
見ててとても滑稽な光景だ。
というかめぐみんもアクアの方に耳を傾けてアクアの話を聞こうとしている。
やっぱりめぐみんも少し気になるのだろうか?
そうするとアクアは任せて頼られたことが嬉しいのか、自信満々に話を始めた。
さっきからアクアはまるで経験豊富な女という感じを出しているが、おそらく俺の予想では、あいつはそういう経験をしたことがないと思う。
俺がこっちの世界に来る前、あいつはずっと天界でポテチを食べたり漫画を読んだりしていたはずだ。
しかも別にこっちに来てからはあいつのそういう浮かれた話とやらは聞いたことがない。
さすがにアクアがあの堕天使と朝まで飲んで大人な遊びをしてきたや、賭けに負けた分は体で払ってきたと聞いたときは驚いたが。
いやいや、なんで俺はあんなやつの恋事情について必死に考えてるんだ。
別にあいつが誰と付き合おうが俺には関係のないこと。
不意にわき上がった変な考えを、急いで胸に押し込むように、俺は酒をぐいっと一気飲みした。
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目の前の景色がなんだか二重に見える……
足元もおぼつかなくなってきて、何かにもたれてないと倒れてしまいそうだ。
みんながたくさんお酒を飲むのにつられて俺も大量に飲んでしまった。
ちょっとさすがにヤバイかもしれん。
このままではせっかくの宴会の場に水を指すことになってしまう……
今の酔いを少しでも覚ますために、どこか休憩できる場所はないかと探していると、生き生きとした声が後ろから聞こえてきた。
「カズマー! 楽しい宴会の最中なのにどこへ行くの? みんなに恋愛について教えてたら、話すのに夢中になってお酒があんまり飲めなかったから今から飲むのに付き合って欲しいんですけど」
ふと隣を見るといつの間にか、アクアと話していたみんなはテーブルでデロンデロンになりながら寝ていた。
「いや、俺もちょっと飲みすぎたから休もうかなって……風には当たるほどではないんだが、ちょっと静かなところで休みたくてな」
「あら、カズマったら飲みすぎちゃったの? まったく仕方がないわねー ほら、あそこらへんが静かそうだからあっちで少し飲みましょ」
アクアが指を指したところはポツポツと誰かが飲んでるぐらいで宴会の中心からはほどよく離れたところだった。
これ以上飲んだらヤバそうだから休憩したいと言っているんだが。
アクアは俺の話を聞いてなかったのか?
どちらにしろこの席では寝てる皆に悪いだろうから移動することには反対はない。
席を移動ししゅわしゅわが運ばれてくるのを待っているところで、俺は先ほど気になっていたことをアクアに聞いてみる。
「そういえばさっき、『女についてみんなに教えてあげる!』 って言ってたけど何を教えてたんだ? そもそもお前そういう経験ないんだから教えられないんじゃないか?」
「セクハラで訴えるわよ、このヒキニート! まあ確かに、私はそういうことは経験したことなかったけど。私が皆に教えてたのは、天界で読んだ少女マンガとかのお話よ」
アクアが運ばれてきたお酒を、待ってましたとグビッと飲んでから答える。
今のアクアの飲みっぷりはCMか何かに使えそうだ。
「よりにもよって少女マンガかよ……それで、具体的にはどんなこと。教えてたんだ?」
「ウィズが『恋ってなんなんでしょう……?』って聞くから、女の子が恋に落ちる瞬間のことを詳しく教えてあげたのよ。重い荷物を持っていたら男の人が軽々と持ってくれたり、食パンをかじって遅刻しないように走ってたら曲がり角で転校生と出会うとか」
「前半はともかく後半はどうなんだ、それ……」
遅刻しそうになって食パンを加えて走る女の子とか、俺の人生の中では一回も見たことがない。
いぶかしげな目で見る俺を気にも止めず、話を続ける。
「そしてそのあとはさまざまなイベントを乗り越えてお互いにキスするまでの話を教えてあげたわ。ウィズは分からなかったようだけど、ダクネスやめぐみんはキスの話なんて顔を真っ赤にしながら聞いていたわよ」
……ほう、そんな顔が見れるなら俺もアクアの話を聞き流さずに聞いとけばよかった。
あいつらが顔を真っ赤にしたのは俺とのキスを想像したからだろうか、そうだと嬉しいんだが。
そういえばずっと前からアクアのことについて、気になってたことがある。
明日になったら酒の飲み過ぎで記憶も無いだろうし、聞いてみようか。
「なあ、なんでお前ってそんな美人なのにそういうこと経験したことないんだ? そういうの読むぐらい興味があるんだろ? 黙ってたらお前の評判を知らないやつはすぐお前のことを好きになりそうだけどな」
まあ、そのあと中身を知って続くかどうかは別だが……
するとアクアが飲んでたお酒を吹き出して、急にむせ始めた。
「……ッ! ケホッ、ケホッ……、あんた、なんってことを女の子に聞くのよ! ほんとデリカシーのない男ね! 普通そういうことって聞くかしら!? 別に私は作らないだけなんですー あとそういうのはナンパして流れでするものなんじゃなくて、何かロマンチックなことがあってキスをするものなんじゃない」
顔を少し赤らめたアクアが、夢見る少女みたいなことを言ってくる。
「ほーん、お前ってけっこうロマンチストなタイプだったのか? 意外だな……」
「私は誰にでも好意を示されたら、デレデレするカズマとは違うの! 誰にでも発情するヒキニートと一緒にしないで!」
「べ、別に誰にでも発情しているわけじゃねーし! お前がそういう考えだったのが驚いただけだよ」
まあ、最近はデレデレしすぎな感じもするが、それもこれもみんなが甘やかしてくれるからな……
「まあ、こんだけ周りに美少女がいるなかでまだ童貞でキスも一回だけでしかも相手からされたようなカズマにはそんな女の子の気持ちは分からないんでしょうけど、プークスクス!」
アクアが俺をからかうような口調で笑った。
「うっせえ! 別に俺なんかやろうと思ったら自分からできる男だよ! 今はタイミングがないだけだし! お前がいつかそういう気持ちになって俺に惚れてねだってきても、俺は絶対にお前にはしてやらないからな!!」
「はあ!? なんであたしがあんたのことを好きにならなきゃいけないのよ! 童貞で、お子さまなカズマが、この大人の女である私の唇を奪おうなんて百年たっても無理に決まってるじゃない! あはははは!あはははは!」
こいつ! 俺がなんにもしないと思い込みやがって!
……そう、俺はやるときはやる男だ。
「あはははは! ……ね、ねぇカズマさん、どうして急に近づいてくるの? なんで周りから見えないようにカーテンを閉めてるの? あんたもしかして、さっきのことで俺だって自分からキスぐらい出来る男だっていうのを見せようとしてない!? ちょっ、ちょっと待って! カズマさん! カズマさん! 落ち着っ!」
煽ってくるアクアがうっとうしいので、黙らせるためにアクアの口をふさいでやった。
「ふぁ、ちょっ、まっ……だ、だめっ……人が……っんっん……あぅ、やぁ……」
急にキスをされたアクアはキスをしてる間にだんだんと力が抜け……
「…………ぷはっ! あんたっ、なんてことをしてくれるのよ! 普通こんなみんながいるところでいきなりする!? しかも私初めてだったんですけど! 返して、私の初めてをかえ…… まっ、待ってさっきのことなら謝るから! カズマさんはヘタレだって言ったことも撤回するから! だからもう一度顔を近づけてこないで! あっ……」
最初は少しだけキスをして、俺は自分から出来る男だということを見せようと思っていた。
が、アクアの反応が思ったよりも新鮮でかわいかったので、もう一度アクアにキスすることにした。
「あっ、だから、……ふぁ、みんなが……や、やぁ……ま、まって……だめぇ……」
さっきとは違いどこか従順になったアクア。
アクアが逃げられないように、俺は右手でアクアの頭をぐいっと引き寄せた。
さらに、さらに舌を絡ませるように。
「んん! ちょ、ちょっと……だめぇ……舌が……もうっ…………っ……ふぁぁ」
アクアも二回目だからだんだん慣れてきたのだろうか、だんだん俺のほうにも舌を入れ絡めてくるようになってきた。
めっちゃ頭がボーッとする。
アクアとのキスが思ったよりも気持ちよくて、このままずっと続けていたいような気持ちになってくる。
とはいえこれ以上はさすがの俺も持たない。
なのでお互いの唇をゆっくりと離すと、ボーッとしていたアクアがだんだんと意識を取り戻し始めた。
「…………ふぇ、あっ…… っ! あんた、この私に二回もキスしてくれたわね! さすがに温厚な私でも怒るわよ! あんためぐみんやダクネスにいきなりこんなことしてないでしょうね!」
「大丈夫、大丈夫。今のキスは駄女神に目にもの見せてやるためのキスだったからな。あいつらにはこんな無理やりキスなんてしないぞ」
「ね、ねぇ、なんでなの!? あの二人にはしないけど私には無理やりするって! なんだか腹立つやら嬉しいやらで複雑な気持ちなんですけど!」
なんかアクアがめんどくさいことを言っているが無視だ無視。
思ったよりもさっきのキスが気持ち良かったせいで、酒でも飲んで今日のことを忘れなければ、明日からアクアとまともに会話が出来る気がしない。
「ごめん、ごめん。ま、まあ! 今やったことは酒でも飲んで忘れようぜ! 大丈夫、大量に飲んだら明日になったら忘れてるって!」
「忘れられるわけないでしょ! このセクハラニート! さっきのは私の初めてのキスだったの! それも二回も……! こんな雰囲気もなにもないとこでなんてことをしてくれるのよ!」
さすがに調子に乗りすぎたかもしれない。
だが……
「いや待て、俺のせいだけにするのはおかしい。そういうお前も最後の方はこっちに舌いれてきて絡めてきたじゃないか」
俺は二回目の時に絡めてきたアクアの舌の感触をまだ覚えている。
「ちょっ、ちょっと待って、そのことは今思い出させないで、さっきの私は急にキスされて雰囲気に流されてただけだから……。や、やめましょ、もう許してあげるわ、これ以上言い合いしてもお互いに恥ずかしくなるだけだし……」
そうやって顔を真っ赤にして照れてるアクア。
そういうしおらしい姿を見ると、こっちもいまやったことを思い出して恥ずかしくなってくるんだが。
いくらなんでも酒のせいにしたとはいえ、みんなにばれたら今のはまずい気がする。
「そ、そうだよな、俺も急にして悪かったな、……ほらっ、今日は俺の奢りだ! どんな酒でも頼んでもいいぞ!」
「カズマさんも一緒に照れないでよね……。さっきの強引なあんたはどこにいったのよ……。はぁ、もういいわ! カズマの言う通り今日のことはお酒をいっぱい飲んで忘れることにするわ! ねえ店員さんー! しゅわしゅわじゃんじゃん持ってきてー!」
ようやく吹っ切れてくれたアクアに続くように俺もお酒をもっと飲むことにした。
明日になったらお互いに忘れてることを祈りつつーーーー
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「お、おはよう、アクア……」
「あ、あら、おはようカズマ……」
酒を飲んだら忘れられると思っていましたが、そんなことはありませんでした。
というか起きた瞬間に自分は昨日やったことを思い出してました。恥ずかしい!
しかしアクアのこの反応を見る限りアクアも昨日のことを覚えてそうだ。
アクアが忘れてたら俺もやり過ごしたりできたんだが……
「おはようございます。あれ? 二人とも朝からなんでそんなぎこちない様子なのですか?」
「べ、べつに昨日はなんにもなかったよ! なあアクア!」
「え、ええ! べつに昨日はなんにもなかった……わ……よ……」
急に照れるな。めぐみんに怪しまれるだろ。
俺の言葉に顔を赤くしたアクアのことを、めぐみんが不思議そうに見て、
「ふーん、別に昨日のことは聞いていないんですが。なるほど、そうですか。ちなみにアクアへ昨日のことで一つ聞いてみたいことがあるんですがいいですか?」
「…………ええ! 大丈夫よ! めぐみんってばいったい何を聞きたいのかしら!」
いったいなんなんだ? アクアが昨日得意気に語っていた恋愛話についてか?
どこか慌てた様子のアクアを前にして、めぐみんが淡々と質問をする。
「ありがとうございます。実は昨日私は少しだけお酒を飲んでしまい倒れてしまってたんですが、酔いも浅かったのかすぐ起きることができまして。そして起きてふと周りを見ると、アクアとカズマが遠くの席に座ってるのが見えたんですよ。」
あかん! これは一番ダメなシーンを見られてるような感じがする!
「よくよく見てみると、二人が何故かカーテンにくるまれていたんですよ。アクアたちは仲良くカーテンにくるまりながら、いったい何をしていたんですか?」
ダメだ、逃げなければ。
「カ、カーテンで……? 別にカズマとはなんにもしてないわよ……あぅ……」
だからどうしてこいつは思い出して恥ずかしくなるんだ! 余計めぐみんに怪しまれるだろ!
てかこの状況は俺にもめぐみんの質問がきそうだな予感がする。何とかしなければ……
俺たちを疑うめぐみんを誤魔化すために嘘の言い訳を咄嗟にする。
「カーテンではアクアにとっておきの宴会芸を見せてもらってただけだよ。じゃ、じゃあ俺は今日用事があるからそういうことで……」
なかなか上手い言い訳だったんじゃないか?
言い訳もしたし早く自分の部屋に逃げようと席を立つと、後ろからめぐみんに肩を掴まれた。
「逃がしませんよ! カズマ! 宴会芸を見せただけで、アクアがこんなに顔を真っ赤にするわけないじゃないですか! やっぱり昨日何かあったんですね!」
「まっ、待ってめぐみん! 昨日のことはカズマがすべて悪いから! 聞くならカズマに全部聞いて!」
「てっめえ! 確かに最初は俺からだったけどお前だって最後はノリノリで舌を……」
あっ……。
「舌!? ちょっと待ってください……な、なんでカズマとアクアの会話で舌が関係あるのです……か……? …………もしかして、二人ともみんなが見えないところでキスとかしてたんですか!? しかも舌まで入れて! もっと軽いことだと思ってましたよ! まさかカズマとアクアがそんなことをするなんて思わなかったですよ!」
マズい、うっかり俺が口を滑らしたことでめぐみんに気づかれてしまった。
するとアクアが俺に代わって言い訳をし始め……
「ち、違うの! めぐみん! べ、べつに昨日のことは恋愛的な意味なんじゃなくて! 二回よ! したのは二回だけだから!」
こいつ、火に油を注ぎやがった!
「二回!? 私でさえカズマと一回もしたことがないのですよ! それがいったいどうしてアクアがカズマと二回もしてるのですか!? ああっ! ちょっと逃げようとしないでくださいカズマ! いいですか二人に昨日あったことを赤裸々に話してもらうまで逃がしませんよ!」
めぐみんがアクアを追い詰めている間に逃げようと思ったのだが失敗してしまった。
どうして昨日の俺はあんなことをしてしまったんだと思いつつ、まあ悪くなかったと思う自分にふと気がついた。
昨日のキスしたときのアクアの反応を思い出しながら俺たちはめぐみんに怒られてーーーー