照りつける太陽がうっとうしい、夏のある朝。
「……だから気になるなら、カズマが聞いてきたらいいじゃないですか……! 私はイヤですよ。怒られるのが目に見えてますから」
「……まあまあそう言うなって。めぐみんだって本当はどうなのか気になるだろ? はいっ、じゃあいくぞ! じゃんけんぽんっ!」
「はっ!? ちょっ、なあぁぁぁぁ! ズルい! ズルいですよカズマ! カズマ相手にじゃんけんで勝てるわけないじゃないですか! イヤですよっ、私はイヤですからねっ!」
「ねえねえ二人とも、朝からいったい何を騒いでるの?」
朝から少しめぐみんと騒いでいると、アクアが会話に参加してきた。
「いやですね……。その、アクアには聞きづらいことというか、なんというか……」
「ほら、ちょうどアクアもいることだし早く聞けよ。寛大な女神様なら許してくれるって」
「どしたの二人とも? なになに! 私のことでも話してたの?」
自分のことを話題にされてるのが嬉しいのか、ウキウキした顔のアクア。
そんな無邪気なアクアの表情にやられ、うっと詰まりながらもめぐみんが。
「その、カズマの話によると、アクアは女神様で、黒髪黒目の人たちにチートを与えてたりしてたんですよね。デストロイヤーを作った人にチートを与えてたのもアクアだとか」
「ええそうよ。ようやくめぐみんも私が女神様だって信じてくれたのね。どこかの引きニートは連れ出してきたくせに女神扱いしてくれないし、魔王も倒したのにまだみんな全然信じてくれないし」
「あっ、いえ。私もどちらかと言えばまだ信じれてないのですが……。ちょっ、肩につかみかかってこないでください! 落ち着いてください!」
荒ぶる女神をめぐみんが何とかなだめる。
「それでですね、カズマと話してて少し気になったことがありまして……。その、デストロイヤーが作られたのが、私の知る限りだと確か遥か彼方前の話で……。アクアがその人にチートを渡したのがそれ以上前だとすると、実際のアクアの年齢は……」
ピシッと音でも聞こえてきそうなほど、アクアが突然固まった。
そして、何回か咳ばらいをしたあと。
「……いいですかめぐみんさん。カズマさんにも言ったことがありますが、ここと違って天界では時間の流れがゆっくりなんです。カズマさんにどんなことを言われたのかは分かりませんが、この世界と天界だとそれぞれ時間の流れが異なって……」
「ほらな。言った通りこのパーティーで一番年寄りなのはアクアだろ」
「ふっざけんじゃないわよ! ふざけんじゃないわよ! 誰が年寄りよ、誰が! この麗しくも綺麗なアクア様のどこを見て言ってるのよ訂正しなさいよわあああああああああーっ!」
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「──結局怒って出ていっちゃいましたね、アクア。まあ主にカズマのせいだと思うのですが」
「おいこら待て。そもそもお前が『アクアっていつぐらいから生きているんでしょうか』とか聞いてきたからだろ。俺はその質問に答えようとしただけだ。あと最後のは言葉のあやだ、あや」
「そうだとしてもさすがに年寄り扱いはどうかと……。しかし、アクアも年齢を気にする女の子らしい面もあるんですね。意外でした」
少し驚いた顔をしながら、お茶を飲むめぐみん。
『女の子らしい』なぁ……。
あいつの場合はどちらかと言うと……。
「アクアの場合、外見は17、8だからな。仮にあいつが百年以上生きていたとしても、この世界の100歳の人とはまったく違うし。あいつの中でもこれぐらいの年齢ならこれぐらいの外見っていうイメージがあるのかもしれん。だから頑なに言うのを拒むのかもな」
それに実際この世界だと、百歳以上だなんてほとんどいない。
あの外見で『年齢は百歳です』なんて言ったら絶対に聞き返されるからな。
だから、あいつが女の子らしいとは少し違う気がする。
「そう言われてみればそうですね……。確かにウィズも気にしていたような記憶が……。だとしたらやはり聞くのは失礼になりますよね。じゃあやはりこれでもう聞くのはやめて……ひゃうっ!」
めぐみんが最後まで言い終える前に、俺は、ガタンッと椅子から勢い良く立ちあがり。
いきなりどうしたのかと、不審な目で見つめてくるめぐみんに向かって大きな声で。
「しかーしっ! そんな理由で俺たちの好奇心は止められないよなぁ! いくら流れる時間が異なろうが、一年は一年だ! というわけで、引き続きアクアにバレないよう調査したいと思います!」
「いきなりどうしたんですか! さっきから何回も言ってますがイヤですからね! イヤですよっ! 私はどれだけ頼まれてもやりませんからねっ! 絶対にっ!」
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「というわけで、アクアの年齢について教えてくださいクリス」
「ねえ一つ聞いても良い? さっきまでの話のめぐみんはいったいどこにいったのさ」
街なかの、人通りの少ない道にある、静かな喫茶店の中で。
俺たち二人はアクアの年齢を探るため、偶然近くを歩いていたクリスを捕まえ、話を聞くことにした。
「さっきまでとはどういうことでしょうか? ただ、私も少し気になっただけです。考えてみれば、アクアの年齢も誕生日もよく知らないですからね。それにどうせバレても、カズマに脅されてやったと言えば私は怒られませんから」
「おいそこの。お前、急に態度変えてやる気になってきたかと思えば、そんなこと考えてたのかよ。俺はアクアに怒られたら、めぐみんが最初に聞いてきたからって答えるからな」
「なんだかどっちもどっちだなぁ……」
呆れた顔で、自分たちの顔を見るクリス。
そして、はぁーっと短くため息をついたあと。
「そう聞かれても、あたしもセンパイの年齢は知らないよ。ちょっと訳があってね。というかそれよりも……。めぐみんってばあたしの正体に気づいてたんだね」
「当たり前ですよ。なんせ、あそこまでヒントがありましたからね。カズマが魔王を討伐してエリスを連れてきたあと、その姿や雰囲気がクリスに似ていたので、カズマに問い詰めたらさらっと吐きましたよ」
「ねえなんで言っちゃうの? それは一応本人に秘密にしろって言ったよな? 何でそんなに簡単に言っちゃうの? エリス様に俺怒られちゃうじゃん」
「あはは……。まあバレちゃったなら無理に隠さなくても良いよ。めぐみんもやたらめったらと言いふらす子じゃないだろうし」
そ、そうかなぁ……。
こいつの場合だと案外、気を抜いてる時にぽろっと漏らしちゃいそうな気はするんだが。
まあクリスとしてはアクアやダクネスにバレるよりはマシなのだろうか。
「まあ、それはともかくとしまして。クリスがアクアの年齢について知らないのがどうも不思議で……。クリスはアクアの後輩だったんですよね?」
「そうだよ。確かに、世間で言われている通り、女神エリスは女神アクアの後輩だよ。センパイは生まれた時からあたしのセンパイだったんだ」
少し昔を懐かしむように、クリスがぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「そうだねぇ……。いつの話からしようか。あっ、そうそう、それじゃああたしが生まれた時の話でもしようか」
……そういや、エリス様のことについて聞くのも、初めてな気がする。
「女神はね。誰かに願われて生まれるんだ。怠惰や暴虐を望むもの。復讐と傀儡を望むもの。水を望むもの。そして──幸運を望むものによって、ね。そうして、ある日突然女神は生まれるんだ。でも、生まれた時にはすでに子供みたいな姿なんだけどね。だからそもそも、誕生日なんてものもけっこう曖昧で、あるか分からないものなんだ」
それは、初めて知る女神の秘密。
「実はね、あたしが小さい頃は、センパイに色々と教えてもらってたんだよ。面倒な書類はどこに隠すと良いのかとか、仕事をするふりをしながら漫画を読む方法とか」
後輩に何を教えてるんだあいつは。
仮にも始めに教えることじゃないだろ、それ。
「それでまあ、センパイを反面教師にして、いろいろあったけど、何とか毎日センパイのわがままを聞いてあげてたら今に至るって訳さ。まさかセンパイがキミに連れ出されるとは思わなかったけど」
ぴんっと人差し指を俺に向け、屈託のない笑顔でクリスが笑う。
「それで、ここからがキミたちが聞きたいことだと思うけど……。さっきの話から分かってるかも知れないけど、あたしはセンパイの年齢どころか誕生日も実は知らないんだ。というよりあるのかすらも分からないと言った方が正解かな。あたしが生まれた時には、センパイはセンパイだったからね。だからあたしに聞いても、誰に聞いても、センパイの年齢や誕生日は絶対に分からないと思うよ。本人に直接聞かないと、ね」
まあ、そうだよなぁ……。
薄々、気づいてはいたが、やはりそういうことらしい。
アクア自身の性格については、すぐに分かる。
やる気が出たかと思えばすぐにめんどくさがったり、楽しければ何でも良いと、好き勝手に色々とやり始めるとか。
しかしその反面、あいつはどこで生まれたのかとか、誕生日はいつなんだとかそういったことに関してはまったく分からん。
というより、あいつ自身が言わなかったからと言うのもあるが──。
「それだと、クリスにも誕生日はないのですか? 女神様にはもしかして、誕生日プレゼントだと言われ箱を開けてみたら、いろんな魔法が一斉に発動して、ただうるさいだけで危ない箱みたいな誕生日プレゼントなどは貰えたりしないのですか?」
「そ、そのプレゼントって本当にプレゼントなの……? ちょっと気になるんだけど……。でも確かに、あたしに誕生日プレゼントはないけれど、一応誕生日はあるんだ」
クリスがふふっとほほ笑み、女神のような柔らかい笑みを浮かべる。
「それってどういうことだ? 女神ってば誕生日はなかったんじゃないのか?」
「うんうん、それで合ってるよ。まあそもそも、天界とこの世界だと流れる時間が違うからね。あたしが言ってる誕生日はキミたちの誕生日とは少し違うんだ。あたしの誕生日はセンパイが決めたんだ」
……アクアが?
「センパイにある日突然言われたんだ。『この日は私とエリスが出会った日だから、今日がエリスの誕生日ね! だからたまには二人でお酒でも飲みましょうよ!』って。センパイからしたら、ただお酒を飲みたかっただけなのかもだけど、あたしはすごい嬉しかったなぁ……。いつもは祝福を授ける側だから、祝って貰える人がいるってこういうことなのかな……って」
一つ一つ丁寧に過去の思い出を取り出しては、懐かしむクリス。
「珍しくセンパイが自分のお酒をあたしにも勧めてきたり、なんだかよく分からない凄い技術で折られた折り紙も貰ったりね。今は、センパイは側にはいないけど。その思い出はずっとあたしの心の中にあるよ」
そうして、手元にあった飲みものを一口飲むと。
「だから、あたしにも誕生日はあるよ。センパイから貰った、世界で一番素敵な日がね」
言い終えると、これで話は終わりとクリスがパンパンと手を叩く。
「そ、そうだったのか……。俺、誕生日って言ってもアクアには謎の風習を教えられて騙されそうになるし、ダクネスの誕生日会には呼ばれなかったりで、なんかあんまし良いイメージがなかったんだけど、素敵な日だったんだな……。俺、今度クリスの誕生日を祝うよ」
「私は紅魔の里で両親や友人に何度か祝って貰ったことがあるので、馴れていましたが、改めて考えると貴重なものですよね……。私も今度クリスの誕生日を祝わせてください。紅魔族流の祝福を届けましょう」
「そ、その紅魔族流が安全なものであるよう祈っとくけど……。それでも、ありがとう。祝ってくれる人が増えるってのは嬉しいもんなんだね」
あはは……と恥ずかしそうに、クリスが頬の傷を掻く。
是非とも今度、アクセルの街総出でクリスを祝ってやろうと計画していると、ふと、ある疑問が思い浮かぶ。
「ってことは結局、アクアには誕生日がないってことだよな。クリスもアクアから貰ったみたいだし」
「まあ、そういうことになるかなぁ。私もセンパイの誕生日についてはよく分からないんだ。もしかしたらセンパイにもあるのかも知れないけど、言ったことがないから、たぶんないんだとは思う」
そうか……。
最初はアクアの年齢を探ってやろうというだけだったのに。
いつのまにかあいつの誕生日を探る話になってしまった。
そうとは言っても、多少は胸に突っかかえるものがあるわけで。
迷惑はいつもかけられているが、誕生日ぐらいは祝ってやりたい。
それはめぐみんも同じだったのか、お互い顔を見合せ。
「ありがとなクリス。貴重な話で助かったわ。また今度、すぐに呼ぶと思うからそのときは是非来てくれ」
「うん、そうだね。その顔を見ると、今から何をするのかだいたい分かるけど、楽しみに待ってるよ」
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──クリスと少し話をしてから数日後。
「ねえねえ。カズマさんってば、またお出掛け? 最近のカズマさんってば、お出かけしてばっかりだけど、ゼル帝の小屋の修理はどうなったの?」
「ちょっと用事があるんだよ。あと、俺は小屋の修理はしないから。自分でするかダクネスにでも頼め」
「この前ダクネスに頼んだら、金づちが折れたんですけど」
玄関の前で、アクアに塞き止められながら、出掛ける準備をする。
「じゃあもう俺が今度やるよ。ええっと、でも確か、小屋って壊れてたりしてなかったような……」
「そうよ。壊れてないわよ。ただ、ゼル帝が大きくなったときのことを考えて、そろそろ増築をね。ゆくゆくは私たちの屋敷と同じぐらいの小屋にしてあげるのよ。もちろんドラゴンだからね!」
「お前そろそろニワトリって認めろよ」
なかなか現実を受け止めようとしないが、ちゃんと言ってやった方が良いのだろうか。
そんなことを考えながら、用意も終えたので、そろそろギルドへ出掛けようと……。
「あっ! そうそうカズマさん! 今からまたギルドに寄るんでしょ? なんでか分かんないけどね、私ってばギルドのお姉さんたちに何日か立ち入り禁止って言われてるのよ。でもあそこには私の好きなお酒を何本か置いてあってね。だから帰りでいいから持って帰ってきてくれないかしら」
「お前は何でギルドでボトルキープなんかしてんだよ。せめて持って帰れよ、ったく……。遅くなるからそれまで待っとけよ?」
「わーい! カズマさんってばすってきーっ!」
これで少し持って帰る荷物が増えたが、まあ良いか。
そもそもアクアが、ギルドに入れないのも俺のせいだ。
珍しく大量の荷物を背負いながら、ドアノブに手をかけて。
「よっと……。それじゃ、行ってくるわ」
「行ってらっしゃい! 何本か私の知らないお酒が増えてても私は気にしないからねっ!」
……何で俺が買ってやらなきゃいけないんだよ。
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──そしてそんなやり取りがあってから、また数日後。
「ねえねえ。めぐみんってばその袋はなにかしら。見慣れない袋ねー。どこでお買い物してきたの?」
「うぇあ!? びっ、ビックリするじゃないですかアクア! 急に後ろから覗きこまないでくださいよ!」
「だってめぐみんがずーっとその袋を見つめてたから気になって……」
ソファーの上で、青い袋を大切そうに持ちながらにへらと笑っていためぐみん。
そんなめぐみんの後ろから、アクアが話しかけ。
「こっ、これはですね……。別にアクアには何でもないものですよ。商品自体も、すぐ近所にあるお店で買ったものです」
「へぇー。それで、何を買ったの?」
少ししどろもどろなめぐみんに、引き続き興味本位で、話しかけるアクア。
「こっ、これは……。そ、そうです! カズマに服を買ってもらったのです! ふらっと立ち寄ったところでとても素敵なデザインのものを見つけて……」
「あら、アクセルの街にそんなお店ってあったかしら? ちなみにずいぶん袋が小さい気がするけど、どんな種類の服? 見せて見せて!」
「えーっと……。えっとですね……!」
さっきから何とか誤魔化そうとしているらしいが、どうやら限界らしい。
その証拠に、俺のことを何度もちらちらと見てきては、助けを欲しそうに……。
しかし、俺も上手い言い訳が思い付かないので、どうすることも出来ない訳で。
めぐみんも俺がどうすることも出来ないのが分かったのか、タメ息をつくと、今度はもじもじと恥ずかしそうに……。
「その、これは下着でして……。一緒にいたカズマがどうしても見たいというので仕方がなく……。ちなみに、かなり扇情的なものなのでアクアに見せるのも恥ずかしいのです」
「カズマさんってば最低」
おい。
よりにもよってなんでそんな言い訳なんだよ。
もうちょっと上手い誤魔化し方があっただろ。
いやしかし、ここで否定したらさらに話がややこしくなって……。
「ちなみにカズマがこれを見つけた時の喜びようはすごかったですよ。アクアにも見せてやりたかったです。これなら俺たち四人にも似合うなとか、アクアにもぴったりなんじゃないかとか」
「カ、カズマさん……。その、そういうことを外で言うのはほどほどにした方が……」
「合ってるけど! 確かにセリフは合ってるけど! でもなんか微妙に違うし誤解されてるから! とりあえずめぐみんはこっちにこい、説教してやる!」
─────────────────────────
──それからまた数日後。
「カズマさーんっ、カズマさーんっ! ねえ聞いてよ! ダクネスがね!『任せてくれアクア! ここ最近、大工仕事をする機会があったからきっと大丈夫だ! 今度こそ私がちゃんと直してあげよう!』とか言ってゼル帝の小屋を直そうとしたの! そしたら今度は材料の木の板をことごとくおってね……っ! あれ全部私の自腹だったんですけどっ! お財布ももうすっからかんなんですけど!」
「おち、落ち着けアクア! それについては本当にすまないと思っているから! だからわざわざカズマに報告しなくて良い!」
「お前ほんと折るの好きだよなぁ……」
しばらく冒険者ギルドで作業をして、そのまま真っ直ぐ帰ってきたら、ドアを開けた瞬間にアクアが泣きついてきた。
「別に折るのが好きな訳ではないっ! だいたいそもそもは、ギルドでお前ばかり大工仕事をやって、みんなにすごいだなんだって注目されたからだろう! 私にも少しはやらせてくれても良いじゃないか!」
「だってお前、チマチマした作業とか出来ねえじゃん」
もちろん、ダクネスは俺よりも力がある。
木を切ったりするのもダクネスの方が早い。
しかし、力があるだけでは、当然、繊細な作業の加工とかは出来ない訳で……。
「あら? 二人ともギルドで何か作ってたの? 最近、私ってばすっごい暇なのよ。私も混ぜてちょうだい」
「い、いや……アクアは少し訳があってだな……その……」
先日のめぐみんのように、しどろもどろになるダクネス。
そんなダクネスを見て、アクアが首をひねり。
「あら、そうなの? でも私ってば小さいものを作ったり細かいものを作ったりすることも何でも出来るわよ? 本当に大丈夫?」
「あっ、ああ! 別に大丈夫だ! その気持ちだけで私は嬉しいぞ、アクア」
そんなアクアの言葉に、ダクネスが優しく微笑んで答える。
その言葉を聞くと、アクアは少し不思議がりながらも、納得し……。
「いや、でも聞いてくれよアクア。この筋肉怪力お嬢様ったら、木材を持ってきてって頼んだだけなのに、いつのまにかその木材の何枚かが割れてるんだよ」
「それは良くないわねダクネス。私がウィズに頼んで、力を弱めるポーションを売ってきてもらいましょうか?」
「いらんっ! 余計なお世話だ! だいたいカズマもどうして秘密にして欲しいと言ったことをペラペラと…… 」
腕を胸の前で組みながら、頬を少し膨らませ怒るダクネス。
そんなダクネスの服の端を、ちょいちょいとアクアが引っ張り……。
「でもこの前ウィズが、副作用なしの、飲むと少しの間だけ、力が弱くなるポーションを手に入れたって言ってたわよ? それでも本当にいらないの?」
「…………ほっ、欲しいです……」
……やっぱり気にしてたのかよ。
─────────────────────────
──そしていよいよ当日。
「ねえねえカズマさん。急にお出かけしようだなんていったいどういう風の吹きまわし? いつもは部屋に籠ってばっかのカズマさんがどうしたのよ? もしかして、明日は雪でも降るのかしら?」
「夏なのにそんなわけあるか。ただちょっとお前を連れていきたい場所があるだけだ。いいから行くぞ」
アクアを連れて、少しの間ほぼ毎日通っていた冒険者ギルドへと向かう。
アクアは俺の返答にしばらく首を傾け、そして何か思い付いたのか。
「分かったわカズマ! もうーっ、カズマったら、そうと言ってくれたら、あんなにも朝嫌がらなかったのに!」
「急にどうしたんだ? あれだけ今朝、ソファーにしがみついて『いーやーよっ! だってだいたいこういう時って何か私が怒られて後始末を任されるときだもの! 今回は誰に怒られるの!?』とか言って渋ってたやつがどうしたんだよ」
朝のアクアには本当に困った。
おかげであのまま行かないと言われていたら、せっかくの努力が水の泡だった。
もちろん、お酒で釣って、ついてこさせたが。
「そう……。カズマが無理矢理私をつれてきてまで行きたい場所があると……。そうっ! これはつまり、カズマさんってば私とデートしたいのねっ! もうっ、しょうがないわねー。まあ、デートもしたことのないカズマのためなら、この麗しい慈悲深い女神様が付き合ってあげても良いけど!」
「はいはいすごいねー。そういうことにしといてやるよ」
「ちょっと反応が渋いんですけど。もうちょっと喜んだりとかしてほしいんですけど」
ぺしぺしと背中を叩いてくるアクアを無視して、ギルドへと向かう。
そんなこんなを言い合っている内に、目的の冒険者ギルドにたどり着いた。
──上手くいくかは分からんが、少しは喜んでくれるならそれでいい。
「よしアクア、着いたぞ。俺が開けるのもなんだから、アクアが開けてくれ」
「あら、ここってばいつものギルドじゃない。どしたのカズマさん? クエストにでも行くの? それともこの扉を開けた瞬間に徴税する人が私を追いかけてきたりするのかしら?」
「違うから早く行けっ!」
未だに不審がるアクアの背中をドンと押す。
おずおずと、アクアも今から何が起こるのか不安がりながらもドアノブに手をかけ。
そのままゆっくりと、ドアを開くと……。
「「「「「ハッピーバースデー、アクア!!!」」」」」
──クラッカーの音が、一斉にギルド中に響き渡った。
「え? え? ちょっとどういうこと?」
アクアが俺の顔とギルドを交互に見ながら、困惑した表情で。
「エリス様から聞いたんだ。お前って誕生日がないんだろ? まあ、俺やめぐみんたちだけが祝ってもらうってのもあれだから、その仲間としても公平にっていうかなんというか……」
ガシガシと頭をかき、照れくささを何とか誤魔化そうしながら、アクアに告げる。
誕生日がないと、そう言うのなら。
こっちから勝手に祝ってやればいい、それが俺たちの結論だった。
「ま、まあ驚いたかもしれんが、街の皆にも言ったらみんな協力したり来てくれたりしてな。この会場の飾りつけも皆でやったんだよ。その、日頃の感謝も込めてというか……アクア? おいどうしたんだよアクア」
見ると、さっきまでは呆気に取られていたアクアが、今度は膝を抱えて顔を隠すように座っていた。
そして、しばらくの間、隣から少しの間鼻をすする音が聞こえたかと思うと。
すくっと立ちあがり。
「ひぐっ……。うれ、嬉しい……! あり、ありがとね、みんなぁぁぁぁ!!!」
そんなことを、鼻水混じりの声で言った。
やっぱり泣いてるんじゃねえか、こいつ。
でもこんなに喜んで貰えたのなら、まあ。
そんなアクアの姿を見ていると途端にこっ恥ずかしくなる。
赤くなった顔がバレないように、ギルドの中に目をやると。
そこには俺たちが作った『お誕生日おめでとうアクア!』の文字が。
その淵には色とりどりの風船が飾り付けられ、他にもいろんな飾りがある。
これらは全部、誕生日会のために場所を貸してもらえるようギルドに頼んで、俺たちが準備した。
アクアにとっては始めてのお誕生日なのだ、盛大に祝ってやらなくてどうする。
未だにずびずびと泣いているアクアの背中をそっと押し、中へと入れてやる。
すると、再び色々なところからクラッカーの音が鳴り響き。
「アクアのねーちゃんいつもありがとな! 今日が誕生日だったんだってな! 傷を治してもらったらよく入信書を書かされそうになるけど、アクアのねーちゃんの回復魔法には助かってるぜ!」
「おう、おめでとなアクアのねーちゃん! 俺もこの前ほぼ無理矢理買わされた聖水がこの前のゴースト退治に役立ったぜ! ありがとな!」
各々のテーブルから、野太い祝福の声が聞こえる。
だいたいアクアが何かやらかしているのがあれだが、今日ぐらいは目を瞑っといてやろう。
ふと遠くのテーブルを見ると、視界の端には、クリスがヒラヒラと手を振っている。
嬉しそうにしているクリスを見ていると、何だかこっちが照れくさくなってくる。
そうしてアクアをめぐみんとダクネスが待つ真ん中のテーブルに連れていき。
アクアの好きな食べ物をめいいっぱい並べたテーブルに座らせる。
そして、未だに目の端にほんの少し涙を浮かべているアクアに向けて。
──精いっぱいの声で、祝福を。
「「「「「改めて、お誕生日おめでとうアクア!!」」」」」
─────────────────────────
「はふっ、はふっ! すごいわねカズマ! どれもこれも私の大好きなものなの! ほら見てよこのカエルのから揚げ! うーんっ、ジューシーでおいしいーっ!!」
「お前もすっかりこの世界に慣れたよなぁ……」
こいつと出会ったときに、初めての報酬で一緒にカエルのから揚げを食ったのが、随分昔のように感じる。
それからも、なんやかんやで色んなことがあって……。
「アクアアクア、もうちょっとゆっくり食べても大丈夫ですよ? 食べ物は逃げませんから、もっと落ち着いて食べてください」
「誕生日会の最中に、主賓が食べ物を喉に詰まらせるとなったら大惨事だぞ。めぐみんの言う通り、もっとゆっくり食べたほうがいいぞアクア」
アクアの食べっぷりに少し苦笑するめぐみんとダクネス。
各々がアクアにお誕生日おめでとうと祝ったあと。
そこからは、既にアクアのお誕生日会兼、宴会になっていた。
ガヤガヤと楽しそうに飲み歩く冒険者たち。
そんなやかましさも、俺たちにはすっかり慣れたものになっていて。
「ねえねえ。そういえばひとつ聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
すごいスピードでおおかたの物を食べ終えたアクアが、そんなことを言う。
「あのね、私ってば確かに誕生日はないの。生まれた時の記憶も曖昧でね。実はよく覚えてないの。だからね、今まで生きてきたなかで、こんなにたくさんの人に祝ってもらえるだなんてなかったの」
ぽつりぽつりとゆっくりとアクアが喋る。
「誕生日を祝ってもらったことはすっごい嬉しいの。でもね、よくよく考えたら何で今日が誕生日なのかなーって」
こくんと首をかしげ、俺たちの顔を見るアクア。
そんなアクアの言葉を受け、めぐみんとダクネスがニヤニヤとしながら、俺の顔を見る。
ああもう……。
絶対にからかわれるから、出来るなら言いたくなかったんだけど。
再びガシガシと頭をかき、込み上げてくる恥ずかしさを誤魔化そうとする俺に、二人が早く言えと目線で急かしてくる。
そんな二人に俺も観念して……。
「その、アクアは覚えてるかどうか分からないけど、今日って俺とお前が出会った日だろ。俺があの世界で亡くなって、お前と出会って、この世界に生まれた日」
柄にもないことを言ってる自覚はある。
「だからさ、ある意味お前がこの世界に生まれたって日でもあるわけで……。ああもうっ、とにかく今日はお前の誕生日だ! 俺が決めた! なんか文句あるか!」
恥ずかしさを誤魔化そうと、思わず口調が荒いものになってしまう。
言われた本人はと言うと、ぽかーんと分かってるのか分かってないのか、そんな顔をして。
そして、こほんっと少し咳ばらいをしてから、一言。
「──ううん、嬉しい。ありがとねカズマ」
そんなセリフを、恥ずかしげもなく優しい微笑みを浮かべた顔で。
時おり見せる、アクアの女神らしい顔。
不意打ちに、そんなものをくらった俺はと言うと。
まともな返事をろくに返すことも出来ず……。
「おやおや。カズマとしては珍しくアクアに何も言えないようですね。どうしたんですか? アクアの笑顔にやられましたか?」
「確かに珍しいな。カズマの顔もすっかり真っ赤になっているぞ。そんなようでは渡すものも渡せんではないか」
「う、うるせーっ! お前ら二人ともからかってくんじゃねえ! 俺にしては精いっぱいだったんだから茶化すなよ!」
俺の言葉に、めぐみんとダクネス、そしてアクアが声を上げて笑う。
ああもうっ、ったく……。
まさかアクアにもう一度ドキッとさせられるとは思ってもなかった。
気を付けていたはずなのに、たまにこいつが見せる笑顔にやられてしまう。
「あはははは! ふふっ……! あー、カズマさんってばほんと面白い反応するわよね。…………って、あれ? 渡すもの? ねえねえ、もしかして何かあるのかしら!」
ダクネスが言った言葉に目ざとく気づくアクア。
こう、俺からさりげなく渡そうと思っていたのに、これだとまた恥ずかしい目に合うじゃねえか。
しかし、うだうだと言っても仕方がないので。
あらかじめ用意していたプレゼントをポケットから取り出す。
そっけなく、なるべく顔が赤くなっているのがアクアに分からないよう、何も言わずにアクアに手渡す。
青の袋に包まれた、アクアのためのプレゼント。
アクアは、両手で大事そうに受け取ると。
「開けていい?」
「ああいいよ。好きにしろ」
そう言うと、アクアがガサガサと包み紙を開ける。
そして、その中から白い箱が姿を現し……。
ゆっくりと蓋がとられる。
そして、アクアがゆっくりと中身を手に取り……。
「うわぁ……。素敵なブレスレット……」
嬉しそうに、頬笑むアクア。
アクアの髪色と同じ、透き通った青のブレスレット。
ブレスレットを優しいまなざしでしばし見つめ、自分の手首にそれをつける。
「その、ダクネスとめぐみんと一緒に選んだやつなんだ、それ。とある魔道具店で見つけたやつでな」
しげしげとブレスレットを見つめるアクアに、詳しい説明をする。
「実はそのブレスレットは魔道具でな。俺たちも色の違う同じブレスレットを持ってて、自分のブレスレットに魔力を込めると、お互いがどの辺りにいるのかが分かるようになっているブレスレットなんだ。ほら、お前ってよく迷子になるだろ。その……、アクセルだけじゃなく、急に家出とかしたりするし。だからもうアクアが迷子にならないようにな。その……」
誕生日プレゼントを渡すのって、こんなに恥ずかしかったけ。
さっきからずっと身体が熱くて。
自分の身体じゃないような、夢ごこちな気分がする。
珍しく俺の説明を静かに聞いていたアクアは、ぱちぱちと目を瞬かせ。
「──ありがとね。すっごく、すっごく嬉しいわ。えへへ……」
本当に心底嬉しそうな顔で。
そんな無邪気な笑みをこぼす。
そしてブレスレットを手首から外し、大切そうに胸に抱いたあと。
俺たちの目を見つめ、目を細めながら。
「でもね、私は迷子になんてならないわよ」
「どうだかなぁ……。お前すぐどっか行くからなぁ……」
ほんと目を離した隙にこいつはどっかへ行くのだ。
しかし、アクアとしてはそう言った意味ではないようで。
俺の言葉に首を振りながら、ぽつりぽつりと。
「ううん、そうじゃなくて。だって、私が迷子になってもね。めぐみんが魔法でモンスターを蹴散らして、ダクネスが守ってくれて、そしてまたカズマがしょうがねえなっていいながら迎えに来てくれるもの。だから私は迷子になんてならないわ」
「お前なぁ……」
それって結局俺たちが探しに行く前提じゃねえか。
──まあ、でも。
──それぐらいなら、まあ。
「しょうがねえなぁ……」
「わーい! さっすがカズマさーん!」
コロンといつものアクアに戻った姿に、三人とも苦笑する。
そうして、アクアが手元にあった、しゅわしゅわを一気に飲み干すと。
「さぁーっ! まだまだ宴会は終わってないわよ三人とも! 今日は私の誕生日だから、好きなだけ飲みなさい! 今日はジャンジャン飲むわよーっ!」
いつも通りの元気な声で、高らかに宣言した。
「ちなみに誕生日ケーキがあるんだけど、これって何本ろうそくを立てたらいいんだ? とりあえず、一応百本以上は用意しておいた……いってえ! 何でいきなり頭を叩いてくんだよ! 今けっこう良い雰囲気だったろ俺たち!」