「俺も神器とか使って、ばっさばっさモンスターを倒して、たまにはちやほやされたい」
とある日の昼下がり。
何故か屋敷にいるミツルギとアクアに対して、そんなことを言ってみた。
「はぁー? 何言ってるの。カズマさんには神器よりも役に立つ私がいるじゃない。ほら言ってみて。神器よりも役に立つアクア様がいるから大丈夫ですって言ってみて」
「知ってるかアクア。神器ってのはな、急に借金抱えてきたり、すぐ誰かとトラブル起こして俺が謝りにいくことなんてないんだぞ、いたっ、お前人の頭を叩いてくんじゃねえよ!」
図星だったのか何も言い返せないアクアが、少し涙目になりながら叩いてくる。なんで怒ってんだよこいつ、この前も『ツケ払えないからカズマ払ってよ……』とか言ってただろ。
「そういえば君は神器の代わりにアクア様と一緒に来たんだったな。まあ、君のその気持ちも分からなくもないが……」
「そうだろ、そうだろ。やっぱり俺としても、こう、ゲームみたいに華麗な剣技で敵を切り倒したり、魔法で相手をドドーン! とやっつけてみたいんだよ。初級魔法で相手をなんとか倒すのは飽きたんだよ」
「それって、カズマさんが身体的にも魔力的にも、なんにも持ってないから仕方がないと思うんですけど……」
うるさい。それは自分でも分かってるから言うなって。
「とにかく、たまには俺もみんなみたいにすごい魔法とかそんなことをしてみたいんだって。ほらあるだろ。なんかそういう便利なものとかないのか?」
「君でも使えるものと言うならそうだな……マジックスクロールとかああいうのはどうだろう。あれなら誰でも手軽に使うことが出来るし、色々な魔法を使ってみることも出来る。少し値段が高いが、それも君なら大丈夫だろう」
マジックスクロールか……。
考えたことはあるっちゃあるのだが、そういう誰でも使えるとか、そういうのは違うのだ。
「却下だ、却下。そういうのじゃなくてだな……俺が戦ってるところを見て、周りのやつらに『すごい……』とか『カッコいい……』とか言われるやつみたいなもんがいい。欲を言えば可愛い女の子にもっとチヤホヤされたい」
「あんたビックリするぐらい欲にストレートね……。さすがの私もカズマさんには勝てないわ……。でもそれなら、さっきカズマが言ってた通り、ちょっと使い勝手が悪くなるけど、それこそ他の人の神器とか使ってみたらいいんじゃない。弱っちいカズマならどれを使っても多少は強くなるはずよ」
どうでもよさそうな顔をしながら、ボリボリとミツルギが持ってきたお菓子を食べてるアクアが、そんなことを提案してくれる。
神器……。神器ねえ……。
「そもそもその神器ってやつはどっから用意するんだよ。そう簡単に誰もが譲ってくれる訳じゃないだろ」
「まあ、それもそうね。元々は私たちが特別にあげてるものだからそりゃ簡単には手放さないわよね。けど、それならあとは、神器を使って亡くなった人のやつをどこかで見つけるとかそんなのしかないんじゃない?」
「最近はよく所有者不明の不思議な武器や魔道具が、貴族や王都の商人などが秘密裏に持っているという噂もありますからね。ああいうのも元をたどれば、日本から転生してきた人たちのモノなのかもしれませんね」
そうか、その発想はなかった。
幸い金なら持ってるし、王都にもツテがあるから、出来ないことはないか……?
「でも最近は、ええっと、なんだったかしら……ああ、そう! 仮面盗賊団っていう義賊の人たちが、神器目当てに盗みに入ってるんでしょ? それなら、カズマがもし神器を買ってもすぐに盗まれちゃうわね」
……。
「そういえば僕たちもこの前アイリス王女の屋敷で、その盗賊たちを見かけましたね。あとから聞くと彼らの狙いは、アイリス王女が身に付けていた神器だったとか。まったく、僕も少しは気を付けないと……。アクア様も確か、その羽衣は神器なんでしょう? なら彼らに盗まれないように気をつけてくださいね」
誰が盗むかお前らのなんか。
しかし、よくよく考えてみたら、俺がなんとか神器を手に入れられたとしても、クリスに見つかったら、絶対になんか言われることを忘れてた。
見つかったら絶対に『ね、ねえ……それって神器だよね。どうして助手くんがそれを持ってるの……?』とか言われるに決まってる。
この前みたいに、神器を譲って欲しいってエリス様みたいにクリスに頼まれたら絶対断れないしな。
もっと俺が持ってても、クリスにバレても大丈夫で、手頃に手にいれやすい神器がないものか……。
あっ、そうじゃん。
「おいミツルギ。お前そういえば魔剣グラムとかえらいカッコいい名前の神器持ってたよな。あれちょっとの間だけでいいから、俺に貸してくれよ」
「はっ、はぁ……? イヤに決まってるだろそんなの!! だいたい魔剣がない間、僕はどうやってモンスターを倒せばいいんだ!!??」
「冒険者にクラスチェンジでもして、初級魔法で頑張れよ」
こいつは初めから神器があったおかげなのか、苦労もなんもしてないからな。たまにはこいつもカエルに頭を飲み込まれたらいいと思う。
「せっかくソードマスターになってここまでレベルをあげたのに、どうして僕が冒険者にならないといけないんだ! 冒険者なんて職業は君ぐらいしか使えこなせてる人を知らないぞ。そもそも魔剣グラムは君だとよく切れるぐらいの剣でしかないし、僕にしか使いこなせないはずだ。ですよね、アクア様!」
俺の提案に慌てたミツルギが、俺のバカな提案を断ろうとアクアに助けを求める。
山ほどあったお菓子を食べ終わりそうになってたアクアは、近くにあった水を飲んでから。
「それはそうだけど、天界に行って所有者の名義を変えてもらったらカズマさんでも本来の力は出せるはずよ。この前はめんどくさいからカズマには言わなかったけど。その魔剣の能力自体は、天界で作った時にすでに決まってるしね。どうする? 後でエリスにでも頼んで変えてもらいましょうか?」
「おおっ、マジか! ならそれで頼む!」
「頼むんじゃない!! 何も良くない! なんで僕が君のわがままのためにそんなことをしなくちゃいけないんだ! それをするならせめて何かしらの理由が必要だろう!」
ごちゃごちゃうるせえな、こいつ……。
「分かった、分かった。それならこうしようぜ。俺が三回じゃんけんに勝ったら、お前の魔剣を少しの間貸してもらう。そしてお前が一回でもじゃんけんに勝てたら俺の全財産をお前にやるよ。これでどうだ? お前に圧倒的に有利な条件だろう?」
「な、なんだその条件は……っ! そんなの僕が絶対に勝つじゃないか……」
こいつ、もしかしてアクア並みにバカなのかもしれない。
そういうとミツルギは引き受けてくれたのか、じゃんけんに勝とうと腕まくりをしてくる。
そんな俺たちの様子を見て、過去にまったく同じことを俺にされたアクアが。
「別に二人ともやるのは良いけど、カズマってば今までクリス以外にはじゃんけんに負けたことないわよ。この男、運だけはカンストしてるからじゃんけんとかそういう運絡みの勝負はやめといた方がいいわよ」
「え、えっ、そうなんですか!?」
なんで言うんだよこいつは!
「お前はどうしてせっかく俺が考えた作戦をぶち壊しにするんだよ! いいだろ運勝負なんだから! なんでお前はいちいちそんなことを言っちゃうんだよ!」
「カズマがみんなを騙そうとするのが悪いんじゃない! ええ! まだ私は覚えてるわよ! この前晩ごはんのおかずを同じ手口で騙しとったこと!謝って! 私の唐揚げを一つ食べたことをちゃんと謝って!」
それは忘れてたお前が悪い。
「ま、まあまあ、落ち着いてくださいアクア様……。ふぅ……しかし、危うく君の巧妙な手口にハマるとこだった……」
「さっきからまるで俺がめちゃめちゃ悪いことしてるみたいに言うけど運の勝負だからな! そもそもアクアは誰にでもじゃんけんに負けるだろ! ほら言ってみろ! お前の一桁のステータスを言ってみろ!」
「やめて! 苛めないでよ! カズマさんだって運が高いだけで、それ以外はほとんど私に負けてるじゃない! やーいやーい、弱っちい冒険者なカズマさーん。今から腕相撲でもしてあげましょうか? カズマは両手でもいいわよ? たぶん私が勝つだろうけど」
こいつ……っ!
アクアが妙にうざったい顔をしながら、俺のことをからかってくる。けど事実なので言い返せねえ……。
どうやって後でアクアに仕返しをしてやろうかと考えていると、困り顔のミツルギが。
「ま、まあ、そういう訳で僕の魔剣は貸せない。君もそんなことをやりたいのなら、何か別の手段を考えてくれ」
「別の手段つってもなぁ……正直あとはなんにも思い付かないし、お前がちょっと貸してくれるだけでいいんだがな……。……後でお前の家がところてんスライムだらけになりたくなかったら、俺の要求を聞くんだな」
「なんだそのスライムは! やめてくれっ!」
やっぱりダメか。まあそもそも俺のちょっとしたわがままなので、別にいいか。
アクアと口論して少し疲れたので、腕を枕にして机に突っ伏していると、さっきとは違いミツルギが何かを企んでいるような顔で。
「そうだな……。分かった。こちらの要求を一つ、君が聞いてくれたら、魔剣グラムを貸そうじゃないか。いや、むしろ聞いてくれたら魔剣グラムは永久に君のものでもいい」
「永久に? お前今言ったこと忘れんなよ。アクア今の言葉聞いたな? お金だけは無駄にあるカズマさんはたいていのことは叶えることが出来るぞ。それで要求ってなんだよ。サキュバスサービスでお前にアクアの夢を見せてもらえるように頼んでくればいいのか?」
「アクア様が目の前にいるのになんてことをいうんだ君は! そうじゃなくてだな……」
顔を真っ赤にしたミツルギが、きょとんとしているアクアの方を気にしながら咳ばらいをする。
「じゃあいったい何を叶えて欲しいんだよ。もったいぶらずに早く言えよ。あっ、俺が絶対に出来ないことはなしだぞ」
「絶対にか……。ふふっ、案外そうなのかもしれないな」
俺の言葉を聞き苦笑したミツルギが、俺のことをからかうようなそんな顔で。
「そうだな。君も特典としてアクア様を選んだんだろう。なら僕の特典の魔剣グラムと君のアクア様を交換してくれないだろうか?」
なっ……。
こいつ……絶対俺が何て言うか分かって……っ。
答えは決まっているが、そんなの本人の前で言えるわけがない。
「よ、よーし、それなら今日はこんぐらいにしといてどっか買い物でもいくかー、今日の晩ごはん担当俺だしなー。ミツルギも食べてくだろ? 今日は晩ごはん何にしようかなー」
「ねえねえカズマさん。そんな顔を赤くして話をそらそうとしても無駄よ。まだ私カズマさんの答えを聞いてないんだけど。ほら言いなさいよ。『自分はアクアが大切だから手放せない』って言いなさいよ」
「さっきまでの威勢はどうしたんだい。僕はこれなら引き受けてもいいと考えてるんだけどな。もちろん君がokと言ったらの話だが」
「う、うるせー! 二人とも一緒になってからかってくんじゃねえ! 俺はまだなんにも言ってないだろ!!」