この素晴らしい駄女神に祝福を!   作:イチセ

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この眠れない男に枕を!

 「ああああああああ!!!! なんだよこれ!!!!!」

 

 清々しい、青空が広がる夏のある朝。

 

 夜通しのクエストから帰ってきた俺は、なぜかびちょびちょに濡れていた愛用の抱き枕を抱き締めて……。

 

 「あら、カズマさん。ようやく帰ってきたの? 今日は遅かったわねー。そうそう、カズマさんの部屋にあったそれ、他のやつと一緒に干しといたから。洗濯物はちゃんと出しておきなさいって言ったでしょ。当番の私が困るのよ。でもカズマさんってばそんなの使ってたのね。さびしんぼなの? 馬小屋のときみたいに一緒に寝てあげましょうか? まあ、晩には乾くと思うわ」

 

 しれっとした顔でそんなことをいうアクア。

 

 「お前何してくれてんだ! なんで勝手に人の部屋に入ってそんなことやるんだよ! お前は俺の母ちゃんか!」

 「はっ、はぁ? なわけないでしょ、馬鹿なんじゃないのあんた? それになんで朝からそんなに怒って……」

 

 ……なんで?

 

 「決まってるだろ! この抱き枕はな! あの性悪悪魔に独自のルートを通してもらって、ようやく手に入れた高級品なんだよ! だから洗い方とかも決まってて……っ!」

 

 そう、これには独自の洗い方があるのだ。

 

 けっしてじゃぶじゃぶと適当に手で洗ったらいいというわけではない。むしろバニルがいうには、本来のふわふわさがなくなり逆効果になると。

 これを洗うことは、素人にはとても真似出来ず、そのため専門の業者にちゃんと頼む必要があるのだ。

 

 それというのにこいつは……っ!

 

 「洗い方? そんなの書いてなかった……あっ」

 洗い方の詳細が書かれたタグをアクアが発見する。

 

 「……。あー、その、ごめんねカズマ! ちょっと分からなかったわ!」

 パチンと手を合わせ、ペロッと舌を出して謝るアクア。こいつ……。

 

 ま、まあ、気づかなかったなら言ってなかった俺も悪いからしょうがないか……。

 

 「でもでも大丈夫よ! 要するにすぐに乾かして、そこに書かれてあるとこに洗ってって頼みにいったらいいのよね? それじゃあ……」

 そういうと、アクアが自分の手を抱き枕にかざして……。

 

 「お、おいっ、待て!」

 

俺が制止の言葉をいうよりも早く、アクアはすでに乾かし終えてしまい。

 「ふぅ……まあこんなもんよ! 水の女神にかかればこんなの楽勝よ! どうどう? 見直した?」

 「見直してねーよ!! だからどうしてお前はいつもいつも、人のいうことを聞かずに勝手にホイホイなんでもやっちゃうんだよ! 乾かしたらさらにふかふか感がなくなるだろ!」

 

 俺の手元には、どこか元の大きさよりも縮んだような気がする抱き枕が。

 違う、これはもう俺が使ってたやつとはまったく違う。別物だ。

 

 やらかしたアクアを拳でグリグリしながら、これからどうしようかと考えていると、ゼル帝と遊んでいためぐみんが。

 

 「そんなに使うなら今から買ってきてはどうです? カズマはお金ならたくさん持ってるではないですか。その抱き枕はウィズの店で買ったものなのでしょう?」

 

 なんでも無さそうに、しれっとめぐみんがそんなことを言う。

 

 だが……。

 

 「俺もそうしたいのはやまやまなんだけど……。ウィズの店今日休みだろ?」

 

 『これ以上仕入れをこの厄災店主に任せていてはダメだ! 我が財政的な意味で破滅してしまう!』とバニルは言って、ちょっと前にちゃんとした商品を仕入れに王都へ。ウィズも珍しく、というかバニルに仕向けられたのか、店にはいない。だから買いに行こうとしてもいけないのだ。

 

 それに……。

 

 「この抱き枕ってば専門の職人がいて作るのに時間がかかるから、手に入れるのにも時間がかかるらしいんだよ。だからもし今あいつらがいても、当分俺は抱き枕なしだ」

 

 これを使う前ならなんなく寝れていたが、今はもう違う。

 むしろこれがないとちゃんとした睡眠がとれないレベルになってしまっている。それってどうなんだ。

 

 俺がすっかりふわふわ感のなくなった抱き枕を、ぱふぱふ叩いていると、困惑した表情のめぐみんが。

 

 「そ、そうですか……。ならカズマがそろそろ抱き枕から卒業するというのは……」

 

 

 

 卒業か……卒業……。

 

 

 

 「それは無理」

 「子供ですかあなたは!!」

 

 だって仕方ねえじゃん。これがないともう寝られないんだから。だいたい16歳はぎりぎり子供だ、たぶん。

 

 「とにかくそれはおいといて、どうしよう……。このままだと高名な冒険者であるこの俺が、睡眠不足でクエストで活躍できなくなって……」

 「カズマさんってば最近寝てばかりだから活躍もなにもないと思うんですけど。というかどうせ今日もいつものように昼まで寝て……痛い痛い! もうっ、ぐりぐりしないでってば!!」

 

 未だ反省してないアクアに、再びぐりぐりの刑を加える。まあ確かに言ってることは事実なんだけど。

 

 「それでも俺は抱き枕が必要なんだよ! たとえ昼まで寝てようが! ろくにクエストにも行かなかろうが! 俺は抱き枕を使ってぐっすり寝たいんだよ! 今すぐ! 」

 「この男……最近まともになってきたかと思えばやっぱり変わらないままでしたね……いつになったら真面目になるのですかあなたは……」

 

 冷ややかな目のめぐみんが、あきれ果てた声でそんなことを言ってくる。

 寝たい。クエストから帰ってきたばかりだし今すぐにでも寝たい。でも抱き枕がないと気持ちよく寝れないしな……。

 

 アクアのほっぺをムニムニと引っ張りながら、うんうん悩む。

 

 

 

 するとそのときハッとある案が思いつきーーっ!

 

 

 

 そうだ、そうだ。これでいいじゃないか。

 

 俺はニヤニヤと笑いながら、アクアたちの顔を見て。

 

 「なぁ、お前ら……。俺にちょっと良い考えがあるんだけど……」

 

 

 「な、なあ……二人とも。朝からいったいこんなところで何をやっているんだ?」

 朝ごはんを配膳しに来たダクネスが、俺たちを見て困惑した表情を浮かべる。

 

 何を……?

 

 何をってそりゃ……。

 「カズマ! やっぱりもう離してください! 恥ずかしいです! 二人きりならいざ知らず、二人がいる前でぎゅってされるのはなんだか恥ずかしいです!」

 「おいおい暴れるなって。もうちょっと確かめて……うーん、なるほど……」

 

 現在の俺はリビングでごろんと横になりながら、めぐみんを抱き枕の代わりにして寝ている。

 

 さっきの俺の提案はこうだ。

 

 『抱き枕がないからお前らがその代わりになってくれ』という。

 

 我ながら妙案だと思う。寝不足で頭があまり働いてないからよく分からなくなってきてるがこれはいい案だ。きっと。

 

 「ダメですカズマ!! さっきから寝ぼけたふりをしてるのはわかっているんですから! だから髪に顔を埋めないでください! その、カズマの息が髪にかかって……あぅ……」

 「別にいいじゃないかめぐみん。俺とめぐみんの仲だろ? なら大丈夫、大丈夫……」

 「どうしたんですか! 私がからかったらすぐに恥ずかしがるいつものカズマはどこへいったんですか! 寝不足のせいなのかすごい堂々と……」

 

 めぐみんが何とか抜け出そうと身体をうねらせるも抵抗はむなしく。そのまま俺になされるがまま、ぎゅっとされている。

 

 しかし、めぐみんを抱き枕にするといい匂いがしてとても幸せな気分だ。まるで小動物を抱っこしてるみたいな感じで……。

 

 「カズマぁ……その、せめてさっきから何度もしてる、そのぎゅーって抱きついてくるのはやめてほしいのですが……二人とも見てますし……」

 

 ふと横を見るとダクネスは頬をかきながら苦笑いし、アクアにいたってはドン引きだ。俺のことを汚物を見るような目で見てきやがる。けどなぁ……。

 

 「うーん、もうちょっと……もうちょっと……」

 

 やめてほしいって言われて俺がやめるわけない。俺は絶対に止めねえ!!!

 

 「この男……はぁ……。分かりましたよもう……」

 めぐみんがもがくのをやめて、ぽすっと頭を俺の胸に預けてくる。そうそう、これで抱きつきやすくなった。

 

 急に静かになっためぐみんと俺との間に、しばし無言の時間が続く。こうしていると、気を抜いたら寝てしまいそうだ。

 

 でも、でもなぁ……。

 

「こう、なんか違うんだよ……。何かが足りないっていうか、その……」

 

 そう、何かが足りない。

 

 「な、何でしょう……ここまでやっているので、足りないものとやらが気になってきたのですが……」

 

 めぐみんが上目遣いで、不安そうに俺の目を見てくる。

 

 めぐみんになくて、俺の理想の抱き枕にあったもの……。

 

 あっ、分かった。

 

 「大きさ」

 

 

 

 

 

 

 「大きさってなんですか大きさって!? どこの大きさですか!言ってみてくださいよ!  いいでしょう! カズマはこの私に喧嘩を売っているのですね!! 受けてたとうじゃないか!!」

 「ちがっ、なんかお前勘違いして……っ! くる、苦しい!! 首絞めてくんなお前!!」

 

 

 

 

 

 

 「先程は雰囲気に当てられてひどい目にあいました……」

 少し頬を赤らめながらタメ息をつくめぐみん。

 

 その横で、俺はというと……。

 

 「な、なあ、カズマ? これは本当に必要なことなのか? ただ私がカズマに騙されているだけな気がするのだが……」

 「騙されてるってなにがだよ。俺はただ理想の抱き枕を探しているだけだって。俺がこれから寝ることが出来なくなってクエスト中に突然倒れたりしたらどうするんだよ。いや、それにしてもなかなか……」

 

 俺は今、めぐみんに続いてダクネスを抱き枕にして再び寝ている。

 

 ダクネスはまさか自分がされるとは思ってなかったのか、最初は少し抵抗したが、めぐみんが『自分だけ恥ずかしい目にあったのは納得いきません! ダクネスもやるべきです!』と強引に納得させられたことでしぶしぶやらされた。本人の意思はそこにはない。

 

 しかし、なんというか……。

 

 「ダクネスは俺が使ってた抱き枕よりちょっと大きいけど、これはこれで抱きやすいな……。いや、うん……」

 それに抱き枕本来のふかふか感というか、どこの部位とはいわないが、あるところがちょうど頭に当たってすごい良い気分。最高。

 

 「そ、そうか……これはありがとうと言った方がいいのか……? でも満足したならそろそろ……」

 「いや、ちょっと待て。もうちょっとだけ、もうちょっとだけお願い」

 「うぅ……そ、そうか……ならもう少しだけ……」

 

 ダクネスが恥ずかしそうに、俺と目をあわせないようにうつ向く。朝だってのにすごい顔が赤いなこいつ。

 

 ぎゅっと身体を強く抱き締めると、びくっ!と震えて反応してくれるダクネス。何回やっても新鮮な反応だ。なんだこれ楽しい……。

 

 懲りずに何度も抱き締めたり、目を合わせようとすると、すっかり顔が真っ赤になったダクネスが。

 

 「そ、その……やっぱりそろそろ恥ずかしいからやめてほしいのだが……。めぐみんたちも見てるし、だな……」

 

 うーん、確かに……。

 

 めぐみんはダクネスが恥ずかしがる姿を見て満足そうに頷き、アクアは以前としてドン引きだ。アクアの視線がさっきから痛い。

 

 でもさっきのめぐみんの時とは違って、ちょっと目が覚めてきた。ダクネスの言う通り、俺もだんだん恥ずかしくなってきたな……。

 

 しかし、ダクネスの反応を見てると楽しくて止められない。ほんとこいつ表情豊かだな。

 

 ダクネスのことをぎゅーと強く抱き締めると、びくっ!と身体を震わせ。めぐみんの時とは逆に、ぽすっと俺がダクネスの胸に頭をうずくめると、どうしていいのか分からずおろおろとする。

 

 

 これが、これが幸せか……。

 

 

 しばらくそうやって遊んでいると、さっきまでぶつぶつ言っていたダクネスの声が聞こえなくなった。

 それが気になり、少し上を見上げると。

 

 そこには涙目になったダクネスの顔が。

 

 そしてそのまま俺のことをじっと見つめてくる。

 それはまるで俺に告白してきた時のような、何ともいえない甘酸っぱい雰囲気で……。

 

 思わずダクネスの瞳に目が奪われる。綺麗な、透き通った蒼色の瞳。

 

 視線を少し下に向けると、以前俺とキスした唇が目の前に。

 俺は誘われるように、無意識にダクネスに顔を近づけるとーー

 

 

 

 「あかんっ!!!」

 「カ、カズマ!? いきなりどうしたんです!? というか今何をしようと……?」

 

 いきなり頭を床にぶつけた俺に、めぐみんが慌てて近づいてきて、頭を抱えてくれる。

 

 「いや……あのままだとダクネスを襲いそうになってたから頭を冷やそうと……」

 「ふんっっ!」

 「ぐあ……っ!急に下ろすんじゃねえ……」

 

 何の前触れもなく支えてた手をどすんと離してきやがった。なんだよこいついきなり不満そうになりやがって……。

 

 「ねえねえカズマさん。さっきからあんた抱き枕のことを忘れて私たちに抱きつきたいがためにやってない? あとこれからカズマさんはダクネスに近づくのは禁止ね」

 

 アクアがみも蓋もないことを言ってるがそんなわけない。たぶん。

 

 「や、やっぱり……しかしこういった経験はなかったが、カズマが積極的になるというところではなかなか良いものなのか……?」

 「ダクネス騙されてはいけません。この男は何となく良い雰囲気になったら誰にでも手を出す男です。この男の作戦には引っ掛からないでください!」

 「いいや、ダクネス。俺はそんな男じゃない。 それにめぐみんもさっきは顔真っ赤にしてただろうが! やきもち焼いてるんじゃないのか、ああん?」

 「そんなわけないでしょう! だいたいこんな場所でいきなりキスしようとするカズマはおかしいです!せめて他の場所でしょう! いいでしょう最近モテてるからと言ってカズマは調子に乗りすぎです! 少しお灸を据えてあげようじゃないか!!」

 

 

 

 

 「いってえ……あいつ杖で思いっきり殴ってきやがった……」

 

 あのあとずっとからかっていたら、めぐみんはしびれを切らして手ではなく杖で殴りかかってきた。 こういう時に己のステータスの低さを恨んでしまう……。

 

 怒ったままのめぐみんは今日の日課の爆裂散歩をダクネスと。今日も相変わらずどこかへ撃ちに行ってるらしい。

 

 そしてこんなことになった元凶のアクアはというと……。

 

 「カズマさーん、私洗い物やっといたからあとはよろしくねー!」

 洗い物を終えてゼル帝とソファーの上で遊んでいた。というか皿を拭くのも今日はお前の当番じゃないの?

 

 「まあ後でやっとくわ。俺はもう限界だから寝ることにする」

 

 そう言って台所で水を一杯飲んだあと、ふらふらとおぼつかない足取りでソファーまで歩き、アクアの座っている横に寝転ぶ。

 

 少々狭い気もするが、寝るには十分だろう。

 

 しかし……。

 

 「やっぱ物足りない……」

 

 いつも腕にあったものがないのだ。なんかどことなく不安だ……。

 

 「あんたまだそんなこと言ってるの? めぐみんたちにセクハラしたいがために言ってたんじゃないの? けどこれもいい機会よ、卒業したら?」

 「いや、そうじゃねえんだよ……あの抱き枕は快眠には必要っていうかもうないと寝れないっていうか……」

 「あんたそれなんか変な呪いとかかかってないでしょうね……」

 

 怪しげな目でアクアが俺のことを見る。

 

 ウィズの店だし、そんな気は少しするけどそんなことない、よな……?

 

 「まー身体が疲れてたらいつのまにか寝てるわよ。あ、先に言っとくけど私あんなバカなわがままは聞いてあげないからね。めぐみんたちには通用しても私には通用しないわよ」

 「誰が頼むか誰が。お前に頼んでもうるさくて寝れそうにねーよ」

 

 アクアを抱き枕とかずっと喋ってそうで寝れそうにない。むしろ使わない方が寝れそうだ。

 

 それに……。

 

 「お前背の高さが俺と同じだろ? だから、その……」

 

 言おうとは思ってなかったのに、思わず口に出てしまった。

 

 「そういえばカズマと同じぐらいねー、まあ、ブーツはいてる時で同じ伸長だから今はカズマの方がちょっと大きいんですけど。それで? どしたの?」

 「あ、いや、やっぱりなんでもねえ」

 

 

 ……お前と一緒に横になったら目の前に顔がくるだろ。

 

 

 たとえアクアでも意識はするんだよ、そういうのは。

 

 一瞬口に出しそうになったが『えっ、あっ……カ、カズマさんってばこんな朝から何考えてるんですかー。…………エロニート』とか言われそうなのでやめといた。

 

 「なんだかそう言われたら気になるんですけど……まあ、抱き枕は無理でもひざ枕ぐらいならしてあげるわよ? ほら、おいでカズマ」

 そう言うと太ももをぽんぽんと叩いて誘ってくるアクア。

 

 「いや、恥ずかしいからいいって、ほんと。なんだよお前何考えてんだよ、おこづかいならこの前あげたでしょ!」

 「なによその口調……。別になんにも企んでなんかないわよ。ただカズマがバカなことを言い出したのも元はといえば私のせいだしね。別にひざ枕ぐらいならやってあげてもいいわよ」

 

 誰だこいつ。泉にでも落としたっけ、この女神?

 

 「ほーらっ! いいから、恥ずかしがってないで! さっきのやけになってたカズマさんはどこへいったのよ。ほら、おいで?」

 「いやいやいや!もうだんだん目覚めてきたし、大丈夫だから! それにぐっすり寝てるところを二人に見られたら恥ずかしいだろ俺が!」

 

 アクアにひざ枕されてるところを二人に見られるとか何の罰ゲームだ。恥ずかしすぎて死ぬぞ俺。

 

 しかし、口での抵抗もむなしく、アクアがこっちに身体をモゾモゾと動かしてきて。

 

 「はいはい、分かった分かった。でも夜通しクエストに行ってて疲れてるでしょ。ならささっと寝なさい」

 頭をひょいと持ち上げられ、俺の頭がアクアの太ももの上に。

 

 後頭部にアクアの体温を感じてちょっと恥ずかしい……。

 

 目を前に向けると、ちょうどアクアと目が合う。

 

 不満げに目を細めてにらんでも、アクアは満足げに見てくるだけ。

 

 いつまでも前を向いてたらアクアとずっと目が合うのでふいっと目をそらし。

 

 目が覚めかかっている今、たとえアクアでも女の子と見つめ合うとか無理です恥ずかしい!

 

 俺が遠くの方へ意識を集中させていると、アクアの手が俺の頭におかれて。

 

 「うんうん、これでいいのよ」

 

 そう言いながら、頭を撫でてくる。

 

 ……誰だこれ…………。

 

 ほんとに誰なんだこれは。なんでこんなに今日は優しいんだよこいつ。

 

 アクアの手が俺の頭をいったりきたり。

 赤ん坊があやされてるみたいで、どこか妙な恥ずかしさがこみ上げてくるが、こうやって人に頭を撫でられることなんかほとんどないから少し気持ちいい。

 

 というか……。

 

 心地がいい、そんな言葉が今の状況には似合う。

 

 「どう? 良いもんでしょ。たまには私の女神らしいとこが分かったでしょ?」

 

 ふふん、と自慢気に見てくるアクア。

 

 「いつも女神らしさがないってことは自覚してんのかよ……。まあ、あれだ、前の使ってた抱き枕よりどうかは分からんが、良いんじゃねえの、知らんけど」

 「はいはい。あんたも素直じゃないわねー。でもまたして欲しかったらいつでもやってあげてもいいわよ? 一回一万エリスね」

 

 金とんのかよ。しかも高えよ。

 

 無言の時間が俺たちの間に流れる。

 

 その間もよしよしと優しく頭を撫でられ。

 

 アクアは俺の髪が気になるのか、ときどき指でくるくると巻いたり。髪をといたり。

 

 されるがままにアクアに頭を撫でられると、眠気が少しこみ上げてきた。

 

 

 そして、そのまま気持ちよく目を閉じるとーー。

 

 

 

 

 

 

 「カズマー! いますかー! いつものように一歩も動けないので、今から体力を分けて欲しいのですがー!」

 

 カズマにそそのかされて恥ずかしい目にあった私は。

 そのあとこそばゆい恥ずかしさを吹き飛ばすために、近くの採石場へ爆裂魔法を撃ちに。

 

 原形が分からなくなるぐらい原石が木端微塵になっていたが仕方がないのです、そう、きっと。

 

 けどいつもならカズマがすぐドレインタッチで体力を分けてくれるが、今日はいなかったため、今は身体がダルくてしょうがないのです……。

 

 ダクネスに背負われたまま、恐らくカズマたちがいるであろう、リビングへと向かう。

 

 ドアを開けた先にいたのは……。

 

 「二人ともぐっすりと寝ているようだな。静かにしててあげよう」

 

 アクアの膝の上で気持ち良さそうに寝ているカズマと、手をカズマの頭の上において、座ったまま首だけうなだれて寝ているアクアの姿が。

 

 なんですか、別に抱き枕なんてあんな恥ずかしいことやらなくても良かったじゃないですか。

 

 かまってほしそうにちょむすけがうろうろと二人の周りを歩いている。あの様子だと二人とも当分は寝たまままだろう。

 

 それにしても二人ともなんでこんなことに……。

 カズマからしてほしいと頼むわけないし、アクアから誘ってもカズマが恥ずかしがって拒みそうなのだが。

 

 「二人ともこんなとこで寝てたら身体を痛くしそうだが……とりあえず寝かせといてやるか」

 

 二人の姿を見て、優しそうに頬笑みながら、そのまま台所へ向かうダクネス。今日のお昼ご飯の担当は二人のような気がするのですが……。

 

 ダクネスの代わりに、二人が起きたら飛びっきりからかってあげよう。『二人ともやたらと距離が近かったですね』『今度私もしてあげましょうか?』と。

 

 でも、今は。せめて今は。幸せそうな二人のために静かにしておこう。からかうのはそれからだーー

 

 

 

 

 

 「ところでダクネス、荷物の邪魔だから下ろしたのは分かるのですがなぜ私は床に……。せめてカズマたちの近くに寝かせて……あっ、あっ、ちょむすけダメです! 飼い主を舐めようとしてはいけません! 私は今動けないのです! そんなことをしては……っ、あっ、ひゃ、ひゃあああぁぁ……」

 

 

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