先程の喧騒とは打って変わった、静かな夜。
つい先程、ダクネスはゆいゆいに眠らされ、めぐみんはいったん俺と約束をしてから自室へ。
そんな中俺はと言うと……。
「ねえーカズマさんまだー? 私早くキュッと一杯何かやりたいんですけどー。このままだとお酒だけで飽きちゃうんですけどー」
「うるさいちょっと待て慌てて作ってる最中だから!というかなんだよこのイカ! なんでイカの癖に空を飛ぶんだよ!」
日中試練を頑張っていたアクアのためにと、おつまみを作ってあげていた。
「そりゃイカよ? 飛ぶに決まってるじゃない。 でもね、飛ぶって言うことはそれほど新鮮っていう証拠なのよ? 昼間に買ってきておいたからそりゃ新鮮よ」
「なんでそんなものを買ってきちゃうんだよ! 買うならもうちょっと元気のないやつか絞めたやつでも買ってこいよ! ああもうっ、捌きにくい!」
さっきからイカが足で俺に攻撃してきたり、挙句の果てには顔にくっついたりしてきやがる! くっそ、なんだよこのイカ! やたらすっばしっこいし!
俺がイカに悪戦苦闘していると、座って髪を乾かしていたアクアが、俺の方へ歩いてきて……。
「もーカズマってばへたっぴね。そんなのじゃ一流の寿司職人にはなれないわよ? こういうのわね……ほっ!」
何十分も俺を煽るように飛んでいたイカが、アクアの手によってすぐに捕まえられた。ほんとこういうよく分からんことは上手だなこいつ……。
「ありがとなアクア。これでようやく作ることが出来そう……あれ、そういえばこの塩辛ってお前が食べるんだよな? じゃあお前が作って……」
「イヤよ。今日は私は頑張ってきたんだから労ってよ。たまにはカズマさんがおつまみぐらい作ってくれてもいいじゃない」
たまにはってこいつ……いつも屋敷だと俺が作ってやってるような気がするんだが……。
まあ、アクアもゆんゆんのためにと、今日は珍しく頑張っていたらしい。そのお陰で試練を突破出来たのだ。ゆんゆんもアクアに何回もありがとうございますって言ってたし。
「そういえばちらっとしか聞いてなかったけど、試練ってどんな感じだったんだ? どこでやったりとかどんな感じだったんだとは聞いてなかったし、ただアクアが泥まみれになったぐらいしか知らないんだけど」
未だに逃げようと抵抗するイカに、容赦なく包丁を入れながら、そんなことを聞く。
「そう言ってもさっき話したのと同じことしか言えないわよ? まずゆんゆんと一緒に里の外れへ行ってね。そこに紅魔の人たちと一緒に仰々しい扉があってね。そこで言われたの。『紅魔族に必要なのは時の運。二人が正解の扉を選ぶまで何度でもチャレンジしていただきます』って。私紅魔族じゃないのに……」
イメージするのは、日本であったバラエティー番組。芸人さんがよくやってるやつだ。
「けど私が運がちょびっと悪いと言っても、二択なんだから大丈夫ってその時は思ったのよ。けど、けど……」
「いい、大丈夫だアクア。よく頑張った。偉いぞアクア」
トラウマを思い出してしまったのか、アクアの目に涙が浮かんでいた。そこまでなのか……。
「だって、だって! 二択なのよ!? それにゆんゆんがいるから、私がいても何回か失敗して、そのあとすぐに終わると思うじゃない!」
自分の運の悪さは自覚してるのか。ちょっと成長したな。
「八回も失敗してからおかしいなーって思ったのよ。服は泥だらけで、ゆんゆんも泥だらけだし。なんならもう前が見えなくなってきてたもの。それに紅魔の人たちもだんだん『なんかおかしくないか……?』『二択だろ?いつもなら四回目ぐらいで終わるんだけど……』って言ってたし」
まあアクアの運の悪さを知らないとそういう反応だわな。
「そして9回目、10回目ってやっていくうちに分かったの。このままだと無理って。だってゆんゆんなんか全身泥だらけで泣きそうになってたもの。それでも『アクアさん!このまま頑張りましょう! 私はまだまだ大丈夫ですから!』って笑ってくれたけど」
ゆんゆんには悪いけど、アクアと何回やっても更に泥だらけになると思う。だってこいつの運のパラメーター1番低い数値だもん。
「それで私は考えたの! 『ブレッシング』を使ったらいいじゃない!って。この前のカズマさんとじゃんけんしたときは一回しかしてなかったからダメだったけど、今回はそれも踏まえて何回もしたのよ? それで、それで自信満々に扉へ走っていったらね……」
何となくオチが読めてしまった。
「扉へ飛び込んだらまた泥でね……しかも私のところだけ飛び込み過ぎて、泥がなくなっててほぼ地面で……。なんなのよあれ! すごい痛かったんですけど!」
だからこいつ帰ってきた時にほっぺたスリスリしてたのか。それにしてもほんと運が悪いなこいつ……。
「それで? 結局どうやって試練は成功したんだよ。その調子だと永遠に成功出来なさそうなんだけど」
「……ほっぺたが痛くて泣いてたら、みんなが正解の扉はこっちってジェスチャーしてくれたの……」
それでいいのかよ。試練の意味ないだろそれ。
「……ねえねえカズマさん。私ってやっぱり運が悪いのかしら?」
ぐでーんと机にふっぷしながら、アクアがそんな言葉を憂うつそうにぽつりと漏らす。
そうっちゃそうだけどなぁ……。
「まあ、あれだ。別にお前もそこまで運が悪いわけじゃないって。俺と会えた時にそこで運全部使っちゃったんだよ」
俺の言葉に、ちょっとだけ顔をあげたアクアが、俺の目をじーって見つめる。
「ほ、ほら! あれだ! もしお前が他の冒険者と一緒だったら絶対途中でパーティ壊滅とかそんなはめになってるぞ! そう考えたら俺と会えて良かっただろ!?」
ダメだ、自分でも何言ってるか分からなくなってきた。フォロー下手すぎるだろ俺。
しかし、俺の言葉にじーんと来たのか、アクアは目を細めて、俺の方を見ながらーー!
「なにそれ口説いてるんですか? あと100年は早いわよあんた。それにカズマ以外に私を連れていこうなんて考える人がいないと思うんですけど……」
正論だった。なんならさっき目を細めていたのは『何を言っているんだこいつ』みたいな反応だった。
「それに運全部使っちゃたんなら返してよ! ほら早く! 私の運返してよ! もちろん100倍にして返してね」
「うるせえせっかく人がフォローしてやったのに! 元々お前の運なんてほとんどねえよ!! 0に何かけても0だ! むしろお前といるからいつも俺の運が吸いとられてるんだからな! そこんところ自覚しとけよ!」
「あー!! 今カズマが言っちゃいけないこと言ったー!! このっっ、あっ、やめ、やめへくださいカズマ様! ほっぺたぎゅーってするのはいひゃいからやめへ……」
突っかかってきたアクアを華麗によけて、ほっぺたぎゅーの刑を加えてやった。楽しいからしばらくこれで遊んどこう。
「いたた……なんかほっぺたがイカ臭いんですけど……カズマの部屋の匂いがするんですけど……」
「しない。そんな匂いはしないから。……たぶん」
冗談でも気にするからやめろお前!してないよな……?
「カズマが私を口説いてきたのは置いといて……あっ、ちなみに私はめぐみんやダクネスみたいにカズマさんのこと好きになるとかあり得ないから。そこんところ勘違いしちゃダメよカズマさん?」
「しない、お前相手に勘違いとかしないから。それでなんだよ、なんの話だ? ほい、塩辛」
アクアに俺の料理スキルをふんだんに使ったおつまみをあげる。自分で言うのもなんだがけっこう美味しく出来たんじゃないだろうか。
「ありがと。んっ……あら、美味しいわね。ええっと……何話そうとしてたんだっけ?」
きょとんとした顔で首をかしげるアクア。いや、知らんって。
「思い出せないなら俺はもう行くぞ。ええっとだな、ちょっと、ほら、呼ばれてるし……」
このあと俺はめぐみんに呼ばれている。けっこう塩辛を作るのに時間をかけてしまったから、寝てないかどうかそれが心配なんだけど……。
そそくさと立つ俺に、もぐもぐ食べながらジトーッとした目でアクアが。
「…………。ねえねえカズマさん。言っとくけど一線は越えちゃダメだからね? あんた日本だと一発で捕まるからね?」
どうしたんだ急にこいつ。ダクネスじゃあるまいし、今までこんなこと言ってこなかっただろうに……
はっ! もしかしてようやくこいつにもヒロインとしての自覚が……!
「ごめんな、アクア、でも俺はお前のことは「だってカズマさんに子供が出来ちゃったら私はどうすればいいのよ? せめて私を天界に返してからお願いね。あっ、でも私を養ってくれるっていうなら……」
そんなことはなかった。なんなら相変わらずのアクアだった。知ってる。
「あのなお前……今でも養ってるだろお前のこと……まあ、安心しろって。たぶん俺には呪いがかかってるからそんなことにはなんねーよ……」
「ああ、あんたが昨日言ってたあれ? あんなのあるわけないじゃない、女神である私が見たのよ? 呪いがかかってるとすれば、ここぞといった大事な時にカズマさんのカズマさんが大きくならなくなるぐらいかしら」
「はっ? お前っ……えっ、冗談だよな? いつもの冗談だよな? お前それは洒落になんないって……! おいなんでそんな憐れんだ目で俺のことを見るんだよ! あっ、逃げんじゃねえちょっとその話詳しく!!」
ちなみにそのあとアクアを問い詰めたら『冗談に決まってるじゃない。ふっ……』って俺の大事なとこを見ながら嘲笑された。なんかそれ別の意味が含まれてない、よな……?
やっとセレナさんが出てきてすごい嬉しい……茶巾包み待ってるぜ!