「さあ、白状しなさいカズマ! 今なら高級しゅわしゅわを奢ってくれるだけで許してあげるから!」
「急に何を言い出したんだお前は。暑さでとうとうおかしくなったのか?」
ギラギラと照りつける太陽がうっとうしい、夏のある朝。
俺はというと、いつもと違う白いワンピースを着たアクアに、朝から詰め寄られて困っていた。
「分かってるのよ、ええ。カズマさんは男の子だもんね。たまにはそんなことをしたくなるのもわかるのよ。でもねカズマさん。やっぱり仲間として、やっていいこととやっちゃいけないことがあると思うのよ」
「だからさっきから話がまったく見えないんだけど」
あれか? 昨日、宴会用のアクアの扇子を、うちわ代りに使っていたのがバレたのか?
俺が、日頃の行いを思い返していると、アクアがプンスカと。
「まだしらを切るのねあんたってば! いいわ教えてあげる! 今日の朝、私の服を盗んだのはカズマでしょ!」
…………は?
「だってだって! 昨日洗濯して干しっぱなしだった私の服が、上下共にないのよ!? おかげで着替えたくてもずっとパジャマのままなの! だからダクネスが隠し持っていたヒラヒラの可愛いワンピースを、わざわざ貸してもらったんだから! こんなことする人なんてだいたい一人しかいないわ! そうカズマ、あなたよ!」
ええっと。なんだこれ。
そもそもがおかしい。まず、アクアの服を俺が盗む理由なんてない。別にそこまで服に困っているわけではない。
いったん頭の中を整理した俺は、誤解を解くための質問を。
「…………じゃあ、仮に俺が盗んでいたとして、俺が何をすんだよ」
俺の質問にアクアが首を傾げ。
「ええっと…………。私の服をくんくんする……とか?」
「カズマ……まさかお前にそんな趣味があっただなんて!たまに私の服がちょっと違う匂いがするのもカズマのせいか!」
「違う。それはちょむすけのせいだし、なんなら話がややこしくなるから入ってくるな。ワンピースのことで一日中弄ってあげてもいいんだぞ俺は」
するとアクアは、ダクネスの証言も得たことで自信がついたのか。
「これでもう決まりね! さあ白状しなさいカズマ! ちなみに今なら、高級しゅわしゅわと後でお外でご飯を食べに行くときに奢ってくれたらいいわよ!」
さっきより増えてんじゃねえか。
とりあえず、こんな身も蓋もない濡れ衣はきちんと晴らす必要がある。ひとつひとつ誤解を解かなければ。
「まずアクア。朝から服がなくなっていたということだが、もし俺が盗むんだとしたら、もっと前から勝手に部屋に入って盗んでる。そして別にお前の服に俺は興味がない。そしてダクネス。お前はモンスターを引き寄せるポーションを振りかけたまま、洗濯物を出すんじゃない。ちょむすけが洗濯物から取り出してはお前の服とよくじゃれあってるからな」
「だ、だからたまに引っ掻き傷のようなものが……」
俺の言葉にダクネスは、どうやらいったんは納得してもらえたらしい。
しかし盛大な勘違いをしていらっしゃる女神様はというと…………
「そうね。確かに私に劣情を抱くのは仕方がないことよ。溜まりに溜まった劣情が今になって爆発しちゃっただけだもんね。でも大丈夫よカズマ。ちゃんと今返してくれて、私にごめんなさいの気持ちとして宴会をしてくれればいいわ。もちろんそのときの費用はカズマさん持ちね」
「お前ただ奢ってもらいたいだけで俺を疑ってないだろうなこら」
アクアの要求がさっきから大きくなってきてるからそんな感じがする。俺としては宴会するのは好きなんだけど。
とりあえず、このままだとアクアにあらぬ疑いをかけられたまま、アクセルの町中で、とうとうアクアにまで手をだし始めたカズマさんとか言われるような未来が見える。めぐみんとダクネスは仕方がないとはして、アクアだけは阻止しなければ。
既に犯人を追い詰めたと得意気な顔をしてるアクアに、決定的な証拠を最後に言ってやる。
「よしアクア。一つ例え話をしてやる。これを聞いたらお前も納得するはずだ」
「懲りないわねー! まあ、いいわ! 聞いてあげる! これでダメだったらあなたのあだ名はこれからくんくんニートよ!」
なんだろそのあだ名……。すごい嫌なんだけど……。
とりあえず誤解を解くことを優先して、話を続ける。
「よしアクア。俺の前にお前の服とめぐみんのパンツがある状況を想像してくれ。……俺がどっちをとると思う?」
「……まあ、パンツ好きで小さい娘が大好きなカズマのことだもんね。悩みに悩んでめぐみんのパンツなんじゃない?」
「なあ二人とも……朝から何をバカなことを話し始めてるんだ……」
ダクネスがちょっと引いた目で、俺たちのやり取りを見てくる。気にしない、気にしない。例え話だからな。
「よし正解だ。じゃあ次の問題に行くぞ。アクアの服とダクネスが戦闘を終えたあとに洗濯に出した服。俺がどっちを選ぶと思う?」
「カズマさんってば実は匂いフェチだったの? それは……やっぱりダクネスが戦闘のあとに着替えた服だから、いっぱいダクネスの匂いがするものね。カズマさんだったら悩んでダクネスの服をとるんじゃない?」
「な、なあ二人とも……私は今すごいバカなことを聞いてるように思うんだが、何を急に話し始めてるんだ……もしかして二人とも暑さで頭がやられたのか?」
依然と困惑した表情で、俺たちを交互に見てくるダクネス。
「よし正解だアクア。じゃあ次が最後の問題な。アクアの服とミツルギの服。俺がどっちを選ぶと思う?」
俺の質問を聞いたあと、アクアが腕を組み、自信満々に答えを言う。
そしてその口から出た答えはーー
「そんなのもちろん決まってるじゃない! 私の服よ!だってカズマさんってば女の子が大好きだもの!」
「残念でした。正解はミツルギの服です。というわけでそれぐらいお前の服には興味がないんだ、ごめんな。お前のことは女の子として見れないし、なんなら売れる分ミツルギの方がいいんだ、ごめんな」
………………。
「ふっざけんじゃないわよ!! ねえどういうことカズマさん!? 私ってばこんなにスタイルも良くて可愛いじゃない! なんで私は女の子として見れないのよ! 私ってばヒロインじゃなかったの!? ほら見てよ、私をヒロインとして見てよ!そして私にしゅわしゅわをあげて養ってよ!」
「お前とうとう本性表しやがったな!だいたいヒロインっていうならヒロインらしくしろよ! 酔いつぶれてソファーでそのまま二度寝したり、ツケが払えないからってすがり付いてくるやつはヒロインじゃない! もっとお前がよそよそしく袖引っ張ってきたり、恥ずかしそうにこっちのことチラチラみてきたりしたらヒロインとして見てやるよ! ともかく俺は絶対養わないからな! しゅわしゅわも当分禁止だ、禁止!」
「あああ!!!!ダクネスーー!!!! カズマが苛めるー!!!!」
俺の反論に耐えきれなくなったアクアが、ダクネスにすがり付きに行った。なんかチラチラこっち見てきてめんどくせえ……。
「ま、まあ……その例え話はいいとして……。結局アクアの服はどこへいったんだ? カズマが盗んだわけでは無さそうだが、実際にないのだろう?」
「おい『無さそう』ってなんだよ『無さそう』って。お前、俺が盗んだんじゃないかって、実はちょっと思ってだろ」
「思ってないですごめんなさい」
俺がわきわきと手を動かすと、すぐさま謝るダクネス。やっぱりちょっと思ってだろこいつ。
「でも確かに不思議なのよねー。カズマさんが夜な夜な部屋でくんくんしてると思ってたから、カズマさんじゃないとしたら他に誰が……」
「だからお前らはなんでナチュラルに俺を犯人と決めてかかってくるの? なんなの? 後で本当に盗むからなこら」
まあしかし、俺も犯人が誰なのかは気になる。
アクアの服なんて盗むやつなんてよっぽどの変わりものか、あるいは女なら誰でもいいという変態なのか……
するとそのとき、視界のはしに見覚えのある服が、引きずられているのが一瞬見え。
立ち上がって確認しに行くと、そこにはアクアの服を口にくわえ、頭を振り回して遊んでるちょむすけの姿が。
「あっ! ちょむすけってば! こら止めて! 私の服は猫のためのおもちゃとかじゃないのよ!? あ、待って私の服がよだれだらけに……っ、……。カ、カズマさーん!! た、助けて! このままだと私の服がぼろぼろになっちゃう! あっ!? 紅茶飲んでないで助けてよー!! さっきカズマさんのこと変態さんだとか言ったの謝るからーっ!!」