Ghost Company~たった一人の生社員~   作:九戸政景

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政実「どうも。初めましての方は初めまして。他作品を読んで頂けてる方は、いつもありがとうございます。作者の片倉政実です。今回からこちらの作品を連載させて頂きます。これからどうなるかは分かりませんが、精一杯頑張って参りますので、よろしくお願いします」
怜士「どうも、今作品の主人公の結城怜士です。それにしても……何でこの作品を書こうと思ったんだ?」
政実「簡単に言えば、この設定が面白そうだったから、だね」
怜士「あー……そういう事か。まあ、確かに否定はしないけど、本当にどうなっていくか予想がつかないよな」
政実「まあね。でも、出来る限り頑張っていくつもりだよ」
怜士「あいよ。さて……それじゃあ、そろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・怜士「それでは、第1話をどうぞ」


第1話 全死に一生

「……はあ、本当にどうしたら良いかな……」

 様々な人々が急ぎ足で行き交う昼頃の街中、俺は深いため息をつきながら、一人とぼとぼと歩いていた。そんな時、ふと着ているスーツに目を向けると、まるで俺の今の心情を表すかのようにあちらこちらに幾つものシワが出来ていた。

「あはは……俺の心もヨレヨレだけど、スーツも同じくヨレヨレだな……」

 自嘲気味に小さな声で独り言ちた後、俺は再び深いため息をついた。

 ……本当にどうしたら良いかな……。

 快晴の空の下、エネルギッシュな雰囲気を醸し出す人々の中で、俺だけはまるで曇り空のように暗い表情を浮かべながらどうしたら良いかと考えつつ途方に暮れていた。

 

 

 

 

 さて……突然だが自己紹介でもするとしよう。

 俺の名前は結城怜士(ゆうきれいじ)、現在就職活動に全力を注いでいる、いわゆる就活生という奴だ。しかし、今日に至るまで数え切れないほど連敗が続いているため、正直心が折れかけている。

 ……他の奴はどんどん決まっているのに、自分だけは全然決まらない。この恐怖にも似た焦りから早く解放されたいのに、まったく決まる気がしないんだよな……。けど、そんな事を言ってみてもしょうがないし、とりあえず今日も合同説明会に行ってみるか……。

 そんな諦めにも似た思いを抱えつつ、俺は本日行われる予定の合同就職説明会の会場へと重い足取りで向かった。

 

 

 

 

「……はぁ、今日も疲れたなぁ……」

 本日何度目のかのため息をつきながら、俺は夕暮れ時の街の中を一人で歩いていた。

「……贅沢を言ってる場合では無いのは分かるんだけど、どうせ入るなら自分的に良さそうだと思える場所が良いんだよなぁ……」

 そんな事をポツリと独り言ちながら俺は数時間前の合同就職説明会の様子を思い出した。合同就職説明会とは、その名の通り様々な企業がそれぞれのブースを設けており、そこに同じような就活生などが話を聞くために訪れる形のものだ。そして、俺もそれに参加したまでは良いのだが、どうにもこれといった企業を見つけられずにいた。

「……一応、事務的な資格は幾つか持ってるし、運転免許もしっかりと持ってる。そして、いざとなれば他の資格を取る事だって出来る。けど……」

 俺はそこで一度言葉を切った後、徐々に夜空に染まりゆくオレンジ色の空を見上げた。

「何というか……どこも違う気がするんだよな……」

 今回話を聞いた企業は、どこも何かしらで名前を聞いた事がある企業ばかりであり、募集要項などを見ても福利厚生などはしっかりとしているし、職務内容にも文句はない。けれど、どうにも身を入れて話を聞く事が出来なかった。

「……就活生が言う言葉じゃないのは分かるけど、やっぱり何かが違う気がするんだよな。何というか、こう……俺がそこで働いてるイメージが湧かないし、まるで俺がいるべきなのはそこじゃないって誰かに言われてるような……」

 俺が言っている事は甘えであり、いわゆる妄言のようなものなのは分かっている。けれど、どうにもそう感じてしまうのだった。

「はぁ……このままならいっそ実家に帰って、故郷で仕事を探した方が良いのかな……?」

 俺はだいぶ暗くなってきた空から足下へと視線を移しながらそう独り言ちた。

 両親をどうにか説得して地方からこっちの方の大学へと進学し、一人暮らしをしながらここまでやってきたけど、流石にそろそろ限界なのかもしれないな……。

「……アイツの墓参りにも最近行けてなかったし、本当にちょうど良いかもしれないな……」

 俺は小さく息をついた後、アイツ──真守(まもり)の顔を思い浮かべた。真守というのは俺の妹なのだが、小学3年生の頃に交通事故に遭い、そのまま亡くなった。性格は極めて大人しく、人並みに友達はいたのだが、いわゆるお兄ちゃん子というものだったため、お互いに何か約束がない時は常に俺の傍にいたがり、登下校も何かしらが無い限りは常に一緒だった。

 しかしあの日、真守が亡くなった日は、俺が委員会活動で遅くなりそうだったため、真守には先に帰ってもらうように言っていた。そして、その途中に飲酒運転の車に轢かれてそのまま亡くなってしまった。交通事故を起こしたドライバーはしっかりと法の裁きを受けており、両親はもうすっかり真守の死からは立ち直っているのだが、俺は未だにその事を引きずっている。『まもり』という言葉を聞くだけで体がビクッと震える事がある上、あの日の真守の笑顔を思い出してしまい、その度に自分の判断ミスを強く責めてしまうようになった。

「……真守、ダメダメな兄ちゃんでゴメンな……」

 再び天を仰ぎながら天国にいるであろう真守へ向かって俺は呟くような声で謝った。端から見れば、今の俺の姿は変な奴にしか見えないだろう。けれど、もし真守が生きていたら今の俺の状況を見て、とても心配そうな顔をするかもしれない。真守はとても優しい奴だったから。

「……さてと、それじゃあ本当に故郷に帰る算段でも──」

 そう言いながら再び歩き始めようとしたその時、ふとどこからか何かの香りがした。

「これって……桜、か……?」

 俺はすぐに周囲を見回したが、時期的な事もあってか、まだ花を咲かせている桜の木は一本も無かった。

「……そういえば、真守は桜がスゴく好きだったな……」

 桜の木を見ながらその事を思い出し、俺は少しだけクスリと笑った。真守は花の中でも一番桜が好きで、近所の桜が咲く頃になると、俺の事を引っ張ってでもそれを見に行こうとしていた。そして俺が誕生日プレゼントに桜の花を象った髪留めをやると、嬉しそうにその黒く長い髪へと付け、桜の香りがする香り袋をやった時には、顔をぱあっと輝かせながらそれを大事そうに抱き締めていた。

 そういえば、あの時の真守の姿が、とても微笑ましかった上、絵になる感じだったからって事で、何枚か写真を撮ってたけど、まだどっかにあるのかな……?

 そんな事を思いながら思わず顎に手を当てていたその時、前方の電信柱に何かが貼ってあるのが見えた。

 ……何でだろう、おそらくどこかの店のチラシとかだと思うのに、あの貼ってある物を見ないといけない気がする……。まるで──。

「……真守がそうしろって言ってるような感じだな」

 真守はもう亡くなっているし、これは気のせいなんだろうが、何故かそんな気がしてならなかった。

「まあ……とりあえず見てみるか」

 俺はその不思議な予感に従い、その貼られている物へと近付いた。そしてその貼られている物を見た瞬間、

「……これ、求人広告か……?」

 思わずそんな声を上げてしまった。貼られていたのは、『株式会社GC』という会社の求人広告で、書かれている内容にも不審な点は無く、むしろ給料などがそこそこ高い方なのだが、俺はある一点だけがどうしても気になっていた。

「何で書かれてる文字が光ってるんだ……?」

 そう、何故かまでは分からないが、その求人広告に書かれている文字がぼんやりとした光を放っていたのだった。もしかしたら、そういう蛍光タイプのインクなのかもしれないが、どうにもその微かな光を放つ文字から目を離せずにいた。

「……真守の事を思い出していた時に何故か桜の香りがして、そしてその後にこの求人広告に出会った……か。まったく聞いた事ない名前だけど、これも何かの縁だし、ここを受けてみるのも良いかもな」

 そう思った後、俺はカバンから手帳とペンを取り出し、求人広告の内容を簡単にメモした。そして、メモとペンをしまった後、俺は再び天を仰いだ。空はもうすっかりと暗くなっており、既に幾つかの星々が瞬いていた。

「真守、ありがとうな。兄ちゃん、もう少しだけ頑張ってみるよ」

 空へ向かってニッと笑いながら言った後、俺は再び一人で街の中を歩き始めた。そして翌日、俺は件の企業へと電話を掛け、まだ募集をしているかを確認した。すると、まだ募集をしており、試験内容も面接のみとのことだったので、俺は当日の持ち物や会社の場所について詳細に訊いた。

「……はい、はい……それでは失礼致します」

 そして、電話を切った後、俺の中には昨日までの絶望や諦めといったマイナスの要素はなく、その代わりに希望とやる気といったプラスの要素で満ちていた。

 このチャンス、絶対に物にしてみせる……!

 拳をギュッと握りながら強く決心した後、俺は送るための履歴書の制作に取りかかった。

 

 

 

 

 面接当日の朝、俺はメモに書かれている住所へ向かって緊張しながら歩いていた。しかし──。

「……おかしいな、まったくそれらしい建物が見つからないぞ……」

 そう、住所的には俺が住んでいるアパートの近くにあるようなのだが、それらしい建物が一向に見つからないのだ。

「こうなっても良いように早くは出てきたけど、このままじゃ本当に間に合わないよな……」

 少しだけ焦りを感じながら左腕にはめているアナログの腕時計に目をやると、腕時計の針は面接予定時間の30分前を指していた。

 まだ時間はあるけど、色々な余裕を考えると15分前には着いておきたい。なのに、どうしてもそれらしい建物が見つからない……。

「……とりあえず探そう。今は探すしかないんだしな……!」

 両手で頬を一度パンッと叩いて気合を入れ直した後、俺は再び周囲を見回した。すると──。

「……ん?」

 突如目の端に桃色の小さな何かが写り、俺は声を上げながらそれに注目した。

「あれって……桜の花弁(はなびら)、か……?」

 俺の視界に写った物、それは一枚の小さな桜の花弁だった。桜の花弁は、不思議そうな表情を浮かべる俺をよそに、吹いている風に乗りながら近くの路地へと静かに消えていった。

 昨日は桜の香りがあの求人広告に気付かせてくれた。って事は、もしかして……!

「あの桜の花弁に着いていけば、何か手がかりがあるかもしれない……!」

 その予感にも似た何かを信じ、俺は一度小さく息をついてから、同じく路地へと入っていった。そして路地をひたすら進むこと数分、視界の先に出口と思われる物が見え、俺はそのまま静かに進んでいった。

 ……何故かは分からないけど、やっぱりあの先に俺が求める物がある気がする。

 そんな確信にも似た何かを感じながら、俺はそのまま無言で進んだ。そして、路地から出ると──。

「……ここ、は……?」

 目の前には何かの店舗と大きなビル、そしてその間に『株式会社GC』と書かれた看板を掲げた社屋が建っていた。株式会社GCは、三階建ての白い社屋の横に工房のような施設と倉庫らしき物が付いており、駐車場や駐輪場もそこそこ広かった上、駐車場に並んでいる車も高そうな物も多そうだった。

 どうやらここが目的地みたいだけど、え……もしかしてここって、思っていたよりも大きな企業なのかな……?

 その様子に少しだけ気圧されそうになったものの、俺は気を落ち着けるために一度大きく深呼吸をした。

 気圧されるな、怜士。せっかくここまで来られたんだ。強気の姿勢で臨めば絶対に大丈夫だ……!

「ふぅ……よし、行くか!」

 そして気持ちが落ち着いた事を確認した後、俺は面接に臨むために株式会社GCの入り口へ向かって歩き始めた。

 

 

 

 

「……さて、後は面接をしっかりとこなすだけだな」

 誰もいない控え室で俺は小さく息をつきながら静かに独り言ちた。入り口へ入った後、茶色のショートカットの受付の人に用件を話すと、受付の女性はとても朗らかな笑みを浮かべながらこの控え室へと案内してくれた。

 それにしても……ここって、なんだか不思議なところみたいだな……。

「……さっきから、ここで働いてる人達から何か妙な雰囲気みたいなのを感じるんだけど、一体何なんだろうな……?」

 俺はここに来るまでに見た社員の人達の様子を思い出し、小さく首を傾げた。社員の人達は色々な人達がいたが、その誰もが明るい顔をしており、ここで働くことに不満などを持っている様子は無かった。しかし、受付の女性も含めた全員から何か妙な雰囲気みたいなものを感じていた。

「……今考えてもしょうがないことなんだろうけど、どうにも気になるんだよな……」

 首を傾げたままでその事についてあれこれと考えを巡らせていたその時、閉まっていた控え室のドアが静かにノックされた。そしてゆっくりとドアが開くと、そこには先程案内をしてくれた受付の女性とは別の女性社員が和やかな様子で入ってきた。

「お待たせしました。それでは、ご案内致しますので、こちらへどうぞ」

「は、はい……!」

 その瞬間、緊張が再び俺の中で高まり、心臓がドクンドクンと大きく脈打ち始めた。

 ……今は面接に集中しよう。他の事を考えるよりもまずはここに受かる事を考えるんだ……!

 自分でも驚くほどのやる気が体の奥から沸き立つのを感じた後、俺はカバンなどを置いたままスッと席から立ち上がり、女性社員の案内に従って部屋の中から出た。そしてそのまましばらく歩いた後、俺達は一つの部屋の前で止まった。ドアには面接会場と書かれた紙が貼っており、部屋の名前を示すケースのような物には会議室と書かれたプレートが入っていた。

 ……会議室、か。控え室にいたのが俺だけだった事から察するに、今からやるのは一対多の面接みたいだな……。

 一対多、その重圧に俺は再び気圧されそうになっていると、女性社員はニコリと笑いながら俺に話し掛けてきた。

「それでは、私はこれで失礼します」

「あ、はい」

 俺が返事をすると、女性社員は静かに去って行き、緊張をしている俺だけがその場に残された。

 ……ヤバいな、何か余計緊張してきた……。でも、ここで緊張に負けていては受かる事なんて到底出来ない……!

「……よし、一度深呼吸をしよう」

 小さな声で独り言ちた後、俺は大きく深呼吸をした。そして気持ちが落ち着いた事を確認した後、俺は会議室のドアを静かに二度ノックした。

「……はい、どうぞお入り下さい」

「失礼致します……!」

 ドアの向こうからの声に答えながら俺は会議室のドアを開けて中へと入った。すると、中には一人掛けのパイプ椅子とその向こう側に置かれた椅子に座っている二人の男性──面接官の姿があり、その間に置かれた木の長テーブルの上には俺の履歴書らしき紙が置いてあった。

 俺は入り口で面接官達に深く一礼をした後、パイプ椅子へ静かに向かって歩いた。そして椅子の横に立つと、面接官の一人が静かに口を開いた。

「……それでは、お名前をお願いします」

「はい! 結城怜士と言います! 本日はよろしくお願いします!」

 大きな声で言いながら深く一礼をした後、スッと頭を上げると、面接官達は何故か少し驚いた表情を浮かべながら俺の後ろの方を見ていた。しかし、すぐに表情を元に戻すと、一度コホンと咳払いをしてから再び静かに口を開いた。

「それでは、どうぞお座り下さい」

「はい、失礼いたします!」

 俺は大きな声で答えてから一礼をし、頭をすっかり上げ終えてからパイプ椅子へと座った。そして両手を膝の上に置くと、面接官の表情が真剣な物へと変わった。

「……それでは、これより面接を始めます」

 その言葉と同時に俺のこれからの命運を分ける面接試験が始まった。

 

 

 

 

 面接が始まってから約十数分間、俺は面接官からの質問にハキハキとした口調で答え続けた。面接官達は俺のその答えに頷いたり隣に座っている他の面接官と一言二言話したりしていたが、時折さっきのように俺の後ろの方を見ては、少し不思議そうな様子を見せていた。

 ……だいぶ不思議そうにしてるけど、俺の後ろに何かあったっけかな?

 その面接官達の様子に心の中で首を傾げていると、眼鏡を掛けた優しそうな様子の面接官が何かを思いついた様子で静かに口を開いた。

「……それでは、次の質問です。貴方の『享年(きょうねん)』は何歳ですか?」

「あ、はい……私の享年は──」

 その瞬間、俺は面接官の言葉に違和感を感じた。

 え……き、享年……? 年齢じゃなくて、享年……?

 予想もしていなかった言葉に、俺が困惑していると、面接官達は納得したように小さく息をつきながら顔を見合わせた。

「……やはり、そうでしたか」

「うむ……道理で『アレ』に満ちていると思ったよ」

「そうですね。そして、アレに満ちているという事は……」

 優しそうな面接官は再び俺の方に向くと、面接の質問の調子ではなく、気軽に尋ねるような調子で声を掛けてきた。

「結城さん、貴方は『生者』ですよね?」

「せ、せいじゃ……?」

「生者、生きている方という事です」

「は、はい……それはもちろん……」

 俺が恐る恐る答えると、面接官達は再び納得したように小さく息をついた。

 えっと……つまりどういう事なんだ……?

 俺の頭の中がハテナマークでいっぱいになっていると、もう一人の初老の面接官が落ち着いた様子で静かに口を開いた。

「結城さん。貴方にとって信じられない事かもしれませんが、この会社には生者はいません」

「生者がいない……?」

「はい。つまり──」

 そして、面接官の口から出てきた言葉に俺は思わず息を呑んだ。

「ここに勤めている社員は、私達も含めて全員が死者、という事です」

「全員が死者……」

 ……つまり、あの受付の人達もこの面接官達も死んでる人って事、か……。

 その瞬間、俺は社員の人達から感じていた妙な雰囲気の正体に気付いた。

 そっか、アレは──。

「アレは、『霊気』だったんだ……」

 妙な雰囲気のような物の正体について呟くように独り言ちていると、初老の面接官が少し驚いた様子で話し掛けてきた。

「ほう……社員達が纏っている霊気に気付いたんですね、結城さん」

「あ、はい。ただ、アレが霊気だと気付いたのはたった今ですが……」

「そうでしょうね。霊感を持たない場合、よほどカンが良くなければ霊気などといった物には気付けませんから」

 初老の面接官が面白そうな様子で言うと、今度は眼鏡の面接官が話し掛けてきた。

「結城さん。貴方が弊社を受けた本当の理由は何ですか?」

「本当の理由……ですか?」

「はい。先程答えて頂いたのはあくまでも志望理由、つまり面接用の表向きの理由です。ですが、今から答えて頂きたいのは──」

 その瞬間、面接官の目が妖しくキラリと光ると同時に面接官の口から震えが来るほど冷たい声が出てきた。

「ホームページも作っておらず、職業安定所などにも募集の情報を流していないはずの弊社を生者である結城さんが見つけられた理由です」

「み、見つけられた理由……?」

 面接官の声の冷たさと強い霊気によって体が震える中、俺はゴクリと唾を飲み込んでから志望理由とは違う『本当の理由』を話し始めた。

「……電柱に貼られていた募集を見たからです。最初はただの企業の募集かと思ったのですが、書かれている文字が不思議な淡い光を放っていた事、そして御社を受けなければならないと感じた事で御社を受けました……」

「そう、ですか……」

 眼鏡の面接官は静かにそう言うと、纏っていた強い霊気を静め、表情を和らげた。そして、ニコリと笑うと、先程までと同じ優しい調子で話し掛けてきた。

「怖がらせてしまい申し訳ありません。生者である貴方が、ここを見つけられた理由が気になってしまった物で、つい強い霊気を出してしまいました……」

「あ……大丈夫です。けれど、どうして先程のような質問をされたのですか?」

「それはですね、結城さん。あの募集の紙は、弊社が開発した霊力や魔力などを有した者以外には見えない紙であり、文字は燐光を用いたインクで書かれているからです。つまり、生者がここを見つけられるとすれば、その人はよほど強い霊感を持つ者か魔道士や除霊師のような存在なのです」

「そんな物があるんですね……」

「はい。そして、もちろん私達はけして間違ったことをしていませんし、そういった方々にも話が通じる方はいます。ですが、私達を霊だからという理由だけで滅しようとする方も少なからずいます。よって、生者でありながらあの募集の紙を視認できた貴方に先程のような質問をしたわけです」

「なるほど……ですが、私はそのどれにも該当していないと思います。昔からそういったモノ達とは遭遇した事はありませんし……」

「……ええ、そうだと思います。貴方は私達とは違って生気に満ちていますから。……ですが、その理由が()()ではなく()()()()()の力による物であれば、今の状況にも説明がつきます」

「……え?」

 そちらの方……? そんなの一体どこに……?

 その言葉に疑問を抱きながらふと後ろを振り向くと、そこには──。

「……真守……?」

 死んだはずの妹、真守が桜の香りを漂わせつつニコニコと笑いながら立っていた。小学生らしい小さな体躯に桜の花を象った髪留めを付けた綺麗な長い黒髪、そして見る人を安心させるような可愛らしい笑顔にお気に入りだった桃色のワンピースと、服装だけは違うもののそれ以外はあの日の真守の姿そのものだった。

「まも……り……」

 真守の姿を見ながらポツリと呟くと、途端に目から涙が溢れ出した。

「……あはは、そっかぁ……。お前、ずっと俺の傍にいてくれてたんだな……?」

 涙で声を震わせながら訊くと、真守は微笑みながら静かに頷いた。

 その姿に俺は懐かしさを感じると共に真守が死んでしまっているという事実を再び突きつけられたような気がした。けれど、真守に再び会えた事による喜びの方が勝っているせいか、俺の中には絶望感や虚無感といった物は一切無かった。

 はは……まさか真守にこんなにも助けてもらっていたなんてな……。

 涙で鼻を鳴らしながら真守の事を見ていた時、初老の面接官の落ち着いた声が聞こえてきた。

「そちらの方……どうやら結城さんにとってとても縁深い方のようですね」

「はい……小学生の頃に亡くなった妹で、真守といいます」

「……なるほど、妹さんでしたか。そしてこの様子を見るに、どうやら妹さんは貴方の守護霊となっているようですね」

 守護霊……それってたしか……。

「その人の事を護ってくれる霊の事ですよね?」

「はい。守護霊はそれぞれ担当を持っているとか故人となった親類縁者などがなると言われています。結城さんの場合は、まさにそのようですね」

「はい……」

 初老の面接官の言葉に俺は静かに答えていると、眼鏡の面接官がコソッとした声で初老の面接官に話し掛けた。

「……礼堂社長。私としましては、一切の問題は無いと思いますが、社長はどうお考えですか?」

「ふむ、そうだな……。私も問題は無いと思うよ、岩尾君。しかし、最終的には彼自身が判断する事だろう」

「そうですね」

 そして、初老の面接官こと礼堂社長と眼鏡の面接官こと岩尾さんは揃って俺の顔を見つめ始めた。

 え……問題って……?

「あ、あの……先程から話していらっしゃる内容がよく分からないのですが……?」

 恐る恐るそう訊くと、岩尾さんは静かに口を開いた。

「結城さん。私達は貴方の受け答え方や履歴書の内容、そしてそちらの妹さんの霊気、全てに問題は無いと判断しました。貴方さえ良ければ、私達は貴方の事を採用したいと思っていますが、いかがでしょう?」

「え……本当、ですか……?」

「はい」

 俺の問い掛けに岩尾さんがニコリと笑いながら答えると、礼堂社長は静かに口を開いた。

「ですが、守護霊が憑いているとはいえ、生者が死者の中に一人だけというのは、やはり辛いことです。結城さん、貴方はそれに耐える事が出来ますか?」

「私は……」

『生者が死者の中に一人だけ』

 その礼堂社長の言葉に俺は少し怖じ気づきそうになった。死者だけが集まった集団に俺という生者が一人だけいるという事。それはつまり、自分の今までの生者としての常識やルールが通用しないのに加えて、新たに死者としての常識やルールを受け入れなければならない事を指す。

 ……礼堂社長が仰る通り、それは確かに辛いことだ。死者しかいない会社って事は、取引先なんかも死者しかいないという事になるからだ。けど……!

 俺はふぅと一つ息をついてから、礼堂社長と岩尾さんの目をしっかりと見つめながら言葉を続けた。

「生者が死者の中に一人だけいる事、その辛さは理解した上で、私は御社で働きたいと考えています」

「……その選択に後悔はありませんね?」

「はい!」

 俺は大きな声で答えた後、チラリと後ろにいる真守の方を見た。真守は少し驚いた様子でじーっと俺の事を見つめていたが、一度コクンと頷いた後、静かに微笑みかけてきた。

 ……ありがとうな、真守。

 心の中で真守にお礼を言った後、俺は再び礼堂社長達の目をしっかりと見つめた。礼堂社長達は真剣な表情で俺と真守の事を少しだけ見つめた後、共に優しく微笑んだ。

「分かりました。それでは、本日の面接はこれで以上です」

「結果は既に決定していますが、一週間後に書面を以て、正式に通知します」

「はい、ありがとうございます!」

 俺は大きな声で答えながら深く頭を下げた。

 正直な事を言えば、不安な事や考えなければいけない事は山積みだ。けれど、ここでやっていく覚悟は出来ているし、こうやって妹に見守られている以上、怖じ気づいてなんていられない。だから、何が待っていようと絶対に頑張り抜いてみせる……!

 心の中でそう決意を固めた後、俺は通常の面接のように礼堂社長達への退室の挨拶をこなし、そのまま会議室を出た。そして、胸の奥で熱く燃える思いを抱えたまま、俺は守護霊である真守と一緒に家へと帰った。

 

 

 

 

 その一週間後、株式会社GCから俺宛てに郵便が届いた。中身は分かっていたものの、俺は少し緊張しながら封筒を丁寧に開け、中身を静かに取り出した。すると、中からは俺を正社員として正式に採用する事を告げる旨が書かれた書類と初出勤の日にちや出勤する際の注意事項などが書かれた書類、そして襟元に付けると思われるバッジなどが出てきた。

 ……これで、俺はたった一人の『正社員』ならぬ『生社員』としての一歩を踏み出した事になるな。

 心の中でそう思いながら、バッジを持っている右手をギュッと力一杯握りつつ後ろを振り向くと、あの日からずっと見え続けている真守が静かに微笑みながらコクンと頷いた。俺はそれに頷いて答えた後、右手を静かに開いて社員である事を示すバッジを見つめた。

 そう、真守が見守ってくれてる以上、兄としてかっこ悪いところは見せられない。そして、あの日決意したようにどんな事があっても絶対に頑張り抜いてみせる! たった一人の生社員として!

 胸の奥で再燃した思いと真守の優しい霊気を感じながら、俺は再び固く決意した。




政実「第1話、いかがでしたでしょうか?」
怜士「今回は、簡単な設定の紹介回的な奴だな」
政実「そうだね。そして、次回からもっと色々なキャラが出てくる予定だよ」
怜士「その色々がスゴく不安なんだが……まあ、良いか。
んで、その次回はいつ頃投稿出来そうなんだ?」
政実「今のところ未定かな。出来る限り、早めに投稿したいとは思ってるけどね」
怜士「了解。そして最後に、この作品についての感想や意見、評価などもお待ちしています」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
怜士「ああ」
政実・怜士「それでは、また次回」
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