Ghost Company~たった一人の生社員~ 作:九戸政景
怜士「どうも、結城怜士です。幽霊か……視てみたいとは言うけど、これといって良い事は無いんじゃないか?」
政実「そうかもだけど、一つの経験として視てみたいとは思ってるよ」
怜士「そっか。さてと……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・怜士「それでは、第2話をどうぞ」
「……よし! これでバッチリだな」
洗面所の鏡の前で身支度がバッチリと出来ている自分の姿を確認し、俺は大きく頷きながら独り言ちた。そして、その声にしっかりと
「……ほんと、数週間前の俺とは大違いだな。まあ、どちらかと言うならあの時の俺の方が、今日から勤めるところには『ある意味』ピッタリなのかもしれないけど」
就活が連敗続きだった頃の自分の顔を思いだしながらクスリと笑った後、俺は今日から勤めるところについて想起した。『株式会社GC』、そこが俺が今日から勤める会社の名前なのだが、なんとここは生者が一人もいない俺以外の社員が全員死者というなんとも不思議な場所なのだ。と言っても、社員が全員頭から血を流していたり、呪いの言葉のような物をブツブツと呟き続けているわけでは無く、一見すれば普通の会社員と何ら変わらない姿をしている。しかし、死者というだけあって霊気を発しており、少し近くまで寄るとうっすらとした寒気を感じる。そんな中に俺は今日からたった一人の『生社員』として勤めるわけだが、そのきっかけになったのが──。
「おーい、真守ー。そろそろ会社に行くぞー」
俺が居間がある方に向けて声を掛けると、桜の形をした髪留めを付けた桃色のワンピース姿の長い黒髪の少女がヒョコッと洗面所の扉の陰から顔を出し、ニコニコと笑いながら俺の顔をジッと見つめてきた。
「なんだ、もうそこまで来てたんだな。よしそれじゃあとりあえず居間に行くぞ、真守」
俺のその言葉に真守がコクンと頷いた後、俺は真守と一緒にカバンやスーツの上着が掛けてある居間へ向けて歩き始めた。今一緒に歩いている真守は子供の頃に亡くなった俺の妹で、現在は俺の守護霊兼会社への同伴者として傍にいる。というのも、俺が『株式会社GC』を見つけられたのも勤められる事になったのも真守のおかげであり、霊感ならぬ『零感』の俺が『株式会社GC』へ行くには、真守が俺に力を分けてくれる事で一時的に霊感持ちにならないといけないからだ。そうじゃなければ、霊位がズレた場所にある『株式会社GC』には辿り着けないため、『株式会社GC』の合意の元で俺は真守と共に出勤する事になったのだった。因みに、現在真守は何故か話せないため、意思疎通については俺が雰囲気から察するか首を振る事で教えてもらっている。
まあ、もう会えないはずだった真守と一緒なのは俺も嬉しいし、この状況を許してくれた礼堂社長達には本当に感謝しないとだな。
そんな事を思いながら居間に着いた後、スーツの上着に袖を通し、カバンを手に持ってから俺は真守に声を掛けた。
「真守、準備は良いか?」
「…………」
「どうやら良いみたいだな。よし……それじゃあ行くか」
「…………」
真守がコクンと頷いた後、予め終わらせておいた家の中の戸締まりをもう一度確認しに回った。そして、全て大丈夫である事を確認した後、俺は真守を連れてアパートの部屋を出た。
「うーん……それにしても、春だからかスゴく気候も暖かくなってきたなぁ……」
アパートを出発してから数分後、『株式会社GC』へ向けて歩き続けながら俺は春らしい暖かな気候に気持ち良さを感じていた。真守が亡くなってからは春という季節にも真守が好きだった桜にも辛さを覚えていたが、これからはそうならなくてすみそうな事に俺は安心感を覚えていた。
今まで春を楽しめていなかった分、これからは真守と一緒に目いっぱい楽しむのも良いかもしれないな……。
桜の花びらが舞う中で嬉しそうに笑う真守を想像して思わず口許を綻ばせていたその時、「遅刻、遅刻ー!」と後ろからとても焦ったような声が聞こえてきた。そして、その声に疑問を抱きながらクルリと振り向いた瞬間、「わわっ!?」と驚きながら黒いスーツ姿の黒のスポーツ刈りの青年が勢いよくぶつかり、その衝撃で俺はその場に尻餅をついてしまった。
「痛た……」
「いてて……って、大丈夫ッスか!?」
「あ、ああ……何とかね。君は?」
「俺も大丈夫ッス……って、俺の姿が『視える』んすか!?」
「視えるのかって……まさか、君って幽霊なのか?」
「そうッス! いやー、まさか俺の姿を視られる人にぶつかるなんて思わなかったッスよ。なにせ、バイク事故で死んでから今まで話をしたのは同じ幽霊くらいでしたから」
「そうだったのか……ん、そういえばさっき遅刻だって言ってたけど、どこかに急いで行かないといけないんじゃ……」
その瞬間、青年の顔はサーッと青ざめ始めた。
「そ、そうだ……! 早く行かないと初出勤なのに遅刻しちまう!」
「初出勤……へぇ、奇偶だね。俺も今日は『株式会社GC』っていうところの初出勤なんだ」
「あ、そうなん──って、お兄さんもッスか!?」
「も、って事は、君も?」
「うす! って、そんな事を言ってる場合じゃないッス! 早く行かないとお互いに遅刻に──」
「ああ、それなら大丈夫だよ」
「……え?」
不思議そうに首を傾げる青年に対して、俺はクスリと笑ってからカバンの中に入れていた初出勤の際の要項を取り出した。
「だって、今は始業の1時間前だからさ。ほら」
「……本当だ。俺、どうやら時間を見間違えてたみたいッス……」
「ははっ、良かったね。遅刻せずにすみそうで」
「へへっ、そうッスね! あ、そういや自己紹介がまだでしたね。俺は
「俺は
「怜士さんに真守ちゃんッスね。それにしても……どうして怜士さんは『株式会社GC』に就職出来たんです? たしかあそこは、普通の人間じゃあ存在すら認識できないって聞いた事があるんすけど……」
「ああ、それは真守のおかげだよ」
「真守ちゃんの?」
「そう。どうやら、真守が力を分けてくれる事で、俺は霊感持ちになるみたいなんだけど、それのおかげで『株式会社GC』の求人募集のチラシを見つけられたり、『株式会社GC』の社屋を見つけられたりしたんだよ」
「なるほど……そういう事だったんッスね。でも理由があるとしても、怜士さんとしては可愛い妹さんと一緒に出勤できるのは結構嬉しいんじゃないッスか?」
「ははっ、まあね。なにせ、真守が亡くなったのは本当に前の事だったし、亡くなった時には兄貴としてスゴく辛かったからさ……」
「怜士さん……」
「けど、こうして真守が視えるようになって、話は出来なくても意思疎通が出来るようになったのはスゴく嬉しいし、スゴく幸せだよ。だから、今度こそは何があっても真守を守ってみせる。守護霊である真守に護られてばかりじゃなくさ」
そう言ってから真守に微笑みかけると、真守は俺の顔をジッと見つめてから微笑み返してきた。そして、斗君の方へ顔を戻すと、斗君は俺達の事を見ながら大粒の涙を流していた。
「は、斗君!?」
「俺……感動したッス!怜士さんと真守ちゃんの美しい兄妹愛に!」
「あ、あはは……それは良かったよ……」
「……決めたッス。俺、怜士さんの事をこれから兄貴として慕っていくッス!」
「あ、兄貴って……俺は別にそんな大層な奴じゃ……」
「いや、兄貴は本当にスゴいッスよ? 真守ちゃんの力があったからとは言え、本来普通の人間には認識すら出来ない『株式会社GC』を知って、こうして新入社員として入社できたわけッスから」
「たしかにたった一人の『生社員』として入社はできたけど、これもひとえに礼堂社長達が生者である俺を受け入れてくれようとしたからに過ぎないよ。まあ、そのおかげでこうして斗君とも知り合えたわけだけどさ」
「兄貴……」
「さて……いくら時間があるからと言ってもこのまま遅れるし、そろそろ──」
行こうか、と言おうとしたその時、「あの……」と後ろから声を掛けられ、俺達は揃って背後を振り向いた。すると、そこには黒い女性用のスーツを着た俺と同い年くらいの黒いロングヘアーのキリッとした顔付きの女性が立っており、その女性からは真守や斗君と同じ『霊気』を感じた。
「……もしかして、貴方も幽霊ですか?」
「はい、そうですが……あなた方もそうですよね?」
「あ、こっちの二人はそうだけど、俺は生者だよ」
「生者なのに私達が視える……という事は、除霊師や霊能者の方なのですか?」
「いや、この前まで霊感ならぬ『零感』だったただの一般人だよ。俺が君達の姿を視られるのは、ここにいる俺の妹が力を分けてくれてるからなんだ」
「妹さん……そうでしたか」
「ところで、君は?」
その問い掛けに女性はハッとした表情を浮かべると、丁寧に一礼をした。
「失礼しました。私は
「四谷さんだね。俺は結城怜士、年齢は21歳で同じく『株式会社GC』の新入社員だ。そして、こっちは妹の結城真守。享年は8歳だ」
「俺は石倉斗ッス。享年は18歳で同じく『株式会社GC』の新入社員ッス」
「皆さんもそうだったんですね。同じ新入社員の方に会えてちょっとホッとしました」
「それは俺達も同じだよ。因みに……答えられるならで良いんだけど、四谷さんはどうして亡くなったのかな?」
すると、四谷さんの表情は少し寂しげな物へと変わった。
「……私は病死です。小さい頃から結構体が弱くて、保健室登校や病欠なんかはしょっちゅうでした。けれど、そんなのに負けたくなくて必死になって勉強をして、ようやく大学を卒業でき、次は就職だというところで大病に罹ってしまってそのまま亡くなりました。その後、この先どうしたら良い物かと考えていた時にちょうど『株式会社GC』の求人広告を見つけまして、もうここしか無いと思って応募をして、面接を受けて無事にこうして新入社員になる事が出来ました」
「そうだったんだ……なんかゴメン。話すのはやっぱり辛かった……よね」
「……いえ、これは面接の際も話した事ですし、少し寂しさはありますけど、一応自分の中ではもう踏ん切りはつけたので大丈夫です」
「……そっか」
「はい。ところで、お二人はどういった経緯で『株式会社GC』を受けられたのですか?」
「ああ、それはね……っと、流石にそろそろ会社に向かわないと本当に遅刻しかねないし、歩きながらでも良いかな?」
「はい、大丈夫です。それでは、参りましょうか」
「うん」
「うす!」
「…………」
そして、『株式会社GC』へ向けて再び歩き始めた後、俺は『株式会社GC』を受けるまでの経緯を二人に話した。すると、四谷さんは不思議そうな顔をしながら真守に視線を向けた。
「……つまり、真守さんが怜士さんを導いた結果、『株式会社GC』の存在を知り、礼堂社長達が生者である怜士さんを受け入れた事で唯一の生者の新入社員になった、と……」
「うぅ……一度軽く話は聞いてましたけど、やっぱり良い話ッスよね……」
「それについては同意ですね。亡くなってもなお怜士さんを護るために守護霊となった真守さんの想いは素晴らしいと思います」
「…………」
四谷さんの言葉に真守はニコリと微笑みながらペコリと頭を下げると、笑みを浮かべたまま俺の顔をジッと見つめた。
「……本当にありがとうな、真守。そして、これからもよろしくな」
「…………」
「さてと……それじゃあ次は斗君だな」
「うっす! 俺はさっきもチラッと言ったッスけど、18の時にバイク事故で亡くなったッス。なんでそんな事になったかなんですけど、それは実の兄貴を止めたかったからッス」
「お兄さんを止めたかった……?」
「うす……実は、俺の兄貴って高校生の時に地元では結構有名な暴走族に入っていて、家にも何度かその仲間が遊びに来るようになったんす。当然、俺や両親はその交友関係をあまり良く思ってなくて、何度も抜けるように言ったんすけど、兄貴はまったく話を聞こうとしなくていつしか両親は兄貴を暴走族から抜けさせる事を諦めるようになったんす。でも、そんな中でも俺は昔の兄貴に戻って欲しかった。だから、バイトを頑張ってどうにか自分のバイクを買ったんす。話を聞いてくれないなら、バイクのレースで勝つ事で辞めてもらえば良いと思ったから……」
「なるほど……」
「ですが、こうして幽霊としているという事は……」
「……そうッス。どうにかレースの約束をして、暴走族のメンバー達が見守る中でレースを開始したんすけど、勝ちを求めすぎた結果、ゴール直前でまったく関係のない他のバイクと衝突して、頭を強く打ち付けてそのまま亡くなったんす」
「そうだったのか……」
「へい……その後、幽霊になった俺は自分の葬式を見送ってから、この先どうしたら良いかと思いながらフラフラと
「なるほどな……」
「まあ、こうして幽霊になって、『株式会社GC』に勤めると決めた以上はバリバリ働くッスよ! もっとも、どんな業務をやるのかはサッパリなんすけどね」
斗君が頭をポリポリ掻きながら言うと、四谷さんは何かを思い出したような表情を浮かべながら顎に軽く手を当てた。
「言われてみれば……求人広告の職務内容の欄には『入社後、社員の
「たしかに……たぶん、しばらくの間は研修があって、その研修の結果次第で配属される課が違うみたいな感じなんじゃないかな?」
「なるほどッス……ただ、もしそうだとしたら、兄貴達とは別れる事になるかもしれないって事ッスよね……」
「たしかにそうだけど、このまま三人一緒の可能性もあるし、そうなる事を信じて行こうぜ?」
「兄貴……へへ、そうッスね!」
「はい、私もそうなって欲しいと思っています」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
斗君達の言葉に微笑みながら答えていたその時、前方から強い『霊気』を感じ、俺達が視線を向けると、そこには目的地である『株式会社GC』の社屋があった。
ようやく着いたな、『株式会社GC』。時間は……うん、始業の30分前だし、まだ大丈夫だったな。
そんな事を思いながら斗君達の方へ視線を向けると、斗君達は心なしか緊張した面持ちで『株式会社GC』の社屋を見つめていた。
あはは……まあ、これが初出勤なわけだし、仕方ないといえば仕方ないよな。俺も緊張してないと言ったら嘘になるし。でも、このままここで立っていてもしょうがないし、そろそろ行くか。
「よし……行こうか、二人とも」
「う、うす……!」
「はい……」
そして、未だ緊張した様子の二人とニコニコと笑いながら俺達の後ろについてくる真守を連れて、俺は再び歩き出し、社屋の扉の前で一度足を止めた後、その扉をゆっくりと開けた。
政実「第2話、いかがでしたでしょうか」
怜士「初出勤回ではあるけど、今回は会社の中に入る直前で終わりなんだな」
政実「うん。これ以上書くと結構長くなりそうだったから、礼堂社長達以外の社員の紹介については次回以降にしようと思ってね」
怜士「そっか。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
怜士「ああ」
政実・怜士「それでは、また次回 」