ガンダムアナザークロニクル   作:雪奈会長

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第1話

 青い空、白い雲。時折ふく風は心地よく、花々を揺らす。

「リアルだ……」

 広場のベンチに腰を下ろしている彼__加賀美輝は、風を感じながらそうボヤいた。

 ここは現実ではない。

 高度な技術力によって、人類はインターネットの世界に精神を潜り込ませられるようになっていた。

 そう、ここは現実とは別側面の無限の可能性を秘めたネットの世界である。

 輝の目の前の花畑で戯れ踊る少女2人もまた、輝と同じくネットに潜っている子供だろう。

 少女のうち1人が輝の存在に気がつき、手を振った。

 それに気がついた輝も手を振り返す。

「……リアルだ」

「なーにが‘リアルだ’よ。黄昏るにはまだ若いわよ。輝」

 突然背後から聞こえた声に振り返ると、輝には見覚えのある人物がそこに立っていた。

「深月か。早かったな」

「呼んだのは私だしね。というか、輝が早すぎるのよ」

 彼女の名前は千鳥深月。輝の幼馴染だ。

 2人は同じ高校の、同じ部活に所属している。

「丁度作業のキリのいい段階で切り上げてきたからな」

「成る程。それじゃ、早速始めましょうか」

 深月が軽く虚空に手を払い、しばらく何かを操作したあと、消える。

 おそらくバトルシステムを起動させたのだろう。

 輝もシステムを起動させる。

 

 直ぐに視界が暗転し、青い空も花畑も消える。

 ここは既にコクピットの中だ。

 薄暗い中シートに腰を下ろし、計器に映る機体図を見て、その状態を確かめる。

 彼の乗る機体は、ガンダムビルドファイターズに登場するグフR35の背部に、続編であるトライに登場するドムR35のスラスターを移植し、その姿をイフリート風に改造した機体だ。名前はイフリート・グラディオン。

 状態に何も問題がないことを確かめると、輝は通信回線を開く。

 通信はすぐに繋がり、通信窓の向こうに深月の姿が映った。

「こっちは問題ない。深月はどうだ?」

「大丈夫よ。悪いわね、機体のテストにつき合わせちゃって」

 彼女はすぐに返答をした。どうやらそちらも準備万端のようだ。

「いや、大丈夫。さっきも言ったけど、丁度作業もキリがついた時だったし」

「そっか。なら良かった」

 実のところ、作業こそ終わっていたが机の上は散らかしたまま片付けていなかったのだが、輝にとっては片付けよりも深月の方が優先だった。

 輝は機体を起動させる。

 短い音が鳴る。モニターに光がともり、コクピット内が明るくなる。

 モニターから見えるのはカタパルト。そしてその先の宇宙空間だ。

「加賀美輝、出撃する」

 輝は操縦桿を握り、動かした。軽いGがかかり、シートに背中が押し付けられる。

 輝のイフリート・グラディオンがカタパルトから射出される。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「さて……と。深月の機体はなんだ?」

 宇宙空間を飛びながら、輝は目の前から迫る深月の機体を見る。

 モニターに映った機体はフォースインパルスガンダムだった。

「……ゲ、インパルスかよ。機体選択ミスったな」

 輝は額にシワを寄せ、嫌な顔をする。

 フォースインパルスガンダムに搭載されているVPS装甲には、実弾攻撃が一切通用しないからだ。

 対して自身のイフリート・グラディオンには物理兵装しか搭載されていない。

 相手機は核動力ではないため限界時間が存在するが、それでも輝の方が圧倒的に不利だった。

「そっちはイフリート?それこの前完成させたやつよね」

 対して深月は少し意外そうな顔をした。

「その機体、ビームはなかったと思うけど手加減はしないからね!」

 フォースインパルスはビームライフルを構え、放った。

 輝は機体を滑らせ、そのビームを避ける。

「ビーム兵器がなくたって!」

 そのままスラスターを吹かし、ヒートサーベルを抜きながらフォースインパルスとの距離を詰める。

 フォースインパルスもビームサーベルを抜き応戦した。

 だが鍔迫り合いは一瞬。ヒートサーベルでその軌道を反らし、インパルスの胴体をガラ空きにした。

「っ!」

「せぇい!」

 空いた胴体に蹴りを入れ、インパルスを蹴り飛ばす。

「まだだ、押せよ!」

 更に輝はイフリート腰部と背部のスラスターを全開にした。

 急激な加速を始めたイフリートはインパルスに体勢を整える時間を与えることなく体当たりを直撃させ、そのままインパルスを弾き飛ばす。

 急激なGに体が潰されるが、輝には許容範囲だ。

「ぐ……ぁッ……こんの!」

 しかし、急激なGが背後からかかった深月は違う。

 操縦桿を強く握ることで耐えたが、そのせいで体勢を整えるのに手一杯となり反撃行動が取れなくなっていた。

「電力を消費させてこちらのフェイズシフトを剥がす気ね……だったら!」

「遅い!」

 体勢を整え、射撃戦を決め込みその場から離脱しようとしたとき、既に輝のイフリートはその高い機動性を武器にインパルスの背後に回っていた。

「えっ……?」

 深月の顔が驚愕に染まる。

 振り向く時間すらない。イフリートの獲物がVPS装甲ではないバックパックのシルエットユニットに突き刺さる。

「なんて無茶苦茶な機動性なのよ……!」

 深月は慌ててバックパックを切り放そうとするが、イフリートの勢いは止まらない。

「逃……すかぁ!」

 更にスラスターを吹かし、勢いをつける。

 僅かな抵抗の後、シルエットユニットに連なるインパルスのコクピットユニット__コアスプレンダーを貫通した。

 インパルスが破壊され、バトルエンドの音声が鳴り響く。輝の勝ちだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 バトルが終わり、仮想空間を離れここは現実世界。

 輝と深月は反省会を行うという名目で、近くのカフェに来ていた。

 深月はドリングバーから持ってきたオレンジジュースを一気飲みし、机に叩きつけるように置く。

 勢いで机が揺れ、輝の持ってきたコーラの水面が揺れた。

「ねぇ、もうちょこ〜っと手加減できたんじゃない?」

「……VPS装甲のインパルスに物理兵装のみの機体で挑んだんだ、大目に見てほしい。それに、手加減無しでやるとまず言ったのは深月だぞ」

 半目で睨んでくる深月の視線から少し目を逸らしつつ、輝はボヤいた。

「それで、インパルスの使い心地はどうだったんだ」

「一方的に、しかも瞬間的に叩きのめしておいてそれを聞いちゃう……?」

「んぐ……」

 言葉に詰まる。ついでにコーラも詰まらせ、輝は盛大にむせた。

「まあ、動かした感想は良い感じだったよ」

「お待たせしました、プレミアム苺パフェです」

「あっ、それ私です」

「でもフェイズシフトが全身にかかってなかったし、その辺は弄らないとダメかな……はむ」

 深月はむせた輝の心配は一切せずに言葉を続け、そのまま届いたパフェを食べ始めた。

「ん〜甘い!やっぱりここのパフェは美味しいなぁ」

 先程までの不機嫌顔は何処へやら。眉間に寄っていたシワが緩む。

「……そりゃよかったな」

 そんな深月の緩い表情を眺めながら輝はコーラを飲み干した。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「……そう言えばさ、輝ってあの噂知ってる?」

 ドリンクバーで飲み物を補充して戻ってきた輝に、パフェを半分ほど食べた深月がいきなり話題を切り出してきた。

「あのって、どの?」

 先程のコーラの代わりにメロンソーダを入れたコップを傾けてながら、輝は問い返した。

 噂など、星の数ほどある。曖昧な括りではわからない。

「ほらあれよ、あの……そう、ゴースト!」

「ゴースト?……いや知らないな」

 輝は少し記憶を辿る。しかし、特にこれといって思い当たる節はなかった。

「最近有名よ?」

「俺は作ってる方が好きだからそっちの噂はあんまり知らないんだよ……」

「戦えば強いのに。勿体ない」

「だから作ってる方が_____」

「あーはいはいわかりました。じゃあ簡潔に説明するわね」

 輝の言葉を遮り、深月が口を開いた。

「最近、鬼のように強い機体がバトルシステムを起動させてると現れるらしいのよ。しかもIDは表示されない。だからゴースト」

「バトルシステムを起動させてないと来ないのか?」

 輝の疑問はまずそこだった。

 仮想空間でガンプラを動かす場合、選択肢が2つある。

 ‘用途別’に分かれてはいるものの基本的に常にバトルロイヤル状態の無制限中立フィールドと、ある程度の‘設定’の元戦闘のみを行うためのバトルフィールドだ。

 バトルフィールドへは専用のシステムの起動が必要なのだが、どうやらゴーストはそこにログインしているプレイヤーを狙っているらしい。

「そうなのよ。だれも中立フィールドで見たことがないの。IDも名前も不明だからこちらからバトルを申し込むことは不可能。不思議でしょ?」

「あぁ、確かに不思議だな……。そもそもIDが表示されないなんてことあるのか?」

「そこも含めて‘ゴースト’なのよ。ハッカーなんて噂もあるけど、匿名でバトルする為にシステムハックするなんていくらなんでもリスクが高すぎるわ」

「ゴースト……いったい誰なんだろうな」

 まだ見ぬ相手を想像しつつ、2人の反省会はもうしばらく続いた。

 

 

 

〜仮想空間〜

 

「くっそ、いくらなんでも分が悪すぎる!」

 男は自身の機体……ガンダムバルバトスルプスレクスを操りながら叫んだ。

 機体の真横をビームが通り過ぎる。

 背後から迫る機体は、黒いフリーダムガンダム。

 レクスにはビーム兵器が搭載されていないため、PS装甲を持つフリーダムに決定打を与えることができない。

 しかし、相手が圧倒的に有利かといえばそうでもない。レクスのナノラミネート装甲はビームを拡散させ、その威力を殺す効果がある。

 だが所詮塗膜に過ぎないナノラミネートがバラエーナの出力に耐えられる保証はなく、更にビームを拡散させず留めておけるビームサーベルや、レールガンなどの物理攻撃手段がある以上レクスの方が不利なことに変わりはなく、男はひたすら隙を伺い逃げ回っていた。

 

「あぁ、もう面倒くせぇ。コクピット揺らして気絶させてやる!」

 限界が来たのは男の方だった。

 覚悟を決め、機体を旋回させる。

〈……〉

 フリーダムがビームライフルを放つが、御構い無しだ。

 直撃コースのビームはナノラミネートに拡散され、消滅する。

〈なるほど、射撃は無意味か〉

 ビームライフルを捨て、ビームサーベルを構える。

「甘い!」

 だが構えた直後、腕に‘何か’が激突しビームサーベルが弾き飛ばされる。

 レクスが死角へと放っていたテイルブレードが牙を剥いたのだ。

 胴体のガラ空きになったフリーダムに、レクスが肉薄した。

「加減はしねぇ、恨むなよ!」

 レクスネイルを揃え、貫かん勢いで腕を振るう。

 レクスの爪は正確に胴体を捉え

「……は?」

___そのまま貫通した。

 フリーダムが痙攣し、そして動きを止める。

 男は、何が起こったのかしばらく理解できなかった。

 相手機がフェイズシフトダウンを起こした様子はない。

 彼が先入観で思い込んでいただけで実はPS装甲ではない可能性もあったが、コクピットを貫いたはずなのに決着の合図が鳴らないのはおかしな話だった。

 何かが変だ。と、男は感じていた。

「まさか……こいつが、ゴーストなのか……?」

《……データ収集完了。機体データ反映》

「なんだ……?」

 貫通したことで接触回線が繋がったのだろう。相手のパイロットの声が聞こえた。

《ふふ、ありがとう。貴方のおかげで、なかなか良いデータが取れたわ》

「なにを……言って……ッ!」

 男の顔色が驚愕に染まる。

 貫き、確かに‘倒した’はずのフリーダムが動き出したからだ。

 そして未だ貫通しているレクスの腕を掴むと、そのままフレームごと握りつぶした。

《だから、サヨナラ》

 空いているもう片方の腕でレクスを殴る。

 フレームごと潰した右腕はフリーダムの腹に残したまま千切れ、レクスは後方に吹き飛んだ。

「ガ……ァっ。なんなんだ、なんなんだよ一体!」

 激しい衝撃に揺さぶられ、男は我に返る。

 だが、彼が正常な判断力を取り戻した時は既に遅く、目の前にフリーダムの足が迫っていた。

「あっ……」

 レクスのコクピットに、フレームの蹴りがめり込んだ。

 機体が爆発する。

 だがやはり、バトルエンドの音声は流れない。

 フィールドにはレクスの残骸だけが残り、気づいたらフリーダムは消えていた。

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