僕の考えるA/Z (旧タイトル: A/Z イナホに憑依) 作:ロベルトジョー
1話
「イナホくん...もう、お別れみたいです。今日はとても充実した一日でした!」
夕暮れの荒れ地を背景に、金髪の美少女は僕にそう告げた。
少女の胸から眩い光が放たれ、僕の目を眩ませている。
「これは...セラムさん、大丈夫!?」
「今まで、黙っていてごめんなさい。私はヴァ―ス帝国第一皇女アセイラム・ヴァ―ス・アリューシア。またいつか、きっと会いに来ます。私の...。」
僕の目の前から先ほどまで居た少女は、そもそも存在していなかったように光と共に消失した。
「...ただ道案内をして、お店を回った女の子が火星のお姫様だなんて」
まるで、物語の主人公みたいじゃないか――。
僕はそう思った。
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「本当に美し星。生まれ故郷は懐かしいですか?スレイン」
地球をうっとりと眺めながら、金髪の少女は軍服姿の少年にそう尋ねた。
「そ、それはその...」
スレインは、少女の視線におどおどしながら目をそらした。
「私も、ヴァ―スから離れて少し経ちますが、懐かしく感じますよ。
そうだ!スレイン、あなたは地球の空や海が青い理由を知ってますか?」
「水や空気が大量に積み重なると光の屈折とかがありまして、青い色に見える...のではないかと」
少女はその答えを微笑みながら、違うと首を横に振った。
「地球の空や海が青く見えるのは、太陽の光が地球の大気によって青い光を拡散するから青く見えるそうです。」
「え...始めて聞きました。一体、どなたから教えていただいたのですか?」
「それは...秘密です!」
少女が笑顔で答えると同時に、少女たちに部屋に一人の男性が入ってきた。
「こちらにおいででしたか、アセイラム姫。もうお休みになられるといいかと」
「もうそんな時間?それではスレイン、また明日の授業もお願いしますね」
「は、はい」
アセイラムは、スレインから離れ部屋の外に向かって歩いて行った。
その後をクルーテオと呼ばれる男性はスレインを睨め付けてから、追従していった。
それは、地球圏に浮かぶ揚陸城と呼ばれる火星騎士の城の中の出来事であった。
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気付いたらボクは僕になっていた。
その当時、僕の年は5才くらいだった。
その僕の頭に、違う世界のボクの記憶が流れてきた。
憑依なのか、前世というものかもしれないが、きっと、周りの人でこの経験をしているのは僕ぐらいじゃないだろうか。
僕の家族構成では5才年上の姉がいる、しかし、僕の両親はヘブンズフォールという月の破片が降ってきた大災害で亡くなっていた。
そして、この月の破片により、地球の人々の多くは死に地球の重量場が狂い世界的な飢饉を起こして、地球の人口の半分が数年で減ったと言われる。
僕と姉のユキは生き残っている親戚にユキが職に就くまで預けられた後、現在、二人暮らしをしている。
「...火星ヴァ―ス帝国第一の第一皇女アセイラム・ヴァ―ス・アリューシアの親善訪問を3日後に控え各地は...」
今日、アセイラム・ヴァ―ス・アリューシアが宇宙から日本に親善大使として訪れ、この新芦原(しんあわら)で歓迎パレードがある。
「このパレードの中、セラムさんに会えるわけないか...」
もしかしたら、彼女は自分のことなど既に忘れているのでは?数年の時が経ち、そんな考えが浮かんでくる。
「ナオくん、おはよう」
テレビを見ながら食事を取っていると姉のユキが寝巻姿で同じテーブルの椅子に座った。
「おはよう、ユキ姉。今日は、だし巻き卵にしてみたよ。」
「本当?ちょうど食べたかったところ」
そういい、あくびをしながら朝食を取り始める。
僕は、食べ終わった皿をシンクに置いて、椅子にかかっていたブレザーを着た。
「ユキ姉、今日は訓練教官シフトだけど、大丈夫なの?」
それを聞いた、ユキは慌てて持っていたスマホで時間を確認する。
「何で、起こしてくれなかったのよ!」
「何度も起こしたよ。でも、起きなかったのはユキ姉じゃないか?まぁ、次のバスでも走れば間に合うよ」
僕は、バッグを背負いアパートを後にした。
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「アポロ17号により、月面で発見された古代火星文明の遺産ハイパーゲートは月と火星の間の瞬間移動装置で地球は調査団を送りました。しかし、その結果、火星文明の遺産である"アルドノア"の占有を主張するヴァ―ス帝国の誕生。そして、地球とヴァ―ス帝国の戦いが始まりました。」
僕がバスに乗った時、網文韻子がヴァ―ス帝国の歴史を話している声が聞こえた。
「お、ようイナホ」
「おはよう」
僕がバスに乗ってきたのをいち早く気付いた箕国起助、通称オコジョは挨拶をしてきた。
「あれ、ユキさんは一緒じゃないの?」
「寝坊。兵科教練の時にはいると思うよ」
僕はオコジョの隣の空いている椅子に腰かけた。
すると、隣のカーム・クラフトマンが残念そうに顔に手を当てた。
「火曜日の女神が...」
「大げさだろ、カーム」
僕はカームにそう言いながら、スマホを弄り出す。
「兵科教練なんて面倒な科目だぜ?美人教官がいないだけで大事さ」
「しかし、進学組なのに兵科教練、なんで受けなきゃいけないんだか」
オコジョは携帯ゲーム機を弄りながら、不満を述べていた。
「進学希望っていっても、オコジョオこの前の模試の結果悪かっただろ?」
「カームだって同じだろうが!」
「私はイナホと同じで模試の結果は1位よ!次の模試もイナホには負けないわ!」
「相変わらずだね、インコは」
ボクの知識もある僕にとっては高校のペーパー試験はそこまで難しくないため座学で一位、そして、兵科の実技でも僕の身体能力は驚くほど高く他の追随を許さないほどの差をつけて一位を取っている。
アドバンテージを持っていて、それに対抗するインコを僕は純粋に尊敬している。
僕達の乗っているバスがトンネルを抜けた時、災害の爪痕が残る土地を窓越しに見ながらカームは呟いた。
「新芦原も、まだ荒れ地は残っているな」
「ヘブンズフォールから15年たっだが、本当に火星の野郎どもは酷いぜ」
「日本はまだましだろ、俺やニーナは祖国を滅ぼされたんだから」
インコは、目を伏せたニーナと呼ばれる少女を撫でて慰めながら言った。
「でも、今度、和平交渉をしているんでしょ?親善大使来るし」
「あぁ、ヴァ―スのお姫様だっけ?名前はなんて言ったっけ?」
「アセイラム・ヴァ―ス・アリューシア殿下だよ。次の模試には出るんじゃないか?オコジョ」
僕はセラムさんについての記事をスマホで見ながらオコジョにそう言った。
「うるさいよ」
僕はそんな会話に入らずに、バスの外を眺め続けていた。
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「アセイラム姫」
アセイラムは従者のエデルリッゾを揺れてスレインの前に歩いてきた。
スレインはそれを綺麗なお辞儀で迎えた。
「スレイン、面を上げてください」
「は..っ..」
アセイラムは白の美しいドレスをまとい、微笑を浮かべながらスレインを見ていた。
スレインはアセイラムのその姿に思わず見惚れて、言葉を失った。
「お別れですね。あなたに教わった地球の知識は、私が地球の人々と行う交流に役立つでしょう」
「その...危険では?何も地球に滞在をしなくても...」
スレインが、アセイラムから目をそらしながら言った。
「火星と地球が歩みよるには、密な交流が必要です。そして、私の姫としての立場は適している。私が第一歩を歩まなければいけません」
スレインはそれを聞いて一瞬顔を歪めたたが、すぐに笑顔を作り、自分の首にかかっていたネックレスをアセイラムに差し出した。
「...これを受け取ってください、魔除けの効果があるそうです。5年前、僕を救ってくれたお礼です」
「...スレインの御父上の形見でしたね...ありがとうスレイン」
「アセイラム姫、シャトルが到着しています」
スレインとアセイラムの別れが終わった時、クルーテオがアセイラムに地球への用意が整ったことを伝えた。
「わかりました...それでは」
アセイラムとその従者エデルリッゾがシャトルに向かい、スレインとクルーテオだけになった。
クルーテオはスレインに近づき持っている杖で、スレインの顔を殴打した。
「ぐっ...!」
その衝撃でスレインは倒れ、クルーテオが憎しみの籠った目で見下した。
「身の程をわきまえろ、使用人が。次はないぞ地球人」
「...はい」
倒れているスレインを背にして、クルーテオはその場から去っていった。
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「御覧ください、ただいま、火星の第一皇女アセイラム・ヴァ―ス・アリューシア殿下を載せたリムジンが姿を現しました」
新芦原市の歓迎パレードが行われる道路に大衆が集まり、警察に誘導されながら進む黒塗りの護衛車と白いリムジンに誰もが目を向けていた。
「お、ちょうどだったな」
「テレビだけでいいじゃん」
「ま、一応、俺も地球人だし、親善訪問は歓迎してやらないと」
「お前、いつから火星派になったんだよ」
「だって、皇女さまだよ。結構かわいい顔してるって噂になってるし、一目見てみたいじゃん」
「そっちかよ」
オコジョとカームがそんな会話をしながらリムジンに目を向ける。
「たしかに、かわいかったな」
「ん?なんか言ったかイナホ?」
「いいや、なんでもないよ、オコジョ」
僕はセラムさんと出会ったことは誰にも言っていない。
目の前で突然、眩い光が起きたら火星のお姫様がいて、いろいろ町を案内して、会話して、最後は光と共に消えていった。
それを言っただけで正気を疑われそうだ。
「てか、スモークガラスで車の中見えないじゃん」
「親善大使っていうんだから、顔くらい見せてもいいだろうが」
「つうか、俺たち何しに来たんだよ?」
「お前の要望だ」
スモークガラスで中の見えないリムジンに対して、オコジョが残念そうに構えていた双眼鏡を下した。
「あ、イナホ達じゃん!」
「おう、インコ。お前もお姫さま見に来たのか?」
「うちの学校生徒会を通じて交通整備の手伝いの依頼が来たのよ!」
「そうか、頑張れよ」
「ねぇ、三人共暇してるなら手伝ってよ」
「えー」
「腕章つけて立ってるだけでいいからさ!」
インコの手伝いの頼みに、オコジョが嫌そうに渋る。
僕はふと空から不快感を感じて見上げた。
そして、煙を立ち上げながら前に進むミサイルに僕は冷や汗を掻いた。
「イナホは、もちろん手伝ってくれるよね?」
「...ミサイルが来る」
インコ達はお互いに顔を合わせて、僕が言った言葉に困惑した。
突如、爆音が目の前の道路から鳴り響いた。
「なんだ!」
ミサイルは走っていたリムジンの周りを走っていた護衛車に対して、追尾して迫り、破壊していった。
「何なのよ!もう!」
「お姫様は無事みたいだ!」
そうカームが叫んでいるが、僕の視線の先には数機のミサイルがリムジンに向かって迫っているのが分かった。
リムジンの目の前で、2機のミサイルが爆発した。
リムジンは横転し、完全に停止した。
「おい、イナホ。お前どこいくんだ!?」
「イナホ!?」
カームとインコがそう言っているのが聞こえたのは、僕が見ていた橋から道路に飛び降りた後だった。
なぜだかわからないが体が動くというのを、まさに体感していた。
僕の耳には、ミサイルの大きな音が近づいているのが聞こえる。
「ダメだ。間に合わない...!」
無我夢中で僕は転倒しているリムジンに走った。
すると、そのリムジンのドアから金髪の少女が這い出てきた。
「セラムさん!?いや、違う!...」
僕が記憶に残っているセラムさんとは若干だが顔が異なっていた。
少女は、空を見上げ迫るミサイルを見た後、僕の方を向いて口を動かした。
僕には、姫さまを助けて、と言っている気がした。
気付いたら僕は道路に倒れていた。
体中に擦り傷を作り、手には煤がついていた。
セラムさんではなかった金髪の少女は間違いなく僕の目の前で死んだのだ。
僕は立ち上がり、ふらつきながら道路を出た。
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「平和を願う我らがアセイラム姫を暗殺した地球人どもに正義の鉄槌を下さなければならない。我々火星騎士たちは己の武を持ってそれを遂行する」
火星との戦争がこうして幕を開けた。