みなさんは"嫉妬"というものをご存知だろうか?
"嫉妬"とは、自分より優れた者や自分に向けられる筈の愛情が他人に向けられることで、恨みや妬みの感情が生まれることだ。
そんな"嫉妬"を操る能力を持つは、橋姫である「水橋 パルスィ」だ。
何故、俺こと「矢木野 九郎」がこのようなことを話したかというと。
パルスィ「ちょっと!九郎!待ちなさいよ」
そう、橋姫である彼女と"知り合い"だからだ。
時は遡る事、大昔。
______
時は、都がまだ栄えていた時代。
俺こと「九郎」は、師匠の下について3年ほど経ったある日。
師匠は遠くの都へ人形劇をお披露目に行ってるので、俺はこの都でお留守番兼人形劇の練習をしている
そんなある日、人形の素材や暖を取る為の薪集めをする為に近くの林に行った時だ。
「この辺でいいか。」
俺は、川の流れる近くの林で、小さな木の枝や少し大きめの木の枝を集めていた。
背負っている籠に半分ぐらい枝を集めたところで俺は、川を渡すための橋で一人の少女を見つけた。
見かけは俺と同じぐらいの背の女の子だ。
綺麗な服を着て一人で川をボーッと見ている。
俺は、その女の子が気になったので近づき声を掛けることにした。
「なぁ、ちょっといいか?」
話しかけられた女の子は肩をビクッ!と震わせて俺のほうを見た。
女の子は少し警戒している様子だ。
「一人っきりでこんな所で何してるんだ?獣とかに襲われたら危ないじゃないか」
?「だ、大丈夫よ!ほっといて!」
プイッとそっぽを向いてしまった女の子。
「じゃあ一つだけ聞いていいか?」
?「な、何よ」
女の子は顔は合わせようともしない。
「名前は何て言うんだ?」
その問いかけに女の子は再びビクッ!となった。
そして、か細い声でこう答えた。
パルスィ「パ...パルスィよ...」
「パルスィね、分かった。明日もまたここに居るのか?」
パルスィは相変わらず顔を向けようとはしないが、コクンッと頷いた。
「そうか!じゃあまた明日も薪拾いに来ようかな!」
そう言うと、パルスィはビクンッ!と肩を震わせて、涙目でこちらを見てきた。
「な、なんだよ」
師匠から"女子は怒らせると怖いぞ"と教えられている為、少しだけ身構える。
するとパルスィは、
パルスィ「な、名前...」
「え?何て?」
あまりにも小さな声で聞き取りづらかった、
パルスィ「あんたの名前は何よ!」
今度は大声で言ってきた。
「く、九郎だよ」
俺はそう答えるとパルスィは都とは反対側の橋の向こうへと走り去ってしまった。
俺はその時、純粋な一目惚れをした...
______
翌日
俺はいつも通り、薪を拾いに行きパルスィと会った橋へと向かった。
しかし、橋にパルスィの姿はなかった。
その翌日もそのまた翌日も。
パルスィと会わなくなり、1週間ほど経過したある日、お披露目に行っていた師匠が帰ってきた。
師匠が帰ってきた晩、俺は師匠に聞いてみた。
「人に好意を抱くってどんな感じなんだ?」
?「ハッハッハッ!!九郎もそんな年頃か」
「う、うるせえよ」
師匠はこの質問に対し最初は笑っていたが、直に真剣な表情になり考えていた。
そして、
?「人を好きになるってのは"愚か"なことだ。」
「だ、ダメなのか師匠!?」
俺は師匠の言うことは絶対に従った。
師匠が駄目というものは駄目。師匠が言うなと言った事は他言無用。
今回も人に対する、好きだの好意だのといった感情は抱くな、と言ってくるものと思ったが。
?「そいうことじゃない。好きに人を愛する事は素晴らしい事であり、俺が云々言う事じゃないんだ。」
「じゃあ何で"愚か"なことなんだ?」
師匠はふぅ・・・とキセルと呼ばれる西洋の煙管を一服し答える。
?「いいか、九郎。人を好きになるという事は、"その人を不幸にするかもしれないと言う結果"を生むということだ」
「・・・つまりどういう事だ?」
?「例えばだ。九郎の気になって居る子と契りを交わしたとする」
「ッ!?き、気になってねぇよ.....(たぶん)」
突然の師匠の言葉に動揺を露わにする俺。その反応を見て笑う師匠。
意味はあまり理解していないが、師匠がこの前、口走っていた「せいしゅん」って奴なのか?
笑っていた師匠は再び、真剣な眼差しになる
?「まぁ、最後まで聞け。その契りを交わした相手よりも先に不幸になったりしたらどうする?死んでまでその責任を負うことができるか?」
「うっ...それは...」
?「つまり、九郎が一人で生きて死ぬんなら精々悲しむのは俺ぐらいだ。」
「(悲しんではくれるんだな...)」
少しばかり嬉しい気持ちになった。
?「だが、一度たりとも契りを交わしたのなら、最後まで責任は負うことだ。」
「責任...」
大人に近づいたとは言えども、まだ子供の俺。
【責任】という言葉は、まだ実感はしていない。
だけど、師匠があれだけ強く言うのなら重要なことだ。
「分かった師匠。ありがとな。」
俺は師匠に頭を下げようとするが、師匠は、
?「で、誰か気になる子ができたのか?九郎?」
このニヤケ顔である。
「だから居ねぇって言ってるだろうが!!」
この後、隣の家から苦情が来たのは言うまでもない。
______
しばらくして、俺もすっかり大人になり"責任"という言葉も実感がわいてきた。
そんなある日のこと。
?「あ、あの!!」
「ん?」
都の路上での人形劇を終えた後、一人の女性が声を掛けてきた。
笠を被っていて顔は見えない。
?「少しお時間を頂けませんか?」
丁度、暇になった俺は女性についていき、"例の橋"へと連れられた。
橋に着くと女性は被っていた笠を取る。
そこには、
「ッ!?パルスィ!?」
パルスィ「ひ...久しぶりね...」
金髪に緑眼。尖った耳の女性。パルスィがそこに居た。
「その髪や耳は...」
パルスィ「元からよ。気づかなかったかしら?」
「言われてみれば...」
昔のことなのではっきりは覚えていない。しかし、確かに若干、耳が尖っていた気がした。
髪は当時は染めていたのだろう。
何故なら、
「パルスィは妖怪なのか」
パルスィ「そうよ。」
彼女は橋の近くに住む妖怪らしい。
【愛情を操る程度の能力】とか...
「妖怪だから都ではあんな格好で?」
パルスィ「当たり前じゃない。私を見て驚かないのは貴方ぐらいよ」
言われてみれば、パルスィが妖怪と分かった後でも不思議と険悪感などは生まれない。
むしろ、都の人達よりも話しやすい感覚だ。
パルスィ「ところで...その...」
「そうそう。突然どうしたんだ?」
妖怪であるパルスィが都にまで足を運んできた理由は何だろうか?
パルスィ「あの....えぇと...その...ご、ごめんなさい!あの時は!!」
「あの時...?あぁ!」
パルスィが言っているのは突然、橋に現れなくなった事であろう。
パルスィ「突然、前触れもなしに居なくなって...」
「いや、気にしないでくれ。それなりの事情があったんだろ?」
パルスィ「ま、まあそうね...」
「?」
パルスィが突然、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
初めて会ったあの時のようだ。
パルスィ「で、その...そろそろ言わなくちゃいけないかと思って...」
「言わなくちゃいけない?」
妖怪であること以外に何か秘密があるのだろうか?
パルスィ「えぇと...その...あの...わ、私...九郎さんが...」
「ん?俺がどうかしたのか?」
みるみる顔が赤くなっていくパルスィ。
謎が深まっていく九郎。
そして、
パルスィ「わ、私。九郎さんが異性として好きです!!結婚を前提にお付き合いしてください!!」
「..............え?」
パルスィは今、何と言った?
俺が好き?え?
パルスィ「初めて話しかけてもらったあの日から胸のモヤモヤが取れなくて...ひ、一目惚れみたいなんです!」
一目惚れ...俺と全く同じだ。
「で、でも。俺なんかでいいのか?妖怪の中でももっと格好良くて強いのが居るでしょ?」
パルスィ「九郎さんじゃなきゃ嫌なんです!私はずっとずっと一途なんです!!」
突然の告白に思考が追いつかない。
パルスィの言ってることから察するに初めて話しかけた日に一目惚れ。
ずっと一途に俺を思い続けてきた。
そして、お互いが大人になった今。結婚を前提にお付き合い。
パルスィ「もう妖怪としては生きていけないんです!人間に恋をしてしまった私はもうあっち(妖怪)の世界には戻れないんです!」
パルスィは妖怪としての全てを捨てて、俺を求めにきた。
真っ直ぐで一途で純粋な恋。
でも、俺の中ではあの言葉が響いていた。
"一度たりとも契りを交わしたのなら、最後まで責任は負うことだ"
果たして俺はパルスィを守って生きていけるのだろうか?
当然、都で妖怪と暮らしてる何て事がバレれば、パルスィだけでなく、師匠にまで害が及んでしまう。
だからと言って、パルスィと自然で生きることは俺の力量的にも無理がある。
初恋の相手から、求愛され、今、俺は幸せを感じている。
だけど、この幸せは長続きしない。
ならば。
「すまないパルスィ。俺は、君と一緒には生きていけない。」
パルスィ「私が妖怪だから?九郎さんに迷惑掛けるから?」
パルスィはその言葉を聞き涙目になりながら問いかけてくる。
「そうかもしれないし、違うかもしれない...ただ...」
パルスィ「...ただ?」
「俺はパルスィを幸せにしてあげたい。だからこそ結婚もできないし付き合うこともできない。」
パルスィ「分かんない...九郎さんの言ってることがわかんないよ...」
パルスィはそこに泣き崩れる。
俺は、パルスィに近寄り
「俺が生きてる限り、パルスィを幸せにし続ける。俺はそう言いたいんだ。」
パルスィ「ッ!!九郎...九郎さん!!」
パルスィが泣きながら抱きついてくる。
俺はパルスィを抱き返す。
パルスィが泣き止むまでずっとそうしていた...
その後、俺は会える日は必ずパルスィと会い、色んなことをした。
橋の下に流れる川で遊んだり、人形劇を見せたりと...
パルスィと擬似的付き合いをしていた数年後。
"殺人技師"は現れ、九郎は姿を消した......
_____
パルスィ「待ちなさいって言ってるでしょ!」
「触るな!!」
パルスィ「ッ!!」
あの数年間で俺は心が壊れてしまった。
もう、俺はあの時のようにパルスィを幸せにすることはできない。
穢れ汚れたこの手でパルスィを幸せにすることは...
「お願いだから...もう話しかけないでくれ...」
パルスィ「九郎...貴方、泣いているの...?」
俺はどうやらパルスィに背を向けたまま泣いていた。
後悔と自戒と憎悪...
様々な苦しみでパルスィに触れることのできない俺はただただパルスィに背を向け、泣いていた。