東方操装庫   作:猫仮面

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嫉妬の妖怪

偶然とは言え、"元"最愛の人物。

 

水橋パルスィ

 

彼。九郎にとって、その出会いはあまりにも残酷で悲しいものだった。

 

九郎は、パルスィの方には向かず、声を殺して涙を流す。

 

「(おかしいな...人形の体なのに、涙が止まらねぇ...)」ポロポロ

 

九郎にしばらく消えていた感情。

 

悲しみ。

 

それが一気に液体となり体外へ排出される。

 

パルスィ「ねぇ...九郎。私じゃ駄目?もう、付き合ってとも結婚してとも言わない。でも、相談にのってあげるのが私じゃ駄目?」

 

「...」フルフル

 

俺は首を横に振る。

 

今すぐにでも、パルスィに抱きつき謝罪と嬉しさなどをぶつけたい気持ちだ。

 

しかし、今の九郎には、それができない。

 

彼自身が、それを拒むからだ。

 

彼は必死に気持ちを押し殺し告げる。

 

「何度も言わせないでくれ。 俺はもう水橋とは関われない。 それだけだ。」

 

止めの一撃。

 

パルスィを完全に拒絶することで、彼女は諦めてくれるだろう。

 

妖怪は力こそ強いが、精神は弱い生き物だ。

 

"拒絶"など、特定の種族によっては致命的な精神ダメージとなりうる。

 

しかし、パルスィは違った。

 

パルスィ「そう......妬ましい。」

 

「え?」

 

一瞬、耳を疑った。

 

"妬ましい"?

 

【愛情を操る程度の能力】の彼女から全く正反対の言葉が発せられたのだ。

 

パルスィ「私以外の人には心を開ける癖して、私には拒絶なのね。妬ましい」

 

「な、何を言ってるんだパルスィ。俺は誰にも心を開いt『人里の人間』...え?」

 

パルスィ「人里の人間でしょ?九郎。詳しくは分からないけど、強い好意の感情が感じ取れるわ。妬ましい。」

 

人里の人間... 間違いなく、阿求の事だ。

 

「どうして、君がそんなこと分かるんだ?やっぱり【愛情を操る程度の能力】か?」

 

俺は、涙を拭き取り、パルスィの方を向き対峙する。

 

パルスィ「違うわよ。もうそんな能力は消えてしまった。私の能力は【嫉妬を操る程度の能力】。あなたから感じられる微弱な行為の感情に私の本能が嫉妬してるのよ」

 

「【嫉妬を操る程度の能力】...?」

 

正直、訳が分からなかった。

 

パルスィは確実に【愛情を操る程度の能力】だった。

 

幼少期の一目惚れの気持ちに嘘は無いが、彼女が能力を使用すると、彼女への愛情が高まるのを覚えている。

 

断じて、正反対でもあろう【嫉妬を操る程度の能力】なんてものではなかった。

 

パルスィ「私はね。九郎に会えなくなたあの日からずっとずっと橋で待ち続けたの。でも、九郎は現れない。現れるのは景色を見に来た人間の夫婦や恋人達だけ。私は徐々に人間に悪意を持ち出した。私の前に九郎は現れないのに、何故あの人たちは仲睦まじく歩いているのだろう?と。」

 

「ま、まさか...」

 

パルスィ「そのまさか。私は【愛情を操る程度の能力】が消滅して【嫉妬を操る程度の能力】へと変化した。 あの橋に渡ろうとする男女に嫉妬し、私は片方を騙して別れさせるような妖怪になった! でも、嫉妬の感情は収まらない!! だから私は!!」

 

「そんな...やめろ...それ以上は言わないでくれ...頼む...やめてくれ...」

 

九郎がもっとも恐れていた事態。

 

笑顔の可愛い彼女。照れた表情が可愛い彼女。顔を赤くしつつも精一杯尽くしてくれた彼女。

 

その彼女。水橋パルスィは。

 

パルスィ「男女のうち1人を川へ突き落して殺す妖怪へ昇華した。」

 

彼女の手が。綺麗で無垢だった手を汚させてしまうという事態。

 

パルスィ「すっごい幸福感に満たされたよ。 私。 突き落した翌日になると川に人だかりができて、男女どちらかの死体が引き上げれるの。 そして、男女のどちらかが大粒の涙を流しながら、名前を呼んでるんだよ? 私と同じ。 悲しさを共有して、嫉妬する対象も減る。 すっごく幸福だった。」

 

「ごめん...ごめんな...ごめんよ...ごめんなさい...許してくれ...」

 

俺は膝を地面へ着いて俯き壊れたレコーダーのように謝罪をする。

 

パルスィの話は止まらない。

 

パルスィ「でもね。 長くは続かなかったの。 とうとう国の役人に突き落す現場を見られちゃってね。 妖怪ってのもバレて私は国中の賞金首。 毎日、毎日、刀を持った人や槍を持った人に追いかけられたわ。」

 

「ごめん...なさい...ごめんなさい...許してくれ...許して...くれ...」ポタッ...ポタッ...

 

俺は、涙を流しながら罪悪感と後悔と悲しみしか残らない永遠と同じ言葉を繰り返すテープレコーダーになってしまっていた。

 

しかし、パルスィの話は、まだ止まない。

 

パルスィ「おかげで私は晴れて嫌われ者の集まる地底へ避難。 その日から追いかける人間は居なくなったわ。」

 

「ごめんなs『謝らないでよッ!!!!』ッ!?」

 

パルスィが怒鳴る

 

俺は、謝罪の言葉がピタッと止まり、くしゃくしゃになった顔をパルスィへ向ける。

 

パルスィも涙を流している

 

パルスィ「でもね。 ここに来て分かったの。 私は幸福という感情を逃げ場にして逃げていただけだって! いくら人を殺したからって九郎は帰ってこない! 無駄なことだって分かってた! 心の奥底ではずっとずっと分かってた!! 私は九郎にはもう会えないって! 九郎が一緒に居てくれる世界はただの幻想だって! 分かってた! でも、そうでもしないと私は私を保てなくなりそうだった!! だから...だから...」

 

パルスィは、ヒックヒックと嗚咽を漏らしながら自分のこれまで押し殺していた気持ちを全て吐き出す。

 

九郎は、その言葉を聞き、腰を上げ

 

ギュっ...

 

パルスィを思いっきり抱きしめた。

 

「俺のせいで、ずっと苦しかったんだな... 俺がパルスィの足枷になってたんだな... 謝っても謝っても償いきれないぐらい苦しかったんだな。 でも、俺にはこれぐらいしかできないんだ... ごめんな。 いや、ごめんなさい。」ポロポロ

 

その言葉を聞き、抱きしめられたパルスィは抱きしめ返し

 

パルスィ「手紙ぐらい出しなさいよ... バカァ...」ポロポロ

 

九郎の胸の中でパルスィは今まで溜めた全ての涙を流した。

 

九郎も、パルスィを抱きしめながら、これまでの後悔や悲しみなどを洗い流すかのように涙を流した。

_________

 

?「いや~ 熱々だね。あの二人。 なぁ、そう思うだろヤマメ?」ニヤニヤ

 

ヤマメ「ホントね。 私、恋の病を飛ばした覚えは無いんだけどね~」ニヤニヤ

 

?「...(コクコク」ニヤリンコ

 

パルスィの守る橋から少し離れた岩場。

 

そこから、土蜘蛛である「黒谷 ヤマメ」と額から赤く星マークの付いた角を生やした人物と桶に入った緑髪の少女が、九郎たちの光景を覗く

 

?「にしても、パルスィが怒ったり、涙流してる所なんて見たこと無かったよ。天狗が居たら、是非ともあれを絵に保存して欲しいね~」ニヤニヤ

 

?「...(コクコク」ニヤピン

 

ヤマメ「ハハハ...そんな事したら、後からパルスィに殺されますよ」

 

?「ん~? 私は負けないけどな!!」ガッハッハ

 

この3人は後に、パルスィをからかいに行くのだが、それはまた別のお話

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