Infinite Stratos~蒼騎士の軌跡~   作:ミリオンゴッド

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天狗

 セシリアとルームメイトになって一晩が過ぎた。他の部屋ではそれぞれ親睦を深めたのだろうが、俺達は未だまともに会話すら出来ていなかった。

 

 何度か会話を試みてみたのだが、部屋に入った時の不幸な出来事や元々印象が良くなかったこともあり、セシリアはまともな返事を返すことはなかった。一応、おやすみなさいと寝る前の挨拶はあったが、それだけだ。

 

(俺としては、せっかくだし仲良くやりたいんだがねぇ)

 

 そう、何の因果か知らないがせっかくルームメイトになったんだ。蟠りは解消して生活しやすい環境にしたいと思う。流石に四六時中気を張られたんじゃ此方も参ってしまう――

 

「ん…んん……ふわぁ…………」

 

――なんて考えていると、セシリアが目を覚ましたようだ。

 

「よっお嬢、おはようさん」

 

「っ!?……お、おはようございます」

 

 昨日の事を思い出したのか、顔がすっかり赤くなっている。

 

「朝メシどーするよ、何なら一緒に行くか?」

 

「……お一人でどうぞ。わたくし、食欲がありませんので」

 

「ありゃ、フラれちまったか。んじゃま、一人で行きますわ。そんじゃなー」

 

 セシリアに言い残して、部屋を出る。流石に一晩じゃ関係改善は不可能らしい。ま、根気強く声かけて行くしかねーわな。

 

 とりあえずセシリアの件は後回しにして、俺は空腹を満たすため食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 来るのが遅かったのか俺が食堂に着いた頃には席は大方埋まっており、朝メシを買ったはいいが席が無い。そんな中俺の名前を呼んで手招きするヤツがいた。一夏だ。

 

「クロウ!こっち空いてるぞー!」

 

「おっす、おはようさん」

 

 見れば隣には昨日一夏と話していた黒髪ポニーテールの少女が座っている。

 

「篠ノ之箒…だったか?ワリィな、お邪魔じゃねぇか?」

 

「……いえ、構いません」

 

 箒は顔に出やすいタイプのようだ。一夏と二人が良かったという感情が表情からダダ漏れである。といってもここで座らないと食べられないため大人しく座るが。

 

「どうした箒?腹でも痛いのか??」

 

「一夏…お前は……」

 

 一夏は相変わらずの唐変木っぷりを披露している。いつかコイツ刺されるんじゃないのか?

 

「なんだよ……まあいいや。そういえばクロウは誰とルームメイトになったんだ?昨日千冬姉から聞いたんだけど、クロウも女子と相部屋なんだろ?」

 

「ああ……セシリアお嬢だよ」

 

「あっ……なんて言ったらいいか、それはもう……御愁傷様です」

 

「まったく大変だぜ。まー出来ればお嬢とも仲良くしときたいんだけどよー」

 

「そりゃそれが出来れば一番だけどさ、あの様子じゃ厳しいんじゃないか?」

 

「そーなんだよなぁ、ハァ……」

 

 彼女に関しては根気強くやって行くしかないか。いや、もしかしたら何か原因があって男嫌いなだけかもしれないが。どちらにせよ、会話が出来るのが第一段階か。

 

「あ、そうだ!セシリアで思い出したんだけどさ。一週間後のバトルに備えて俺のこと鍛えてくれないか?」

 

「一夏!お前の訓練は私が付きっきりで昨日の放課後からやっているだろう!しかもよりによって対戦相手に頼むなど、男として恥ずかしくないのか!!」

 

 箒は必死になって一夏の提案を否定している。せっかく一夏と二人きりになれそうな所を邪魔されたくないんだろう。

 

「そうは言うけどさ、俺だってなにも出来ずに負けたくないんだよ。俺はIS以前の問題だから、箒はISについて教えてくれないんだろ?剣道するだけだったら純粋に強い人に教わったほうがいいかなと思ってさ」

 

「た、確かにそうは言ったが……ッ!お前は私よりこの男のほうがいいというのか!!」

 

「クロウはこう見えてめちゃくちゃ強いぜ。だから鍛えてもらえば絶対強くなれると思うんだけど」

 

「む…そうなのか……だが…………」

 

 箒は暫く考え込んだあと、俺の目を見て睨みながら言う。その眼には明確な敵意が滲み出ていた。

 

「……アームブラストさん、どうか私と手合わせをしては頂けぬだろうか?」

 

「やれやれ、どーしてそうなるかね……ま、気持ちはわからんでもないけどよ」

 

 一夏の方をチラリと見るも、なぜ箒が躍起になっているかわからずキョトンとしている。朴念仁にも程があるんじゃないだろうか。

 

「一夏が貴方をこんなにも評価している。貴方との手合わせは得るものが多そうだ」

 

 箒は自分が敗けるとは微塵も思っていないのだろう。相手を見下した眼、歪んだ笑みを浮かべる口元からは、邪魔者を叩き潰すことしか考えていない心情が容易に想像できる。

 

「オイオイ、言ってることと顔が全然違うぜ?……今日の放課後、場所は剣道場でいいか?」

 

「はい、構いません。よろしくお願いします」

 

「わかりましたよ……っともう時間がねぇや、早いとこメシ食っちまおーぜ」

 

 こうして、俺と箒の手合わせが決まった。その後箒は一言も言葉を発さず早々に食べ終えて席を立っていく。

 

 一夏にあれでいいのかと聞いたが、何も分かっていない様子で「なんで怒ってるんだろうな?」などと本人が居たら火に油を注ぐであろうことを怪訝な顔をしながら話していた。

 

 コイツのせいで面倒事を押し付けられたようなモンなのに、自覚が無いというのだから困ったものだ。けどまあ、受けてしまったものは仕方がない。少し揉んでやるとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

~side 箒~

 

 授業が終わり、放課後。私は剣道場でアームブラストが来るのを待っていた。既に道着に着替えておりいつでも戦える状態だ。

 

 一夏はあの男が強いと言っていたが、私にはそんな風には見えない。昨日から見ていても会ったばかりの女子に綺麗だの可愛いだの言っていたし、授業は寝てばかりいるし、どこからどう見ても真剣さの感じられないチャラチャラした軽薄男ではないか。

 

 そもそもなんで一夏はあんなに奴を慕っている?昨日は本人の前ではなんでいるんだと喚いていたが、屋上で話してみればクロウがいてくれて助かったなどと、奴の話ばかりではないか!六年ぶりに再会した幼馴染(わたし)よりも奴のほうがいいというのか!それに奴は千冬さんとも面識があるみたいだし、私が知らない間に何があったというのだ!?

 

 きっと一夏があんなに弱い腑抜けになったのも、あの男に感化されて遊び呆けていたからだろう。でなければ一夏が篠ノ之流を捨ててバイトに明け暮れるはずがない、きっとそうに違いない。

 

 待っていろ一夏。私があの男を叩きのめしてお前を正気に戻してやる。

 

「箒ー、連れてきたぞー」

 

「よっ、来たぜ♪」

 

 剣道場の扉が開き、一夏とアームブラストが中に入ってきた。これから戦うというのに挨拶にも軽薄さが漂うとは、やはり気に入らん。

 

「……私は準備が出来ているので、準備を済ませて来てください。防具は用意してありますので」

 

 流石に防具無しでは怪我をさせてしまうと思い、それだけはこちらで準備していた。私とて怪我までさせるつもりはないからな。

 

「あー、ワリィけど要らねえわ。動きづらいだけだしよ」

 

「……私を舐めているんですか?」

 

「別にんなこたぁねーけど、重い防具つけんのは俺の趣味じゃねーんだわ。適当に竹刀だけ貸してくれや」

 

「怪我をしても知りませんよ」

 

「おうよ♪どっからでもかかってきな!」

 

 やはりこの男、私を見縊っている。大方ただの剣道経験者の女子とでも思っているんだろう。ISがなければ女など怖くないと。

 

 怪我させるつもりは無かったが仕方がない。少々痛い目を見てもらうとしようか。

 

「……一夏、開始の合図を頼む」

 

「わかった。箒、あんまり無茶するなよ?」

 

 なぜ私の心配をする!私が負けるとでも思っているのか!?……まあそう思うのも今のうちだけだ。お前はすぐに考えを改めることになる。

 

「こっちはいつでもいいぜー」

 

 見ればアームブラストは既に開始位置に立っており、片手で竹刀を肩に担ぎ余裕そうな笑みを浮かべている。

 

「一夏、こちらもいいぞ」

 

 フン、その余裕ぶった表情、すぐに崩してやる。

 

「ああ、それじゃあ…………始め!」

 

「はあああぁぁぁぁああッッッ!!!!」

 

 開始と同時に上段から斬りかかる。アームブラストは微動だにしていない。この剣速、素人には躱せまい!!

 

(食らえ!!)

 

 竹刀が奴の脳天に直撃する瞬間、視界がブレる。その刹那、目の前の敵は消え、腹部に衝撃が走った。

 

「おうおう、結構速いじゃねーか。その年にしちゃ上出来だぜ」

 

 気付けばアームブラストは既に私の背後に立っていた。何が起きたのか理解できない。こんな感覚は初めてだった。

 

「……貴様何をした」

 

「別に、普通に躱して斬っただけだぜ。ま、お前さんがなかなか速いから少しだけ本気出しちまったがよ」

 

 普通に躱して斬っただけ?ありえない、あんなのはそこらの人間が出来る動きじゃない。出来るとすれば思いつくのは千冬さんと…………姉さんくらいだ。

 

「んじゃ、俺様大勝利!!……ってことでいいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 負けた。そう思った瞬間、頭が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……あぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 自分を抑えられなくなり、衝動的に何度も、数え切れないほど剣を振るう。しかしアームブラストに当たるどころか、一度も剣を交えず全て躱されている。

 

「当たれ、当たれ当たれッ、あたれあたれあたれぇぇぇぇぇぇええええ!!!!!!!!」

 

「コラ、ちったあ落ち着け」

 

 次の瞬間、脳が揺れる。頭に打ち込まれたことに私は倒れるまで気付かなかった。目の前には床の木目が見える。立ちあがろうとするも、平衡感覚がおかしくなり上手く立ち上がれない。フラつく身体を何とか動かし、仰向けになる。

 

 

 

「強い…な……」

 

 

 

ここまで…実力差があるとはな……さっきまでの自分が馬鹿みたいだ…………。

 

 

 

「当然だぜ、俺様ってば天才だからよ♪」

 

 

 

 舐めていたのは私だったということか……完敗だ…………。

 

 

 

「フフ……軽口を…叩くな――」

 

 

 

 天狗になっていたのだな……私は…………。

 

 

 

――次の瞬間、私の意識は途切れた。

 

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