Infinite Stratos~蒼騎士の軌跡~   作:ミリオンゴッド

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背中

~side 箒~

 

 どれくらいの間、気を失っていたのだろうか。先程まで明るかった剣道場は既に薄暗く、窓からは夕日が差し込んでいる。

 

「おっ、やーっと目ぇ覚ましたか。体は大丈夫かよ?」

 

「……はい、問題ありません」

 

 私はどうやら剣道場の隅に移動させられ、寝かされていたようだ。頭の下にはタオルが敷いてあり、身体からは防具が外されている。

 

「保健室まで運んでもよかったんだが、周りの目とか考えるとちょっとな。ワリィな」

 

「いえ、構いません。一夏は何処に?」

 

「ホレ、あそこだ」

 

 アームブラストが指差した方を見ると、遠くで一夏が懸命に素振りをしていた。

 

「あの通り、今は素振り中だ。お前が気絶した後に一夏とも一戦やってみたんだが全然でな。今は少しでも剣を振るう感覚に慣れてもらおうってトコだ。クク……ありゃ確かにお前の言う通りISどころの話じゃねーな」

 

 アームブラストは笑いながら言う。自分で言うのも何だが、あんなに敵意を剥き出しにしていた相手に接するならば少しくらい不快感を感じていてもよさそうなものだが、彼からは微塵も感じられない。

 

「どうして……そんな風に笑えるんですか?」

 

「ん?そんな風って何だよ?」

 

「……私は正直言ってアームブラストさんが嫌いでした。いつもヘラヘラしているし、軽いですし…………一夏に、慕われているみたいですから」

 

「ま、何となくその辺は伝わってるぜ」

 

「なら、どうして貴方はそんな風に気軽に話しかけてくるんですか!?普通ならもっとなんというか、嫌悪感を抱くものじゃないですか!!」

 

「やれやれ……なんつーか、お前も肩肘張りすぎなタイプだよなあ」

 

「――え?」

 

 呆れ顔でアームブラストは言う。肩肘張りすぎ?どういうことだ?

 

「今回の事だって結局は一夏(アイツ)と一緒にいたいって、そんだけじゃねーのか?」

 

 いきなり核心に突っ込まれた。いや、いきなりそんなこと言われてもだな……いや確かにそうなのだが、上手く言葉にできない。

 

「そ、そんなことはない!私はただ同門の不出来が……」

 

「オイオイ、流石に見てれば分かるぜ?……でだ、それならそうと一夏の野郎に言えばいいだろ」

 

 咄嗟に言い訳をするも、すぐに見破られた。……私はそんなに分かりやすいのか?

 

「そんなこと言えるわけないだろう……」

 

「そうは言うが、恥ずかしがって何も伝えないでいると、後で後悔するぜ?」

 

「後悔……?」

 

「人間いつ別れが来るかわかんねえからよ。家族、友達、恋人……いろんな繋がりはあるだろうが、そいつらに素直に気持ちは伝えとけ。でないと、後悔しながら別れることになる……ま、人生の先輩としてのアドバイスだと思ってくれや♪」

 

 アームブラストの表情は普段の飄々としたものと同じに見える。だが、その笑顔からはどこか物悲しい雰囲気が漂っていた。

 

「お前は、その…そのような経験があるのか……?」

 

「ま、生きてりゃいろんなことがある。その一例ってだけだ」

 

「そうか……って、私の質問に答えてもらってないぞ!!」

 

「ああ、嫌悪感がどうとかって話か?別に俺はお前のこと嫌いじゃないから、んなモン最初から無いんだよ。むしろ弄りがいがあって面白いヤツだと思ってるぜ♪」

 

「いっ、弄りがいがあるとは何だ!失礼だぞ!!」

 

「そういうとこだよ。それにしても、よーやっと敬語が取れてきたみたいだな」

 

「え?」

 

「昨日言っただろ、敬語はいらないって。今まで律儀に敬語で話してたの、クラスで多分お前だけだぜ?」

 

「あ……」

 

 いつの間に敬語が取れていたのだろうか。気付けば以前ほどアームブラストに対し嫌悪感を感じない。寧ろ奴の言葉からは妙な安心感さえ伝わってくる……兄というものがいたなら、こんな感じなんだろうか?

 

「敬語も取れてきたところで…箒、せっかくだし仲良くやらねえか?俺も面白いヤツとは仲良くしときたいからよ♪」

 

「フン、お前のような軽薄男と仲良くするなどありえん!……だがお前が強いのも、私より経験値が高いのも理解した。だからだな……たまに手合わせをしたり、話を聞いてもらうぞ……クロウ」

 

「クク……ああ、了解だぜ」

 

 クロウとの会話を終えるとほぼ同時に、こちらに近寄ってくる足音が聞こえる。どうやら一夏が素振りを終え、こちらに近づいてきたようだ。

 

「箒!目が覚めたのか!!大丈夫だったか!?悪い、素振りに集中してて起きたの全然気づかなかった」

 

「あ、ああ大丈夫だ。心配を掛けて済まなかったな、ありがとう」

 

「おっ、素直にお礼言えんじゃねーか。その調子だぜ♪」

 

「う、うるさい黙れ!!」

 

「……あれ?箒とクロウ、いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」

 

「仲良くなってなどいない!!」

 

「あらま照れちゃって♪つーか、そろそろ切り上げようぜ?腹ァ減ってしょうがねーよ」

 

「そうだな。あ、なら夜も一緒にメシ食わないか?箒もどうだ?」

 

「……ああ、どうしてもというなら、まあ構わない」

 

「素直じゃないねえ……さ、とっとと行こうぜ」

 

 クロウは立ち上がり、私達に背を向け出口へと歩いて行く。その姿はさっきまでと何ら変わらないチャラチャラした軽薄男そのものだ。

 

 しかしその背中は、今の私の目には実物以上に大きく、広く映っているように感じた――

 

~side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 一夏、箒と一緒に食事を終え、自室。俺とセシリアは同じ空間を共有しているが、殆ど言葉を交わすことは無く、室内には重苦しい空気が充満していた。

 

 一言も交わさないだけならともかく、セシリアは常にこちらを睨み敵意を露わにしているのだからタチが悪い。これなら一夏絡みでしか敵意を表に出さないさっきまでの箒の方がまだマシだ。

 

「……なあお嬢。さっきからこっち見てるけど、なんか用か?」

 

「いえ、用などありませんわ。と言うか話しかけないでくれませんこと?」

 

 セシリアはぷいっと顔を背ける。どうやらとことん嫌われているらしい。

 

「わたくしはもう寝ますのであまり騒音を立てないでくださいな、迷惑ですので」

 

「へいへい、話しかけて悪かったよ。んじゃおやすみ、お嬢」

 

「……ええ、おやすみなさい」

 

(おはようとおやすみだけはしっかり言うあたり、律儀だよなぁ)

 

 セシリアの様子に苦笑いしていると、携帯が震えた。

 

(着信?誰だ…非通知、ね……)

 

「ちょっくら出てくるわ。ま、お嬢はゆっくり寝ててくれや♪」

 

 セシリアに言い残し、部屋を出る。

 

 この着信の発信源、俺が想像している通りなら部屋を出ることを見越してもう一度掛けてくるハズだ。そう考え、俺は寮を出て校舎裏へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 校舎裏に着いて数分後、やはりもう一度着信があった。表示された非通知の文字に、俺は確信めいて通話ボタンを押す――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――やあやあ生ゴミくん、元気だったかい?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あぁ、そちらもご健在で何よりだ……クソ兎」

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